反日と対日批判の区別がつかない日本人が総ネトウヨ化する日

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アンジェリーナ・ジョリーがメガホンを取り世界的に話題となっている映画『アンブロークン』。しかし日本国内では「内容が反日的」との理由で上映の目途は立っていません。評論家の佐高信さんはこの流れについて、他国の眼を日本人が意識できなくなり、日本人が総ネトウヨ化すると危機感を抱いています。

 

上映されない映画『アンブロークン』

『佐高信の筆刀両断』第39号より一部抜粋

少しでも日本人の弱点や汚点に触れると、その著作や映画を異常なまでに叩く風潮が強まって、『アンブロークン』というアメリカ映画が日本で上映されないままになっている。

いわゆるネット右翼が攻撃するわけだが、国会で民主党の議員に「日教組!」などと野次った安倍晋三は、ネット右翼、略してネトウヨと同じ精神構造の持ち主であり、その先頭に立っていると言わなければならない。

『アンブロークン』は昨年12月にアメリカで封切りされたが、太平洋戦争で日本の捕虜となり、過酷な体験をしたルイス・ザンペリーニを描いた映画である。

監督があのアンジェリーナ・ジョリー。

これは実話に基づいていて、原作もベストセラーとなった。

それなのに日本ではまだ上映されておらず、そのメドもたっていない。

右翼が騒ぎ、「反日映画」のレッテルを貼って、上映させないための署名運動まで起こしているからである。

ザンペリーニはロサンゼルスのイタリア移民の息子で不良少年だったが、足が速くて、陸上競技の選手となった。そして、1936年のベルリン・オリンピックで五千メートルに出場し、八位となる。

その後、アメリカの陸軍航空部隊に入り、エンジン故障で墜落して、マーシャル諸島沖で日本海軍の捕虜となった。

東京の大森捕虜収容所で会ったのがサディストの渡邊陸裕。彼によってザンペリーニは死の寸前まで追い込まれる。

これについては『週刊金曜日』1月23日号の乗松聡子の記事を参照してほしいが、都合の悪いことに蓋をする風潮は今後ますますひどくなっていくのだろう。

トップの安倍晋三が、批判をありがたがるどころか、それに「反日」のレッテルを貼って排除するネット右翼だからである。

政治ジャーナリストの鈴木哲夫は『週刊現代』の3月14日号で、安倍のその狭量をこう嘆いている。

「総理大臣がネットで得た不確かな知識をもとに国会で答弁するなど、情けないとしか言いようがありません。国会をあまりに軽視する安倍総理の態度を見ていると、まず国会の役割を理解さえしていないのではないか、と疑わしくなってきます」

だいたい、民主党は日教組の関連団体から献金を受けておらず、これについては安倍も「ヤジは間違いだった」と認めざるをえなかった。

しかし、そもそも、総理大臣がヤジをとばすか、という話である。

鈴木は

「国会で質問に立つ議員の背後には、彼らに票を投じた国民が必ずいる。それを侮辱するということは、国民を軽んじることに等しい」

と指摘しているが、その通りだろう。

日本以外の国で評判になっている映画が日本で上映されないということは、他国の眼を日本人が意識できなくなるということである。

すべての日本人が安倍のようにネトウヨ化してしまうことに、それはつながる。

 

『佐高信の筆刀両断』第39号より一部抜粋

【第37号の目次】
1.筆刀両断 上映されない映画「アンブロークン」
2.「同い年物語」昭和8年編(5)菅原文太
3.雑記
4.インフォメーション

 

『佐高信の筆刀両断』

著者/佐高信(評論家)
高校教師、経済雑誌の編集者を経て評論家となる。著書に『保守の知恵』(毎日新聞社)、『未完の敗者 田中角栄』(光文社)など。相手が誰であれ舌鋒鋭く迫る様はメルマガ誌上でも遺憾なく発揮。“政治”に殺されたくない人は読むべし!
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