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今年の10大リスク首位は米次期大統領。世界分断に備えぬ日本は衰退一途か=原彰宏

米調査会社ユーラシア・グループが2021年の世界の「10大リスク」を発表。的中率に定評のあるこのレポートを読み解くと、世界の“分断”リスクが高まっていることがよくわかります。「バイデン大統領」「コロナ」ほか多くのリスクを前にしても、日本はこのままじっと変われずに衰退していくのでしょうか。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年1月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

的中率に定評 米調査会社の2021年「10大リスク」

米調査会社ユーラシア・グループは、2021年の世界の「10大リスク」を発表しました。

毎年年始に、その年に想定される「10大リスク」を発表します。その内容は、いろんな専門家も思いも寄らない着眼点が散見され、なによりその的中率に定評があります。
※参考:Eurasia Group | Top Risks 2021(2021年1月4日配信)

ホームページに、ユーラシア・グループの紹介があります。

ユーラシア・グループは、地政学的リスク分析を専門とするコンサルティング会社のさきがけとして、1998年に発足しました。以来、ニューヨーク、ワシントン、ロンドン、東京、シンガポール、サンパウロ、サンフランシスコの各オフィスに総勢130名の社員を擁し、新興市場国をはじめ、世界各国・地域の政治的変動が市場に与える影響について、数量的な手法も用いながら分析し、お客様にリスク・マネジメントのアドバイスやコンサルティングを行っております。

各国政府の思惑や企業の戦略が国境を越えて複雑に絡みあう今日の世界において、企業は経済指標の分析だけで本当に正しいリスク判断を下すことができるものでしょうか。「国際情勢の変動、外交関係、そして国内の政治的変化は、経済のファンダメンタルズに勝るとも劣らず、ビジネス環境や金融市場に影響を与えている」 ― これが、ユーラシア・グループの基本的なアプローチです。

出典:Eurasia Group | 日本クライアント向けサービス

「地政学的リスク」というところがポイントのようで、かなり不透明な要素も、深く掘り下げているような印象があります。

今年の「10大リスク」は以下のとおりです。

1. 米国第46代大統領
2. 長引く新型コロナの影響
3. 気候変動対策をめぐる競争
4. 米中の緊張拡大
5. 世界的なデータの規制強化
6. サイバー紛争の本格化
7. トルコ
8. 原油安の打撃を受ける中東
9. メルケル独首相退任後の欧州
10. 中南米の失望

首位には米国のジョー・バイデン次期大統領を意味する「第46代(英語表題では「46」となっています)」を選び、米国民の半数が大統領選の結果を非合法とみなしている社会分断の拡大を警告しました。

2位には新型コロナウイルスの長引く影響をあげて、世界政治や経済の安定を脅かすと予想しましたが、コロナよりも米国の社会的分断が、リスクとしては上に位置しているというところが、大きなポイントなのかもしれませんね。

この1位の米大統領に関しては、2020年の「10大リスク」のトップに「誰が米国を統治するか」を持ってきていることからも、米国リーダーが、地政学的にも世界に与える影響が大きいことが伺えます。

また「社会的分断」と表現している通り、トランプ大統領誕生により、世界中に極右勢力と呼ばれるものが台頭して、自国ファーストを、躊躇することなく全面に出すようになり、規模の差こそあれ、社会的分断がどこの国でも表面化したとも言えます。

トランプ大統領の誕生で、行き過ぎた資本主義の有り様がテーマとして醸し出されました。つまり貧富の差が社会的分断へと繋がり、それがこれからの資本主義の大きなテーマに押し出されたことになります。

その答えをバイデン次期大統領が示すことができるのかが問われているようで、それを間違えば、資本主義そのものの存在意義が問われることになります。

Next: 資本主義や民主主義の危機。「五分五分」の選挙は半分に我慢を強いる



資本主義や民主主義の危機

この現象は日本でも見られているのですが、野党は指摘してはいますが、残念ながら大きな論争にまでは発展していないようです。それを日本の国民性と片付けたくはないですがね。

「新自由主義」という言葉を中心に据えて、それを加速させるか是正するかという議論になっているようです。

米大統領選挙を見ていると、強烈なトランプ大統領支持者が連邦議会に乱入し、死者まで出す事態となっています。

「米国の恥」とまで言われているでき事が、まさに「分断」の一端を表しているようで、資本主義の危機と並び、民主主義の崩壊をも彷彿させる象徴的なでき事となっています。

米大統領選挙は勝敗が「五分五分」であったことが、分断の火種となっています。英国の、EU離脱を問う国民投票、いわゆるBrexitも「五分五分」の僅差で決定しました。国民の半分が納得しないまま、EUからの離脱に従わなければならない状況になりだした。場合によっては、今年はどこかでスコットランドが英国連邦から独立するのではとも言われています。

この僅差の決着を、民主主義の「臨界点」と指摘する専門家もいます。多数決でものごとを決める限界なのかも知れません。

ちょうど半分ずつ違う意見のグループがいるわけで、どちらかの半分は、強制的に違う意見に従わなければならないのですからね。

・少数意見意見に耳を傾ける
・多数決結果の少ない方の意見に真摯に向き合う

ことが民主主義の根幹であって「数が正義だ」というのが民主主義ではないはずです。

日本はまさに「数が正義」の論理で、多数決結果の反対側の立場は無視し続けてきました。そのことに怒らない国民性、常に「数が正義」側を支持するという奇妙な現象がもう何年も続いているのです。

日本では「民主主義とは何だ」という議論は起こらないのでしょうが、世界中では「分断」というものが民主主義の本質を問いかけているようで、おそらくユーラシア・グループが示す「リスク」とは、資本主義や民主主義の危機を、ずっと言ってきているように思えます。

アメリカと世界を襲う「分断」リスク

リスク1位の「米国第46代大統領」の解説記事として、日経新聞には下記のように伝えています。

同盟国は、バイデン氏の任期中に成立する国家間の約束事も「アメリカ・ファースト(米国第一主義)を掲げる大統領がまた4年後に撤回してしまう可能性も考える必要がある」と指摘し、トランプ氏の大統領返り咲きの可能性に触れた。

出典:新型コロナ: 今年の10大リスク、首位はバイデン氏 米調査会社 – 日本経済新聞(2021年1月5日配信)

バイデン次期大統領は、年齢から1期で交代すると思われます。4年後は、今のところ、民主党は、初の女性大統領候補となるであろう女性初のカマラ・ハリス次期副大統領を大統領候補とするでしょうし、共和党側は、トランプ大統領再出馬となるかも知れないと言われています。

ただ今回の議会襲撃の首謀者として避難を浴びていることや、今後は数々の訴訟が待ち構えているとも噂されていますので、どうなるかはわかりませんね。

見捨てられた低所得者白人層をガッチリと取り込んでいるトランプ大統領ですから、バイデン次期大統領が、このトランプ支持者層にどう取り組むことができるかがポイントになります。

貧困者層 vs. 支配者層(エリート)

この構図がある限り、分断は避けられないと思います。

そう考えると日本は平和で、どんなに虐げられても政権に牙をむくことはなく、じっと耐え忍び従っているのですからね。皮肉を込めた表現になってしまいました。

Next: さらに激化する米中対立。いま民主主義が問われている



さらに激化する米中対立

民主主義が問われるものとして、中国の台頭があります。

経済的にもコロナ対策にしても、次世代インフラ設備に関しても、中国が大きくリードしているのは、何も決められない民主主義のせいだと、中国側は指摘しています。

民主主義を守るうえで、中国に対する強硬姿勢は崩せない。

リスク4位に「米中対立」が位置していますが、これは毎回ノミネートされているテーマかも知れません。米中関係については2国間の緊張はさらに高まり、バイデン政権発足後も「昨年のような激しい対立」を予想されています。

これは「5. 世界的なデータの規制強化」「6. サイバー紛争の本格化」にも関連することかと思われます。

米中サイバー戦争に関しては、昨年大いに話題となりましたが、実際のインフラ設備普及に関しては、中国が何歩もリードしていて、トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」に舵を切ることで世界のリーダーの座を明け渡したことが、大いに響いています。

気候変動対策でも米中の競争は激化し、電池や電力制御システムといった技術を巡る「クリーン・エネルギーの軍拡競争」になると予想しました。

地球温暖化対策に関しては、これまで最大のCO2排出国であった中国は、発展途上国の立場から地球温暖化対策には消極的な姿勢を貫いてきましたが、最近は、「ゼロエミッション」に積極的に取り組む姿勢を見せ始めてきました。

中国が地球温暖化対策の中心に出ることになれば、情勢は一気に変わってきます。

地球温暖化は経済の問題になっています。俗っぽく言えば「地球温暖化対策は金になる」「地球温暖化対策が新しい産業を生む」「地球温暖化対策縛りが旧勢力を市場から追い出せる」という具合に、もともとの思惑から路線はずれてきています。それでもCO2排出が抑制されれば、地球温暖化阻止の目的には繋がります。

「グリーン政策」も地政学リスクの1つ

そんな中で、グリーン政策に積極的な民主党政権が米国で誕生しました。

ただユーラシア・グループは、このグリーン政策が、純粋な地球温暖化阻止の思惑から経済要素が強まることに対して懸念しているようです。

米国がバイデン政権下で炭素排出の実質ゼロ目標など気候変動のイニシアチブに再び参加しようとしていることで、「より野心的な気候変動対策による企業や投資家のコスト」と各国・地域の計画協調を「過大評価することによるリスク」があると、ユーラシア・グループは指摘しています。

中国や欧州連合(EU)、英国、日本、韓国、カナダも国内・地域経済をより環境に優しいものにすると表明していて、各国揃って、ガソリン車新規販売の停止を、期限を付けて表明しています。

トヨタ包囲網のようで、ハイブリッド車もガソリン車として販売停止対象としました。いつまでも雇用を守るための自動車産業ピラミッドを維持しようとしている今の日本に、果たして地球規模的グリーン化の波に乗り遅れないだろうか非常に心配です。

さらに、リスク2位に位置付けされた「コロナ問題」も、先程まで取り上げた「分断」の火種の1つとなっています。

Next: コロナ問題も「分断」を誘発。世界はもう1つにはなれない



コロナが広げる貧富格差

富のギャップに関しては、2位の「長引く新型コロナの影響」が大きく関わってきます。

「K字回復」が、アフターコロナのキーワードです。「K」という文字は、上に向かう線と下に向かう線があります。つまり、コロナに負けずに回復していくものと、そのまま没落していくものにきれいに分かれるということです。

それは「貧富の差」の加速化であり、それに伴う「分断」の鮮明化に繋がります。つまり、グラデーションがなくなります。はっきりと白黒に色分けされる世界が、アフターコロナ社会なのです。

ユーラシア・グループは、2位の新型コロナについては、コロナ禍で二極化した「K字型」の回復が「現職に対する怒りと政情不安を引き起こす」とし、政治的な不安定につながるとも指摘しました。

さらに新型コロナワクチンの配布に関しても格差が、国家間でも各国内でも広がると予想しています。

経済が強いところは何をしても勝てるわけで、経済が外交での優位性を決め、経済が安全や安心を決定づけるということになります。「日本はもはや経済大国ではない」という事実を認識することになるのでしょうね。

世界各国に「分断」の火種はある

リスク7位の「トルコ」は、英語原文では「Cold Tirkey」となっています。ミニ・トランプなどと呼ばれるエルドアン大統領の政策が問われることになるのでしょう。

トルコはヨーロッパとアジアの“つなぎ”の役目を果たす位置にあり、常に世界情勢を語る上ではキーになる国です。かつてのトルコ帝国のDNAもあるのでしょうかね。

ユーラシア・グループによると、トルコは昨年、危機を回避することができましたが、2021年に入っても脆弱(ぜいじゃく)なままになっていると指摘しています。エルドアン大統領は4~6月(第2四半期)に再び圧力に見舞われ、景気拡大を促そうとするかもしれませんが、そうすることで社会的緊張をあおる恐れがあると指摘しています。

リスク8位の「原油安の打撃を受ける中東」に関しては、中東・北アフリカのエネルギー生産国で抗議活動が激化し、改革が遅れる可能性があるとの指摘です。歳入の大半を石油から得るイラクは、基本支出予算の確保や自国通貨安の阻止に苦しむ公算が大きいとされています。

今後の世界情勢を占ううえで、米大統領選挙に並んで大きいのが「欧州の牽引役は誰になるのか」です。

ドイツのメルケル首相は欧州で最も重要なリーダーであり、同首相が去れば欧州のリーダーシップが弱まることから、今年後半のメルケル首相退陣が欧州最大のリスクだとユーラシア・グループは分析しています。

欧州GDPトップはドイツとフランス、マクロン仏大統領には、欧州を率いるには、まだ荷が重すぎるとの評価が強いようです。

レポートの「メルケル首相がいなくなることの影響は計り知れない…」という指摘の通り、欧州の、いや世界の最大のリスクと言えるでしょう。

さらに、10位の中南米の失望については、中南米諸国がパンデミック以前に直面していた政治・社会・経済問題が一段と厳しくなるリスクがあると指摘しています。

アルゼンチンとメキシコでは議会選挙が行われ、エクアドルとペルー、チリは大統領選挙を控えています。ポピュリズムに訴える候補者が増え、特にエクアドルでは同国の国際通貨基金(IMF)プログラムと経済安定を危うくする可能性があると、ユーラシア・グループは見ています。

Next: 迫る「10大リスク」を前に変われない日本



迫る「10大リスク」を前に変われない日本

2020年のラインアップを見返すと、前述のとおり1位に米国大統領選挙を挙げ、米中関係、南米、トルコに関して「リスク」としての認識を強めていました。気候変動に関する項目も3位に、テクノロジーに関する問題も5位・6位に挙げられています。

まさに、未来のリスクを的確に捉えていると言えるのではないでしょうか。コロナ以外は昨年からの流れのままに、今年もラインアップされているようです。

随所に見られた「分断」、これとどう向き合っていくのか。

トランプ大統領がいみじくも表面化させた資本主義の問題、中国により指摘させた民主主義のあり方を、今年だけでなくアフターコロナ社会の中で、問われ続けるような気がします。

そんな中で、日本だけが何も変わらない。「じっとしていて衰退していく」国になっていると指摘したある経営コンサルタントの言葉が、どうしても脳裏を横切るのですがね…。

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