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米中「脱炭素」主導権争いの犠牲になる日本。米国が削減できない分は私たちが背負う=原彰宏

米中対立が激化するなか、気球温暖化対策の「脱炭素」では両国が協調すると発表したことで話題になりました。その裏側を見ると、環境分野でも主導権争いが始まったと言えそうです。そして米国が削減できない分は、私たち日本に押し付けられる可能性があります。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年5月24日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

米中「温室効果ガス排出量ゼロ」協調の裏側

先月4月のことです。米国は、バイデン政権で気候変動問題を担当するケリー大統領特使が上海を訪問し、中国の気候問題担当特使・解振華氏と会談しました。

日本時間4月18日発表の共同声明によりますと、米中両国は、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に基づいて、2020年代に気候変動対策に向けた行動を強化するほか、11月の国連の気候変動に関する国際会議「COP26」までに、温室効果ガスの排出量をゼロにするための長期戦略を策定するとしています。

日本の菅総理が訪米した話題よりも、米国内では中国との共同声明のほうが大きな話題となっていました。

CO2排出量世界第1位と第2位の国の共同声明ですからね。

安全保障や人権問題などで対立が深まる米中が、気候変動の分野では協力を目指すことで足並みをそろえたことが、世界中を驚かせました。

米国は太陽光パネルや電気自動車などの再生エネルギー分野で、中国に後れを取っていることに危機感を募らせていました。

米国としても、環境分野を通じ、再び世界のリーダーとなることを目指す考えが伺えます。

中国は、香港やウイグル族の人権、南シナ海などを巡る問題で米国と対立していますが、中国としても、利害が重なる分野では協調する姿勢を示し、米国との関係改善の足掛かりにしようという狙いがあるとみられます。

中国がすべての分野で主導権を握る?

次世代通信インフラにおいては、特に5G基地局などでは米国は中国に大きく遅れを取っています。

中国「一対一路」計画も大きく進み、東南アジアやアフリカでの中国のプレゼンスは高まり、欧州が中国との距離を縮めてきています。

経済力を背景にした借金外交でその影響力を増し、ワクチン外交で更にその関係を深め、もはや世界の覇者の地位を、米国と奪い合えるだけの力を、中国は手にしたと言えます。

「中国製造2025」計画で、製造を中国国外に依存しているものを、中国国内で供給できるように内需を拡大する政策をとってきています。

そのために、「千人計画」で世界に散らばった優秀な人材を本国に呼び戻すことで、中国の技術力は飛躍的に進歩しています。

GDPで中国が米国を抜くのは、もう目の前に迫っています。

世界テーマである地球温暖化においてのリーダーシップを、このままだと中国が主導権を握ることになります。

世界第1位のCO2排出国の動きや発言は、それだけで世界に強い影響力があり、再生可能エネルギー技術でも先行してるとしたら、世界テーマのすべてにおいて、米国は中国の後塵を拝することになります。

Next: 米国が削減できない分は「日本」が背負う?日米首脳会談が効いてくる



米国が削減できない分は「日本」が背負う?

日米首脳会談で、日本側にCO2削減を強く迫り、温室効果ガス削減目標50%という数字を突きつけた(結果46%)のも、地球温暖化の主導権を中国と争うための布石だったのかもしれません。

米国ができない分を日本に押し付けるとか。

中国がEV車に舵を切ったことで、トヨタ車の世界制覇は厳しくなりました。

複雑な内燃機関製造に関しては、どこの国も日本には勝てそうにないので、世界が手を取りあって「トヨタ包囲網」を作り、内燃機関を潰すためにEV車にシフトする約束を、共同で取り合ったことは、各国利害が一致することで、そこでも、中国が大きな役割を果たしていると言えそうです。

COP26からは、米中が中心になって物事を決めていくのでしょうね。

京都議定書からパリ協定までの道のり

気候変動問題は、一刻を争う国際社会の重要な課題……この意識に、ずっと国家間で温度差がありました。

発展途上国ほど問題意識が高く、先進国は産業界との兼ね合いで消極的でした。それでも「地球を守る」という、利害を超えた枠組みでの問題意識に背を向けることはできず、各国それぞれが自国の事情を調整しながら、CO2削減目標を承諾してきました。

1995年にベルリンで開催されたCOP1(気候変動枠組条約第1回締約国会議)において、2年後の「COP3で効力のある議定書や法的文書を採択、合意すること」で締約国が同意、これが「ベルリン・マンデート」。

翌1996年にジュネーブで開催されたCOP2(気候変動枠組条約第2回締約国会議)では、排出目標の設定やその拘束力などについて議論が交わされました。これがジュネーブ閣僚宣言」。

そして、1997年に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)で宣言通り、京都議定書が採択されました。

世界での実効的な温室効果ガス排出量削減の実現に向けて、精力的な議論が行われてきました。

日本では、外務省、経済産業省、環境省等の関係省庁が協力しながら、この重要分野における国益を増進すべく、交渉に臨んできました。

しかし、後に米国はブッシュ政権時に、京都議定書から離脱しました。

京都議定書に関しては、温室効果ガス(GHG)の削減目標が余りにも非現実的であり、米国経済にとって受け入れ難いコスト負担を強いるからだとしています。とくに米国に不利な点は、基準年の 1990年が不況の年であったということもあります。

Next: 今度は日本が不利に? 各国が排出量MAXの年を基準に削減目標を設定



今度は日本が不利に? 各国が排出量MAXの年を基準に削減目標を設定

今回の、菅総理が宣言した「CO2削減46%」目標設定が話題になった気候変動リーダーサミットでは、各国が、CO2排出量がMAXの年を基準年としているところに違和感を感じます。

各国の削減目標は、次の通りです。

米国:2030年までに50~52%(基準年:2005年)
EU:2030年までに55%(基準年:1990年)
英国:2035年までに75%(基準年:1990年)
日本:2030年までに46%(基準年:2013年)

中国だけが2030年までピークアウトさせるとし、GDPあたりで65%以上の削減を目指すとしています。基準年は2005年です。

上記、各国の基準年は、最もCO2排出量が多かった年を、各国が勝手に基準年としているのです。

削減目標パーセント数値は、この基準年と比べてのものとなっています。

空洞化する京都議定書

話を戻しますが、この京都議定書は、第一約束期間である2008年から2012年の取り組みについてのルールで、その後の2005年から2013年以降のルールが合意できない事態となりました。

ぎりぎり2012年にドーハでのCOP16(気候変動枠組条約第16回締約国会議)において、京都議定書の改正案が採択され、2013年から2020年までの8年間を第二約束期間とすることや、二酸化炭素排出量を1990年比18%削減すること、温室効果ガスに三ふっ化窒素(NF3)を追加すること等が決まりました。

ところが、批准国のほとんどが、削減義務を追わない発展途上国であり、ブッシュ政権の米国は京都議定書から脱退し、日本も京都議定書改正案には批准しませんでした。

米国が共和党政権のときは、地球温暖化対策に消極的なのに乗じて日本も追随し、バイデン民主党政権が誕生すれば、日本はいち早くカーボンニュートラルを宣言したのですね。

京都議定書、ドーハでの改正案の流れで2015年12月、フランスのパリで開催されたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)においては、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとして、「パリ協定」が採択されました。

この合意により、京都議定書の成立以降ようやく「すべての国による取り組み」が実現しました。

Next: 「脱炭素化」は実現するか?パリ協定に戻ったバイデン政権の狙いは



「脱炭素化」は実現するか?

パリ協定は、2015年12月にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、世界約200か国が合意して成立しました。

2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みで、世界の平均気温上昇を、産業革命前と比較して2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することを、目的としています。

この目的実現のため、パリ協定の下で国際社会は、今世紀後半に世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすること、つまり「脱炭素化」を目指すとしました。

さらに、気候変動による影響に対応するための適応策の強化や、諸々の対策に必要な資金・技術などの支援を強化する仕組みを持つ包括的な国際協定となっています。

パリ協定では、「地球の気温を下げる」ことが目標となっています。

それを実現するためには、理論上、どれだけの温室効果ガスを削減しなければならないかということを提案しています。

すでに世界の平均気温は、産業革命前に比べて、人間活動によって約1度上昇しており、このままの経済活動が続けば、早ければ2030年には1.5度の上昇に達し、2050年には4度程度の気温上昇が見込まれています。

気温上昇を2度未満に抑えるためには、2075年頃には脱炭素化する必要があり、努力目標である1.5度に抑えるためには、2050年に脱炭素化しなければならないことが分かっています。

パリ協定のゴールを達成するには、遅くとも2075年に脱炭素化、できれば2050年までに脱炭素社会を実現させることが必要です。

トランプ前大統領が脱退したパリ協定に、バイデン大統領は帰ってきたということですね。

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