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三木谷楽天が築く“帝国”の新ルール。赤字モバイル「全力」は大正解、シェア戦争はグループ総力戦へ=馬渕磨理子

楽天が好調なECの利益を食いつぶしてまで赤字のモバイル事業を続けるのは、楽天“帝国”を築くために必要な投資だからです。楽天モバイルは携帯キャリア戦争を勝ち抜けるのか。値下げ競争の次のステージ「グループ総力戦」が始まっています。

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プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi

社名を「楽天グループ」に変更

楽天は4月から社名を「楽天グループ」に変更すると発表しています。

楽天は、今や、ネット通販にとどまらず、携帯電話や金融など事業の多角化が進んでおり、傘下に150社以上の連結子会社を抱えています。楽天はグループとしての力を発揮するために、司令塔としての役割を強化していく必要があります。

また第4の携帯キャリアとして、楽天が携帯業界に参入しました。熾烈(しれつ)な価格競争とユーザー獲得の戦いが繰り広げられているモバイル事業でさえも、実は楽天グループの構想の一部分に過ぎないのです。

今回は、この楽天の「全体像」を見ていきましょう。

現状、楽天の事業は「インターネット」「フィンテック」「モバイル」の3つのセグメントに分けられます。

赤字を出してまで「モバイル事業」を続ける理由

2月12日に発表した決算では「モバイル」事業が大幅な損失を出しています。

年間のグループ全体の決算は、損益が1,141億円の赤字となりました。携帯電話事業で基地局の整備に多額の投資を行ったことなどが響いています。

一方で、新型コロナによる、巣ごもり需要を受けて、ネット通販事業は好調で、グループ全体での売上は1兆4,555億円で前年同期比15.2%増となっています。

なぜ楽天は堅調なECの売上を食い、大幅な損失を出すようなモバイル事業に投資するのでしょうか。

これは、次の時代を見通した「やるべき投資だ」との認識です。

Next: モバイル事業が楽天を「最強」にする? 価格競争は次のステージへ



モバイル事業で楽天は最強になれるか

楽天は、あらゆるコンテンツ事業を持ち、網羅的にIPを中心とした戦略を構築できている数少ない企業です。ここに「モバイル事業」が加わることで、より一層、楽天の強みを強化することができます。

コロナ禍でコンテンツ事業は国内外ともに成長を見せており、RakutenTV、Rakutenブックスなどはユーザー数が増加しています。モバイル事業は、これらのコンテンツと親和性が高く、シナジー効果が見込まれます。

かんたんに言えば、ユーザーは、楽天モバイルを使い、「楽天市場」で買い物をし、「楽天トラベル」で旅行の予約をし、支払いは「楽天カード」で決算し、貯まったポイントは「楽天証券」で株式投資。余暇は「RakutenTV」、「Rakutenブックス」で楽しみ、「Rakutenチケット」でエンターテインメントのチケットを購入。携帯の中のコンテンツもすべて楽天が手掛けているものといった世界観です。

楽天モバイルのユーザーに、これらのコンテンツのサービスを割引で受けられたり、ポイント還元されたりすることで、ユーザーは多くのメリットを受けることが可能です。

携帯各社の「料金戦争」は次のステージへ

携帯料金の値下げ競争で大手が格安の料金プランを打ち出し、各社の新プランは出そろったと言えるでしょう。

口火を切った、NTTドコモは20年12月3日に月間データ容量20GBを月額2,980円で提供する新料金プラン「ahamo(アハモ)」を発表。ソフトバンクは20年12月22日にドコモと同じく、20GBを月額2,980円で提供する新料金プラン、「SoftBank on LINE」を発表しています。KDDIは1月13日に新プラン「povo(ポボ)」は20GBで月額2,480円という料金を提示。ただし、「1回5分以内の通話は無料」をオプション(月額500円)で追加できるというものになっています。

楽天は、もともと、「容量無制限で月額2,980円」の単一料金プランを前面に打ち出していました。これに加えて、1月29日に発表した新プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は、利用データ量に応じて料金を4段階に分けています。1GB以下は無料、1~3GBは980円、3~20GBは1,980円、20GBを超えると2,980円という体系です。

各社がしのぎを削って料金を下げたことにより、家計への負担を軽減させる功績は讃えられるものでしょう。料金面がほぼ足並みが揃ったことで、ここから先は、サービスの充実や使いやすさなどユーザーをどれだけ獲得できるかの戦いになります。

携帯各社の競争は間違いなく、「料金」ではなく、ユーザーに「お得感」「使いやすさ」など体験価値のあるものの競争になります。

次のステージで、前述したように、豊富なコンテンツを持つ楽天はユーザーに提供できるものが他社に比べて魅力的なものが多いと言えるでしょう。

Next: 楽天は上位3社に食い込むか? ライバル企業の戦略と比較



通信環境は整うか?基地局確保が課題

楽天は携帯事業者として、ユーザーに豊富なコンテンツを提供できる点で優位であることは、ここまで述べてきました。

しかし、他社に比べて劣っている点があります。それは、携帯事業者として最も大切な「通信環境・基地局の整備」です。

三木谷氏は「4位にとどまるつもりはない」と強気な姿勢を示していることからも、何としてもインフラ基盤の構築を急ぐ必要があります。

決算発表では、ユーザー拡大に合わせて、基地局整備の計画にも変更を加えています。

1月末時点で人口カバー率は74.9%です。今夏には当初計画では2026年3月末に予定していた人口カバー率96%を5年前倒しで達成する見込みとなっています。

96%達成時の当初計画での基地局数は2万7,397局でしたが、今回公表された新計画では4万4,000局まで増やす予定です。

楽天は上位3社に食い込むか

あえて、ここでは「携帯会社のトップ」ではなく「各グループのトップ」が今、最も注力していることに言及しておきたいと思います。携帯事業はグループとのシナジーを見出す総力戦だからです。

NTTドコモは、NTTの澤田氏のもとで完全子会社化となり、今年夏までにNTTコミュニケーションズなどもドコモの傘下に置かれます。「ahamo(アハモ)」で先手を打ったドコモは、1月上旬で事前予約者数が55万人に達しています。果たして、狙いであった若い世代を取り込むことができたのでしょうか? NTTはドコモを完全子会社化することで、利益を内包し、6Gといった次のステージで世界の覇権を狙う「大帝国」の地盤固めをしています。

ソフトバンクは、ソフトバンクグループの孫氏のもと、傘下となったLINEの強みを活かした携帯事業の方向性が見られます。ただし、孫社長は携帯料金の値上げの圧力に対して、もはや、携帯事業にすでに面白みを感じていないとの発言も見受けられます。最大の関心事は「AI群戦略」によるビジョンファンドでの投資利益を上げることには間違いないでしょう。

KDDIは、高橋氏のもと、携帯事業に力を入れながらも、非通信事業である、ライフデザイン領域にも力を入れており、金融・決済の分野が成長しています。金融・決済取扱高は6.5兆円、au PAYカードの会員数も610万に成長しています。こちらも、銀行・証券など携帯事業と新和性が高いと言えるでしょう。

Next: もはや携帯シェア争いは4グループの総力戦。楽天は勝てるか?



携帯シェア争いは4グループの総力戦

楽天はここまで見てきた通り、三木谷氏のもと楽天の持つコンテンツと携帯事業の新和性を高めていく戦略です。その先に見据えているものは、「モバイル通信業界のAWS」版を目指しており、三木谷氏はかねてより、「楽天モバイルは、序章」であり、楽天にとって肝心なのは「RCP」(Rakuten Communications Platform)だと説明しています。

携帯各社の戦いは、すでに、携帯の本丸で、できることは限られてきています。グループ全体の総力戦で、いかにユーザーの満足度を提供できるかの勝負なのです。

通信環境・システムの提供・安い値段といった、インフラの部分での戦いよりも、「価値の提供」での戦いは、企業としてより厳しさを増すと言えるでしょう。

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Guillaume Paumier at Wikimedia Commons [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年2月18日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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