政府が「足りている」と言い張っても「やはり足りない」現実
論議を呼んだのは、日本石油出身で、資源エネルギー庁有識者委員でもある境野春彦氏が4月4日放送のTBS「報道特集」で、ナフサの供給について「日本は6月に詰む」と発言したことだ。
日本のナフサ調達は、国内で原油から精製する割合が39.4%、中東からナフサを輸入する割合が44.6%、中東以外から輸入する割合が16.0%とされている。経産省は中東以外からの輸入を2倍に増やすとしているが、それについて境野氏は以下のように指摘した。
「中東以外の輸入が2倍になったところで、需要の半分も満たしていない。どこが安心なんだという話。間違いなく今の状況が続いたら、日本は6月に詰む。もう『ホルムズ海峡を通る』一択しかない」
「6月に詰む」は、いかにもセンセーショナルだ。高市支援のネット民から境野氏に対する批判の声が湧きあがり、中には誹謗中傷の類まで飛び出した。
高市首相もXで反論した。
「少なくとも国内需要4ヶ月分を確保しています。『日本は6月には供給が確保できなくなる』という指摘は事実誤認であり、そのようなことはありません」
高市首相が最も恐れるのは、第1次オイルショック(1973年)のトイレットペーパー買い占め騒動のようなパニックが起きることだ。「紙がなくなる」とのデマが拡散、紙製品が店頭から消え、価格が約3倍に急騰する狂乱物価を引き起こした。「一強」支配による安定をめざす高市首相として、絶対に避けたいのが生活の混乱の視覚化である。
高市首相は4月30日のX投稿でも、ナフサについて楽観的見通しを示した。下記はその一部だ。
ナフサについては、備蓄原油を用いた国内でのナフサの精製を継続していることに加え、中東以外からのナフサの輸入が、中東情勢緊迫化の前の水準に比べると、5月には「3倍」となります。これらの輸入ナフサは5月から日本に届きます。ポリエチレンなどの中間段階の化学製品の在庫は、本日の統計なども踏まえると、まだ1.8か月分あり、これらをあわせると、ナフサ由来の化学製品の供給は、これまで「半年以上」とお伝えしてきたところから、更に伸び、「年を越えて継続」できる見込みです。
詳細な説明からは必死さが伝わってくる。どうやら、国内で備蓄原油から精製するナフサと、5月から3倍となる中東以外からのナフサ、それにポリエチレン(レジ袋やラップ)1.8か月分の在庫を合わせれば今年いっぱいかそれ以上はもつということらしい。
だが、境野氏が言うように、そもそも16%しか占めていない中東以外からの輸入ナフサが3倍に増えたところで需要には届かず、安心にはほど遠いのではないか。言うまでもなく、備蓄原油や在庫はいずれ尽きる。
要するに、ホルムズ海峡が解放され、中東からの原油やナフサを積んだタンカーや商船が自由に航行できる時が来ない限り、当然のことながら問題は解決しないのだ。
高市首相はさらに言う。「一部の事業者が将来の石油製品の供給について不安を感じ、普段よりも多く石油製品を発注してしまった結果、生産メーカーや商品卸売の混乱を招いてしまったという事例もあったようです」
つまり、建材やシンナー、医療用手袋といった製品の品不足は、一部の業者が過剰に抱え込んだために起きたことで、総量としては足りているはずだから、前年同月なみの調達におさえてほしいというわけなのだろう。
だが、中東の緊張がいつまで続くか見通せない現状で、冷静な判断ができるだろうか。石破政権における“米騒動”でもそうだったが、政府が「足りている」と言い張っても、現実にはやはり足りない。
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