場を盛り上げるために行われがちな一気飲みですが、そんな無茶な飲み方が原因で亡くなってしまった場合、労災は適用されるのでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、一気飲みで命を落としたホストの遺族が起こした裁判の結末を紹介。さらに最近お酒の席でのトラブルが急増していることを指摘した上で、一般企業が取るべき対策を記しています。
ホストクラブでの一気飲みは労災になるのか
「一気飲み」というものがいつからはじまったのかはわかりませんが、私が学生だった●十年前にも確かにありました。今でも主に学生の飲み会などで行われているようですが、これだけ流行の移り変わりが早い中で何十年も続くのはある意味、すごいですね。(一気飲みを全否定はしませんが推奨はしておりません。念のため)。
確かに、飲み会の席で一気飲みをすることでそれなりにその場は盛り上がります(というように感じます)。ただ一方で某元ホストの人のお話では「話術に乏しいホストほど一気飲みでその場を盛り上げたがる」そうで、その席にヘルプに入るホストは本当に大変なんだそうです。
では、ホストとして接客中に一気飲みをしたらそれは仕事として認められるのでしょうか。
それについて裁判があります。あるホストクラブで、そのお店に勤務するホストが仕事中の一気飲みが原因で急性アルコール中毒で死亡しました。そこで遺族が労基署に労災の申請をしたところ、「一気飲みは仕事にあたらない(なので労災として認めない)」として却下されたため裁判所に訴えたのです。
はたして、一気飲みでの死亡は労災になるのか?労災として認定されるには
- 業務起因性
- 業務遂行性
の、両方が認められる必要があります。簡単にお話すると
- 業務起因性→仕事に関連しているか
- 業務遂行性→仕事の時間中か
です。今回の裁判例で言うと一気飲みをしたのは接客中ですから後者の「業務遂行性」は満たしているわけです。では、一気飲みは仕事に関連していると言えるのか?
裁判の結果、「労災である(一気飲みは仕事である)」と、認められました。その理由は次の通りです。
- 死亡したホストは新人であり先輩ホストからの一気飲みを拒否できない状況にあった
- 一気飲みの強要は接客中に行われており業務の一環であった
いかがでしょうか。これは実務的にも注意が必要なところです。最近、非常に増えているのが「お酒がらみのトラブル」です。以前ですと「お酒の席でのことだから」と、割とトラブルとしては表面化しづらかったことが、最近はパワハラやセクハラとして裁判にまでなるケースもあります(実際に、お酒の強要をパワハラと認定された裁判例もあります)。
そして、場合によってはそのセクハラやパワハラをした本人だけでなく会社も責任を問われることもあるのです。例えば、
- 職場で上下関係にある社員が参加している(これは上司、部下だけでなく取引先も含まれます。例えば、発注元、発注先など)
- 参加が半ば強制的である(もしくは参加を断りずらい)
- 飲み会の席で仕事の打ち合わせ等が行われていた
などの状況で飲み会が行われた場合はそうなる可能性があります。せっかくの楽しいお酒の席を必要以上に堅苦しく考える必要はありませんが一定程度の注意喚起は必要でしょう。
お酒や飲み会が悪いのではなく問題なのはセクハラやパワハラなどの行為です。「たとえお酒の席だったとしても●●の行為は禁止」などをはっきりさせて社内で周知しておいたほうが良いでしょう。今一度、社内で見直してみる必要があるかも知れませんね。
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