報道は自民総裁選一色で、野党の存在が希薄化しています。野党4党は結託して戦うとしていますが、果たしてまとまるのでしょうか?今回はこの野党連合に参加を決めた「れいわ新選組」の公約として注目されている“れいわニューディール”について掘り下げたいと思います。1人20万円×3ヵ月のメロリン給付金、本当にもらえるなら嬉しいですが、実現可能なのでしょうか?(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
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野党共闘で政権交代を目指すが…
突然の菅総理「自民党総裁選不出馬」宣言(実質の退陣)により、日本は政局一色となりました。
「マスコミジャック」という言葉が飛び交うくらいに、テレビ報道番組や新聞紙面は「次の自民党総裁は誰になるのか」ばかりを報じていて、自民党側からすれば絶好の「広告」となっています。野党の存在は、ますます薄れるばかりです。
そんな自民党に対抗するには、野党がイデオロギーの枠を超えて1つにまとまる以外に、今の小選挙区制度では与党には勝てないでしょう。
そんな中で、市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)は8日、野党共闘を呼びかけて動きました。立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の野党4党との間で、次期衆院選の共通政策で合意しました。
調印式には、立憲民主党の枝野幸男代表、共産党の志位和夫委員長、社民党の福島瑞穂党首、れいわ新選組の山本太郎代表が出席しました。
「市民連合」を介して野党が結束して衆院選に臨むのは初めてのことですが、裏を返せば、市民連合を介さなければ野党は結束できなかったということにもなりますね。
各党のイデオロギーとか支持母体の事情とかが野党結束の障害となっているのでしょうが、与党を倒すという大義の前において、それらはそんなに重要なものなのでしょうか。
国民民主党は “原発のない” や “安保法制の違憲部分の撤回” の表現に党内に異論があるため、8日の調印式には玉木雄一郎代表が参加しないことになりました。彼らの支持母体に配慮した行動とも見て取れます。
与党も野党もですが、日本の未来を憂うという大望よりも、自身が選挙に勝つことのほうが重要だとしているところが透けて見えるところに、政治家としての資質を疑ってしまいますね。
確かに選挙に勝たなければ国を動かすことはできないかもしれませんが、国会議員である前に、(信念のある)政治家であるべきではと思ってしまいます。
そんな中で共産党は、自らの錦の旗を降ろしてまでも野党共闘を実現しようとしています。
共産党は「とにかく自公政権を倒す」、そのためには「連立政権」でなくても良いという「野党連合政府」を訴えました。
共産党が掲げる「天皇制廃止」や「日米安保破棄」の訴えでは、他野党は連立は組めないことを理解した上で、とにかく今の自公政権を倒して政権交代を実現させるという一点に焦点を合わせて、自党のイデオロギーを譲歩してでも、野党を1つにまとめようとしています。
もちろん、共産党にとっても自党勢力拡大は重要で、比例区で票を得るには小選挙区にも候補者を立てる必要はあり、これから野党間での選挙区調整は行われるのでしょう。
しかし大きな枠組みとして、「自公政権を倒す」ために野党はまとまるべきだという思いを、各野党が共有したうえでの「野党共闘」なのだと、そう思いたいですね。
選挙後の政権において「共産党とは連立を組まない」という立憲民主党枝野代表の言葉はそのとおりで、「野党連立」ではなく「野党連合」であることが、すべての出発点になると言えるようです。
野党連合は、今回の衆議院選挙で政権交代を目指すのでしょうが、たとえ政権交代が叶わなくても、来年の参議院選挙で与野党逆転を実現して「ねじれ国会」を作ることができれば、与党の政権運営に緊張感をもたせることができます。
その上で、その次の総選挙で政権交代を実現させるシナリオは、きっと描いているのだと思われます。
政治の劣化、官僚の忖度が問題とされてきましたが、それはひとえに、与党による衆参安定多数状況が続き、政権交代が起こらないという緊張感のなさによるものだと思われます。
政治を正常に戻す上でも、国会において与野党勢力が伯仲していることが重要で、そのことで政権運営に緊張感が生まれることは望ましいことだと思います。
「れいわ新選組」合流に驚き
そういう意味で、今回の市民連合を介しての野党共闘で、れいわ新選組が参加したことには驚きました。
最後まで立憲民主党との選挙協力に難色を示していた山本代表ですが、こだわっていた「消費税廃止」の旗を「減税」に書き換えて、消費税廃止に反対、むしろ増税もやむなしという意見がある立憲民主党が、期限付きではあれ、現消費税率を5%にまで引き下げることに同意したことを評価して、野党共闘に歩み寄ったことには驚きました。
もし、れいわ新選組だけが独自に衆院選挙を戦えば、野党支持票は割れることになり、それは、結果として自公政権を利することになります。
そこで、この野党共闘に応じた、代表のキャラクターの強さからでも注目されているれいわ新選組に関して、一見すると国民に優しいとも取れる政策について、その実現性も含めて、深く掘り下げてみたいと思います。
れいわニューディールは期待できるのか。実行可能か、それとも単なるポピュリズムなのかを、深堀りしてみましょう。
Next: メロリン給付金1人60万円ほか「れいわニューディール」の中身は?
コロナ経済対策は「給付」か「貸付」か
昨年新型コロナウイルス感染拡大が始まった頃に、国民1人ひとり全員に「特別定額給付金10万円」が配られました。
企業に勤める人たちが休業等により減る、あるいは支給されなくなる給与の補填としての助成金制度もあります(期間限定)。この制度は、フリーターにも拡大適用されています。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済的支援としての直接給付は、これだけです。
事業者に向けては、事業継続のための持続化給付金(法人には200万円、個人事業主には100万円)が配られました。ほかに、家賃補償として、1回だけの現金給付がありました。飲食店等の休業によりダメージを受けた業者に向けての助成金制度もあります。従業員を雇用している事業者に対して、給与を支給する際の助成金制度はあります。ただし期間限定です(今のところ、期限が来ると延長はされているようです)。
他にも、条件により、いくつかの助成金制度はあるようですが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済的支援としての直接給付は、概ねこれだけです。
この給付金に関しては、自民党総裁選において各候補者は、新たな給付金を検討することには消極的のようです。麻生財務大臣は、新たな給付に関しては、完全に否定しています。
つまり、直接給付は「The End」ということです。あとは “貸付制度で対応してください” というのが、今の政府の姿勢です。
あるイベント会社が政府に、救済目的での給付金をお願いしたら、政府側の対応として「給付ではなく貸付にしてほしい」と言われたとのことです。どうも現政府は、給付に対しては消極的というか、もう「給付はしたくない」という姿勢のようです。
この流れを新橋ガード下での会話に置き換えれば、「財務省が…」という言葉が頭についてくるのでしょうね。
これに対して野党は、こぞって「あらたな直接給付の制度を設けよう」ということを訴えています。
給付金に関しては、給付金額もさることながら、給付対象に所得制限を設けるのかどうかとか、その財源をどうするかなどが問われますが、いずれにしても、コロナ対策において与党と野党との間には、「新たな給付をするかしないか」という違いが、明確になりました。
そして、その新たな給付制度として、れいわ新選組が訴えているのが「メロリン給付金」です。
「れいわニューディール」とは?
れいわ新選組は、「れいわニューディール」と名付けた経済支援策を打ち出しています。
「ニューディール」という表現は、1930年代に起こった世界恐々から回復するために、時のフランクリン・ルーズベルト大統領が行った経済政策「ニューディール政策」から来ているものです。
政府が市場経済に積極的に関与することで、経済を立て直す「新規まき直し」のイメージがあることで、その後、経済立て直しの政策に好んで用いられる表現となりました。「グリーン・ニューディール」などは、気候変動など地球温暖化対策に関連する経済政策を言い表すものとなっています。
「れいわニューディール」の政策は、山本代表の説明によると「コロナ緊急対策」と「3つの危機打開政策」の2本柱からなっていると説明されています。
※参考:れいわ新選組の政策 – れいわ新選組 チーム福島
<「れいわニューディール」の2本柱>
・コロナ緊急対策
・3つの危機打開政策
前者の「コロナ緊急対策」は、「3ヶ月でコロナを封じ込める」としています。この“封じ込める”というのは「市中感染者ゼロ」というよりも、「コロナ感染をコントロール下に置く」というイメージだそうです。
そのために、3ヶ月間の徹底したロックダウンを実施するとしています。短期集中で人の行動を抑制して、徹底的な接触回避を行うことで感染者拡大を防ぐ、それが3ヶ月でできるとしているのです。ロックダウンと言っても、海外のような強制力を伴うものではなく、今ある日本の法律の範囲で行えるものですが、国民がイメージしやすいという意味で、あえて「ロックダウン」という表現を使っているのだと、山本代表は説明しています。
3ヶ月間の行動自粛をお願いするかわりに、十分な補償を行うというのが、「れいわニューディール」の「コロナ緊急対策」の骨子になります。「3ヶ月でのコロナ封じ込め」が前提にあって、その間の生活保障となっています。
その対策の目玉として「メロリン給付金」というのがあります。れいわ新選組の「コロナ対策」の象徴的な政策です。
国民1人ひとりに一律20万円を3ヶ月間給付するというものです。国民1人当りの総給付額は60万円になります。
その日本全体での総額75兆円の対策を「メロリン給付金」と銘打ちました。
Next: コロナ緊急対策「給付」「免除」「補償」は日本を救うか?
メロリン給付金を含む「コロナ緊急対策」で収束までの3ヵ月を耐え忍ぶ
“メロリン”という名前は、山本太郎代表が芸能界デビューしたきっかけとなった高校生時代に出演した「天才たけしの元気が出るテレビ」での「ダンス甲子園」出演時での決め台詞“メロリンキュー”からきているそうです。
報知新聞記者がインタビュー時にこう呼んだことを、山本代表が気に入って取り上げたようですけどね。
「コロナ緊急対策」は、この3ヶ月間に「メロリン給付金」だけでなく、同時に「徴収免除」「徹底補償」を行うとしています。つまり「コロナ緊急対策」は「給付」「免除」「補償」の3本柱からなるというものです。
行動制限をお願いする「ロックダウン」と「補償」はセットであるという考えに基づいています。
<コロナ緊急対策>
1. メロリン給付金
2. 徴収免除
3. 徹底補償
(1)のメロリン給付金は、ここまで説明した通りです。
(2)「徴収免除」の部分では、ロックダウン期間中の3ヶ月間に以下を行うとしています。
・社会保険料免除
・水道・光熱費免除
・通信費免除
・ローンなど債務猶予+利息の補填
(3)の「徹底補償」の部分では、以下を掲げています。
・粗利補償(すべての事業者の損失補填)
・医療機関減収補償
・農林水産者への補償
・文化芸術関連補償
あくまでも、市中感染者ゼロ(正確にはコントロール下に置けるぐらいにまで減らす)にすることを目指すもので、そのために3ヶ月間のロックダウンを実行する、その間の国民の経済的損失を最小限に留めるために「給付・免除・補償」の制度を充実させているというものです。
3ヶ月の枠を超えて行われるものとして、「中小個人事業の家賃補助」を1年間行うことも公約として掲げています。
コロナ封じ込めの具体策
市中感染者をコントロール下に置くための対策として、感染者特定のための「PCR検査拡充」と「医療体制の整備」に重点を置いています。
<検査体制の再整備>
・PCR検査拡充 100万回/日に向上
・下水PCR推進(感染者早期発見)
<医療体制の再構築>
・公立病院拡充・民間病院支援
・潜在看護師70万人へのリクルート
・保健所の増強
コロナ感染状況をコントロール下に置くということは、徹底した検査により、疫学調査による封じ込めができるレベルにまで感染を抑えることにあります。
れいわ新選組は、これが3ヶ月でできると主張しています。その前提があっての、3ヶ月期間限定の補償プランになっていることは、何度も説明しています。
「3ヶ月」という期間設定の根拠を直接聞くことはできませんでしたが、YouTube動画で、山本太郎代表と大石あきこ立候補予定者との対談動画で、大石氏が、「ここまで1年以上もこのような状態で、このあと半年というのは長すぎるので“3ヶ月”という打ち出し方は必要」と述べているところから、科学的根拠にもとづいた「3ヶ月」という期間設定ではないようです。
感覚というか、せめて3ヶ月で収束させたいという思いからなのか、そのあたりはどうなのでしょうね。
いずれにしても、「3ヶ月」で、コロナ感染状況をコントロール下に置くことができる前提で、給付や免除などの対策が組まれているのですが、今後の変異種まん延による影響は、どう考えているのでしょうか。
短期集中のロックダウンは3ヶ月間限定のようですから、3ヶ月経過後はロックダウンのようなことはしないのでしょうし、もし情勢次第でロックダウンを延長するとしたら、給付や免除も、延長されるのでしょうかね。
コロナ耐性強化と治療については、ワクチンや抗体カクテルなどの治療薬・イベルメクチンなどの副反応や副作用について公開し、その救済に積極的に行うということを訴えています。
副反応・副作用の対策は書かれていますが、ワクチン接種に対する考えや、ワクチン接種拡大に向けての対応、また、治療薬に対する開発製造援助などは、どのように考えているのでしょうか。
<感染症対策3原則>
1. 感染者特定
2. 感染経路対策
3. 耐性強化
とあり、(1)はPCR検査拡充、(2)がロックダウン等、(3)がワクチン接種、この先に、治療薬開発があると思いますが、この(3)の部分とその先の治療薬への対応が見えづらい内容になっているかと思われます。
Next: 実現できるのか?消費税廃止ほかコロナ後を見据えた3つの危機打開策
3つの危機打開政策
れいわ新選組が訴える「3つの危機」とは、以下となっています。
・生存の危機
・社会インフラの危機
・原発災害、気候変動の危機
ここからは「ポストコロナ」のイメージですね。
実際には、この3つの危機は、コロナ感染に関係なく課題としてあったというのが、正確な表現かもしれません。とくに「生存の危機」を回避することが喫緊の課題としていて、生活に関わる様々な負担軽減を訴えています。
具体的には、れいわ新選組が強く主張している「消費税廃止」です。なにせ消費税廃止は、れいわ新選組の「一丁目一番地」ですからね。さらに、社会保険料負担軽減、収入改善として、全国一律で最低賃金1,500円にすることを訴えています。
消費税廃止
消費税廃止については、山本代表が事あるごとに、いろんな所で主張しています。消費税の存在が、生活者の家計を圧迫しているというものです。
そもそも、消費税を導入した目的が「直間比率の見直し」でした。税収割合において、所得税などの直接税の方が、消費税のような間接税よりも比率が高く、税収が直接税に偏りすぎて安定しない(所得税収などは経済状況で増減しやすい)から見直そうというものでした。
財務省ホームページ資料によれば、2018年度実績額では直間比率(国税+地方税)は「64:36」となっています。
※参考:税収に関する資料 – 財務省
海外比較の表があり、米国は「76:24」、英国「57:43」、独「55:45」、仏「55:45」
となっていて、日本は欧州諸国はと比べれば、確かに直接税に偏っていると言えますが、米国と比較すれば、むしろ米国のほうが直接税に偏っているということになります。どれくらいの数字にすれば、理想的な直間比率になるのでしょうか。消費税は、広く国民が負担する安定した税収となるので、長く維持しなければならない社会保障などの財源にはちょうどよいと言われています。
ところが、れいわ新選組は、消費税が社会保障制度維持に使われていないのではと指摘しています。
民主党野田政権時に、当時の民主党・自民党・公明党の「三党合意」で、消費税率を引き上げる代わりに、消費税を社会保障制度維持のために使う目的税化にすることを約束していたのですが、自民党が政権を取ったら、この約束は守られませんでした。
消費税の一般財源化、つまりプライマリーバランス(政府支出を国債発行なしで税収の範囲で賄う)改善のために使われているのではとの指摘があります。
もともと逆進性、つまり低所得者ほど税負担感は重くなるのではと言われている税制度なだけに、社会保障維持のために消費税が使われないなら消費税は廃止にすべきだと、れいわ新選組は主張しています。
消費税がなくなれば国家財政はどうなるのか
社会保障費が膨らみ、支出が増える中で収入源である消費税がなくなれば、国は立ち行かなくなるというこれまでの主張は、すごく当たり前のように聞こえてきますが、社会保障などの国の政策を税収入ではなく国債発行で得た資金で行えば良いする立場が出てきました。
れいわ新選組は、後者の立場を取っているのでしょう。
それゆえ、消費税を廃止しても、国家は成り立つ、国民サービスは維持できると考えています。
消費税は、それこそ個人が消費行動を行った時に支払うもので、不要不急の外出を控えている状態では、生鮮食品は買うとしても家計への負担感は大きくなくなっていない感じはあります。
むしろ、水道料金や光熱費、通信費の免除政策は、ダイレクトに個人家計負担を軽くしてくれるので、大きなインパクトがあると思います。
ただ政策立案側としては、直接給付のほうが「やっている感」を強く打ち出せるので、光熱費等を立て替えるような政策は好まないのでしょう。かなりうがった見方ですけどね。
Next: 全国一律最低賃金1500円、社会保険料負担軽減など弱者救済に重点
社会保険料負担軽減
コロナ対策として、社会保険料の3ヶ月間免除を訴えていますが、コロナ後においても、社会保険料負担に累進性をもたせて、所得に応じた負担に制度を変えることを提案しています。
可処分所得を増やそうというものでしょう。
社会保険料は、所得が増えても上限設定があり、超高所得者の負担感は軽く感じられますが、低所得者層の社会保険料の負担感は、消費税よりも大きく感じると思います。
税計算においては、扶養家族の有無や人数、生命保険契約や地震保険契約の有無、火事などの特別損失等の状況を鑑みて算出されます。「所得控除」という、税金計算から除外する枠というものがあります。
ところが社会保険料を算出するにおいては、そのような家庭の事情は一切考慮されません。収入額のみで自動的に計算されます。
給与所得者は、毎月の給料から天引きされるので、あまり負担感を感じていないのでしょうが、かなりの保険料が天引きされているのには、きっと驚くでしょう。
給料の額面と手取り額とのギャップを見れば、よくわかると思います。
れいわ新選組の社会保険料負担軽減は個人を想定していると思われますが、個人事業主や中小企業にとっての社会保険料負担も重く、社会保険料倒産というものも現実にはあります。
あくまでも想像ですが、医療や年金という恩恵の大きい制度維持のための保険料なだけに、なかなか社会保険料軽減という議論には至らないのかもしれませんね。
ただ制度維持のためには、社会保険料軽減策は財源不足となりますので、そのために、れいわ新選組は、社会保障制度への国費投入を倍にするとしています。
ここでの「国費」とは、おそらく税金ではなく国債だと思われます。
2018年度の社会保障給付費内訳は、厚生労働省の資料によれば総額約117.2兆円となっていて、そのうち保険料負担が70.2兆円の約60%、残りの40%が公費負担46.9兆円となります。
公費負担は、地方税負担が13.8兆円、いわゆる国費と言われる国庫負担は33.1兆円の28.2%になります。
国費は税金と赤字国債です。
制度設計に置いて、保険料と税金で社会保障を賄うということは、全額国民負担ということになって、その場合、給付額が大きく制限されてしまいます。
赤字国債で賄うことで、国民負担よりも多い給付額が見込めるようになっています。
れいわ新選組は、この赤字国債発行枠を大きく広げることで、税負担や社会保険料負担を増やさずに、社会保障における給付金を増やし維持できるとしています。
全国一律最低賃金1,500円
厚生労働省ホームページ資料によれば、令和3年度地域別最低賃金における全国加重平均額は「930円」となっています。
都道府県別で最も高いところは東京都で「1,041円」、最も低いところは高知県と沖縄県で「820円」となっています。
これを、全国一律「1,500円」にすると言うのです。そのために中小企業には政府が補償するとしています。これは果たして実現可能なのでしょうか。
現実と公約との数字に、あまりの開きがあることは事実です。一方で、日本の最低賃金が低すぎるという批判があることも事実です。
具体的な数字を出す際に、現実からと理想からとのアプローチにより、実現可能と思われる数字をはじき出すのでしょうが、その金額が適正かということと実現可能かということは、おそらく区別して考えなければいけないのでしょう。
ここでも、直接中小企業に対して、最低賃金を引き上げるための補償を行うことを公約としています。
どれだけお金が必要になるのでしょうね。
この他、多岐にわたって様々な政策を掲げていますが、全体的に言えるのは、全国民まんべんなく手厚く保護する、いわゆる「大盤振る舞い」の印象です。
「消費税廃止」「社会保険料負担軽減」「全国一律、最低賃金1500円」以外の政策は、こちらで見ることができます。
※参考:政策 | れいわ新選組
国民が求めるものは、なるべく叶えてあげる…。
今必要と思うものは、ケチらない…。
この思いは理解はできますが、歴史的に見ればこのような政策は「ポピュリズム」と言われ、その言葉の裏側には「実現不可能」という意味合いも込められてきました。
また、「ポピュリズム」という響きには「財政破綻で国を滅ぼす」というイメージもついてくるようです。
ただ、れいわ新選組のアピールには、財政の裏付けに基づいた政策だという自負があるように思えます。政策メッセージを受け取る国民側はともかく、メッセージを発する彼らには、政策の裏付けとなる財源が確保できる自信があるように思えるのです。
はたして、その裏付けとは何なのでしょう…。
Next: 財源は国債発行。本当に“悪いインフレ”は怒らないのか?
国債を発行して政策を実現しよう
れいわ新選組の財源、政策実現のためのお金の話はホームページに載っています。
いわゆる「MMT理論」と言われるもののようですが、山本太郎代表は、自身の演説などでも「MMT理論」という言葉は使っていませんね。これにはなにか特別な意図があるのでしょうか。
国債発行で国は資金を調達して、それで国民サービスを充実させる…。
その前提は、国が国債発行し続けても、国は破綻しないという証が必要になります。インフレになったらどうするのかという懸念もあるようです。れいわ新選組は、国家破綻は起きないし、インフレにはならないと断言しています。自国通貨建ての国債(借金)を返すのに、日本銀行は通貨を発行することができるから破綻のしようがないと主張しています。無尽蔵に永遠に国債を発行し続けるわけではないので、インフレにならない程度に調整するとしています。
難しい理論は置いておいて、事実を確認すると、たしかに、これだけ日本は、稼ぐ力(GDP)以上の歳出があるにも関わらず国家破綻をすることもなく、その歳出を毎年国債発行で賄っているにも関わらず、インフレにはなってはいませんね。
むしろデフレのままと言っても過言ではないでしょう。
山本代表は「MMT理論」とは言っていませんが、世界の「MMT理論」を推進する人たちは、この日本の状態を例に出して「日本を見ろ、なんともないじゃないか」として、「MMT理論」の正しさを強調しています。あらら、これは喜ばしいことなのか恥ずかしいことなのか…。
れいわ新選組はホームページで、コロナ緊急対策を実行するために「国債発行(通貨発行)により、初年度200兆円規模、翌年から100兆円規模の大胆な支出を行っても、財政破綻などは起きません。インフレ率は2?3%以内に収まります。」と表現しています。
ただ、何事もやりすぎはよくないもので、過度の国債発行はインフレは起こします。それはれいわ新選組の説明でも「インフレは起こる」としています。
そう注意を促したあとで「需要が供給能力を超えるまで、インフレ目標に達するまでは、国債発行で大胆な政府支出が可能です。現在の日銀と政府が掲げるインフレ目標は『2%』です。私たちとしては、インフレ目標は3%~5%で良いと考えますが、現在の2%の目標であっても、大胆な政府支出は可能です…」と表現しています。
れいわ新選組のホームページでは、「インフレ調整の税の役割」を説明しています。
経済が良くなって、需要が供給を上回れば「インフレ」になります。「ディマンド・プル」と呼ばれる「良いインフレ」です。自然なインフレとも取れますね。
インフレが行き過ぎたら、世の中に出回ったお金を回収することでインフレを調整する、この回収の手段が「徴税」であるとしています。
ホームページでは「お金を間引く」という表現を使っていますが、インフレが進んで調整が必要になれば、国民から税金を取るというのです。
ここを、れいわ新選組は、「国民から」とは言わずに「お金持ちから」と表現していますね。れいわ新選組は、法人税にも「累進性」を導入する、つまり儲かった金額に応じて税率を引き上げるというもので、現在、所得税で行われているものです。所得税の累進性も強化すると言っています。つまり、所得の多い人の税率を引き上げるというものです。
インフレになるまで国債を発行することができ、「徴税」によりインフレを調整するとしています。だから極端なインフレになるまでは国債を発行しても大丈夫という論理です。
「国の政策は国債で行う」。これがれいわ新選組のスタンスのようです。
今までの政策は「国の政策は税収で行う」というものです。
この立場で考えると、やはり、財政は健全化するほうが望ましいですね。プライマリーバランスは改善しなければなりません。そのためには国民は増税も受け入れなければならないですし、国民サービスに関しても、ある程度は我慢しなければなりません。そうしないと国家における財政(収支バランス)は保てなくなります。
プライマリーバランス黒字化ということは、国債を発行しなくても国の歳出を賄うことができるということですから、税収を大きく増やすか、歳出をカットするかしか方法はありません。
「国の政策は国債で行う」という立場にたてば、プライマリーバランスを黒字化する必要はなく、そのために、国民はサービスを受けることに我慢をすることはないと言っています。MMT理論では、このことを強く表現しています
理屈はわかりましたが、果たして理論通りになるのでしょうか。
Next: 熱意だけでお金は配れない。“公助”拡大に罠はないのか?
「国の政策は国債で行う」に罠は無いのか?
なにせ「国の政策を国債で行う」ことが本当にできるのかどうかは未知数で、いまだかつて行われたことはないので、壮大な実験をしてからでないと判断できないという話にもなりますよね。
日本が良い例だと言われても、日本が実証実験を行っていたわけではありません。確かに、プライマリーバランス黒字化を目標にすると、増税が景気の足を引っ張り、財政の黒字化のために社会保障の縮小が行われます。その道を、いまの日本が歩んでいることは確かです。
また、MMT理論では、金融緩和政策も否定しています。景気の“気”は空気の“気”で、これから良くなるという期待感がなければ、金融緩和で市場にお金をばらまいても、そのお金は消費や設備投資などの、景気を良くする方向に使われることはありません。まさに「流動性の罠」に、どっぷりとハマっている状態です。
馬を無理やり水飲み場に連れて行っても、水を欲していなかったら飲みませんからね。お金を使いたくなる環境を作ることが大事です。それもMMT理論は提唱しています。お金を配るだけでなく、使いたい状況を作り出すことが大事だとしています。
“自助”重視ではなく、徹底した“公助”拡大
れいわ新選組は、小さな政府ではない大きな政府を目指しているのでしょう。菅総理の言葉を借りると、“自助”重視ではなく、徹底した“公助”拡大のようです。
なので、お金がかかります。お金がないから政策が実現できないというのではなく、実現するために「お金を作る」という観点で、「政策は国債で行う」というスタンスに、財源確保を求めたのでしょう。それがどこかリアリティを感じさせないところかもしれません。
なにせ、まだ「政策は税収ではなく国債で行う」という方法で国家運営がされて、成功している例を見ていないのですから。良い夢は見させてもらえた…。国民がそういう感想で終わらないようにしていくには、まだまだ実行に至るまでのハードルは高そうです。
れいわ新選組の政策は、以下が礎になっています。
・3ヶ月でコロナを封じ込めることが前提
・日本国債を財源としても国は破綻せずインフレにならないことが前提
れいわ新選組の財源に対する考えをまとめますと、以下になるでしょうか。
・日本政府と日本銀行は、“同じ側”の存在で、政府発行の国債は金融機関が買い、その国債を日銀が買っているので、結局は日本政府は日銀に国債を発行しているのと同じ
・政府は日銀からお金を借りているのと同じ
・それで、日本銀行は日本政府と“同じ側”に属しているので、お金を返してとは言わないだろうという、つまりは借金は返すことはない
・もしお金が必要なら、日銀は自分で日本円を刷ることができるので心配ない
・ただし、お金を刷りすぎるとハイパーインフレになるので、ある程度で抑えておくべきだが、物価目標2%まではインフレにならないから、それまではじゃんじゃん国債を発行しても大丈夫
・だって、日本は1,000兆円もの借金があるのに破綻してないじゃない。インフレにもなってないじゃない。だから大丈夫…
ん~ん、コロナ感染拡大を3ヶ月でコントロール下における根拠はなに?という疑問が浮かびます。「医療ムラ」という厚い岩盤を崩さない限りPCR検査拡充やコロナ医療施設増設はできない。政権与党でも崩せなかったこの岩盤を、どうやって崩すのでしょうか?
Next: 調べれば調べるほどに増える疑問。パッションだけでは通用しない?
調べれば調べるほどに増える「れいわ新選組」への疑問
以下の疑問は、所詮、学者でも実務家でもない者の筆者(私)の思いつきで、“的外れ”かもしれません。思いついたまま羅列してみます。
・日銀の独立性はどう考えればよいのか?
・他国の例や歴史から見て、金利上昇は勢いがつくと止まらないが、インフレは人がコントロールできるのか?
・そもそもインフレをタイミング良く抑え込めるのか?
・欧米諸国は金融緩和政策を見直し、利上げを模索しているが、日本だけが財政拡大していて大丈夫?
・財政改善しないと、格付け会社に日本国債を格下げされないか?
・日本国債格下げ、CDS(※)価格高騰の心配は考えすぎ?
※CDS:Credit default swapの略称、平たく言えば、(正確な表現ではありませんが)国債がデフォルトしたときに備える保険のようなもの。この価格が上がると「危ないんじゃない」という機運が高まります。
・国債発行が基本的に国内でファイナンスできる国では、「政府の借金の拡大は国民の資産の増加」という概念は世界でも認められるの?
・そもそも財政赤字が拡大し国債発行額が増えても円高になっているという現象は、財政に関係なく米国との関係にあるのでは?
・財政拡大でもインフレになっていないのは事実だから財政拡大してもインフレにはならないというロジックですが、別の要因でインフレになっていない、というかデフレのままになっているのでは?
・財政破綻にはならないが世界の信用を失うことにはならないか?
・国政政党なので、外交や安全保障はどうなのでしょう?
そりゃ「メロリン給付」や「徴収免除」は、実行できれば素晴らしいです。特に、徴収免除は家計に優しい対策だと思います。こういう発想は、既成政党では思いつかないものだと感じます。
だいたい政策に“ケチ”を付ける人は、決まって「財源はどうするのか」と聞いてくるのですが、国民に、夢と希望を見せることも大事だと思います。それこそ、みんなでどうやって実現できるかを知恵を絞って考えることが大事なのではないでしょうか。でも、最低賃金1,500円を全国一律で実施するって、どうやるのですかね。
今回、「れいわニューディール」を調べて、いろいろと勉強になりました。政治は、パッションも大事だがロジックも必要で、いや両方必要です。それと実行可能性を「追求する姿勢」が大事だと、改めて勉強になりました。
なんとか政策を実現できるようにしようとたどり着いたのが「政策を国債で実現」というストーリーだと思います。
ボールは国民に投げられた。みんなで知恵を出し合って、この危機を、そして明るい未来を作っていきましょう……すごく、政治家になりきったコメントでまとめてみました。
今回のこの長文コラムは、私の勉強した報告であり、あくまでも学校で提出するようなレポートです。悪しからず…。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年9月15日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による