アサヒビールの微アルコール飲料『ビアリー』の売れ行きが好調です。緊急宣言での巣ごもり需要ほか多くの追い風が吹くなか、アサヒの業績回復にどれくらい貢献するでしょうか?今回は、新規開拓に積極的なアサヒビールの戦略についてみていきます。
プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi
アルコール度数はわずか0.5%『ビアリー」が開拓した新たなニーズ
3月にアサヒビールが「微アルコール」である『ビアリー』と名付けられた商品を発表しました。アルコール度数は、わずか0.5%。看板商品のスーパードライの10分の1です。
「お酒」と「ノンアル」の“すき間”には、想像以上のマーケットニーズがあると考えられ、「微アルコール」という新しいカテゴリーは、それらの受け皿となる可能性を秘めています。
発売したばかりの『ビアリー』ですが、売れ行きが好調です。今回は、新規開拓に積極的なアサヒビールの戦略についてみていきます。
<ビール業界「5つのカテゴリー」>
そもそも、日本のビール市場は、5つのカテゴリーに分かれています。
1. 普通のビール
2. ワンランク上のプレミアムビールや地ビール
3. 発泡酒、
4. 新ジャンル(第三のビール)
→ NEW!「微アルコール」
5. ノンアルコールビール
(1)〜(4)までのカテゴリーがアルコール飲料で、アルコール度数は約「3~5%」となっています。一方で、(5)のノンアルコールビールはアルコール度数0.00%です。
この“すき間”に位置するのが、「微アルコール」です。ありそうでなかった、新しいマーケットを作りだそうとしているのが、アサヒビールの『ビアリー』なのです。
なぜ「微アルコール」なのか?
なぜ今「微アルコール」なのか。その背景には、次の2点が挙げられます。
1. 世界保健機関(WHO)の「アルコールの有害な使用の低減のための世界戦略」
2. 若者のアルコール離れ
上記はビール類の市場規模の推移を3つのカテゴリ(ビール、発泡酒、新ジャンル)に分けて時系列でグラフ化したものです。
ビール系アルコール飲料の市場規模のピークは1994年で、当時は年間5億7,200万ケースの出荷を誇っていました。その後、年々減少を続け、19年は計3億8,458万ケースと、15年連続で前年を割り込んでいます。「ビール離れ」が指摘されて久しいですが、まさにそれを裏付けるデータになっています。
※参考:ビール市場、15年連続で前年割れ 「第三」初の4割 – 日本経済新聞(2020年1月16日配信)
また、ビール離れは世界的なトレンドといえそうです。WHOが2010年に「アルコールの有害な使用の低減のための世界戦略」を公表しました。WHOが飲酒問題に懸念を示したことで、嗜好品とされるたばこを健康への悪影響を問題視して厳しく規制した経緯があるだけに、各社は神経をとがらせており、自ら飲み過ぎを避けるよう促す取り組みが始まっています。
さらに、若者のアルコール離れや健康志向の高まりも関係しています。それに加えて、新型コロナウイルスの影響もあり、飲酒を伴う会食が感染拡大の要因の1つとされる中で、ノンアル飲料は飲食店でも人気が上昇しました。
そして、外出自粛は消費者の健康志向も強めており、ノンアルへのシフト転換となった形です。
Next: アサヒビール業績好調も本業の儲けに非ず。新規開拓で攻め続ける必要
ノンアルコールや低アルコール飲料の伸びは?
サントリーホールディングスの推定では、20年のノンアル市場は2,266万ケースと5年で約1割拡大していると報告しています。
縮小が続くビール市場と対照的です。ノンアルはかつて『我慢の飲み物』とされてきましたが、味や価値の追求が進み、ポジティブに飲まれている傾向にあります。
アサヒビール、足元の業績は……
では、足元のアサヒビールの業績を見ておきましょう。
アサヒビールホールディングスの2021年12月期第1四半期決算は四半期ベースで過去最高益を達成しています。売上収益が前年同期比11.6%増の4,567億円、本業の儲けを示す事業利益が同78.3%増の283億円と、持ち株会社体制に移行した11年以降でいずれも四半期ベースで過去最高です。
しかしその要因は、20年に買収した豪ビール事業の底上げによるもので、本業の儲けによるものではありません。
実は、大黒柱である国内酒類事業は、コロナ禍での業務用市場不振により大苦戦で、売上高は同16.5%減の1,361億円、事業利益は同37.1%減の88億円と大幅な減収減益となっています。
ヒット商品「生ジョッキ缶」は品切れ続出
それでも、4月に発表した「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」も品切れ続出。「生ジョッキ缶」は、開栓するときめ細かい泡が自然に発生し、飲食店のジョッキで飲む樽生ビールのような味わいが楽しめる新商品です。
これが消費者に大ウケし、4月20日の全国発売直後から品切れが相次いだのです。
コロナ禍による業務用市場の不振もあって。それだけに、生ジョッキ缶の売切れ続出は、数少ない明るいニュースです。
厳しい状況が続く業界ですが、新規マーケットの開拓を狙う攻めの「微アルコール」にも期待が寄せられます。ビールの新マーケットを創造できるのでしょうか。
Next: 微アルコールの市場規模は?「美味しい」ビアリーは救世主となるか
「微アルコール」の市場規模は?
アサヒビールによれば、20~60代の人口8,000万人のうち、日常的に飲酒を楽しむ人は2,000万人といわれ、それ以外のうち約4,000万人は飲めない、または飲めるけど飲まない人であり、約2,000万人は月1回未満の飲酒としています。
この日常的に飲酒をしない6,000万人の層にまさに、「微アルコール」の商機があるとみています。
では、『ビアリー』の飲酒対象者を2,000万から8,000万人を対象に広げていくことはロジック的には理解できましたが、新たな対象となる6,000万人のニーズは掘り起こすことができるのでしょうか。
味はビールそのもの。「おいしさ」で評価されている
アサヒビールによれば、「未開拓のマーケットでもあり、売り方は試行錯誤しながら、進めていく」と述べています。
これまでのノンアルコールビールは、ビールを飲む人のための商品でしたが、今回の『ビアリー』はすでに、「味」そのものが評価されていることからも、マーケティング次第ではこの分野の拡大余地はあると見ています。
そう、味が「ビール」そのもので「美味しい」と高評価を受けているのです。
実際、ビアリーは一度、ビールとして完成させたものを蒸留してアルコール濃度を低くする工程を経ているので、その意味で「味」の面でも消費者を満足させるものとなっているのです。
ビアリーの販売目標は?
では、『ビアリー』は、短期的にはどの程度の販売を目指しているのでしょうか。
グローバルで見ても、酒類市場の成長がフラットの中で、アルコール度数0-1%未満の微アルコール分野は6%程度の成長率になっています。
欧州では微アルコールは、8%の年平均成長と最も伸びています。一方で、アジアは日本も含め、3%程度の年平均成長率に留まっていて、まだ市場が活性化されていない部分があり、まだまだこれからのマーケットだと言えます。
『ビアリー』は、今のところ、明確な数値目標を設定していません。アサヒビールのアルコールテイスト清涼飲料の売上は、約320億円あり、今年は約400億を目指す計画としています。
ここに、『ビアリー』含めて「微アルコール」の売上が寄与してくる見通しとなっています。
Next: アルコール度数3.5%以下の商品を連続投入。25年までに20%の比率に
アルコール度数3.5%以下の商品を連続投入。25年までに20%の比率に
実際、アサヒビールは、2025年までのアルコール度数3.5%以下の売上構成比20%の目標としています。ここには、『ビアリー』だけでなく、ビアリーを皮切りにアルコール度数0-3.5%以内の商品群のラインアップを揃えていくとしています。
ビアリーに続く、「微アルコール」商品の第2弾として『アサヒ ビアリー 香るクラフト』が6月29日に発売されています。
この先も、アルコール度数の低いラインアップの充実によって、「お酒を飲む人・お酒が弱い人・飲めない人」が同じ空間で楽しめる機会を提供してくれるでしょう。
目先は、ワクチン接種が進んでも、まだ、しばらくはお家でビールの時間は続くことになります。そんな時に、アルコールは控え目にしておきながら、味はそのままビールの「微アルコール」は人気が継続しそうです。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年7月11日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による