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ユニクロで読みとく日経平均バブルの賞味期限。ファストリ株10万円超は割高か否か?=栫井駿介

日経平均株価が3万円を超えて、30年ぶりの高値となっています。その日経平均株価の上昇に大きな影響を与えている銘柄が1つあります。それは、ユニクロを運営するファーストリテイリングです。今回の記事では、日経平均株価の株価の歪みを説明するとともに、このゆがみを是正した時に日経平均株価がどのぐらいの数字になるのか、また今後どのような動きになるかということについて解説したいと思います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

日経平均は“歪んだ”指数

日経平均株価の過去1年の推移です。

日経平均株価 日足(SBI証券提供)

新型コロナショックで昨年の2月、3月は大きく下がったのですが、そこから逆に今度は大きく上昇して、今や3万円を超えるという状況になっています(※編注:原稿執筆時点2月23日)。

30年ぶりの高値ということになっていまして、長年バブルの崩壊から上昇が起きなかった日経平均株価がついに本格的な上昇に入ったと見られています。

ところが、株式投資をされている方の実感として思うかもしれないのですが、日経平均株価はこれだけ上がっているのに、自分の持ち株は上がっていないと感じている人も少なくないのではないかと思います。

というのも東証全体を表す指数でもう1つ「TOPIX」というものがあるのですが、TOPIXに対して日経平均株価はさらに大きく上昇しているというところがあります。

日経平均・TOPIX 日足(SBI証券提供)

例えばこのチャートで示す通り、過去1年の推移を見ると、赤で示したTOPIXは十数パーセントしか上がっていないのに対して、日経平均株価は30%ぐらい上昇して上昇率にして2倍近い差が出ています。

何故このようなことになってしまうのかというと、日経平均株価というのが歪んだ指数であるということが挙げられます。

TOPIXというと「時価総額加重平均」と言って、時価総額が大きい企業ほどTOPIXの数字に影響してきます。したがって相場は全体を表す指標としては非常に妥当なものと言えます。

一方で、日経平均株価は単純計算で成り立っています。

株価というと100円の物から1万円の物など様々あります。

色々と複雑な計算はあるのですが、ざっくり言えばこの株価を単純に足して割ったものが平均株価ということになります。

したがって株価が高い採用銘柄ほど指数の変動に大きな影響を及ぼしてしまうということになります。

ファーストリテイリング1社の影響力が強すぎる

この株価が高い銘柄のことを証券用語で「値がさ株」と言うのですが、その筆頭となっているのがユニクロを運営するファーストリテイリングなのです。

こちらは日経平均ヒートマップをストックブレインというところからお借りしているのですが、この四角の枠の1つが日経平均に与える影響の大きさです。

出典:StockBrain

これを見ますとソフトバンクグループとか東京エレクトロンなどが大きいのですが、その中で異彩を放っているのが、このファーストリテイリングです。

これだけ大きな四角を描いていまして、これがなんと日経平均に占める割合中12.79%と、1社で日経平均の12%を占めているということなります。

Next: ファストリが日経平均を押し上げている。ユニクロの業績は良いのか?



「ファーストリテイリング」が日経平均株価を押し上げている

ファーストリテイリングの株価というとここにきてなんと10万円を超えてきていますから、それが日経平均を大きく動かしているということになります。

それが見ことに表れているのがこのファーストリテイリングの株価で、コロナの時は一時期4万円ぐらいまで下がったのですが、それがぐいぐい上昇して、ついに10万円になりました。

ファーストリテイリング<9983> 日足(SBI証券提供)

ちなみに株式の取引というのは一般的に100株単位ということになるので、10万円ということは1単元を買うのになんと1,000万円もの資金が必要になってきます。

この上昇で業績に対する株価、すなわちPERがどれくらいになったのかというと、なんと直近の予想に対して66倍というかなり高い数字になっています。

これがコロナで一時的に業績が悪い所に対して株価が66倍ということならば、一時的な現象ということもできるのですが、このベースとなっている利益は今年度8月期の過去最高益に対する利益なのです。

過去最高に対するPER66倍ですからこれは一時的にPERが上がっているということではなくて、それだけファーストリテイリングに対して投資家の高い評価がかかっているということになります。

ユニクロの業績は?

では、ファーストリテイリングの業績どうなのかというと、以下のように確かに右肩上がりに成長しています。

青で示した売上高はコロナで一時期落ち込んだとはいえ、右肩上がりが続いています。また赤で示した営業利益もどんどん上がっていて、2021年8月期過去最高水準の予想となっています。

これだけ成長しているならPER60倍は高いけれども、許容できる範囲なのではないかと思う人もいるかもしれません。

ところが、詳細に噛み砕いてみると必ずしもそうとは言い切れない数字が出てきます。

過去5年間ユニクロがどうやって成長してきたかというところを見ると、売上高は5年で1.23倍になりました。これは年率換算にすると4.2%の成長ということです。

売上高以上に変動幅の多い営業利益は、5年前と比較すると1.92倍になっています。これは年率にすると13.9%ということになります。

ただし、5年前というと極端に落ち込んだ時に対する成長率ということにもなります。

これだと少し歪みが出てくると見られますので、1年ほど戻して落ち込んでいない時の利益とも比較してみますと、6年で1.49倍ということになります。これは年率換算すると6.9%ということです。

Next: 割高そのもの!? ユニクロの株価は7年先の成長まで織り込まれている



ユニクロ株は割高? 7年先の成長まで織り込まれている

何が言いたいのかというと、ユニクロもすでにかなり大きな規模になっているので、1年で2倍とか3倍とかになる企業ではありませんし、ビジネスモデルとしてもどんどん店舗を構えて服を作り続けないといけないので、倍々ゲームで増えるような会社じゃなくて年率10パーセントぐらいの成長率というのが妥当なのではないかというところになります。

この年率10%の成長は「72の法則」というのを知っている人はわかるかと思うのですが、72をこの年率成長率で割ると複利で計算した時に何年でその数字が2倍になるのかということがわかります。

72を10で割るので、およそ7年でユニクロの業績は2倍になるということができます。

仮にユニクロが成長してこれから利益が2倍になった時のPERは、利益が2倍ですから今66倍のPERに対してこれが半分になって33倍という数字が出てくるのですが、この33倍というのが過去のユニクロのPERにおける平均的な水準とほぼ一致します。

どういうことかと言うと、ユニクロの株価の成長というのは、業績が2倍になるということを既に織り込んでいて、これにかかる時間が7年なので、逆に言えば今後7年間成長せず株価が上がらなくてもおかしくない業績が今の株価に織り込まれていると言えます。

この7年間株価が横ばいでもおかしくない、逆に言えば今株価が半分であってもおかしくないという、そういう数字になっています。

これを割高と言わずして何と言うかというところです。

向こう7年、日経平均が横ばいをたどる可能性もある

なので、想定されるシナリオとしては今後7年間ファーストリテイリングの株価がまったく上がらないということも想定されます。

それはすなわち日経平均も横ばいをたどる可能性が高いというのもシナリオとしてあります。

また何らかのショックなどによってファーストリテイリングの株価も適正水準にまで戻って、株価が半分になっても、それもまたおかしくないということになります。

では、今この瞬間に仮にユニクロのファーストリテイリングの株価が半分になったらどうなってしまうのかということを計算すると、単純計算ですが今の構成率は12.79%ありました。これが半分になるということですから、日経平均が半分の6.4%無くなってしまうということです。

すなわち日経平均が6.4%下落とするということですから、今の数字から計算すると2万8,300円になるということになります。

この2万8,300円という数字を見ると、現状の相場全体の感覚と非常に近いのではないかと思います。

つまり今、日経が3万と騒がれていますけれども、実態としてはこの2万8,000円ぐらいの数字というのが、皆さんの実感としてあるところではないかと思います。

Next: 現状の日経平均は2万8,000円ぐらいが打倒? なぜここまで上昇したか



どうしてここまで上がったか

では何故こんなに日経平均を大きく動かす、ファーストリテイリングの株価だけがこんなに上がってしまったのかということを解説したいと思います。

結論から言うと、一番大きいのはやはり新型コロナに端を発する金融緩和です。世の中にお金がジャブジャブに出回って、投資家の手元にもたくさんお金が残るということになりました。

コロナの初期はこれらをDX(デジタルトランスフォーメーション)銘柄に投資していれば、間違いなく伸びるということが考えられましたから、これらの株がどんどん上がりました。

相場というのはこうやってアップルとかエムスリーなどがガンガン上がりましたが、相場というのはこれらのテーマがどんどん循環していきます。

DXやスーパーなどもコロナ禍では良いみたいな話があったのですけれども、いつまでも伸びが続くわけではなくて、いろいろと入れ替わります。

そうこうしているうちにどこのテーマが結局盛り上がるか分からないけれども、これだけお金があふれているのだったら、いよいよ指数全体、インデックスを買っていればいいのではないかという風に思うわけです。

そして日本のインデックスは何かというと、やはり歪んだ指数ではありながら一番有力なのは日経平均株価なのです。

すなわち、投資家はこうやって指数を買おうという風に考えるようになります。

そして、日経平均を買うからには自動的にファーストリテイリングをたくさん買うということになりますし、また逆を見越してみんなが日経平均を買うなら、そもそもその日経平均の一番占めているファーストリテイリング買っておけば、他の人も買ってくれるよねというような考えが働いた結果、日経平均ないしファーストリテイリングの株価が大きく上昇したという結果になりました。

すなわちファーストリテイリングや日経平均は、こういう金融緩和に大きく動かされたある種、プチバブル的な様相を呈しているのではないかというのが私の考え方です。

バブルは金融緩和とともに終了か

では、これがいつ終わるのか?というところまで考えたいと思います。

この日経バブルで間違いなく言えることは、今の金融緩和の終了があれば終わる可能性が高いということです。

お金がジャブジャブでしたけれども、その条件が無くなってしまうということは、徐々にこういったリスク資産から資金が引き揚げていくということになるので、この金融緩和の終了=テーパリングと言うのですが、この議論が始まった時点でそれを織り込んで株価は下がり始める可能性が非常に高いと考えています。

また先程テーマが循環すると説明しましたが、DXなどがもう1回盛り上がるということもあって、その場合はユニクロはDX銘柄ではないので、そっちに資金が動くということもあるでしょう。さらには、今はコロナが中心ですけれども、世の中の状況が変わってコロナ以外のテーマが盛り上がるかもしれません。

そういったことがあれば、ファーストリテイリングからまたお金が出ていくことも考えられます。

また、ファーストリテイリング自体も悪材料が出る可能性も十分にあります。例えば創業した柳井さんに何かあったら、柳井さんなくしては今のユニクロ成長というのはありえないので、ここが悪材料になるような可能性というのももちろんあるでしょう。また今はESG投資なんかも言われていますが、かつてユニクロはバングラデシュの工場で劣悪な条件で労働者を働かせているということで問題になったことがあります。

そういった問題が仮に出てきたとしたら悪材料とみなされて、ファーストリテイリングの株価も下がるということもあり得ると思います。

Next: 日経平均は上がりすぎ?長期投資家はいつ動くか



長期投資家はいつ動く?

いずれにしても言えることは今ファーストリテイリングとか日経とかの株価は上がりすぎていて、もちろんその中にはまだ成長性に対して割安な銘柄も含まれてはいるのですが、全体観として見れば、今無理に投資する局面ではないのではないかと考えます。

私を含め、長期投資家が一番買いやすい、利益を出しやすい局面というのは、多くの人が不安に思っていて絶望に苛まれている時にこそ、買いのチャンスがやってくるということなのです。

そのタイミングをこの上昇で焦る中でじっと堪えて、下落のタイミングを待てる投資家というのが、長期投資では生き残っていける可能性が非常に高いと考えています。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:beeboys / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年2月23日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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