建国以来70年以上に渡り中東各国といがみ合いを続けてきたイスラエルですが、2020年の「歴史的和解」を期に地域の主導的役割を担うまでの変化を見せています。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、ウクライナ戦争により湾岸諸国の地政学的重要度が格段に上がった現状と、イスラエルを中東における「アメリカの代理人」に指定したと言ってもいいアブラハム合意について、英国誌の内容を引きつつ紹介。さらにこの合意に基づき形成されつつある経済圏が、EUと並ぶほどの規模に成長できるか否かについて考察しています。
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地政学的に見る湾岸諸国とアブラハム合意
ロシアのウクライナ侵攻にともない世界の地政学が大きく変わってきています。
とくに重要性が増したのが、エネルギー資源を豊富にもつ中東の湾岸諸国です。
湾岸諸国とはアラビア半島に位置するサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、の6か国です。
英誌エコノミストの最新号がそれら湾岸諸国の重要性の高まりを論じています。抜粋して解説しましょう。
参考:The war in Ukraine has reshaped the world’s fuel markets
以前はエネルギー価格の下落ため、湾岸諸国の重要性が薄れるという予想があった。
しかしロシアのウクライナ侵攻は、世界の地政学を変えつつある。
ロシアから欧州へのエネルギー供給が停止されたれ今、湾岸諸国は大きなエネルギー供給源となる。今のところ、ヨーロッパの渇きを癒すのは、湾岸諸国しかいないからである。
サウジアラビアとアラブ首長国連邦は石油への投資を拡大している。両国は、昨年の日産1,300万バレルから1,600万バレルへの増産を目指している。
石油・ガスの分野では、ヨーロッパの輸入に占める湾岸諸国の割合は、現在の10%以下から20%以上に増加する可能性がある
しかし、石油、ガスなどのエネルギー資源には限りがある。
そのため湾岸諸国は、現在、気の遠くなるような経済軌道を辿ろうとしている。
二十数年間は化石燃料の生産を拡大し、2045年以降は削減する計画だ。
湾岸諸国は再生可能エネルギー、水素、海水淡水化システムなどを基盤とするハイテク経済に、膨大な金額を迅速に再投資する必要がある。
解説
ロシアがヨーロッパへの天然ガスパイプラインを停止しています。
近い将来、ウクライナ戦争がなんらかの形で収束するにしても、ヨーロッパ諸国はロシアへのエネルギー依存を減らしたいでしょう。
それで湾岸諸国の重要性がますます高まってきています。
しかし、石油は有限です。それで再生可能エネルギー、水素、海水淡水化システムなどのハイテク経済を自国にも育てたいのです。そのための投資もしているという記事です。
ここで登場するのがイスラエルです。
イスラエルはアラブ諸国とは不和の関係でした。
しかしイランとの緊張を感じているアラブ首長国連邦などとイスラエルは共通の利害があったのです。
それを利用したのがトランプ前大統領が仲介した 2020年8月のアブラハム合意です。
アブラハム合意は、中東と世界平和の維持と強化を認識する事を大義としています。宗教の自由、人間の尊厳、相互理解と共存に基づいてです。
その合意の名前はユダヤ民族とアラブ民族(イシュマエル)の共通の父祖であるアブラハムの名に因んでつけられたそうです。
これによりアラブ首長国連邦とイスラエルは国交を回復したのです。
イスラエルはアラブ首長国連邦や他の湾岸国に技術を供与することもできます。
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