【1-5.メッカ協定の「矛」と「盾」】
では、8月にサウジアラビア、トルコ、パキスタンが結んだメッカ共同防衛協定は、どう動いたのでしょうか。
3カ国は10月5日にリヤドで協定の発動に合意しましたが、その後、トルコとパキスタンははっきりと線を引きました。
トルコのフィダン外相は8日、「これは防衛のための協定であり、攻撃のための協定ではない」と述べ、攻撃を仕掛けるために他国の領土に部隊を送ることはないと明言しています。トルコの国防省も同じ日、サウジアラビアへの部隊の展開は協定のもとで協議中で、憲法の手続きに従うと説明しました。
ロイター通信によれば、トルコが提供しているのは、ドローンの操作員、情報収集と監視、サウジアラビアの防空の調整、そして兵站の支援です。
英国を拠点とするミドル・イースト・アイは、トルコ政府の高官の話として、大規模な派遣には議会の承認が必要で、そのための議案が今月後半にも出されると伝えています。エルドアン大統領も12日、メッカ協定を近く議会に送り、批准を求める考えを示しました。
パキスタンの外務省も9日、パキスタンはリヤドに「相当数の部隊と資源」を防衛のために置いているが、フーシ派を攻撃するために「国境を越えることはない」と述べました。パキスタン軍の報道官も8日、米CNNに対し、パキスタン軍はすでに「複数の能力と領域」でサウジアラビアに展開していると述べる一方、自国の空軍機がフーシ派への攻撃に使われているとした米ニューヨーク・タイムズ紙の報道は否定したと伝えられています。
現時点で確かなのは、協定の参加国が、サウジアラビアの防衛への協力と、イエメンでの攻撃作戦への参加とを区別して語っていることです。
協定の具体的な発動の条件や各国の義務は、公表された資料だけでは十分に分からず、この線引きが今後も保たれるかどうかは見通せません。これを「協定の空洞化」と見る向きもあるでしょう。しかし、私は少し違う見方をしています。
同盟は、結んだ瞬間よりも、発動した瞬間に「どこまでやるのか」が問われるものです。トルコとパキスタンは、サウジアラビアの国土の防衛とイエメンでの戦闘を切り分けることで、協定の信頼性と、フーシ派の後ろ盾であるイランとの関係の両方を守ろうとしています。
同盟には、相手の戦争に巻き込まれる恐れと、いざというときに見捨てられる恐れという、二つの恐れが常につきまといます。
トルコとパキスタンは巻き込まれる恐れを抑えるために線を引き、その結果、サウジアラビアは見捨てられる恐れを和らげるために、米国への働き掛けと、イランとの電話の回路の両方を手放せなくなっているのです。
とりわけパキスタンは、国内で大きな混乱を抱えました。ザルダリ大統領は11日、北西部のカイバル・パクトゥンクワ州に非常事態を宣言し、イムラン・カーン元首相の政党が率いてきた州政府の権限を止めて、連邦政府が任命する知事の管轄下に置いたのです。州首相は首都への抗議の行進を呼び掛けていましたが、12日に拘束され、警察筋によれば党員ら278人が拘束されました。
米国の研究機関の分析によれば、パキスタンは9月中旬から、アフガニスタンのタリバン政権を相手に、アフガン領内への空爆を重ねてもいます。国内と西の国境に火種を抱えた国が、遠いサウジアラビアの戦場に攻撃の戦力まで差し出す余力は大きくないとみるべきでしょう。
約束の信頼性は、約束した者の余力で測られます。
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