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PayPayの独走は「LINEの毒」が回って終わる。キャッシュレス戦争は四つ巴に=岩田昭男

LINEの個人情報管理問題が明るみになったことで、キャッシュレス決済の勢力図にも変化が起きてくる。独走状態に見える「PayPay」だが、ヤフーとLINEの統合によってLINEペイを取り込むかたちで、「LINEの毒」が回ることになるだろう。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

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プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。

新生Zホールディングスを震撼させた「LINE個人情報問題」

3月1日、ヤフーとLINEが経営統合した。2019年末に経営統合の発表があり、当初は2020年10月が予定されていたが、コロナ禍の影響などもあって、ほぼ半年遅れで統合にこぎつけた格好だ。

これは正確にいうと、ヤフーの運営会社であるZホールディングスとLINEの統合であり、「新生Zホールディングス」の下にヤフーとLINEがぶら下がるかたちになる。

ヤフーの川邊健太郎社長とLINEの出澤剛社長の2人が新生Zホールディングスの共同CEOに就任。GAFAに対抗しうるプラットフォーマーをめざして船出したが、早々に大きな暗礁に乗り上げた。

3月17日、朝日新聞が「無料通信アプリ『LINE』利用者の個人情報に、中国の関連会社からアクセス可能だった」とスクープしたのだ。同紙によれば、LINEはAI開発やサービスの運用を中国の関連会社に委託していたが、その中国人スタッフがLINEの「トーク」データや個人情報にアクセスすることが可能になっていたという。

LINE側は、「不正なアクセスはなく、中国人スタッフがアクセスできない措置を講じた」と説明しているが、個人情報の管理に大きな不備があったことは明らかで、責任は重大だ。

「ペイペイの毒」が回ったQRコード決済サービス

筆者がこのスクープに接してまず頭に思い浮かべたのは、昨年、現代ビジネスに寄稿した記事だ。
※参考:「ペイペイの毒」に潰されたキャッシュレス企業…その残酷すぎる末路(岩田 昭男) – マネー現代(2020年2月21日配信)

この記事は思いがけず「2020年のベスト記事」に選ばれて、多くの人に読まれた。「ペイペイの毒」とは何かというと、ペイペイが2018年の暮れから翌年にかけて2回にわたって行った、「総額100億円あげちゃうキャンペーン」によってQR業界全体が毒され、疲弊したことを指す。

このキャンペーンは指定の店でペイペイを使って決済すると利用金額の20%が還元されるというもので、ペイペイは初回のキャンペーンだけで400万人もユーザーを増やした。この成功を目の当たりにした他のQRコード決済事業者も「指をくわえてみているだけでは生き残れない」と考え、我先にと同じようなキャンペーンに走ったのである。

その消耗戦の犠牲になったのが、オリガミペイを運営していたオリガミだった。オリガミは他社に先駆けQRコード決済事業を開始したスタートアップ企業だったが、2020年に入って早々、フリマアプリのメルカリにあえなく吸収されてしまうのである。

資本にものをいわせてライバルをねじ伏せる

ペイペイの基本的な戦略は、資本(つまりカネ)にものをいわせてシェア拡大を図るやり方だ。

派手なキャンペーンを波状的に行ってユーザーを一挙にかき集めるが、この方法はチェリー・ピッカー(cherry picker)という美味しいところだけつまみ食いする消費者を増やすことにもなる。オリガミはまさにその被害者といってもいいだろう。

先に紹介したいささか刺激の強すぎるタイトルの記事は、そうしたことに警鐘を鳴らすために書いたものでもあった。もちろんペイペイには、「毒にも薬にもなる」という言葉あるように、多くの人にQRコード決済を知らしめたという大きな功績もあった。

当時、長崎県の五島列島に講演に行った筆者は、ペイペイを早く使いたいという人が多いのに驚いた。それほど、「100億円あげちゃうキャンペーン」は日本全国津々浦々に浸透していたのだ。

その結果、ペイペイはQRコード決済の50%強のシェアを誇るまでになった。しかもペイペイはキャンペーン戦略と並行して、次の手を打っていた。それがLINEとの統合だ。

LINEはペイペイのキャンペーンに対抗して「20%還元キャンペーン」で追随しただけではなく、「友だち」機能を使って無料で1,000円送金できる総額300億円のキャンペーンを実施。この無理がたたってLINEは赤字決算に陥った。そして、冒頭のヤフーとの統合に至ったのである。

まず派手なキャンペーンで業界のリーダーとして主導権を握り、競合相手の体力を奪ったあとで大型合併をしかけ、業界ナンバーワンの座を不動のものにする。このペイペイというよりソフトバンクの戦略は実に巧妙だ。

Next: ユーザーの信頼を裏切ったLINE。統合したペイペイにも毒が回る?



ユーザーの信頼を裏切ったLINE

ところが、今回の朝日新聞のスクープでLINEのブランドイメージは地に堕ちたように思われる。

厳しい言い方をすれば、LINEはいわば汚れたブランドになってしまった。今後はできるだけLINEの名前を出さない「LINE隠し」が始まるかもしれない。

LINEは東日本大震災をきっかけに災害時におけるコミュニケーション・ツールとして期待され開発が進んだ。そのため地方自治体とのつながりが深く、公共性の強い通信アプリだ。

もしLINEが中国・韓国とズブズブの関係だったとすれば、利用者の大きく信頼を裏切ることになり、ダメージは計り知れない。

LINEの利用を停止した自治体も多い。LINEが信頼を取り戻すのは容易ではなく、LINE離れが進む可能性もある。

自分の個人情報が中国や韓国に筒抜けになっているのではないかという疑念はユーザーのLINE利用にブレーキを踏ませることにもなるだろう。2022年4月に予定されているペイペイにLINEペイの機能を埋め込んで一本化するための動きが加速するのは間違いない。

一方で、単にLINEだけの問題にとどまらず、ペイペイも無傷ではすまなくなるおそれがある。それどころか、対応を誤れば今度は「LINEの毒」がペイペイ、ひいてはヤフーにまで回り、ソフトバンクの屋台骨を揺るがすことにもなりかねない。

「デジタル改革関連法案」の問題点

この「LINE問題」は、図らずもIT企業やプラットフォーマー、ひいては日本の個人情報保護の実態をクローズアップすることになった。

日本政府はこれまで個人情報保護についてほとんど関心を持っていなかった。個人情報保護法はあるものの、EU(欧州連合)が2018年に施行したGDPR(一般データ保護規則)のような厳格にGAFAなどの巨大IT企業の活動を規制するものではない。

意外に思うかもしれないが、日本では全国の都道府県や市町村の各自治体が、それぞれ個別に個人情報取り扱いのルールをつくっている。

たとえば、多くの自治体が思想信条や病歴などの人権にかかわるようなセンシティブ情報は収集しないと定めている。その他、関連するさまざまな条例が定められているが、細則や運用の仕方は自治体ごとにバラバラだ。

ところが4月6日、個人情報保護法の改正やデジタル庁の創設を含む「デジタル改革関連法案」が衆議院で可決された。

デジタル庁の設立は菅内閣の目玉政策の1つだ。行政のデジタル化を一気に進め、これまで自治体任せにしていた個人情報に関するルールやシステムを国が一元管理し、運用したいという思惑がある。

マイナンバーカードの普及に躍起になっているのもそのためだ。

Next: ペイペイもソフトバンクも信用できぬ。低レベルな日本の個人情報保護



国家による監視と企業寄り過ぎる規制

問題は2つある。

1つは国家による国民の管理・監視の強化につながるのではないかということ。

2つ目は、この法律の制定に熱心な政府の基本的な姿勢が、きわめて企業寄りであることだ。

個人情報のデジタル化による利便性と利活用ばかりが強調されているが、情報を実際に収集・管理・運用することになる企業に対する縛りが甘くなり、本人の同意を得ずに情報が集められ勝手に使われるだけではなく、流出や悪用される危険性が高まる。

要するに個人情報保護の視点がすっぽりと抜け落ち、いかに企業が個人情報を利用しやすくするか、利益をあげられるようにするかが第一義になっている。

政府のキャッシュレス関連事業に必ず顔を出す電通が一枚かんでいる「情報銀行」などはその恩恵を受ける新しい企業の典型的な例だ。

IT関連企業の多くが、デジタル改革関連法案の成立を「ゴールドラッシュの到来」といって期待する。個人情報というビッグデータの利活用だけではなく膨大な情報を一元管理するために必要なさまざまな「仕事」が発生する。

多くの企業にとって、新設されるデジタル庁がまさに黄金に輝く宝の山に見えるに違いない。

国際水準の個人情報保護が求められる

話をペイペイとLINEに戻すと、今回のLINEの個人情報管理の不手際は、単に個人情報が簡単に閲覧できる状態だったことが問題なのではない。

問題は、情報管理の拠点が日本ではなく中国にあったことだ。さらにLINEの一部のデータが韓国に保管されていたことも明らかになっている。

LINEのようなIT企業が集めた個人情報を海外に移したとしても、現在の個人情報保護法のもとでは違法にはならない。しかし、大半のLINEユーザーにとって寝耳に水のニュースだったに違いない。個人情報の漏洩がなかったから問題ないだろう、では済まされない。少なくともLINEは、データ管理が中国や韓国で行われていることを公表しておくべきだった。

LINEはもともと韓国のネイバー社から生まれた。しかし、現在は日本の通信インフラとしてすっかり定着している。痛くない腹を探られないためにも、LINEユーザーのデータが海外に流出することがないよう管理を徹底しなければならない。

ヤフーの川邊健太郎社長は、LINEのデータの国内管理への移行と、中国との関係を断つ旨を明らかにしている。

これは当然のことだ。筆者が危惧するのはLINEを管理・監督する立場になったヤフー、つまりはソフトバンクが中国のアリババグループと親密な関係にあることだ。ソフトバンクがアリババの株主であることはよく知られている。

ペイペイはそもそもアリババのスマホ決済サービスであるアリペイを真似たものだ。アリババはゴマ信用という個人のプロファイルや購買履歴で信用を点数化する信用スコアを開発したがソフトバンクはみずほ銀行と合弁会社をつくりゴマ信用にファイナンス機能を加えたJスコアというサービスを始めている。

Next: 中国に毒された日本のキャッシュレス。今後の動向は?



中国は巨大IT企業から個人情報を守ってくれるのか

ヤフーは2019年7月に、ゴマ信用を参考にしたYahoo!スコアという信用スコアをスタートさせたが、1年足らずでサービスを終了している。個人情報を企業に提供する際に利用者の同意を得る仕組みの説明が十分でなかったことへの批判が相次いだためだ。

中国の先進IT企業の情報関連サービスを参考にする、あえていえば模倣したとしても、それ自体は悪いことではない。問題なのは、EUを中心に国際社会のスタンダードになりつつある巨大IT企業から個人情報を守るという考え方を、中国政府が共有できていないことだ。

それを是認することが、「LINEの毒」が回っているということの意味だ。

中国のIT企業は中国政府の完全な管理下のもとにおかれ、企業が集めた個人情報はすべて政府に吸い上げられる。巨大な利益を上げる先進IT企業として国家権力に庇護されたアリババは、その国家権力=中国政府という虎の尾を踏んだために、巨額の罰金を科せられた。

日本企業は中国のこの現実を十分理解したうえで、個人情報保護の認識を高めて事業を行っていかなければならない。企業は公器であり、ただ金を儲けさえすればいいというものではない。

QRコード決済は携帯キャリア系の4つに集約される

こうした状況を頭に入れたうえで、QRコード決済サービスのあり方はどうあるべきかを考えたい。

かつて石油元売り会社が民族系と外資系の2つに分類されたように、ドコモのd払い+メルカリの「メルペイ連合」と、KDDIの「auペイ」を民族系と分類できる。また、中韓との関係が深い「ペイペイ+LINEペイ」と、テンセントの資本を受け入れた楽天の「楽天ペイ」を外資系と分けて対応するのがいいのではないか。

ユーザー目線に立てば、外国の資本が入っているものより「国産」の会社がいいと思えば、d払いかauペイになる。また、外国資本の有無や外国企業との関係の濃淡にはこだわらないということなら、ペイペイも選択肢の1つになる。

もし前述したような「LINEの毒」がヤフー、ソフトバンクに回っていれば、ペイペイがユーザーの支持を得るのは難しくなるだろう。

Next: 個人情報を疎かにする決済サービスに未来は無い



個人情報を疎かにする決済サービスに未来は無い

筆者としては、どのQRコード決済、どの携帯キャリアを選ぶにせよ、情報の安全性についてこれまで以上に思いをめぐらせてほしいと考えている。

日本人は個人情報に対して非常に敏感だ。一方で、たとえばアマゾンなどのプラットフォーマーのリスティング(検索連動型)広告に対しては「便利だね」ですませている。

ユーザー一人ひとりが個人情報保護のリテラシーを高めることがプラットフォーマーの経営をより質の高いものに変えていくことになるはずだ。

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image by:Koshiro K / Shutterstock.com

達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2021年4月15日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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