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消費税「ゼロ」こそ日本復活最後の切り札。なぜ立民「5%」案は無意味か?小学生でもわかる3つの根拠がこれだ=矢口新

日本復活の切り札は「消費税ゼロ」しかない。立憲民主党が次の選挙の争点として時限的な「消費税5%」に言及しているが、それでは足りない。消費税がいかにして日本経済を墜落させてきたのか、小学生でもわかる3つの悪影響について解説したい。(『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』矢口新)

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プロフィール:矢口新(やぐち あらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

立憲民主党「消費税5%」を公約へ

次の衆院選の争点の1つとして、立憲民主党が時限的な「消費税5%」に言及しているようだ。
※参考:立民・枝野氏、消費税引き下げを選挙公約に: 日本経済新聞(2021年6月25日配信)

過去の選挙でも消費税は何度も争点に上がってきたが、結局は3度にわたる税率引き上げにより、10%となっている。

立憲民主党や他の野党が公約にするかどうかは分からないが、「消費税5%」が日本経済にもたらすものを検証してみよう。

日本のGDPのピークはいつ?

まずは問題にチャレンジして頂きたい。学生時代に戻った気持ちで答えを考えてみて欲しい。

問題:2008年9月に起きたリーマンショックで落ち込んだ日本の名目GDP(経済規模)は、2016年度に過去最大を更新しました。では、その前のピークはいつだったでしょうか?

1. 1990年度
2. 1997年度
3. 2007年度

この問題でも分かるのが、2016年度以前の日本経済のピークは2015年度でも2014年度でもなく、少なくとも2007年度以前の出来事だということだ。

これは、そのピーク以降の日本経済は基本的に停滞してきたことを意味している。

この答えを探るヒントとして、財務省のホームページにある以下の図をご紹介しよう。

図1:歳出、税収、国債発行量、国債残高と主な経済イベント(出典:財務省ホームページ)

上記の図1は、財務省のホームページにあるものにアベノミクスの時期だけを挿入したものだ。この図は1983年度(昭和58年度)以降の歳出(赤色の折れ線グラフ:左目盛)の推移、税収(青色の折れ線グラフ:左目盛)の推移、国債発行量(紫色の棒グラフ:左目盛)の推移、国債残高(緑色の背景:右目)推移と、主な経済イベントを時系列に並べることで、日本財政の危機的な状況が一目で理解できるようになっている。

この図の青線で分かるのは、税収の最初のピークは1990年度(60.1兆円)で、その後の日本政府は過去の税収よりも少ない税収をやり繰りしてきたという事実だ。このことは、各党の選挙公約によるいかなる支出でも、他の予算を削るか、借金することでしか実現できないことを意味している。

ちなみに右端2020年度の税収見込み63.5兆円は、コロナ禍で60.8兆円となる見通しだ。昨年末には55.1兆円に下方修正されていたので朗報となった。

一方で、赤線の歳出は増え続けている。日本の総人口のピークは2008年なので、この時期の歳出増は極めて自然なことだ。とはいえ税収が減っていくので、赤青両線に挟まれた赤字幅が拡大していったことが見て取れる。

そのために借金をしたことが分かるのが、紫色の棒グラフにみる国債発行量で、その残高が緑色の背景の部分だ。ちなみに右端の歳出は175.7兆円に上方修正され、それに応じて国債発行額も112.6兆円に上方修正された。これが単年度の借金の金額だ。

つまり、日本政府の税収は圧倒的に足りていない。近年は歳出が100兆円ほどで推移してきたのに、税収は2018年度の60.4兆円が過去最高なのだ。(注:2019年度も58.4兆円に下方修正されている)

ここで、立憲民主党が提案するように消費減税をすれば、ますます税収が減るのではないか?

それが、ここで「消費税5%」が日本経済にもたらすものを考えてみる理由だ。

Next: クイズの答えは?消費税が「失われた20年」の元凶に



消費税の悪影響その1:経済成長が止まり景気が悪化する

さて、問題に戻るが、日本の名目GDP(経済規模)は2016年度に過去最大を更新したが、その前のピークはいつだったのだろうか?

答えは、(2)の1997年度だ。

1989年度の消費税導入で減速し始めた日本の名目GDPは、税率を5%に引き上げた1997年度に最初のピーク(533.4兆円)に達した。

しかし増税後にマイナス成長となったため、長期の低迷期、いわゆる失われた20年となる。

つまり、増税すると景気が悪化するのだ。これは財政引き締め(増税)が景気の過熱を抑える手段であることから不自然ではないのだが、景気減速期に行ったために、マイナス成長となった。

名目GDPの金額を更新したのは2016年度で、計算方法の見直しで30兆円を上乗せし、536.9兆円となった。しかし、その後の消費増税に加え、コロナ対策で経済活動を止めたために、2019年度の後期からは、また落ち込むことになったのだ。

図2:名目GDPと成長率の推移と消費税率(出典:内閣府の資料から作成)

上記の図2は日本の名目GDP(円建て)だ。青色の棒グラフが1980年度から2019年度までの名目GDPの推移。緑色の棒グラフは日本のGDPの最大の構成要素である個人消費額だ。名目GDPを円建てで見るのは、ドル建てにすると諸外国との比較は容易になるが、為替レートの影響を受ける。また、実質GDPを見ると、インフレ率の影響を受けるからだ。

この1980年度から2019年度までの名目GDPの推移に、1988年度以降の名目GDPの前年度比での成長率を赤色の棒グラフで重ねた。これで見ると、消費税が日本経済をいかに蝕んできたかがよく分かるのではないだろうか?

消費税の悪影響その2:導入したことで税収は減った

前頁の図1からは、1990年度が税収の最初のピークだったことが分かった。消費税は1989年度に導入されたので、増税による税収増効果はたった1年だったことになる。

その後に減収となるのは、増税が景気後退につながったからだ。つまり、消費税を新しく導入したために税収が減るという笑えない事態となったのだ。

事実、1988年度の税収は50.8兆円で、税収に消費税が加わった1989年度から2019年度までの31年間の平均税収は50.7兆円だ。

つまり、消費税5%が日本経済にもたらしたものは、マイナス成長だ。そして、その結果としての税収減なのだ(筆者注:図1に明記されている法人減税、所得税の累進税率の軽減も税収減に繋がった)。

想定される反論として、図2を見ると「消費税8%でもプラス成長が達成されている」という声もあるだろう。

だが経済政策は税制だけではない。この時期にはマイナス金利政策や、未曽有の量的緩和も行っている。ちなみに、1997年度から2019年度までに日銀の資金供給量は11.2倍になっている。経済規模は大きくならなかったので、当時経済規模の1割にも満たなかった資金供給量が遂に名目GDPを超えたのだ。

問題は、マイナス金利政策も経済規模を超える資金供給も、これ以上はできないというギリギリの金融緩和であることだ。これは今後に残されている金融政策は現状維持が精一杯で、事実上の引き締めも視野に入れなければならないことを意味している。

今後の金融政策では景気回復が期待できないどころか、景気がさらに悪化する懸念が大きいのだ。

図3:日本と世界の名目GDPの推移(出典:国連統計局、単位兆ドル)

この時期のプラス成長のもう1つの要因は、日本経済が世界経済に組み込まれていることだ。世界経済が成長すれば、その恩恵は日本経済にも及ぶことになる。とはいえ、1997年から2019年までに世界はドル建てで1.76倍に成長したが、日本はわずか15%増だった。

Next: 崩壊しつつある日本の社会保障制度。解決策は消費税ゼロしかない



消費税の悪影響その3:社会保障制度を崩壊の危機に落とした

消費税は少子高齢化社会における社会保障制度の補助財源として位置付けられている。1990年度の国が負担する社会保障関係費は11.6兆円だった。それが2018年度には33.0兆円になる。一方、税収は1990年度が60.1兆円、2018年度が60.4兆円で、これまで述べてきたように日本税収のダブルトップだ。

このことは、税収に占める社会保障関係支出が1990年度の19.3%から、2018年度は54.6%に急上昇したことを意味している。なんと、税収の半分以上を国が負担する社会保障費で持っていかれているのだ。しかも、それでも足りずに借金している。

前頁の図2の緑色の棒グラフが示しているのは、景気後退期でも個人消費は比較的に安定しているので、政府が目論むようにここに徴税することは安定財源になりやすいということだ。

しかし、それは大きな犠牲を伴う。個人ならば所得減、企業ならば減益のところに、安定額の税金を納めることは、飢饉の時にも容赦なく年貢を取り立てられることを意味する。こうした短絡的で自己中心的な政策は封建時代ならば百姓一揆にまで繋がりかねない「悪政」だ。ないところからは取れない。

実は、消費税による景気悪化は、社会保障費の増大にも繋がっている。不安定な雇用、所得減、社会保険料の増加が、可処分所得を減らすことで、更なる景気悪化に繋がったために、社会保障費が増大してきたのが、この30年間の歴史なのだ。このことは、社会保障費の財源にと消費増税をすれば、社会保障費はさらに不足し続けるので、どこまでも税率を上げられることを示唆している。

2019年度の時点で、日本の65歳以上の世帯の51.1%が公的年金収入だけで生活していたことをご存じだろうか?その手取り額は2000年度以降に導入された公的介護保険制度、所得税の配偶者特別控除の一部廃止、老年者控除の廃止、公的年金等控除額の縮小、定率減税の廃止、復興増税などで、大幅に減り続けている。

その結果、2019年度の高齢者世帯1世帯平均の年金収入は公的だけだと204.5万円で、仕送りや企業年金、個人年金などを合わせても223.2万円なのだ。

そこに、2020年12月には菅政権、自民公明両党が75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる対象を年収200万円以上にすることで合意した。200万円という金額は上記の事実を鑑みたものだろう。

一方で、2018年度の国民健康保険患者負担は1人当たり平均で5万9,290円だった。

つまり、全高齢者世帯の半分以上は公的年金204.5万円だけで生活しており、世帯内に患者が1人いれば残る生活費が198.6万円となり、2人いれば192.7万円しか残らないことなる。

さらにここから何パーセントかの消費税が事実上天引きされ、医療費窓口負担が2倍になるということだ。

社会保障関係費の国民の負担率は、1990年度には13.67%だった。それが2010年度には29.11%となった。2020年度までには30%を超えたことが確実だ。

このことは、我々が病気や怪我に見舞われたとき、失業したとき、老齢で働けなくなったときのために必要不可欠な社会保障の、その負担が重すぎて現在の生活が危機に至っていることを意味する。

例えれば、もしもの時に備えて入った保険の保険料が収入に比べて大きすぎて、生活を圧迫するだけでなく、借金まみれになったようなものなのだ。日本の社会保障制度の場合はさらに悲惨で、そこまでして払い続けた保険の保障が、もしもの場合にも、誰もが迎える老後にも、不十分な補償になりつつあることだ。とはいえ、社会保障制度を支えるのを止めれば、これまでの努力が無駄になってしまう。

この状況が、2020年以降のコロナ禍と、その対策でさらに悪化したことは疑いがない。

Next: 消費税率をゼロにすれば日本経済は復活できる



消費税率をゼロに!

1990年前後の日本経済は米国を脅かすほどの勢いだった。それでも3%の消費税で減速し、5%になるとマイナス成長となった。このことは、時限的な「消費税5%」などでは、日本経済が救われる見通しはないに等しいということだ。

このままでは日本の財政や社会保障制度は破綻する。それを防ぐには、過去の日本政府が行ったように、政府が民間の資産を巻き上げるしかない(筆者注:第2次大戦中は鍋釜まで拠出させられ、戦後は預金封鎖された)。

とはいえ、民間の資産を巻き上げることは、日本の成長力の最後の砦を潰してしまうことを意味する。そうなると、財政も社会保障制度も立て直しが絶望的となる。日本政府はボロボロだが、力がまだ残っている民間を潰してはならないのだ。

結論としては、日本経済を破壊したのは1989年度以降の税制だ。原因がはっきりしているということは、それを取り除くことで復活できることを強く示唆している。

1988年度から2019年度までに、日本経済は1.41倍(円建て)に、世界は4.42倍(ドル建て)に成長した。仮に、日本が世界の標準並みに成長し、1988年当時の税制でそのまま税収増があったとしたなら、2019年度の税収は(50.8×4.42=)224.5兆円に達していた。これは税制だけで一挙に財政黒字化できることを示唆している。昔のような経済成長も夢ではないかも知れない。

生きるため、事業を行うために必要なものに課税する消費税をゼロにし、利益や所得増に応じて課税することで、経済成長と税収を取り戻すことができる。財政が安定し、社会保障制度が守られるのだ。

消費税と景気失速、税収減の関連性を述べてきたが、その他にもディスインフレ、赤字企業の急増、賃金の低下などとも深い関連がある。

では、消費税が高いデンマークやスウェーデンの状況はどうか?また、財政赤字は気にしなくていいとするMMTとは何かなど、皆さんが気になるようなところは私の新著『日本が幸せになれるシステム:65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方』(刊:Kindle Edition)で詳しく述べている。データのURLも豊富なので、ぜひ、読んで頂きたい。

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image by:r.nagy / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年7月1日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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