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バイデン初のシリア空爆は米イラン戦争の序章。大規模軍事衝突と相場激動の4年間が始まった=江守哲

米国は2月25日、シリアで親イラン勢力に対する空爆を行った。バイデン新政権は様々な外交問題に直面しそうだが、特にイランの核をめぐる暴走と揺さぶりに苦しめられそうである。これからのバイデン政権の4年間のうちに、大きな軍事的な動きがあると考えておくべきであろう。(『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』江守哲)

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2021年2月26日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリファンドマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

「イラン外交」に苦しむバイデン政権

バイデン新政権は様々な外交関連の問題に直面しそうだが、特にイランの暴走と揺さぶりに苦しめられそうである。大統領選挙の最中から、イランとの核合意への復帰を示唆していたが、それを逆手にとってイランは、したたかに自国に有利になるような行動を取り始めている。

まずイランは、国際原子力機関(IAEA)による核施設などへの抜き打ち査察を認める「追加議定書」の履行を停止した。IAEAとの合意で一定の監視活動は当面続く予定だが、今後はイランが申告していない核関連物質や核活動の検証作業が大幅に制限される見通しで、核開発の実態把握が難しくなる恐れが指摘されている。

イランは保守強硬派主導の国会で昨年12月に制定された法律に従い、米国が21日までに制裁を解除しなければ、追加議定書で規定された抜き打ち査察の受け入れを停止すると警告していた。しかし、米国が制裁を解除するめどはまったく立たっておらず、イランはその間に核合意からさらに逸脱する行為を盾に、欧米諸国から譲歩を引き出そうとしている。

時事通信社の報道によると、追加議定書は、核兵器を持たない核拡散防止条約(NPT)締約国がIAEAと結ぶ「包括的保障措置協定」に追加する形で、より広範な査察をIAEAに認めることになっている。

イランは核合意締結後の2016年から自主的に暫定履行した。履行停止により、査察能力は約2~3割縮小するとされている。

IAEAのグロッシ事務局長は20・21日にイランを訪れ、「最長3カ月の必要な査察と監視の継続」でイラン側と合意した。この合意に基づく検証活動の具体的方法については報じられていないようだが、イラン原子力庁によると、イランが3カ月間は施設の監視カメラ映像を収集・保存し、米国の制裁解除と引き換えにIAEAに引き渡すとされている。

まさに、お得意のイラン外交のパターンである。

しかし、このデータに何も信憑性はない。まさに表面上のデータでしかない。これを米国がどのように扱うのか、非常に見ものである。

止まらぬ核拡散

イランのガリババディ在ウィーン国際機関代表部大使は「核施設には必要な指示が出された」としている。 一方、イラン国会では、強硬派を中心にIAEAとの合意は「明白な法律違反だ」と不満が高まり、ロウハニ政権を糾弾する声が上がっているという。イラン国内も非常に不安定な状況にあるといえる。

イランの最高指導者ハメネイ師は、核合意の規定を逸脱して進めているウラン濃縮活動について、「必要であれば濃縮度を60%に高めることも可能」と揺さぶりの姿勢を見せている。これにより、制裁解除に応じない米国をけん制する一方で、国際原子力機関(IAEA)と結んだ査察継続に関する合意に対する一部の不満を抑え込む思惑があるとみられている。

イランは今年の1月に、核開発強化を義務付けた法律に基づいて、濃縮度20%の「高濃縮ウラン」の製造に着手している。しかし、ハメネイ師は「20%にとどめるつもりはない」とし、強気な姿勢を隠していない。

核分裂を起きやすくするため20%以上に濃縮したウランは、核兵器に使われる同90%超への引き上げは技術的に容易とされている。また、濃縮度を60%に高めれば、核爆弾製造に必要な核物質獲得までの期間が大幅に短縮される可能性がある。

一方でハメネイ師は、「われわれは核兵器開発を追い求めてはいない」とする従来の見解を改めて示している。

これらの言動を冷静に判断すれば、イランは異国の存在と安全を認めてほしいだけなのである。米国とまともやりあうつもりはないだろう。トランプ政権時代に、イラン側は「戦争は望んでいない」と自身の立場を明確にしている。

これは本音であろう。米国とやりあってしまえば、イランの存在そのものが消失する可能性が高い。

Next: バイデンはいつでも核爆弾のボタンを押す? 警戒を強めるイラン



バイデン政権は「戦争もいとわない」

トランプ前大統領も、民間人でもあり、政治家ではなかったことがイランには幸いした。トランプ大統領も「戦争はしたくない」としていた。政治家ではないこともあり、真の意味で神経は図太くなかったのである。その結果が、前述の発言につながっているのである。

しかし、米政権が、バイデン政権に代わったことは、イラン側の政策の大きな影響を与えたといえる。つまり、米国サイドが「戦争もいとわない」強硬派が政権に就いたからである。

オバマ政権時に大量の軍事費を使って世界を牛耳ってきたのがオバマ氏であり、当時副大統領だったバイデン氏である。

その意味では、バイデン氏はいつでも核爆弾のボタンを押すことができるだろう。このことをイランサイドは十分に理解していると思われる。

だからこそ、イランは焦って揺さぶりをかけているのである。

核合意は形骸化

さて、ロイター通信などによると、IAEAは加盟国向けの報告書で、イランが製造した濃縮ウランの一部の濃縮度が20%に達したことを確認したと明らかにした。イランは核開発強化を定めた国内法に基づき、20%の濃縮ウラン製造に着手し、IAEAにも方針を通告していたが、実際に製造が確認されたのは初めてである。

2015年に締結された核合意は、濃縮度の上限を3.67%と定めていた。これにより、核合意はもはや形骸化したといえる。

IAEAによると、今月16日時点で20%の濃縮ウランの製造量は17.6キロだった。また、濃縮ウラン全体の貯蔵量は計2967.8キロと、核合意の上限の202.8キロの約15倍に達した。IAEAは、イラン国内の未申告の施設に核物質が存在していた可能性があるとして、「深刻な懸念」を表明している。

このようにみていくと、IAEAの存在自体ももはや機能不全に陥っているといえる。これは非常に危険な状況である。

いまのところ、イランは自制しているように見える。しかし、実際に何を考えているかはわからない。表面上は抜き打ち査察受け入れを停止し、強硬姿勢を崩していないが、これがポーズだけである可能性もある。

しかし、バイデン政権への揺さぶりに止まらなければ、これは一大事につながるリスクがある。

Next: バイデン政権下で軍事衝突が起きる? 米国はイランを放置できない



米国はイランを放置できない

このような事態に対し、米国側も当然のように懸念を表明している。米国務省のプライス報道官は、イランによる国際原子力機関(IAEA)の「追加議定書」履行停止について「懸念している」と表明している。

また、イランのハメネイ師がウラン濃縮度を60%に高められると主張したことに関しては「脅しのように聞こえる」としている。

ただし、「仮定のことに特定の言葉で反応するつもりはない」とし、静観する姿勢を示している。

しかし、実際に米国がこの状況を放置していることはありえない。裏で相当の情報収集を行い、対策を練っているはずである。それも、イランに対してかなり厳しい結果をもたらすような対策である。それだけは間違いない。

バイデン政権のほうが、トランプ政権よりも数倍も数十倍も、いや何百倍も厳しい外交を行うだろう。

それだけ、オバマ政権から続く民主党の外交の厳しさは、実は想像以上のものがあるといえる。オバマ政権下でウサマ・ビン・ラディンを殺害したことを考えると、イラン政府など大したことはないと考えているに違いない。

中東情勢の不安定化は不可避

イランはどこまで米国新政権の実際の凶暴さ理解しているのだろうか。おそらく、正しく理解していないのではないかと考えられる。

そうであれば、中東情勢の不安定化は不可避である。もっとも、イランは原油輸出による収入がすべてである。最近の原油価格の上昇で、多少強気になっている可能性がある。

そうなると、米政権が原油相場を売り崩して、イランをやり込めることを選択する可能性もゼロではない。バイデン政権は「クリーン・エネルギー」構想を掲げている。原油などの旧来型の化石燃料は使用しない方向で進めようとしている。

したがって、米国内のシェールオイル企業にも気を遣わず、平気で原油価格を押し下げることも想定される。

バイデン政権が実際に原油相場を操作するかどうかはわからない。しかし、そのような選択肢も持ち合わせている点には要注意である。無論、そのようなことは、市場にも誰にもわからないように行うだろう。

Next: 米国は原油相場に揺さぶりをかける? 軍事的な動きに要警戒



米国は原油相場に揺さぶりをかける?

トルコでサウジ人記者のカショギ氏が殺害された際、トランプ大統領がこれに激怒し、サウジを懲らしめるため原油相場を下げさせた可能性があると考えている。

また、事件の舞台になったトルコに対しては、自国通貨リラの暴落により、経済へのダメージを与える戦略をとったと考えられる。

いずれも推測の域を出ないものではあるが、これまでの経緯やタイミングなどを考慮すれば、ほぼ間違いないとみてよいだろう。

そして、今回もイランや他国でおかしなことが起きれば、米国は市場を使って揺さぶりをかけてくるだろう。

中国は「デジタル人民元」開発を急ぐ

このような時代を避ける意味でも、敵対する中国は、自国通貨を守らなければならないと考えている。そのために、デジタル人民元の開発と使用を急いでいる。ほぼ完成しているとみられているが、そうなると、ドルを介さずに外貨送金が可能になる。これは米国にとっての脅威である。

自国通貨を基軸通貨に据えることは、覇権国家の体を維持するためには最低限の要件である。しかし、それが大きく揺らぐことになる。

しかし、デジタル人民元が使用されるようになると、中国のプレゼンスは一気に高まることになる。特にアジア市場での立ち位置は強固なものになるだろう。

無論、これをアジア全体や中東、アフリカにも広げていくだろう。気づいたときには、すべてが人民元経済圏になっている可能性もある。米国はその意味でも、デジタルドルの発行を急がなければならない。

バイデン政権中に大きな軍事的な動きか

話がそれたが、このように、市場・経済と外交は密接につながっている。これらをいかにリンクさせながら考えることができるかが重要になる。

そのような思考経路を持つようにすれば、見えてくるものもあるだろう。

いずれにしても、今後の中東情勢と中国、さらにロシアの動向からは目が離せない。これからのバイデン政権の4年間のうちに、大きな軍事的な動きがあると考えておくべきであろう。

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江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』(2021年2月26日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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