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JAL、最終赤字3000億円に下方修正も「貨物便」に光明。再浮上に期待できる理由=馬渕磨理子

2月1日、日本航空(JAL)の決算発表に出席しました。2021年3月期通期の連結業績予想は最終損益3,000億円の赤字と下方修正。この背景には何があるのでしょうか? 光が感じられる発表もありましたので、合わせて紹介しながら解説します。

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プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi

ワクチン効果を意識しはじめた株式市場

ワクチン接種の報道から、株式市場では旅行比較サイトや航空券予約サイト、鉄道などの銘柄が動き始め、経済回復の見通しを早くも織り込んだ値動きとなっています。

まだまだ、実体経済が立ち上がりには時間がかかりますし、ワクチン接種の普及にも時間を要するでしょう。今年に入り、緊急事態宣言が再発令され、期間も2月7日から3月7日までに延長されています。トンネルの中を歩いているように感じる方も多いでしょう。

しかし、そろそろ我々は、「ワクチンがあるwithコロナ」のステージを意識しなければなりません。

日本航空(JAL)、今期3,000億円の最終赤字へ下方修正

先日、2月1日のJALの決算発表に出席。業績の下方修正を余儀なくされるなかでも、光が感じられる内容でした。

21年3月期通期の連結業績見通しについて、売上収益は4,600億円の赤字、営業利益(EBIT)は4,200億円の赤字、純損益は3,000億円の赤字と下方修正しています。この背景には何があるのでしょうか。

エアラインは固定費率が高く、キャッシュの重要性が非常に高い業界です。固定費の多くは航空機の機材費と人件費が占めます。そのため、企業の活動がストップすれば、一気に財務状況が悪化してショートしまう航空会社は、コロナで稼働することが許されないなか、経費削減と資金の確保をして、模索を続けています。

下方修正の背景、緊急事態宣言の再発令や「Go Toトラベル」の一時停止

菊山英樹専務執行役員は同日のオンライン会見で、足元の予約状況を踏まえると、従来予想の「下限を下回る損失を見込まざるを得ない」と説明しました。航空業界の国際線は世界各国の出入国制限などを反映して、旅客数は2020年4月から12月まで9割減が続いています。

ただし、今後、感染拡大や出入国制限の状況は変化する可能性があり、需要回復は極めて流動的になりそうです。

また、国内線はGo Toトラベルキャンペーンなど10-12月の需要回復が明らかにみられましたが、緊急事態宣言の再発令や「Go Toトラベル」の一時停止で、再度、旅客数が減少しています。

回復の見通しが立てにくく、業績低迷が長期化する可能性が高まっています。

これによって、21年3月末までに国内線需要がコロナ禍前の72~87%、国際線が25~45%まで回復する前提で算出し、下方修正に追い込まれた形となっています。

2021年3月期業績予想について(需要予想) ※JALプレスリリースより

国内旅客需要を見てみると、「GoToトラベル」の恩恵を受けて、10月は前年比50%程度、11月は前年比60%程度までに回復していました。順調に回復してきていただけに、「GoToトラベル」の一時停止と緊急事態宣言の影響をダイレクトに受けざるを得なくなっています。

今後2月、3月の需要予測に関しては、「Go Toトラベル」の再開や緊急事態宣言の終了などの、希望的観測は一切に考慮せずに、現状の予約状況のみで「フラットに」予測したものだと述べられていました。

ただし、私の見解では、現状の予約状況は少なくとも、今後回復していく可能性が高く、業績面にも今後寄与するのではないかと見ています。

Next: 今後は回復へ向かう? 自動車市場の回復が追い風になる



財務は強固な体質を維持

決算発表では、2021年3月末の手元現預金残高は約3,700億円を確保できると公表しており、自己資本比率は44.3%です。

厳しい状況にありながら、財務体質は健全に推移する見通しです。

さらに、財務の健全性をみる指標でデッド・エクイティ・レシオ(負債資本倍率)は0.5倍の見込みであることからも、厳しい状況にありながら、財務体質は健全に推移する見通しになります。

世界の自動車市場の回復は航空業界にとってもプラス

航空業界にとって、暗いニュースが多いですが、一筋の光として明るいニュースもあります。

「国際貨物便」が収益を底上げています。

背景には、世界の自動車市場の回復による完成車、自動車部品や半導体・電子機器の輸送、欧米からの医薬品や医療機器の輸入、リモートワークの定着でIT機器向けの半導体や電子部品の輸出が増えていることなどから需要が伸びていています。

貨物専用機を持たないJALは旅客機を貨物便に転用して、2月は約1,000便の運航する計画です。会見でも国際貨物便は第三四半期で想定の2倍の需要となり、100億円のプラスになったと話していました。

国際航空貨物は現在、旅客便の大幅減便による貨物スペースの供給不足が続き、運賃が上昇しています。積極的に貨物専用便を多く運航し、需要を取り込むと述べていました。

印象に残った「コスト削減」「人材を守る」の宣言

コロナの影響で、航空業界は依然厳しい状況が続いていますが、会見の中で印象に残ったものが2つあります。「コスト削減」と「人材を守る」ということです。

徹底したコスト削減を行って、削減額は当初の600億円想定から2倍の1,200億円の見込みとなっています。

会見の中で記者から社員の賃金に関する質問がありましたが、決算の担当者は少し厳しい口調で「賃金カットはしていない」と答えていました。現在40ある出向先も今後、積極的に活用したいと話していました。

Next: JALとANA、苦しいのはどっち? 共存共栄が理想的だが



JALとANA、苦しいのは…

JALとANA、より苦境に立っているのはどちらでしょうか。

収益の落ち込みが苦しいのは両社とも共通していますが、ANAの負債が特に重くなっています。JALは一度破綻した際に財務がきれいになったため、負債が軽くなっています。

ANAは近年、事業拡大のために積極的に投資を行ってきていました。それに加えて、19年度の従業員数は、JALが3.5万人、ANAが4.6万人とANAの方が従業員数が多い点も人件費の面でも苦しいです。

今回の危機的状況では、ANAの財務体力が弱っています。両社は自力で資金調達をし、「雇用を守る」として大規模なリストラも行っていません。

ここからは、当面の借り入れによって有利子負債が増えており、その返済に追われることになります。

そこで、両社はバランスシートの負債ではなく、純資産を増やす「公募増資」を昨年11月に行っています。その規模はJALは約1,800億円、ANAが約3,000億円です。

厳しい状況に変わりはありませんが、空のインフラを守る上でも2社の共存共栄を望むばかりです。

環境への取り組みも。古着25万枚を使った燃料でフライト

最後に、苦しい状況にも関わらず環境に配慮した取り組みに言及します。

2月4日、JALは羽田発福岡行きの便に古着約25万枚から作った400リットルのバイオジェット燃料を初めて使いました。古着の原料である綿を微生物と混ぜ、アルコールに変換して作られるとのこと。JALは国産のバイオジェット燃料について、2025年ごろの実用化を目指しています。

ANAは昨年11月6日に、廃食油や動植物油脂を原料とする「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」を使った定期便の運航を始めています。

苦しい中でも各社、環境への配慮を考えた努力も続けているのです。

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image by:馬渕磨理子

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年2月11日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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