「米中が南シナ海で一触即発」は本当なのか?高野孟が読み解く

USS_Lassen_DDG-82
 

米国の「航行の自由作戦」の展開により、あたかも米中が一触即発のように報じられています。しかしメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』は、今や巨大な相互依存関係にある両国が開戦するなどありえないと断言します。

「米中が南シナ海で一触即発」というのは本当か?

夕刊フジの見出しを見ていると、米中両国は今にも南シナ海をめぐって戦闘に突入しかねない一触即発の危機にあるかに思えてしまうが、そんなことはない

米中の昨年の貿易総額は6,000億ドル近くで、米国にとって中国は第1位の輸入相手国第3位の輸出相手国であるし、また1兆2,600億ドルの米国債保有国でもあって、両国は国際関係史上かつて前例のない巨大な相互依存関係にある。従って、両国が死力を尽くして国家間戦争を戦うことのメリットは何もないどころか、世界第1位と第2位の両国経済が崩壊し世界が全滅状態に陥る。それは子どもでも分かる幼稚園レベルの世界理解である。

ところが、軍部というのはどの国でも、合理的な判断を超えた特殊な集団で、Think Unthinkable を思考の基礎に置く。「そうは言っても万が一に備えなければ」と軍部から言われて、それを退けることができる政治家は、中国ではもちろん米国でも少ない。またマスコミはどの国でも、センセーショナルな見出しの方が売れるという反知性主義に傾きがちなので、軍部や軍産複合体に繋がる連中が振り撒く勇ましい主張をクローズアップする。さらに一般国民は、それに簡単に煽られて「やっぱり中国はおかしいよ」という風に思い込んでいく。

もちろん中国は相当におかしいのだが、そこで大事なのは、現象論レベルの言説に流されることなく、実体論レベルで何が起こっていて、それを本質論レベルではどう考えるべきなのかという、知性を取り戻すことである。

米中は共に抑制的に行動した

米中は戦争するつもりなど毛頭ない、という前提で、今回、米中両国は極めて抑制的に行動した。

米国は、イージス艦1隻を、中国が南沙諸島の岩礁に造成した人工島の近海12カイリ以内に送り込んだが、その目的が「公海上の航行自由」は国際的な普遍原則であること、仮に中国がそこを領海と認識しているとしても軍艦の他国領海内の「無害通航」は妨げられないこと──を再確認させるためであると中国側に事前通告していた。そのため、中国側の艦船も距離を置いて見張るだけにして、危険な接近は避けた

しかし、ここにすでにいくつもの食い違いが孕まれており、問題は何重にも屈折して複雑骨折状態にある。

print
いま読まれてます

  • 「米中が南シナ海で一触即発」は本当なのか?高野孟が読み解く
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け