2.撃たない約束と撃つ準備-米イランとホルムズ海峡
サウジアラビアの空が撃ち抜かれていた同じ週、米国とイランの間では、奇妙な静けさが続いていました。
【2-1.「選挙の前は撃たない」】
米アクシオスは10月7日、国防総省が中央軍に対し、イランとの大規模な戦闘の再開に向けた準備を整えるよう指示したと報じました。
想定される標的は、エネルギー施設、インフラ、核施設で、イスラエルとの共同作戦になる可能性があるとされます。
ただし、指示には戦闘を始める日付は書かれておらず、トランプ大統領も最終的な決定は下していないと伝えられました。
その翌日の8日、トランプ大統領はSNSに、11月3日の中間選挙の前に米国がイランを攻撃することはないと書き込み、イランとは「生産的な協議」を続けているとも述べています。
「撃つ準備は進めるが、選挙の前には撃たない」
私はこれを、二つの聴衆に同時に語りかける言葉だと読んでいます。
一つ目の聴衆はイランで、準備の報道は「交渉で譲らなければ、選挙の後に何が起きるか分かっているな」という圧力になります。
二つ目の聴衆は米国の有権者で、「選挙の前に新たな戦争で原油価格を跳ね上げることはしない」という約束になります。
ロイター通信と調査会社イプソスが9月30日から10月5日に行った調査では、米国の成人の78%が物価高の責任の一端はホワイトハウスにあると答え、54%が生活費は「大きく」上がったと答えました。戦争の判断が、ガソリンと軽油の値段に縛られているのです。
イスラエルのネタニヤフ首相も14日、国防軍のラジオ局のインタビューで、10月27日の総選挙の前にイランを先制攻撃することは「我々にとって都合が良くない」と述べ、「イランがミサイルを撃ってきても、私のせいにされるだろう」と語りました。
ただ、トランプ大統領自身も13日、アラスカでの集会で、イランに対し「我々が何をするか見ていろ」と述べており、言葉の振れ幅は小さくありません。
米国とイスラエルの両方で、選挙の日程が攻撃をめぐる判断に影響している可能性はあります。ただし、選挙の前に攻撃を控えるという発言から、選挙の後に攻撃が再開されると結論づけることはできません。
【2-2.返事を急がないイラン】
イランの側は、返事を急いでいません。
米国は9月末、カタールの仲介を通じて、ホルムズ海峡を7日以内に再開するというイランの提案への回答を届けていました。イランのガリババディ外務次官は12日、カタールのアルアラビー・テレビに対し、イランは回答を「詰めている」ところで、国内の協議が終われば仲介者を通じて伝えると述べました。同次官は、米国がイスラマバード覚書を破ったとして、イランに「これ以上の柔軟さを期待することはできない」とも語っています。
バガイ外務省報道官も同じ日、カタールやパキスタンなどの仲介者を通じて返答すると述べました。その前日の11日には、イランの安全保障担当の高官が、米国の回答はイランの「7条件」に十分に応えていないと述べたと、ロイター通信が伝えています。
ロシアもまた、扉の前に立っています。
ウシャコフ大統領補佐官はタス通信に、9日の米ロ首脳の電話会談で、プーチン大統領がイランの濃縮ウランをロシアに移す提案は「依然として有効だ」と伝えたと説明しました。軽油で米国に恩を売りながら、イランの核問題では仲介の席を確保するという、ロシアの二つの顔がここに表れています。
15日の時点で、イランが返答を送ったという報道は見当たりません。UAEの英字紙ザ・ナショナルは14日、カタールの仲介者がイランからの返答を待っていると伝えています。
前号で私は、米国とイランが「核か、海峡か」という議題の入り口で割れているとお伝えしました。米国は核を先に、イランはホルムズ海峡を先に、という構図は、今週も変わっていません。一見すると、時間を味方につけているのはイランの方に見えます。
ただし、イランの側の時計も止まってはいません。
イランの港の封鎖は7月から続いており、米国が自らの手を縛った期限は11月3日で切れます。イランにとって合理的なのは、返事を引き延ばすことそのものではなく、選挙の前に取れるものを取り切ることであり、その意味で、10月の残りの2週間が一つの山場になるとみています。
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