リーマン・ショック以降の中国“古銭ブーム”で中国コインが暴騰しました。さらに近隣のアジア諸国に目を向けるともっと貴重でデザインのよいものがあることに気づき、チャイナマネーはアジアコインに地殻変動を起こしています。次はどこへ向かうか。この動きはドミノ倒し的に世界に波及していきます。(『一緒に歩もう!小富豪への道』田中徹郎)
株式会社銀座なみきFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー、認定テクニカルアナリスト。1961年神戸生まれ。神戸大学経営学部卒業後、三洋電機入社。本社財務部勤務を経て、1990年ソニー入社。主にマーケティング畑を歩む。2004年に同社退社後、ソニー生命を経て独立。
中国コイン爆騰の歴史
日々、私たちが何の疑いもなく受け入れていることでも、よく考えるとヘンなことは珍しくありません。でも、そんな素朴な疑問を素通りしてはいけないと僕は思います。
なぜなら「ヘンなこと」のなかに、投資のヒントが隠されていることがよくあるからです。
株の世界でも「ヘンなこと」はよくありますし、不動産の世界でも、為替相場の世界でも、「ヘンなこと」はよくあります。
今回は、コインの世界の「ヘンなこと」について、少しお話ししたいと思います。
まずは、中国コインについてです。中国コインというのは清朝末期から中華民国成立後、第2次世界大戦まで中国で造られていたコインのことをさします(筆者注:僕の定義であり、これは世間一般の定義とは少し違います)。
中国コインの爆騰が始まったのは、たしかリーマン・ショックあたりからだったと思います。
中国政府が打ち出した4兆元(当時のレートで60兆円ほどでした)の経済対策がきっかけになったのかもしれません。
当時の中国経済は日本や欧米の景気が落ち込むなか、この景気対策によって独走状態に入り、その後、一気に経済超大国の仲間入りを果たしました。
1人当たりGDPは順調に拡大して国全体がリッチになり、加えて貧富の差が大きくなって巨大な富裕層が生まれました。
もともと自国の通貨に対する信頼感が低いところに持ってきて、巨大な富裕層の形成です。
彼らが現物資産にお金を流し込んだのは、当然のなりゆきだったといえるでしょう。
一般にコイン投資は自国のコインから始まります、リーマン・ショック以降の「中国コイン爆上げ」は、このようにして始まったといえるでしょう。
アジアコイン全体に地殻変動
ところがある時点で、こんな疑問を持つ人が出てきました。「中国コインばっかり買っていてよいのだろうか……」。
そして視野を広げると、自国の周辺にまるでタダのようなコインがたくさんあることを知ったはずです。ベトナム、カンボジア、ネパール、ミャンマー、モンゴル、インドネシシア……。
彼らはまずこのあたりのコインを買い始め、「アジアコイン」の市場に地殻変動が起きました。「アジアコイン」は時価総額が小さく、ほんのわずかな買いで値を上げてしまったのです。
日本の明治銀貨はさすがに時価総額が大きく、しばらくはチャイナマネーを吸収していましたが、それも昨年あたりまでが限界でした。
こうやって「中国コイン」→「アジアコイン」と波及した地殻変動は、「日本の明治銀貨」に到達しました。
振り返ればこの過程で、「ヘンなこと」は随分と訂正されました。
・アジアは高成長が見込まれ、しかもアジアコインは銘柄も残存数も少ないのに、なぜタダみたいな値に放置されていたのか
・日本の円銀は立派でデザインも美しいのに、なぜ中国コインに比べて極端に安いのか
たしかに上記のような「ヘンなこと」は随分と訂正されましたが、それでもまだ割安感はあります。
ここまでが世界的にみたリーマン・ショック以降、今年前半あたりまでの「アジア銀貨相場」の推移でした。前述の通りにいくらか訂正されはしましたが、世界を見渡すとまだ「ヘンなことは」残っています。
Next: 地殻変動はやがて世界へ。“銀貨ドミノ倒し”が広がっていく?
地殻変動はやがて世界の銀貨相場に及ぶ
遠からずアジアで起きた地殻変動は、世界の銀貨相場に及ぶと僕は思います。
感覚的ではありますが、中国コインの直近10年ほどの上昇は2倍から3倍ほどです。
アジアコインはさらに激しく、ベトナム(アンナン)やチベット、モンゴルなどのなかには、10倍ほどに急騰した銘柄もあります。もともとアジアコインはタダのような相場に放置されていましたし、市場の規模や銘柄も少なかったので、この10倍という数字にさほどの驚きはありません。
円銀は市場規模が大きく、さらに割安感という点でもアジアコインほどではありませんで
した。年初から概ね2倍から3倍の値上がりは、まあ納得感のある数字だといえるでしょう。
世界のコイン市場は一体化しています、アジアで起きた銀貨のドミノ倒し現象は、遠からず世界に広がってゆくと僕は思います。
そういう観点で世界を見渡すと、中南米とヨーロッパの大型銀貨は、水準訂正の余地が大きいと僕は思います。
まず中南米の8レアルです。1700年代の後半から1800年代にかけ、カルロス3世・4世、その次の王様フェルディナンド7世あたりの8レアルです。
一昔前までこのあたりは人気がなく、MSクラスの高状態のコインでも500ドル前後で落札できたものですが、最近はジワジワ相場帯が上がっており、1,000ドルでも競り負けることが多くなってきました。
おそらく同期代の8エスクード金貨の上昇も影響しているのではないかと思いますが、アジア発の銀貨相場上昇も影響していると思います。
そして最後に挙げたいのは、アジアからみて地球の反対側にあるヨーロッパ、特に1500年代から1800年代にかけての大型銀貨ターレルです。
いま僕の手元に20年前のオークションカタログがありますが、落札価格をみますと、たとえば以下のような例があります。
・1556年 フェルディナンド1世 1ターレル VF-:10.5万円
・1560年 フェルディナンド1世 1ターレル VF/EF:20万円
・1615年 マシアス 1ターレル UNC:50万円
・1611年 ルドルフ2世 1ターレル UNC:12万円
・1712年 カール6世 1ターレル AU:46万円
鋳造所の違いなどがあって一概には言えませんし、当時は鑑定済みコインというものがなく比較が難しいですが、それでもターレルに関しては、当時の落札価格は現在の相場とさほど変わらないようにみえます。
ちなみにこのオークションの中国コインをみますと、たとえば袁世凱の1ドル金貨(UNC)が76万円で、同じく「孫文の三羽鳥(EF)」がたったの2.6万円で落札されています。
今では「袁世凱の1ドル金貨」は1,000万円を超えます、「孫文三羽鳥」は少し状態が悪いですが、それでも100万円の値は付くでしょう。
いかに当時のターレルが高かったかがわかります。
世界中の芸術的銀貨の価値が上がるのは時間の問題?
さて、問題はこれからです。
20年前とほぼ同程度の値が付いているターレルですが、当時が高すぎたとも言えますし、逆に今の相場が破格に安すぎるとも言えます。
おそらく実態はその中間ではないでしょうか。
ながらく相場が膠着していただけに、今のターレルは世界的にみて割安感がプンプンしています、そこにもってきて中国からやってきた銀貨ドミノ倒しです。
暴騰で僕は、世のなか「ヘンなこと」がたくさんあると申し上げました。上記のように、今のターレル相場もよく考えてみれば「ヘン」です。
Next: 「ヘンな相場」はやがて訂正される?アンティークコインに要注目
「ヘンな相場」はやがて訂正される?
今から400年以上も前から造られていますから、古いターレルのなかには、日本の織田信長や豊臣秀吉の時代のものもあります。
しかも残存枚数をみても、中国コインや円銀に比べてほんのわずかしか残っていません。未使用クラスになれば、さらに少ないはずです。
しかもデザインは個性的で、技術的に見ても当時の世界最高峰です。また文化的、芸術的にもすばらしい趣を持ったコインもたくさんあります。
そんなターレルよりも、中国コインのほうがよほど値が張る現在の相場は、やはり「ヘン」だと言わざるをえません。このヘンな相場は、いずれ訂正されるのではないかと僕は思います。
『一緒に歩もう!小富豪への道』(2021年9月9日号・9月13日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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