政府が「足りない」と認めた瞬間に生まれる「社会部ネタ」
むろん、高市首相が不安材料の打消しに躍起となる気持ちもわからぬではない。もし今、高市首相が節電や省エネを国民に呼びかけたら、どうなるか。政府が「足りない」と認めた瞬間に、国民は「今買わなければ」と生存本能にかきたてられる。ガソリンスタンドへの行列、プラスチック容器や日用品の店頭からの消失など、ありとあらゆる“社会部ネタ”が生まれるだろう。
国内生産が中心だった1973年当時と違い、グローバル化が進んだ現代のサプライチェーンは、ナフサ一つ止まるだけでドミノ倒しのように全産業に波及する。むろん株価は暴落、円安はさらに進み、「コストプッシュ型インフレ」に拍車がかかるだろう。
そして、これまで「大丈夫だ」と言っていたのは嘘だったのかと批判が噴出し、国民の不安と乖離した楽観的見通しが仇となって、政権の求心力が一気に瓦解する可能性が高い。
石油もナフサも枯渇するのは時間の問題だ。それでも、高市首相が「大丈夫」と言い続けるのは、米中間選挙を11月にひかえたトランプ大統領がそれまでには決着をつけるだろうという希望的観測があるからではないだろうか。
トランプ大統領にとって、11月の中間選挙は「第2次政権」の成否を分ける最
大の関門だ。米国の有権者はガソリン価格に極めて敏感だ。イラン戦争の影響
で価格が高騰し続ければ、共和党の敗北は避けられない。
4月の演説でトランプ氏は「数週間以内に軍事目標を達成する」と豪語したが、5月に入った今もホルムズ海峡は封鎖されたままだ。最大の政治的後ろ盾であるトランプ氏が「すぐに終わらせる」と言っている以上、高市首相が「長期戦に備えて省エネを」と国民に呼びかけるのは難しいのも実情だ。
専門家の中からは、ホルムズ海峡が正常化するには数年を要するという見方も出ている。そんな状況においても、「トランプ氏が解決してくれる」というシナリオに固執せざるを得ないのが今の高市首相の姿ではないか。だとすれば、国家の命運を危うい賭けに委ねているという見方も、あながち大袈裟すぎるとは言えないだろう。
首相が最も恐れる「パニック」は、実はすでに始まっている。それは政府のアナウンスと現場の窮状の間に生じた深い亀裂だ。政府が「大丈夫だ」と繰り返すのは、国民を安心させるためというより、政府自身が現実を直視する勇気を持たないからではないか。
時期がいつであれ、現実に棚から製品が消え、工場が止まれば、言葉のメッキは剥がれ落ちる。その時、国民が直面するのは「令和のオイルショック」という物理的な困窮だけでなく、政治に対する致命的な不信感にほかならない。
この記事の著者・新 恭さんを応援しよう
image by: 首相官邸









