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JR東海は割安で買い時?新幹線頼みで業績低迷、期待の“リニア”は救世主か死神か=栫井駿介

JR東海<9022>について分析します。先日、JR西日本が公募増資を発表したことで株価が下落、JR東海もそれに連れ安して下がっています。また、それとは無関係にJR東海は割安と見られているような数字もいくつか出てきています。今回はJR東海の投資判断について、長期投資家の視点から分析します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

収益のほとんどを「新幹線」が占める

株価推移をまず見てください。

東海旅客鉄道<9022> 週足(SBI証券提供)

JR東海の過去5年間の推移です。

一時は2万5,000円にも届くというほど上がっていたところなんですが、2020年の前半のコロナショックを受け、株価を下げまして今1万5,000円くらいで推移している状況です。

足元でJR西日本が公募増資を行ったということで、JR東海もその可能性があるということで少し下げているというところです。

この状況でPER等のバリュエーション指標を改めて見てみると、直近ではこのコロナ禍でJR各社、鉄道各社は大幅な赤字を計上しています。

単純にヤフーなどで書かれている数字を見ても意味がないのですが、2019年3月期の決算をベースに見てみました。

すると、PER7.0倍という数字になります。

PBRでも解散価値と言われる1倍を下回る0.86倍という数値になっています。

特にこの7.0倍というのは注目すべきところで、PERが一般的には15倍が平均と言われていて、それに対して7倍ですから、この数字だけ見ればかなり割安とも言えます。

しかもJR東海の業績が悪いかというと決してそんなことはなくて、業績の推移を見るとコロナになる前はずっと増収増益を続けてきたのです。

東海旅客鉄道<9022> 業績(SBI証券提供)

見事に右肩上がりで、株価もそれに沿うような形で上昇を続けてきました。

JR東海というと、JR東日本やJR西日本と比べてもかなり特徴的なところがありまして、このセグメント別の業績を見ていただければと思います。

売上高に関して7割が運輸業、それから利益に関しては、なんと9割以上をこの運輸業が占めています。

これが東日本とか、西日本になると、運輸も大きいのですが、それに加えて不動産だとか、あるいは流通といったところが大きな割合を占めてきます。

例えば、JR東日本で言うならば「アトレ」や「ルミネ」などのショッピングセンターをやっていますし、その他、様々な生活に関わる事業、NewDaysのコンビニ事業なども入ってきて、結構そちらの割合が大きくなりつつあります。

一方で、JR東海というと。とにかくはっきりしているのは、新幹線の一本足打法だということです。

売上高を見ていただければわかるのですが、運輸業70.6%で、この内の売上なんと9割以上は新幹線の売り上げによって占められています。

鉄道というと新幹線と在来線があって初めて鉄道会社というイメージですが、JR東海は民営化以降儲からない在来線をとにかく切って、東京大阪を結ぶ東海道新幹線1本で収益を伸ばしてきたという状況があります。

新幹線に乗る方ならわかるかと思うのですが、新幹線が何分に1本というペースでどんどん出ています。

しかもコロナ前だったら、乗車率もかなり高い状況を見ていたのではないかと思います。

当然、乗せれば乗せるだけも利益が上がってくるシステムですから、とんでもない高収益企業として名を馳せていたわけです。

Next: リニア新幹線が悪材料に? 2027年度の開業は断念



リニアの懸念

このJR東海は、実はコロナになる前もPER10倍未満という、非常に低い数字で評価されていました。

なぜかというと、リニア新幹線に対する投資家からの懸念がとても大きいからです。

そのリニア新幹線について改めて振り返ってみたいと思います。

これが中央新幹線計画通称リニアです。

出典:JR東海

これによって東京名古屋間が40分で結ばれるということになっています。

もしこれができたら、確かに今新幹線を使って移動している区間、さらにこれが名古屋から大阪まで行けるということになると、東京大阪間が新幹線で2時間半というところが、1時間と少しぐらいでおさまり、利便性は高まるだろうということが挙げられます。

これが数年前に発表されたのですが、2014年10月に工事計画の認可を受けたという状況です。

この段階では総工費は9兆円かかって、2027年に品川名古屋間が開業する予定でした。

ところがこの計画始めてみるとそう簡単にいかない部分がいくつも出ています。

なんと静岡県知事が工事に反対しています。

つい最近も再選したので、少なくとも任期はまだ6年あるということになります。

静岡県の南アルプスを少しだけ通るということになっているのですが、そこの水資源に影響を与えるというということで知事が反対しています。

この静岡県の部分だけではなくて、品川では今すごく道路を工事しているのですが、その部分が大深度区間と言われていて、東京の地下鉄とかがたくさんありますから、そのさらに下を掘っているところなのです。

これがかなり難工事になっているため、これまで想定されていた以上に期間と費用が嵩んでしまっています。

これによって2027年度の開業というのは、もうすでに断念しています。

もう間に合わないという白旗を上げてしまっているのです。

とにかく静岡が繋がらないことには何ともなりませんから断念しています。

さらに品川名古屋間で総工費5.5兆円を計画していたのですが、大深度区間の品川駅周辺や名古屋駅周辺の工事が非常に難しく、5.5兆円と見積もっていたものが7兆円まで膨らんでしまっているのです。

しかも、これで確定ではなくて、もっと難しいということになれば、さらにこれが膨らんでいく可能性があります。

そうでなくても時間がかかれば、それだけコストも当然かかってきます。

時間も、いつ開業するのかも見えないという状況の中で、果たして大阪まで繋がるのは一体いつになるのだろうかというわけです。

実際に経済の結び付きというところを考えると、やはり名古屋まででは不十分で、少なくとも大阪まで繋がって初めてこのリニアが意味があるというように見えます。

Next: リニア開業延期で膨らむ借金。JR東海は買いか?



JR東日本を上回るJR東海の借入金

さらに言えるのが、借金がものすごく嵩んできています。

総工費9兆円と言って、さらにここからすでに1.5兆円増えているわけですから、借金をすでにかなり抱えています。

業績もキャッシュフローもこれまで非常に好調だった会社なんですけれども、実はリニアのために、すでに鉄道運輸機構から3兆円を借り入れているのです。これによって借入金に関してはJR東日本を上回る金額です。

JR東日本の方が規模としては大きいですから、それを上回るということは大変なことです。

さらに言えば、手元の厳禁というのは実は数千億円しか持ってなくて、この何兆円という投資を行おうと思うと、やはり引き続き借り入れを行っていかなければならないということになります。

トータルの総工費が10兆円だとするならば、例えば今は3兆円借り入れてますが、さらに7兆円くらい借り入れる必要もあるのではないかということが考えられるわけです。

もちろん一部は返しながら調達していくというところもあるでしょうが、まだまだ膨らんでもおかしくないということになってきます。

JR東海は今コロナの状況も大変なのですが、それ以上にリニアというのが株価を引っ張っていますし、経営も難しくしているわけです。

このリニアの問題点というのはまだまだありまして、今まで言ってきただけで、開業時期や総工費が不透明になっており、借入金や支払利息が増大するリスクがあるわけです。

借金をしているということは、その分利息を払わなければなりませんから、この借金の金額が増えれば増えるほど、利息も増えますし、また、今後、金利が上昇してくることがあるとするならば、それだけ支払うべき利息というのは、まだまた増えてしまうということになります。

もっと言えば、借入金が増えるということになると、財務状況が悪化するということですから、格付け会社からの格付けが下がってしまうと、借り入れる時の金利が上がってしまいます。

そうなると、損益計算書における利益を押し下げてしまう一つの大きな要因となってしまいます。

在来新幹線とリニアで客の奪い合い

また、ビジネス上も決して筋の良いものではないという風に考えられます。

というのも先ほどリニアと新幹線で二重にするという話がありましたけれども、実は新幹線がリニアに移るのではなくて、新幹線は残したままなのです。

となるとリニアは新幹線の顧客を奪うだけなのではないかというところがあります。

例えばこれまで新幹線で東京から名古屋や大阪に行っていた人は、一部はリニアを使うこともあるでしょうけれども、当然リニアの料金は高くなるでしょうから、その値段の差については考えてしまうところがあります。

少なくともかなり高い金額にすると、誰も乗らないということになってしまいます。

もしリニアに乗ったとしても、リニアにはプラスだとしても、新幹線はマイナスになってしまいます。

もしリニアが今まで結んでいないような大都市を結ぶようになったら、さらにプラスアルファが望めるのでしょうけれども、これは東京大阪間という既存のルートをなぞるだけということになっています。

したがって売り上げはプラスマイナスゼロで、リニアの料金値上げ分が少し貢献するかなというところなのですが、それが結局あんまり高いと誰も乗らないというところになってきます。

もっと言うならば、このリニア大深度地下ということで、実は品川駅も名古屋駅も大深度地下なんですけれども、となると駅に着いてから新幹線に乗るまでに移動しなきゃいけませんから、その間に15分ぐらいかかると言われています。

両側で15分ずつとられてしまい、トータル30分です。さらにその間を40分で結んだとしても、結局30分と40分で1時間10分かかってしまいますから、実は新幹線とそんな変わらないということにもなってしまいかねません。

そんな中で高い料金を払ってリニアに乗る理由は、観光ならともかく、ビジネスとして乗るのは少しどうかなというところはあります。ましてやこのコロナの環境ですから、高いお金を払ってリニアに乗るぐらいなら、もうzoomで済ましてしまうような人も少なくないかもしれません。

Next: リニアは期待できない?JR東海への長期投資は危険な賭けか



年間2,500億円の減価償却が利益を圧迫

さらにはこれに投資していますから、その分損益計算書に対しては、減価償却にという形で下押し要因となり得るわけです。

5兆円を投資したとすると、償却の方法は色々あるのですが、例えば平均的に20年で定額償却したとすると、5兆円割る20年ですから、年2,500億円の減価償却費用が発生してしまうということになってきます。

ちなみにJR東海の経常利益が2019年3月期6300億円ですから、これに対して減価償却費2000億円以上ということになると、少なくても3分の1以上押し下げてしまうということになってしまうので、その点だけ見ても現在のPERだけで判断できないというところがあると思います。

利益に関してはさらにここに金利が乗っかってきますから、さらに押し下げられることになってきます。

また現在のキャッシュフローでこの借金を返済しようと思うと、配当をほとんど払わなかったと考えても、40年ぐらいかかるのではないかというように見えるわけです。

となるとリニア以外に、例えば不動産で投資したりとか、そういう身動きがなかなか取りにくくなってきます。

さらに投資家の目線で言えば配当を払うより先に、借金を返済しないといけないという観点になってしまいますから、配当はそんなに期待できなくなってしまう可能性があります。

現にJR東海は、リニアが決まる前ぐらいから配当を増やしているのですが、他のJR東日本や西日本に比べて出し渋っています。

これが今後も続く可能性があることになってきます。

リニアに期待できず、長期投資には向かない

結論としては大枠で言うならば、私は今リニアをやるというのは、人口もこれから増えない中で、株主から見た時の投資判断としては、決して望ましいものではないのではないかと思います。

なぜならリニアは借入金のリスクとか、金利上昇リスクとかを増やしてしまいますし、そもそも開業時期が未定というのは大きなリスクですし、減価償却費や借入金の利息なんかを通じて利益の下押し要因となってしまうということです。

さらに仮にリニアが出来たとしても、それ自体が売り上げに大きなプラスをもたらすものではないのではないかというところです。

さらに言えばリニア以外の芽が見当たりません。

JR東日本や西日本だったら、リニア以外の流通とか不動産、そういったものをやっているので、仮にコロナ禍で鉄道の利用者が減ったとしても、そっちの方で挽回できる可能性があります。

ところがJR東海は新幹線一本に絞ってきたことによって、その部分が非常に脆弱です。

そうなると、このコロナ禍で出張需要というのが減ってしまうことで、単純にそれだけマイナスになるのではないかと考えられます。

また先ほど説明しました借金が増えすぎると配当も期待できなくなってしまいます。

これは株価を上げにくくする要因であることも間違いありません。

以上を踏まえますと、いくら現在の指標があっても、今後業績が引き続き伸びていくような 絵というのがなかなか描けません。

むしろマイナス要因のほうが多いのではないかというように見えるわけです。

短期的にはコロナからの戻りで上がるということももしかしたらあるかもしれませんが、一方では借金が増えることはJR西日本と同じように増資をして、財務の健全性を改善させなければならないというフェーズがどこかでくる可能性があります。

したがって長期投資家としては長期でここに投資するメリットというのは、見出せていない状況があるわけです。

もっと言うならば、すでにもう後戻りできない状況かと思うのですが、国策的な意味もありますから、簡単に引くこともできないと思うのですが、もし許されるなら色々考えるとリニアを撤回してもいいぐらいなものではないかと見えています。

もちろんこの先どうなるかはわかりませんけれども、私だったら投資は見送ると思います。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:YMZK-Photo / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年9月5日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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