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バイデン政権誕生前後に株価調整?シーゲル博士、ガンドラック氏の見解は=江守哲

米国株に関して、様々な指標や著名投資家が過熱感を示している。シーゲル教授、ガンドラック氏、ファンドなどの見方を紹介しながら今後の値動きを考えたい。(『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』江守哲)

本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2021年1月18日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリファンドマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

「米国株に過熱感」指標も著名投資家も警告

米国株に関して、様々な指標が過熱感を示している。もっとも明確なものは投資家センチメント指標とPERなどのバリュエーションである。「びっくり10大予想」で有名なブラックストーンのバイロン・ウィーン氏も米国株の調整の可能性を指摘している。

ウィーン氏は「センチメントは変動するレンジの上限に近いところまで上昇している」とし、「市場参加者は、調整はない、何も間違いは起きない、経済は順調だ、ワクチンが普及すると考えている。これはとても危険な自己満足の態度だ」と警笛を鳴らしている。

また、弱気派エコノミストのデービッド・ローゼンバーグ氏も、現株価倍率を「バカげた」水準とし、指数などは買わず現金を持つことを奨めている。

いまの相場は、一度は調整が入ったほうがよい。投資家は、今回のような相場を何度も見てきた重鎮たちの声を無視しないほうがよいだろう。ただし、長期的な上昇は継続するだろう。その中での調整であり、それは長期投資における買い場になる。それを逃さないことが、長期的な資産形成の上で重要なポイントになると私は判断している。

当メルマガではこれまで様々な指標を示してきたように、1年後の株価は相当高い確率(それも100%に近い)で株価は現時点よりも高いとのデータが出ている。このデータを基に考えれば、今後の押し目は大歓迎である。いまは現金比率を高め、押し目を待つのが賢明ではないだろうか。

10%から15%程度の調整で済むだろうが、そこを狙って買う準備をしておきたい。株価調整の結果、バリュエーションが調整されれば、買いを入れる正当性がより高まることになる。結果的にそうなるだろう。

シーゲル教授の見解

ジェレミー・シーゲル教授は、現在の好調な米国株の背景について、2000年を思い出させるようなコメントをしている。シーゲル教授は、「民主党による上院の過半数獲得は、12月半ばにはとても予想していなかった」とし、「さらに驚いたことに、ウォール街がこれにとても前向きに反応している」としている。このような動きを悲観的に見ているようである。

シーゲル教授は以前から、民主党やバイデン次期大統領の掲げる政策には市場への影響から見て2つの要点があるとしてきた。財政刺激策については市場にポジティブだが、増税は市場にネガティブという見方である。シーゲル教授は、当初は後者を強調していた。シーゲル教授が支持する共和党に勝ってほしいとい思いがあったようである。

しかし、結果は民主党のトリプルブルーとなり、さらにトランプ支持者による暴動まで発生した。しかし、市場はトリプルブルーを好感しているように見える。そのため、シーゲル教授は「現在の強気相場の局面では、株式市場は前者を重く見たようだ。バイデンが大統領だろうが、なかろうが、今年の市場は上昇するのだろう。流動性こそが市場において何よりも重要なのだ」とやや自虐的に解説している。

今後もマネーサプライと連邦政府支出はさらに増える見通しである。これも株高を後押しするだろう。つまり、シーゲル教授は、流動性がすべてを正当化する相場になっているということを言いたいようである。一方で、法人増税が今年中に議会で決定されると予想している。

その結果、経済状況を見て先延ばしされるとの見方は期待外れに終わるとしている。そのうえで、増税幅はそれほど大きくならないとしながらも、増税による税引後利益の減少が一部の熱狂を冷やすとしている。

シーゲル教授は、今年の米国株が10%から15%上昇すると予想している。「一部の株が目もくらむような高値に上昇しているものの、全体のバリュエーションは2021年の利益予想に対して22倍であり、実際の利益は予想を上回ると見ている。ブームが来て、流動性が来ると、S&P500のEPSは現在のアナリスト予想165ドルではなく170−175ドルになる」としている。

予想PERは22倍とやや高めの水準だが、EPSの改善により株価に上昇余地が生まれるとの予想である。ただし、現在のS&P500のPERは最高値で29倍台にまで上がっている。明らかに割高である。これが調整されないと、次の上昇に向かうのは難しいだろう。その意味でも、今年第1四半期の企業収益が改善し、PERがある程度調整する必要があるだろう。

Next: バブルが発生しつつある?著名投資家・ファンドの動向から相場を読む



「バブルが発生しつつある」

さて、シーゲル教授は、米国債は投資家にとって最悪の投資対象であり、バイデン政権の政策でさらに悪化すると明言している。そして、ドル安が進行中であり、新興国市場も上昇中であるとしている。そのため、外国市場も注視すべきとしている。一方、バリューがグロースをアウトパフォームするとも予想している。これを「バリュエーションの差による交替」としている。

最後に、シーゲル教授は、きわめて不吉な発言をしている。「バブルが発生しつつある」としているのである。シーゲル教授は、「テスラやビットコインは、最終的に弾けるまではるかに上昇する可能性がある」としている。シーゲル教授は、ビットコインについて、金に向かうはずの資金がビットコインに向かっている面があるとしている。もちろん、この動きを肯定しているわけではない。むしろ、否定的である。

シーゲル教授は最近、金について前向きな言及をしているが、長い目で見ればもともと金に注目していたわけではない。まして暗号資産はなおさらである。シーゲル教授は、「彼らは後悔することになると思し、この傾向は逆転するだろう。しかし、みんな知っているように、こういうトレンドは経済的に正当化できるよりはるかに行き過ぎてしまうものである」と自虐的に解説している。

シーゲル教授は、市場の一部にバブル特有の現象が起こっていることを認めている。シーゲル教授は2000年のドットコム・バブル絶頂の2000年3月、テクノロジー・セクターがバブル状態にあると警告している。結果的に、まさにその3月がバブル崩壊の始まりだった。シーゲル教授は、何が崩壊を引き起こすと予想されるかについて、「ビットコインでいえば規制、政府発行デジタル通貨、違法行為など枚挙にいとまがない」と指摘している。

シーゲル教授は、「何でもこうしたことを連想させることがあれば、投機熱を壊す可能性がある。しかし、それがいつ起こるかは誰もわからない」としている。まさにその通りである。しかし、バブルがはじけるまでは、とてつもない価格にまで上げてしまうのが相場であり、投資家心理である。肝に銘じておきたい。

シティは慎重な見通し

シティは、新型コロナウイルスの新たな感染拡大に伴うロックダウンで世界経済が動揺する中、21年の世界株は現在の水準前後で推移するとの予想を出している。いまの株価水準は割高と判断しており、米国株の投資判断を「ニュートラル」に引き下げている。ただし、新興国と英国の株式に対する投資判断を「オーバーウエート」に引き上げている。

また、世界株式の12カ月先予想PERが20倍となる中、シティはバリュエーションが長期中央値の15倍を大きく上回っているとして、さらなるアップサイドは見込んでいないという。ちなみに、米国株の予想PERは23倍である。歴史的にも高い水準にあることを理解しておく。

ただし、PERが高いときほど、株価は強いという傾向もある。今年は強気と弱気が交錯し、判断が非常に難しい年になりそうである。長期的には上昇するとの見方は変わらないが、高値を買わずに、いかに辛抱強く押し目を待てるかであろう。下落の兆候は、欧州株、SOX(半導体指数)、銅相場のいずれかに出てくる。これらのどれかが崩れ始めたときには要注意である。

ファンド動向

バンク・オブ・アメリカ(BOFA)が8日に公表した週間調査によると、マネー・マーケットや金のファンドへ大量の資金が流入した一方、過去16週間で何十億ドルもの流入が見られた新興国市場からは資金が流出し、株高に不安感を示している投資家心理が映し出された。米大手銀行は、中央銀行や政府による景気刺激策により資産価格が「泡立っている(FROTHY)」との見方から、近いうちに株価が下がるとの警戒感を強めているようである。

とはいえ、6日までの週に米国株式ファンドには100億ドルが流入している。さらに、現金ファンドへは291億ドルが流入したほか、金ファンドは15億ドルが流入し、昨年8月以来の多さだった。こうみると、投資家はどこから資金を持て来たのか、ということになる。株も買われ、現金ファンドも買われ、金も買われる。非常に不思議である。

しかし、バンカメのチーフ投資ストラテジストは「ワクチン完成は売りだ。泡立った価格や強欲的なポジション取り、インフレ的で向こう見ずな政策当局者、失速する中国と消費者。21年は全てが有害に混ざり合っている」としている。いまの相場は過熱しすぎているとみているようである。

米国株のバリュエーションは12カ月後の利益予想に対して23倍にまで急上昇しており、1990年代後半の「ドットコム・バブル」以来の水準に達しているという。そのためか、シティグループは7日に米国株の判断を「オーバーウエート」から「ニュートラル」に引き下げている。一方で、英国と新興国の株式には強気で、「妥当な」バリュエーションとの見解を示している。

バンカメは20年の「すべてを買え」という流れが21年に入っても続いているが、リスク資産への資金流入が減速すると予想している。そのうえで、第1四半期終わりごろに「政策、保有ポジション、利益」が天井を打つとしている。また、強気の権化であるゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は、現状の市場はやや行き過ぎとして、特に短期的な株式市場の変動に備えているという。ゴールドマンでもそのようなコメントを出すことがあるのだと驚いた。

Next: 「今年は強い」は思い込み?割高に買われた株価はいずれ調整される



「今年は強い」は思い込みかもしれない

バンカメは、ここ2カ月間の激しい物価圧力によってビットコインが値上がりしたことにも言及しており、ドットコム・バブルや2000年代の中国、1970年代の金の「バブルをかけ離れた規模の急騰」と指摘している。ビットコインは7日に4万ドルを付け、過去1カ月間で価格が倍増している。昨年3月の安値からは900%超も値を上げている。昨年12月16日に2万ドルを超え、今年1月2日に初めて3万ドルを超えた。確かに過去比較でもバブルといえる。

しかし、決定的に違うのは、FRBにより資金供給量の大きさである。いまのFRBの保有資産は7兆ドルを超えており、過去とは比較にならない状況である。その資金を使って市場から株式やビットコインを買い上げれば、容易に価格は上昇するだろう。

08年の金融危機後にFRBによる資産買い入れは急増している。それ以前と今とでは、市場に出回っている「資金量がまったく異なる。したがって、過去の「10年から15年で10倍から15倍」というバブルの定義はいまや通用しないだろう。

このように考えると、いまの市場動向を正しく予測するには、資金の動きをこれまで以上に注視しなければならないといえる。資金の動きで相場は決まってしまう。いまはバリュエーションが高いものの、それでも株価が支えられているのは、やはり資金の力のおかげである。

しかし、最終的には割高に買われた株価水準が維持されることはないだろう。企業業績がついてこなければ、割高に買われた株価はいずれ調整される。この点は常に念頭に置いておかなければならない。

さて、今週から来週には株価はいったんピークアウトし、下落する可能性があるとの見方は変わらない。これは、シーズナリティからの判断である。いまは堅調に見える株価も、上げ続けることはない。必ず押し目を入れるはずである。それを狙っておく。

いまの株価を見れば、今年も強いと思いがちだが、もしかするとそれは思い込みかもしれない。期待するのはよいが、投資判断は冷静にすべきである。

ガンドラック氏の見解

ダブルライン・キャピタルの最高経営責任者(CEO)で著名投資家のジェフリー・ガンドラック氏は、新興国株に強気を表明する一方、暗号資産(仮想通貨)のビットコインについては、変動の激しさを指摘し、見通しを「オーバーウエート」から「中立」に変えたとしている。

ガンドラック氏は、「世界各国で巨額の新型コロナ対策が取られたことから金融市場全般は限界の域まで買われているように見える」とし、「投資家は皆、鏡の家に入り込んで抜け出せなくなっているようだ」としている。

また、「米国株が世界の他の株よりもアウトパフォームしたり、米国で大型株が小型株よりも値上がりしたりするような、幾つかの長きにわたった市場トレンドが失速しつつあるかもしれない」とも指摘。さらに、米雇用市場については、「労働者の志向の変化などで企業が一部の在宅勤務を恒久化させていることから、次のレイオフは中間管理層が対象になる可能性がある」とした。

ビットコインに対しては「これほど変動する市場は危険に見える」とし、「1時間に20%損するのを心配しなければならないのは、好きではない」とした。ビットコインの価格は今月9日に最高値を更新したが、11日には11%以上下落し、その後も9日の価格に比べて15%下回った水準にある。

債券王の異名をとるガンドラック氏からすれば、ビットコインのような激しい値動きは耐えられないのかもしれない。もっとも、最近は見通しがあまり当たっていない点には要注意である。

Next: 米国株の投資戦略と考え方は? 今年の鬼門は5月・6月か



米国株の投資戦略と考え方

米国株は15日の市場で下落したが、それでもまだ高値圏である。ただし、この日はFANG指数、ダウ輸送株指数、ラッセル2000、SOXが下げており、これまでのけん引役が不安定になっている。これがピークアウトの兆候かはまだわからないが、この動きが続くといよいよ調整となる。その可能性は徐々に高まっているように見える。

18日はキング牧師生誕記念日で休みだが、20日のバイデン次期米大統領の就任式もある。これを境に波乱が起きるのか、今週は相応の注意が必要である。

投機筋は先物市場でナスダック100ミニ先物を売り、S&P500ミニ先物を買い戻し、VIX先物を売っている。VIX先物のネットショートは10万枚を超えてきた。楽観度合いが強まっているといえる。これも目先の調整のサインになる。これらの動きを総合すると、短期的な調整のタイミングが近づいているように見える。

バンク・オブ・アメリカ(BOFA)が15日に公表した週次ファンドフローデータによると、投資家は13日までの1週間に金融株とエネルギー株に資金を振り向けたようである。バイデン米次期大統領による1兆9000億ドルの経済対策公表に先んじてポジションを調整したようだが、まさに昨年から私が指摘していたこのふたつのセクターローテーションがみられている。まさにリターン・リバーサルの動きである。

株式ファンドには268億ドルの資金流入に、エネルギー株には過去2番目に大きい36億ドルが流入したという。また、金融株への流入額は21億ドルに達したようである。インフレ期待が高まる中、インフレ指数連動債(TIPS)に18億ドルの資金が流入し、過去3番目の大きさだった。

BOFAによると、市場ではインフレ期待が高まっており、今年はインフレ資産がデフレ資産をアウトパフォーマンスしている。アウトパフォーマンスの程度は2006年以降で最大という。また、新興国株式には70億ドルが流入。過去6番目の高水準だった。税制を巡る思惑から、地方債には記録的な高水準となる25億ドルが流入した。BOFAのブルベア指標は7.1で変わらず。

BOFAによると、過去12週間で少なくとも3200万回分のワクチンが投与された。世界のワクチン配布ペースは同行の予測を大幅に下回っている。ただ同行の基本シナリオでは依然として、感染拡大よりもワクチンの普及を、景気後退よりも経済活動の再開を重視。財政刺激策の拡大、株式へのローテーションを予想している。

中期的には、このようなセクターローテーションは機能する。今年はエネルギーETFと金融関連ETFを買うのは非常に理にかなっていると考えている。また、これから調整場面が来れば、待ちに待った押し目買いのタイミングになる。これを待っていたのである。

今年の鬼門は5月・6月

さて、繰り返すように、今年はやはり鬼門は5月から6月になりそうである。これは、WTI原油の動きから見た米CPIの動きがきっかけになると考えている。米CPIはおそらく2.5%から3.5%に上昇すると考えている。そうなると、政策金利と市場金利の差が拡大し、FRBに圧力がかかることになる。それにFRBは耐えられるのか、非常に疑問が残る。また、新興国株をS&P500で割ったレシオを見ると、米10年債利回りに先行して上がっている。

このような傾向をみると、米金利は上昇せざるを得ないようである。結局、今年の5月から6月に金利が上昇し、市場がそれを嫌気する形で売りが出るのではないかと考えている。その下げが大きければ、その後の株価上昇は限定的になる可能性がある。

それでも、年初1月と比較すれば、結果的に上昇して今年は終わるのではないかと楽観している。それが過去のパターンである。S&P500のパターンを見ると、今年の騰落率は100%の確率で上昇と判定されている。これは心強いデータである。

さて、今年は中小型株やエネルギー・金融株のリバウンドが期待できると昨年から指摘してきたが、年初来からの動きを見ると、やはりそのような動きが顕著である。エネルギーETFはすでに10%もの上昇となっており、金融も強い。このように、前年に売り込まれたセクターは翌年にリバランスで買い戻される傾向がある。

一方、金利の上昇は今後は市場にどのような影響を与えるかを考えておく必要がある。本来は、景気回復を織り込んで株価が先に上昇し、その後景気が実際に堅調さを示すようになり、それに合わせて金利が上昇していくのがセオリーである。しかし、いまはコロナ禍で金融政策は緩和的であり、これが株価を支えるいびつな構図である。パウエルFRB議長がまだ金利を引き上げる時期ではないというのも理解できる。

しかし、いまは将来の景気回復を織り込む形で株価が上昇し、金利も上がってきている。しかし、雇用は弱い。FRBにとっては悩ましい状況になりつつある。インフレ率が上昇すれな、低金利政策を維持できるのか、疑問が残る。原油価格と米CPIの相関関係は0.77とかなり高いが、私は米CPIの前年同月比の上昇率は、4月から6月にかけて2.5%から3%に達する可能性があるとみている。昨年12月が1.4%であり、ここから一気に1%以上も上昇すれば、市場には相応のショックもあろう。

この点については、先程も取り上げたダブルライン・キャピタルの最高経営責任者(CEO)で著名投資家のジェフリー・ガンドラック氏も同じ意見のようである。ガンドラックは「これまでは信じられないくらい安定的なインフレの時代だった。そして、本当に大きな疑問は、これが続くかである。私は間違いなく答はNOだと思う」としている。ガンドラック氏は、5-6月に発表されるCPIが3%程度まで上昇すると予想している。私と同じ見立てである。

ガンドラック氏は「現在は債務過多のために、おそらくデフレになっている。将来は莫大な貨幣増発のためにインフレになる」としている。多くの人はコロナ後のインフレを予想しているように見えるが、米国でも日本のようにディスインフレ傾向が続くとの見方をする市場関係者も皆無ではない。しかし、ガンドラック氏はインフレを予想しているようである。

ガンドラック氏は「ディスインフレ傾向が続くとは考えていない。この傾向は、これまでの過去25年ほど経験してきた時代に続いて起こるものではない。そのうえで、以新興国株(特にアジア)に強気で、現金はデフレへの備えで保有する、30年債など米長期国債もデフレへの備えで保有するとしている。さらに、実物資産の中で不動産、ビットコイン、金などで好きなものを保有しておくとよいとしている。

現金と長期国債がデフレ・リスクのヘッジとなり、新興国株と実物資産がインフレ・リスクのヘッジになるという考えである。しかし、ガンドラック氏の推奨ポートフォリオに米国株は入っていない。それは、米国株が割高であると判断しているからである。ガンドラック氏は、ロバート・シラー教授の「超過CAPE利回り」を米国株に応用しているようである。超過CAPE利回りとは、CAPEベースの益回りの10年債実質利回りに対するイールド・スプレッドを指す。

この指標を歴史的水準と現状の水準を比べると、現状の米国株はまだ割安に見えるという。ただし、注意すべきは、債券との比較においては割高に見えないことである。ガンドラック氏は「債券王」であり、債券から見た株式の価値を判断する傾向がある。そのため、歴史的水準と比べて株式が割高との判断になるようである。しかし、その債券もまた歴史的水準とインフレに対してきわめて割高となっていると判断しているようである。これは誰が見てもわかる事実であろう。

このように考えると、シーゲル教授が指摘するように、やはり債券は「最悪の投資先」となる。保有額はできるだけ減らしたほうがよい。そのうえで、将来のインフレに備えたポートフォリオに組み替えるべきであろう。株式と金はその中でも重要なポジションになる。原油ももしかすると上がるかもしれない。債券は駄目である。

また、通貨価値の下落を想定すれば、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)も対象としてもよいのかもしれない。私も少しずつ買い始めているところである。

Next: バイデン新政権誕生前後の調整に要注意。今年の展望は?



バイデン新政権誕生前後の調整に要注意

現在の米国株は高値圏でのもみ合いである。次の方向性を探る動きになっているが、1月中旬から下旬にかけては下げやすい傾向がかなり明確になっている。このような事情もあるのか、買いづらいと考えている投資家がいるのかもしれない。米国株はシーズナリティに合わせて変動する傾向があり、過去データは無視できない。特に20日のバイデン新政権の誕生前後からの調整には細心の注意が必要である。

その後は2月にかけていったん持ち直すが、その後は再び2月末にかけて下げる。3月に入るとようやく上昇基調に入り、5月末まではかなり堅調に推移するだろう。しかし、今年は6月が鬼門になる。ここで大きく調整する可能性がある。この下げが大きくなり、年初の水準を下回るようだと、今年の上昇は限定的になるだろう。

このように、シーズナリティからある程度の変動の予想ができる。あとは、昨年のコロナショックのような突発的な事象がなければ、おおむね今後の株価は見えている。したがって、今後も深押しのタイミングを逃さないようにし、押し目での買いをしっかりと入れていくことが肝要である。これが長期的に資産を増やしていく上で重要なポイントになる。

一方、テスラは堅調である。テスラ株の空売りが止まらないもようで、これが「燃料」となって株価を押し上げているようである。これまでも指摘してきたように、このような空売りは最終的に相場を押し上げることが多い。上げている相場で空売りを増やすと、このようなことになる。いろいろな理由で空売りを行っているのだろうが、いまは全く効果がないどころか、損失が膨らむだけであろう。

今年はすでに1%を超える上昇となっており、主要株価指数は史上最高値を更新している。きわめて順調なスタートである。ただし、米国株のシーズナリティは常に念頭に置いておきたい。そろそろ調整の可能性が高まるころである。20日のバイデン次期米大統領の就任式前後がピークになるだろうか。その後は下落し、1月末に底打ちし、いったん戻した場合でも1月の高値を超えずに再び低迷するだろう。3月に入ると後半に1月高値を更新し、6月初めまで堅調に上昇するだろう。

とりあえず、いまはここまでは見ておくことにする。その先はもう少し状況を見て判断すればよいだろう。ただし、米国株は強い相場がさらに強くなる傾向がある。過熱感があるように見えても、それを凌駕する強さを見せることが多い。こうなると、やはり空売りは厳しい状況に追い込まれてしまう。やはり「上げている相場は買い」「下げている相場は売り」という単純な見方がよいのである。

過去の強い相場の時の米国株の傾向からみると、最大で15%前後の下げを見ておけばよいだろう。無論、昨年のようなコロナショックのようなことがあれば別だが、常時の過熱感の調整は最大15%から20%弱を見ておけば、おおむね外れることはない。過去のデータを見ても、それは明確である。

例えば、いまのように、1945年以降で6カ月を超える上昇基調が続いたケースは11回あるが、1年後に下げていたのは1987年の1回だけであり、平均騰落率は13.8%である。非常に良いリターンである。上昇期間の間のピークからの最大下落率(最大ドローダウン)は16.0%である。

これはちなみに、コロナショックが起きる昨年2月19日までの上昇期間で発生している。このように見ると、上げているうちは15%程度までの下げを見込んで押し目買いを行えば、おおむね上手くいくことがわかる。だからこそ、長期ポートフォリオ戦略では、5%超の下落からの下げ局面での押し目買いが有効だと考えている。実はこれはきわめてセオリカルな投資戦略なのである。

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江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』(2021年1月18日号)より一部抜粋
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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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