すぐに否定された「Amazon、ビットコイン決済導入」の噂で、ビットコイン価格は乱高下しました。今回は、実際に決済通貨として受け入れ可能になる条件を考えます。(『徒然なる古今東西』高梨彰)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
すぐに否定された「Amazon、ビットコイン決済導入」の噂
「Amazon(アマゾン)がビットコインを買い物の決済通貨として受け入れる」との話が出て、ビットコインは一時14.5%上昇しました。
その後、Amazonは「そんなことはない。関心はあるけどね」と否定コメントを述べ、ビットコインも高値から値を下げています。
この話、思惑としてビットコイン価格が乱高下することと、実際にビットコインが決済に使われたらどうなるか……この2つの点に関して、改めて考えさせられます。
先ず思惑については、どんな相場にもよくある話です。典型的な「噂で買って、事実で売る(Buy the rumor, sell the fact)」ですから。
考えさせられるのは2つ目、Amazonがビットコインを決済通貨として受け入れた時です。
ビットコインはどうすれば決済に使えるのか?
今でもビットコインを決済に使うお店はあるのでしょうけど、あんまり普及していません。値動きが大きいうえに、決済に時間が掛かるため、レジで決済しようにも価格がズレてしまいます。
では、どれくらいの値幅で、どれくらいの決済時間なら良いのか。
決済時間は、「即時」か、可能な限り早くなきゃダメでしょう。ビットコインの値幅(日々の値動き)は、どれくらいなら良いのか。こちらは実現可能性を占ううえで、具体的に考えるべき話題です。
ということで、30日間の値動き(ボラティリティ)を見ます。結論は「まだまだ値動きが荒過ぎる」です。
ビットコインの値動きを年率換算してみると、直近30日ではざっと60%弱。円換算すると70%超と、Bloombergは言っています。
対して、ドル円は5%ちょっと、ユーロも英ポンドも同じくらい。カナダドルや豪ドルにしても7〜8%というところです。
Next: 値動きが荒過ぎるビットコイン。決済導入はまだまだ先の話か
年率10%台くらいの値動きになって初めて、現実的な受け入れ検討が可能か
言い換えれば、ビットコインの値動きが今の10分の1程度にまで落ち着けば、決済通貨としての実現可能性も高まるとも。
仮に今の状態でビットコインを決済に使おうとすれば、Amazon(販売者側)はビットコインのレートをかなり高くするはずです。
直近、1ビットコインは約400万円ですけど、400万円の宝石をAmazonで売ったとして、1ビットコインでは売らないはず。例えば2ビットコイン(800万円)などの値付けをするはずです。
もし、400万円の宝石を1ビットコインで売ったら、その後ビットコインが「普段の値動き」で瞬間的に10%下落した場合、400万円の宝石を360万円で売ったことと同じになってしまいます。
一瞬で10%損失のリスクを冒してまで、市場レート通りに宝石を売る必要はありません。これはどんな商品・サービスでも一緒です。
ただ、世の中で普及している通貨のほぼすべてが日々変動しています。ざっと年間10%くらいの動きは、ドル円だって受け入れています。1ドル100円だったものが、1年後に1ドル110円になっても「あー、そんくらい動いたねぇ」で終わりです。
相場の材料としてはともかく、現実にビットコインが決済通貨として受け入れられるには、少なくとも値動きが年率10%台程度まで落ち着く必要があります。
加えて、そもそもビットコインを通貨として各国・各中央銀行が受け入れるのかどうかという、根本的な問題もあります。
案外、噂が噂を呼ぶだけという現状の方が、ビットコインにとって幸せなことなのかもしれません。皆が特別な存在として相手にしてくれますし。
今回のまとめ
・Amazonが決済通貨として受け入れるのではとの思惑からビットコイン一時急騰
・程なく否定され値を戻すも、相変わらず様々な材料に派手な値動きを示す
・年率10%台くらいの値動きになって初めて、現実的な受け入れ検討が可能では
『徒然なる古今東西』(2021年7月27日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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