大阪、宮城、東京、神奈川などを中心にコロナ感染拡大の「第4波」がきています。ワクチン接種が遅れ長期戦となることが確実となった今、このままコロナとの共存が続くと日本はどうなるのでしょうか?私たちの働き方への変化について考えます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
集団免疫の獲得は早くて2021年以降
大阪では連日1,000人超えの感染者数を出し、いよいよコロナの感染「第4波」がやってきました。
コロナの感染対策として、短期収束を期待した「時間稼ぎ」型の対応は、今の日本ではそぐわないことが分かりました。
緊急事態宣言、まん延防止策下での時短要請や、雇用調整助成金、無担保無利子融資もこの時間稼ぎ型対応の一種ですが、これは潜水で1,500メートル泳げと言われるような無理なものです。半年、1年で終息が見える場合に使える「つなぎ対策」を、3年・5年と続けられるものではありません。
日本は短期集中対策を取りました。感染をいち早く収束させた台湾、オーストラリア、ニュージーランド゙、中国などとは明らかに異なり、集団抗体獲得を目指した対応です。集団抗体を得るためには、早い時期に国民の7割近くが感染して抗体を持つか、ワクチン接種を行う必要があります。しかし、いずれも大きく遅れを取っています。
3月30日に厚労省が発表した昨年12月時点での5都府県の抗体保有率は、東京で1.35%で、その他府県は1%以下でした。国民の自粛努力の成果もあり、感染が抑えられた結果が、逆に集団抗体獲得を遅らせている面があります。
このペースでは、来年になっても集団抗体獲得には程遠い状況が続くと思います。
ワクチン接種の遅れが致命的。日本はコロナとの共生が何年も続く
その分、ワクチン接種で抗体の獲得が進めばよいのですが、これも日本ではアフリカ諸国とともに、世界でも最も遅れているグループに属します。
すでにイスラエル、セーシェルなどでは100人当たり100回を優に超える接種が行われ、先月29日時点で、チリは50回、英国で49回、米国で42回となっています。
接種が進んでいる国がある反面、日本は4月1日時点でようやく100万回に達しましたが、100人当たり0.8回に止まっています。
このペースでは来年いっぱい見ても、国民の7割がワクチン接種を受ける状況は期待できません。その間に最初に接種したワクチンの効果が消えてしまえば、集団抗体は結果的に得られなくなります。
そうなると、日本はコロナとの共生が何年も続く前提の長期戦の覚悟が必要になります。
海外ワクチンの供給が不安定なら、国産の阪大・アンジェス・ワクチンや、塩野義のワクチン開発を支援し、供給を急ぐことです。
ワクチンが供給されても、接種する医療スタッフや場所、チェックシステムがワークしないと接種は進みません。これらも含めた自力でのワクチン体制を早急に固める必要があります。
このままでは、長期戦は避けられません。
Next: 日本人的な働き方はもう不可能。テレワークで完全成果主義へ
働き方も変わる
コロナ対応が長期戦となれば、まず働き方が変わってきます。
緊急事態宣言の間はテレワークで、宣言が解除されると従来通りオフィスに通う所もあるようですが、このために在宅勤務の割合はまだ20%台と、必ずしも定着していません。
このため、通勤時の電車の混雑は解消されていません。米国では混雑回避のため電車の運行本数を増やしていますが、日本は逆に減らしています。
もちろん、建設業や運輸、スーパーなど、現場での仕事が不可避な業種も多いので、テレワークの推進にも限度はありますが、一旦はテレワークを経験した業務では、長期的にテレワーク体制に切り替えるところが増えてくると思われます。
その場合、日本的な働き方、評価法が変わらざるを得なくなります。
つまり、朝早く出勤して、夜遅くまで会社にいることが是ではなくなり、上司に良い顔をして胡麻をするやり方も通らなくなります。
これまで以上に「結果」が求められ、「一生懸命働いているプロセス、努力」だけでは済まなくなります。労働者はテレワーク体制を整え、デジタル技術を備えておく必要があります。
企業側も大きく変化
企業はオフィスへの投資に代わって、在宅勤務体制を支援する投資が必要で、Wi-Fiや通信体制の環境づくり、机椅子の供給が重要になります。
またかつてのように、指示だけして部下に仕事をさせていただけの上司は通用しなくなります。テレワーク型の評価システム、昇給・昇格条件の明示も必要になります。
これらに柔軟な対応ができない企業は、優秀な労働力が離れてゆくことになります。
またテレワーク化が進むにしたがって本社オフィスなどの条件が変わります。出社人数が少なくなる分、広いオフィスはいらなくなりますが、反面、オープン型の大部屋では、従業員の作業スペースを空けて、十分な間隔をとる必要があります。またプラスチック・シールドの設置も必要になります。
結果的に従業員1人当たりではより広いスペースが必要になります。また感染防止の観点から、最近人気がなくなったキュービクル型の区切ったブースが復活する余地があります。
エレベーターも密を避けるためには人数制限が必要になり、低層階では階段やエスカレーターの利用が促されます。
Next: 学生にしわ寄せ。都心のメリットが消え去るとどうなるか?
業種によって変化はまばらに。貧乏くじを引くのは学生たち
先の日銀短観や厚労省の「一般職業紹介」などのデータを見ると、宿泊や飲食サービス、個人向けサービス業の業況改善が遅れ、こうした分野での新規求人は、前年より4割以上も減っています。コロナ禍が長期化すれば、こうした接触型サービス業では、根本的な改革が必要になります。米国の大手小売りウォールマートはネット通販に大きくシフトしました。
JALやANAの接客サービス担当者の多くが、地方も含めた役所や、異業種に出向、転職するケースが報じられています。長期的に需要の回復が難しい業種では、余剰人員が発生し、正規雇用は解雇が難しい分、人員削減には異業種への出向配転が必要になります。
また、新卒採用の圧縮で学生にしわ寄せが来ます。
一方で、建設、医療介護関連では慢性的な人手不足にあり、これまで外国人労働力に頼っていた分が、コロナで外人労働力が減少すると、余計人手不足が強まります。こうした人員余剰分野から人手不足分野への移動が進めばよいのですが、それぞれに技能が求められる面もあり、リスクもあります。
その辺を国や自治体が技能支援、給与援助などで穴埋めできれば、ギャップの改善につながります。
都心からは人がいなくなり、都心の地価は大きく下がる
テレワークが進むと、オフィスが都心にあるメリットが低下し、地方のコストの安いところに本社を移すところも出てきました。
また労働者も通勤に便利な都心に近いところに住む必要がなくなり、地方の環境の良いところ、風光明媚なところへの移住も見られます。
さらに退職後に感染リスクの小さい山村への移住を考える人も増えています。
働き方ばかりでなく、生活全般においても利便性よりもコロナ感染リスクの小さい安全性が重視されるようになり、都心の地価が大きく下落し、地方が見直されています。
口先の地方創世よりも、コロナがより強いインセンティブとなって地方の再生に寄与している面があります。
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- 高値株価に2つの爆弾(4/14)
- 日米景気格差はコロナ対応の差(4/12)
- コロナ長期戦に備えた働き方対応が必要(4/9)
- 日米首脳会談延期で高まるハードル(4/7)
- 緊張高まる北朝鮮(4/5)
- 脱炭素化に見る日本のジレンマ(4/2)
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『マンさんの経済あらかると』(2021年4月12日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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