トランプ「中間選挙前にイランを攻撃しない」の自縄自縛。敵に自由を与えてしまう“期限を切った約束”の副作用

 

【1-2.アラムコ本社への一撃】

13日には、東部ダーランにある国営石油会社サウジアラムコの本社の管理棟が狙われました。エネルギー省の当局者は国営通信に対し、「限定的な火災」が起きたが死傷者はなかったと述べています。一方で、ロイター通信や米ブルームバーグ通信の情報源は、主要な運用センターが入る建物の複数の階に被害が出たと伝えており、被害の程度については食い違いがあります。

同じ日、リヤドでは迎撃したミサイルの破片が落ちて4人が負傷し、住宅15棟が壊れました。14日にもリヤドの上空でミサイルが迎撃され、破片で住民1人が負傷したと連合軍が発表し、フーシ派は空港やアラムコの施設を狙ったと主張しています。

フーシ派のサリー報道官は13日、サウジアラビアの石油施設を「正当な標的」だと述べ、周辺の住民に退避を命じています。その直前、サウジアラビア主導の連合軍は、イエメンの首都サヌアの石油施設に退避を命じた上で攻撃し、紅海沿岸のラス・イサやホデイダの石油施設も攻撃していました。

石油の施設を互いに狙い合う段階に入ったということです。

この週末、リヤドでは「WPCエネルギー会議」(旧世界石油会議)が空港から約10キロの会場で開かれていました。ロイター通信によれば、12日に公表された日程からは、エクソンモービル、トタルエナジーズ、シェル、シェブロン、BPの最高経営責任者の名前が消えています。

10月26日から29日に予定される、サウジアラビアが投資を呼び込むための看板の会議「未来投資イニシアティブ」について、主催者は警備の強化を打ち出しました。ロイター通信は13日、関係者2人の話として、サウジ側が経営者らに遠隔での参加も認めるハイブリッド形式に切り替える計画だと独自に報じており、一部の参加者はリヤド郊外の滑走路や近隣の湾岸諸国を経由して現地に入る可能性があるとしています。

ムハンマド皇太子が進める脱石油の国家改造は、湾岸が「安全な商売の場所」であることを大前提にしています。空港とサウジアラムコ本社への攻撃は、その大前提そのものを狙ったものだと私は見ています。

【1-3.防空能力の限界】

なぜ、これほど防空態勢が破られるのでしょうか。

AP通信は9月16日、地域の当局者2人の話として、サウジアラビアがフーシ派との戦いで防空のための迎撃弾が足りなくなり、同盟国に支援を求めていると伝えていました。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も今週、サウジアラビアが迎撃ミサイルの不足に直面し、パキスタンなどに支援を求めていると報じています。

前号でご紹介した米ハドソン研究所のマイケル・ドーラン氏の試算を思い出してください。

9月8日夜のヨルダンの空軍基地をめぐる攻防で、同氏の試算によれば、1発数百万ドルの迎撃ミサイルを撃ち続けた守る側の費用は一晩で4億ドルを超え、攻める側の約20倍にのぼったという話です。

安いドローンを先に飛ばして高価な迎撃ミサイルを吐き出させ、盾が薄くなったところにミサイルを通すというのは、相手の財布と在庫を同時に空にする戦い方です。

広い国土を持つサウジアラビアは、イランの本土からの脅威にも備えなければならず、限られた防空の装備を北へ東へと動かし続けています。

盾の数より守るべき場所の数の方が多いとき、どこかに必ず穴が開きます。安い矛で高い盾を削り、盾の数そのものを上回る数の矛を放つ、この非対称を、私は「盾の算術」と呼んでいます。

この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ

初月無料で読む

print

  • トランプ「中間選挙前にイランを攻撃しない」の自縄自縛。敵に自由を与えてしまう“期限を切った約束”の副作用
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け