テレビがほとんど報じない、木原誠二官房副長官夫人の元夫不審死事件。ネットではマスコミの「忖度」を批判する声が多くあがっています。メルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』の著者で精神科医の和田秀樹さんは、なぜ、テレビがこの件を「無視」するのか? その理由を分析。木原官房副長官や政権への忖度ではなく、日本警察の“えげつなさ”を知るテレビ局の判断なのではないか?との見解を示します。
日本の警察のえげつなさを知り尽くしているテレビ局
木原という官房副長官の妻の殺人疑いについてテレビマスコミは完全にだんまりを決め込んでいるが、この背景に木原氏が、週刊文春に対して刑事告訴をちらつかせていることもあるようだ(編集部注:1日、警察庁と内閣官房へのヒアリングで木原官房副長官が週刊文春の報道に関して刑事告発していることを明かした)。
テレビ局は日本の警察のえげつなさを知り尽くしている。少なくとも上層部はそうだろう。
週刊文春の書き手なり、編集長なりを名誉棄損で逮捕する(これは一般的に民事だが、警察や検察がそう判断すれば刑事事件になる)ことがあり得ると思っているのだろう。
テレビ局としては、そのほうがニュースとしてはるかに扱いやすいが、自分たちが刑事事件に巻き込まれたくないと思っている可能性は大だ。
裁判所だって長期政権になるほど、与党側の味方になる。昔、週刊新潮が創価学会の疑惑を書き、それを学会が民事で訴えた時はなんと1,000万円の判決が出た。
売り上げを考えるとテレビ局のほうが週刊誌より痛手は小さいはずだが、とにかく、社員の年収1,500万円を守るためなら、なんでもするし、取材費を浮かすために警察情報を垂れ流すようなテレビ局がそんなリスクをとるとは思えない。
要するに、これは木原氏や政権への忖度ではなく、テレビ局が現政権なら警察や裁判所(本来なら司法の独立が守られるはずだが、裁判官が出世のために政権に忖度する)ことをやりかねないから報じられないのではないかと思うようになった。
ビッグモーター事件にしてもフライデーが書いたのは4月29日の話だが、今頃になって調査結果が報じられたり、国土交通省が動き出したのも、そのニュースをテレビ局に提供することで、木原問題を報じさせないためかもしれない。
あるいは、精神科医一家の殺人などにしても、かなり前から掴んでいたのかもしれない。それを、このタイミングで逮捕したのも、木原問題を報じさせないためかもしれない。
ただ、この木原氏がなぜそれだけの力があるのかは不思議だ。
週刊誌報道によると二階氏も離婚を勧めたというし、党内でもまずいという声があがっているようだ。
これで週刊文春の編集長が逮捕されたり、疑惑の妻(刑事に「おまえのクビはいつでも飛ばせるからな」と暴言をはいたと報じられている)の人権救済の訴えが認められて、週刊誌が記事を書けなくなるようなことがあれば、さすがにマスコミも黙っていないだろう。
今はインターネットの時代なので、テレビがだんまりを決め込むほど、記事は拡散され、ネット上では、人殺し扱いされるだろう。そういう場合も誹謗中傷で逮捕者がでるのだろうか?
日本がそこまで落ちたと思いたくないが、警察庁長官が事件性がないと断言しているのだから、逆にそれに反対すると逮捕はあり得る。
しもじものまじめな警察官は、実名告白にまで踏み切っている。警察がそこまで腐っていない(自分は逮捕されない)と信じているのだろう。
前の中村格氏も含め、警察という組織は腐った人間でないと出世できないようだ。
こんな治安悪化の中、警察の信頼回復が求められている中、偉い人の奥さんなら、ほとんど調べもしないで無罪ですと公言するような人間がトップを務めていて、治安に対する不安が解消されるわけがない。一般市民は警察を信じているが、なんらかの被害にあい、被害届を出してはじめて警察が動いてくれないことをしる。精神科医はいろいろな犯罪被害者をみているので、それをよくわかっている。だから自分で殺すしかないと思ったように思えてならない(編集部注:札幌遺体切断事件)。
それほどの権力を木原氏がもっているということだ。一代議士ならさすがの自民党もそこまでかばわないだろうし、離婚を勧めるはずだ(それすらわからないのが長期政権の怖さだが)。
当選5回で官房副長官ということで、それだけ岸田氏の信任が厚いのかもしれないが、それだけではない気がする。
何か、岸田氏が秘密を握られているように思えてならない。
私の読みでは、自民党政権はあと30年は続く。日本人は封建時代の発想から抜け出していないからだ。ただ、有権者は自分たちがこんな怖い国にいることを自覚したほうがよさそうだ。
※本記事は有料メルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』2023年7月29日号の一部抜粋です。
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image by:首相官邸ホームページ, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons