今回は注目銘柄として米国株を取り上げてみたいと思います。半導体製造のエヌビディア(NVIDIA)です。これからのAI時代を担っていく重要な銘柄だと考えておりますので、ぜひこの機会に注目をしておいてください。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
エヌビディアはどんな会社?
まずエヌビディアはどういった会社かというと、GPU画像処理半導体を手掛けるファブレスメーカーという位置にいる会社です。
この画像処理半導体というと、半導体には主にCPUとGPUというものがロジック半導体という意味であり、CPUは一般的にいわゆる半導体として扱われるのですが、計算処理とかロジック処理を担当するのがこのCPUです。
一方でGPUというのは画像処理、画像認識とかを担当するものとなっています。
エヌビディアが手がけているのはGPUです。
また、ファブレスメーカーというのは、自社では設計や研究開発だけを行って、製造に関しては外部の企業に委託するメーカーのことです。
したがって設備投資の負担は小さくなります。
ちなみにこの生産を主に委託している先が台湾で最大の企業のTSMCという会社です。
エヌビディアはこのTSMCと組んだことで、ここまで大きくなったとも言えます
TSMCは今や世界で最先端の半導体の製造技術を持っている会社です。
さらにエヌビディアの創業者のジェン・スン・ファン氏も台湾系アメリカ人です。
台湾はそれほど理系の人材が強いのです。
今や世界の半導体のメーカーに関しては完全にトップを走っている国になります。
このGPUがどこに使われているのかというと、ゲーミングPC、ゲーム、AI、自動運転などに搭載されています。
売上高では2020年のランキングでは世界第9位となっています。
ただこの会社は、決算期が1月期なので、ここに反映されている2020年の1月、最新のものは2021年の1月で売上高が166億ドル、1.8兆円です。
2020年のランキングではこの通り9位なのですが、これが160億ドルですから、実際は2021年は5位くらいに入ってきてておかしくない数字になります。
ちなみに改めて振り返っておきますと、売り上げランキングはインテル、サムスン 、SKハイニックス、マイクロン、クアルコム、ブロードコム、テキサスインスツルメンツ、メディアテック、エヌビディアと並んでいます。
下には日本の元東芝メモリーのキオクシアが並んでいます。
実はエヌビディアはこの中で一番時価総額が高い会社となっています。
それほど期待されている企業なのです。
「GPU」と「CPU」の違いとは?
さて、エヌビディアがGPU画像処理の半導体を作っている会社だと言いましたが、ではそのGPUとCPUの違いを説明したいと思います。
CPUは主にインテルなどが作っているのですが、ロジック半導体と言われ、様々なロジックに基づいて計算や処理を行うものです。
かなり複雑な処理もできて、高度な計算は全部こちらでやることになります。
一方でこのエヌビディアが主に作っているGPUはそれと異なっています。
CPUと違ってたくさんのコアと呼ばれる受容体があり、それぞれが反応を受けたらその結果をどんどん返していく、同時並行的にたくさん返していくというものです。
これがCPUの場合はデュアルコアとかオクタコアとか呼ばれるように、248ぐらいの数値なんですが、GPUはこれがたくさん、そして同時並行的にやっています。
実はこの複雑な計算は一個一個でできるわけではないのですが、それがたくさんあることで一度に大量の情報を処理できるわけです。
ゲームで言うと、例えば格闘ゲームをやる場合、この部分だとヒットして、この部分だとヒットしないというのは、GPUが処理を行うことになってくるわけです。
そのためには、当然たくさん必要ですから、そこで得た情報を今度はCPUに持っていって、複雑な計算処理を行なって出力を行うシステムになっています。
このエヌビディアはGPUを主に作るメーカーなのですが、もともとはXboxやPS3といったゲームに使われる半導体として成長を遂げてきました。
それがゲームだけではなくてはゲーミングPCに搭載されることも増えてきました。
Next: 自動運転、AIの時代で高まる「GPU」の重要度
ゲームからAIの時代となり重要度が増してきた「GPU」
これだけなら、あくまで複雑で高度なゲームをやるための半導体というだけで、マニアックなところで終わる可能性があったのですが、実はこのやり方が今のAI、あるいは自動運転など、そういった時代にまさにマッチするようになってきました。
例えばAIというと、ある物を見て、人間が目で見るようにそれが何なのかを判定して認識するといった情報が必要です。
けれどもそれはCPUの得意とするところではなくて、GPUが色々な物を同時並行的に処理することで、機械で認識することができるようになったのです。すなわちそれがAIです。
様々な物を人間が認識しているように、同時並行的に処理することができるものとして使われるようになってきました。
自動運転についても同様で、運転をする時は道路の先だけ見ておけばいいというわけではなくて、右から何が出てくるか、左から何があるかということを常に認識していかなければなりません。
そこで使われるのがこのGPUです。
元々はゲームでこういった映像をベースに、大量に情報を処理する技術を磨いてきたからこそ、AIなどに応用できるようになりました
業績は、昔は赤字の時もあったりしたのですが、特にこの2017年・2018年というところで大きく業績を伸ばしてきます。
これはまさにゲームに採用されたところが大きいです。
最近はデータセンターなどのビジネス用途など、そういうところにも求められるようになってきています。
様々なシステムで今やAIというのが尽きませんけれども、それをするためにはエヌビディアのシステムと半導体が必要不可欠となってきています。
その結果、EPSで見ると0.3ドルぐらいにも満たなかったところが、わずか5年ぐらいで3ドルと10倍近い利益の伸びを記録しています。
業績を見ますと2018年・2019年だけではなくて、直近も大きく伸びています。
これはコロナ禍が非常に大きいです。
ここでゲームやゲーミングPCなどそういった物の需要が伸びてきたことがもちろんあります。
これは多くの半導体会社で認められているところです。
さらにはAIのディープラーニングにGPUが最適だったということで、これを作る為にAmazonのAWSだとか、マイクロソフトのazureといったところにもどんどん搭載されるようになってきています。
もちろんハイスペックなPCにもどんどんを投入されています。
そして自動運転なども含めた最新技術へも搭載されるようになってくるわけです。
したがってエヌビディアの強みとしましては、ゲームで培ったこのグラフィックボードGPUの技術がまさにこの時代、自動運転の時代に求められる技術だったのです。
その技術を長く磨き続けて、今それがゲームという狭い世界だけではなくて、世の中のあらゆることに求められつつあるわけです。
そしてAI半導体のプラットフォーマーの分野では欠かせない主役として、躍り出るのではないかと見られています。
ある半導体メーカーのCEOがこういうことを言いました。
「パソコンの時代は86型が主流だった」と、この86型というのはインテルが作っている半導体です。
それがWindows95以降パソコンを設計してきたのです。
さらにはモバイル、スマートフォンの時代になると、半導体設計の会社で省電力で電力を大きく使わない、Armがプラットフォーマーとして設計してきました。
そしてこれは2018年頃の発言なのですが、AI時代にはエヌビディアのCUDAが主流になると言っています。
これはなくてはならないものなのです。
これらいずれも1度これらが覇権を取ったら、もはやそこから別のものに移ることはあり得ないという文脈で発言しています。
したがって、もうすでにこの2018年の時点でこのエヌビディアのCUDAが、AIの半導体脳というのを席巻しているのですから、これがもう今後必要不可欠なものとして躍り出てくるだろうということが予見されています。
Next: 業界の巨人インテルが大きな敵として立ちはだかる可能性
エヌビディアが抱えるリスク
ではリスクはないのか言うともちろんそんなわけはありません。
それは競合、特に業界最大手のインテルが大きな敵として立ち塞がることになるかと思います。
実は先ほどの発言をしたのがインテルのCEOであるゲルシンガー氏なのです。
当時はインテルの社長ではなく別の会社の社長をやっていたのですが、その彼が今CEOとして腕をふるっているわけです。
すでに各国あらゆるところに巨額の投資を行って、研究開発と製造を行っています。
これまで世界の半導体業界を牛耳ってきましたから、お金はあります。
そして設備も自ら製造する力というのを持っています。
そこに対して技術者を雇えば同じような物が作れないとも限りませんし、また既存のサーバーとかPCの親和性を考えると、インテルが一手ににGPUまで含めて担ってしまうというのは一つの脅威になりうることが考えられます。
アメリカの会社では設計開発の上の人が、高いお金を払って移籍するのが結構行われているのです。
それがインテルにはできてしまうのです。
さらには製造はTSMCに依存しているというところもリスクです。
ファブレスメーカーですから、TSMCに依存しているわけですが、もしTSMCに何らかのこと、例えば地政学的リスクによって製造が難しくなったり、使えなくなることになると、エヌビディアはどうすることもできなくなってしまいます。
その点インテルは自社で製造能力まで持っているので、一日の長があるとも言えるかもしれません。
もちろん外に依存しているからこそ、製造は考えずに設計開発の方向に集中できるメリットもありますから、一長一短というところではあります。
ソフトバンクが売ったArmsを買収予定
さらにエヌビディアは先ほど出てきたモバイル時代を席巻したArmの買収を予定しています。
ここにArmを売ったのがあのソフトバンクグループなのですが、ソフトバンクグループからArmを買うというところで、現在は保留になっていて独占禁止法上の審査が行われています。
特にその審査が集まっているのが中国です。
中国の当局がこの合併を認めないのではないかと見られています。
Armは設計だけをする会社なのですが、中国としても設計図を中国が使えないということになると、今まで中国でもかなりのスマートフォン製造していますが、そのスマートフォンが同じように製造出来ないということになってしまうわけです。
もしアメリカが中国への輸出を禁止するとか、そういった話になったら、今までのような高度なスマートフォンが作れなくなってしまいますからダメージは計り知れません。
それでArmの買収に待ったをかけているのです。
Armはもともとイギリスの企業で、直接的な米中対立の影響を受けるわけではなかったのですが、エヌビディアに買収されてしまうと、米国企業ということになりますから、やはり米中対立の影響を受けやすくなっています。
エヌビディアとしてはこの買収が待ったをかけられるということになると、4.2兆円もかけて買収していますから、経営的には一時停止ということを受け入れざるを得ないというところになってきます。
ちなみにArmの買収ですが、ソフトバンクグループはArmを売却した対価として、現金またはエヌビディアの株式で受け取ることになっています。
おそらく株式で受け取ることになるでしょうから、実はこのエヌビディアの動向は日本のソフトバンクグループにも強く関連しているということになるわけです。
Next: 長期目線でエヌビディアはいま買いなのか?
今から買える?目が離せないのは確か
さて、その株価ですが、これまで好調な業績を続けていました。
なんと5年で株価は15倍にもなっています。
直近1年でも2倍ぐらいに伸びていてまさに飛ぶ鳥を落とす勢いです。
では今買えるのかというとPERを見ればコンセンサーつまりアナリストの平均的な予想で言うと、PER55倍、それから直近12ヶ月の実績値で見ると79倍というところです。
目下、半導体不足で半導体業界の利益が非常に大きく伸びている、ある意味では一時的な特需かもしれない中で、この倍率は結構高いのではないかなと思います。
平常状態に戻った時にどれくらいの利益なのかは、若干測りかねるところがあって割高感があるとは言えます。
勢いで上がっている部分が否めないです。
ただ今後の成長も十分可能性がありますから、やがてはこれが正当化できるぐらいには成長できる可能性もあると思います。
ただそれが多少時間がかかってしまうとなると、この後しばらく株価が横ばいでもおかしくないというような数字ではあります。
また時価総額としては今60兆円で、これがトヨタの2倍です。
すごく大きくなっています。
これだけ時価総額が大きくなると、さすがに今の業績、今の規模だと大きすぎるかなというところはあります。
インテルに比べてもインテルより時価総額が大きいとですから、先ほど見た売上高ランキングでも、これで時価総額トップというのは結構高いなと思います。
一方でAI時代を牛耳っていくということになると、それぐらいあってもおかしくないというまさに微妙なところです。
以上をまとめるとこれからの見通しとして、業績が伸びるのはほぼ間違いありません。
AIが使われるところにはこのエヌビディアが必ず必要になってきます。
自動運転など新たな分野でも必要になってきます。
業績が伸びるのは直近1年で落ちるとかそういうことはあるかもしれませんが、2年3年4年5年となるとほぼ間違いなく伸びているだろうと思います。
そしてもう1つ重要なのがAIがどこまで必要とされるかというところです。
今世の中がAIAIと言っていますけれども、本当に役に立っているのか、AIを本当に使っているのはごく一部だと思われます。
AIと言っておきながら、ただのプログラミングだったりするところも珍しくありません。
しかし、AIが本当に必要になるとなると、大量の半導体が必要になりますから、エヌビディアがこれによってどこまで伸びるかが決まってきます。
もしかしたらすぐではなく結構時間がかかる話かもしれないし、もっと早く来るかもしれない。そういったところではあります。
そしてリスクのところで指摘したように、インテルがそこに当然乗り出してきます。
インテルはイスラエルのモービルアイという自動運転の会社も買ったりしているので、こことの競争はこれから注目されるところになってきます。
以上からやはり目先の株価に関しては加熱感があるというところは否めません。
ただ長期的に見ればこれほどの力を持って、しかも求められている会社であることも間違いありません。
株価の動向や世の中の状況によっては、十分投資するチャンスはあると捉えている銘柄です。
これからもウォッチを続けていきたいと思います。業績を続けていました
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年9月14日号)より
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。