中国人投資家が、コロナ禍で苦境に立つ日本の旅館やホテルを買い漁っています。倒産の危機にあれば、中国人などの豊富な資金は宿泊施設には魅力的でしょう。しかし一方で、地域経済への波及効果や雇用維持には大きな懸念もあるようです。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年4月12日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
中国に爆買いされる日本の宿泊施設
中国人投資家が、コロナ禍で苦境に立つ日本の旅館やホテルに食指を動かしていると言います。
宿泊施設の売買を仲介するホテル旅館経営研究所(東京・中央)によれば、2021年2月に中国人による買収案件の相談が240件、前年同月の2.4倍になっています。
日本の宿泊施設の経営者の心は完全に弱っていますから、このまま営業を続けていても明日が見えない状況だと、もう手放そうと考えている人は多いでしょう。
売り手の事情も様々で、コロナや緊急事態宣言により客足が途絶えることもありますが、台風や災害などによる被害により客足の途絶えたところもあるようです。
宿泊業は、自然との折り合いをつけながら成り立っていると言えます。
コロナも自然災害(もはや今までの対策による人災という側面もありますが)と認識され、不可抗力とも取れる、どうしようもないことなのかもしれませんね。
売り先が外資だろうがどこだろうと、迷ってはいられない状況なのでしょう。まさに「コロナ疲れ」による倒産もあるようです。
こんなときに国内同業者が拡張路線で買収に動くとは考えらないわけで、やはり積極的に買収に乗り出してくるのは、外資になるのでしょう。特に中国や香港のパワーが強いようですね。
中国や香港の富裕層は、それぞれの国内に資産を置いておくことの危険性を感じています。
中国国内では持てない不動産が、日本では自分のものにすることができます。香港では情勢不安から、海外へ資産を移動させたいという思いが強いようです。
確かに、中国人などの豊富な資金は宿泊施設には魅力的ですが、一方で、地域経済への波及効果や雇用維持には、大きな懸念もあるようです。
中国・台湾の投資家にとっては選び放題? 売り物件が増えている
佐賀県嬉野温泉の大型ホテル、仲介業者が提示した金額は十数億円、国内宿泊施設大手がコロナ前に提示した金額よりも6割も高かったそうです。
日本の宿泊施設の売り物は、コロナの影響で増えてきているのでしょう。売却額も、場合によっては下がってきているのかもしれません。
日本で不動産投資を行なっている中国投資家にとっては、選び放題なのかもしれません。
前述のホテル旅館経営研究所によると、中国人からの相談件数が1月は260件となり、コロナ前の2018年12月以来の高水準だったとのこと。
特に箱根や伊豆、熱海、富士山周辺に立地する和風旅館が人気だそうです。旅館を営業する許認可や、企業の代表者が取得できるビザ(査証)の獲得につながるのも買収のメリットになっているとのことでした。
また2021年2月は香港の投資家からの相談が110件と、前年同月の5倍強になっているそうです。
香港の投資家からの問い合わせは、中国政府が香港の統制を強める香港国家安全維持法の導入を決めた2020年5月から増加傾向にあるそうです。
混乱が続く香港情勢を受け、人民元や香港ドル建て資産の急落を危惧し、こうした資産を日本に逃避させる動機もあるようで、まさに、将来への不安から海外に資産を移す需要が高まっているだと思われます。
彼らにとっては、日本では政府に資産が没収される不安もなく、資金の逃避先として好まれているようです。
Next: 投機目的で物件を見ぬまま購入/止まらぬ宿泊業施設の倒産
投機目的で物件を見ぬまま購入
ただ、このコロナ禍で、物件の見学ができないそうです。
渡航制限で訪日できないため、日本の代理人を通じた“オンライン視察”で物件の確認を行っているとか…。
中国や香港の投資家は、日本で宿泊施設を経営したいという思いがあるのではなく、あくまでも投機が目的だと思われます。
中国に不動産を仲介する会社の方の感覚での話ですが、相談件数の6割程度は投機目的ではないかと思われるとしています。
投資家が複数集まって、お金を出し合って日本の旅館を買うこともあるそうです。
以前はただ和風の物件を求めていたものが、今は1人1泊4万円など4つ星クラスの高級旅館にニーズがあるそうです。
実際、コロナで価格が下がった高級旅館はたくさんあるのでしょう。
一般受けを狙う物件から玄人受けするコアなものまで、中国人投資家は物色しているとのことです。
宿泊業施設の倒産件数
倒産といっても老舗旅館ばかりではなく、東京オリンピック・パラリンピックを見込んで建てたものや、宿泊部屋を拡張した施設や、あるいはインバウンド需要を見込んで建てた施設もあるでしょう。
「GoToトラベル」事業も、昨年末で停止しています。
今年1月に入って、再度、緊急事態宣言が発出され、特に都市部ではコロナの感染者数の増加に伴い予約のキャンセルが相次ぎ、京都などの人気観光地エリアにおいては客室稼働率が10%台まで低下したホテルもありました。
東京商工リサーチによれば、2020年の宿泊業の倒産件数(負債額1,000万円以上)は、2019年比57%増の118件で、7年ぶりの高水準だったそうです。
不動産サービス大手のジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)によると、投資家の2020年の日本のホテルへの投資額は62%減の2,170億円でした。
コロナに苦しむホテルや旅館にとって、日本企業より高値で買ってくれる中国マネーは魅力的にうつる…。
そう報じられていますが、それも当然でしょうね。
国が日本の宿泊施設を守ろうとはしないわけで、いくらかでも高く売りたいわけですから、しかも少しでも早くお金を手にしたいでしょうからね。
帝国データバンクが公表しているデータを見てみましょう。
2020年度の宿泊業者の倒産件数は前年度比66.7%増の125件となり、増加率が過去最高となりました。
125件のうち、新型コロナウイルスの影響による倒産は72件、全体の57.6%を占めました。
倒産件数は、リーマン・ショックの影響を受けた2008年度(131件)、東日本大震災後の2011年度(130件)に次いで過去3番目の多さです。
新型コロナウイルスの影響で、インバウント需要が激減、緊急事態宣言の発出や外出自粛の影響により2020年度上半期の時点ですでに73件発生しており、前年度(75件)の倒産件数に差し迫っていましたが、下半期は「GoToトラベル」や雇用調整助成金など支援策が奏功し、52件に留まったようです。
業態別では「ホテル・旅館」(117件)が最多となり、前年度比で約1.7倍の増加となりました。
コロナ禍でインバウンド需要が激減し、緊急事態宣言後に宿泊予約のキャンセルや施設の休業で、経営が立ち行かなくなったケースが目立つようです。
宿泊業は設備投資費用や人件費が嵩み、多額の有利子負債を抱える業者が多く、インバウンドや東京オリンピック・パラリンピックに向けて新規開業や施設の改修を行っていた宿泊施設は大打撃を受けています。
記憶に新しいのは、飛行機のファーストクラスをイメージしたコンパクトホテルの運用を手掛けるファーストキャビン(東京・千代田)が2020年4月24日、東京地方裁判所に破産を申請したことです。
インバウンド特需を狙った競合の新規参入による過当競争にさらされ、2018年3月期の最終損益は2億3,700万円の赤字に落ち込むなど、経営は苦戦を強いられていたところに、新型コロナウイルス感染症の拡大が追い打ちをかけたようです。
負債約11億3,000万円の破産でした。その後の「簡易宿所」が増加した要因となったと言われていますね。
Next: 倒産件数は右肩上がり。中国マネーに買われるとどうなる?
政府支援で延命も、倒産件数は右肩上がり
また従来であれば、スポンサーやM&A(合併・買収)で再建できた可能性がある宿泊業者においても新型コロナウイルスの長期化でスポンサーが見つからず、倒産を余儀なくされたケースもあったとのことです。
地域別では「中部」(30件)がトップ。「長野県」(10件)など団体旅行やスキー客の減少に新型コロナウイルスが直撃した事例もあったとのことです。
負債額別では1億円~10億円が70件となり、全体の56.0%を占めたとあります。
ただ、政府の各種支援策で延命をしているところもあり、今後は延命も効かなくなるケースも増えてきそうで、倒産件数はこのまま抑制されるということはなさそうですね。
日本の旅館が売られるとどうなる?
世界で最初に新型コロナの感染が拡大し、経済活動の再開も早かった中国の資産家は、価格が低下している日本や欧米の資産に目をつけているようです。
日本の旅館が中国マネーに食われていくと、どんな問題が起きるのでしょうか?――
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『らぽーる・マガジン』(2021年4月12日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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