【1-6.支える側からの仲介の申し出】
11日には、一本の電話が注目を集めました。イランのアラグチ外相が自らサウジアラビアのファイサル外相に電話をかけ、サウジアラビアとイエメンの間の対話を始めるために「あらゆる支援」を申し出たのです。
アラグチ外相は、軍事的な手段は事態を複雑にするだけだとも述べ、サウジアラビア外務省も電話会談があったことを認めています。フーシ派を支えてきた側が、フーシ派の攻撃のさなかに仲介役を申し出るという、矛盾をはらんだ構図です。
ただ、この申し出は一蹴して済む話でもありません。サウジアラビアにとって、イランと話せる回路が開いていること自体には価値があり、申し出を断るにも受けるにも代償が伴うからです。
受けるかどうかを決める物差しは、イランが仲介の「入場料」として、例えば空港への攻撃を一定の期間止めさせるといった、目に見える行動を示せるかどうかでしょう。
断れば、イランは「サウジアラビアが対話を拒んだ」と国際社会に訴えるでしょう。受ければ、フーシ派への影響力という最も高い札を、イランに握らせたまま交渉の席に着くことになります。
この点について、英王立国際問題研究所のニール・キリアム氏が、日本経済新聞の10月14日のインタビューで鋭い指摘をしています。
同氏は、フーシ派は単なるイランの代理勢力ではなく独自に動く権限を持っており、たとえ何らかの合意ができても、それに従わなかったり、履行を妨げたりする可能性があると述べています。
そして、カタールやオマーンのような地域の仲介者にできるのは一時的な停戦までで、国際的な保証人が入らない限り、長く続く合意を裏付けることはできないと語っているのです。
後ろ盾が仲介を申し出るとき、問われるのは、その後ろ盾が代理勢力の行動を本当に約束できるのかという点です。
約束できない者の約束は、受け取った側にとって交渉の材料にならず、むしろ合意が破られたときの責任の所在をあいまいにするだけです。
そして、その保証を誰が与えるのかという問いに、今の中東は答えを持っていません。
【1-7.イエメンの地上で起きていること】
地上では、サウジアラビアが支えるイエメン暫定政府が10月5日に始めた「イエメンの夜明け」作戦が続いています。
作戦の開始から1週間となる12日の時点で、暫定政府軍はバベルマンデブ海峡の近くでフーシ派の部隊を囲み、ズバーブの空港に向けて前進していると、汎アラブ紙のアシャルク・アルアウサトが伝えていますが、これは暫定政府側の情報に基づく報道で、独立した確認はありません。
ただし、前号でお伝えした港町モカや、海峡の真ん中のペリム島をフーシ派から取り戻したという報道は、今週も確認できませんでした。
内陸のタイズでは、暫定政府軍が7日にアル・ワジイーヤの奪還に向けた攻勢を始め、市の南東と西で戦闘が続いています。
国連によれば、9月以降に家を追われた人は20万人を超え、国連世界食糧計画(WFP)は14日、約80万人への食料支援を減らさざるを得ないと発表しました。
空からの攻撃と地上の攻勢がどれだけ戦果を上げても、そのたびに人道の危機は深まっています。
私自身、2022年以降のイエメンの事実上の停戦を支える調停の一端に関わってきました。あの停戦は完璧なものではありませんでしたが、少なくとも空港と港を開き、人々の暮らしの細い道を通すことはできました。
しかし今、その道が、空港と石油施設を撃ち合う形で、両側から閉ざされようとしています。
この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ








