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岸田総裁「3本の矢」堅持が命取りに。アベノミクスが生んだ貧富格差は“脱・新自由主義”で解消するか?=原彰宏

岸田次期首相は自民総裁選でアベノミクス「3本の矢」などの基本路線を堅持しつつ、格差是正を重視する考えを示していました。本格的に動き出すかどうかは衆院選の結果次第ですが、ここでいったん、これまでのアベノミクスが行ってきたことを検証したいと思います。立憲民主党がまとめた報告書によると、経済格差を引き起こし、富裕層はより豊かになり、貧困者を増やしただけという結果になっています。本当のところはどうだったのでしょうか。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年9月27日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

立憲民主党が提出「アベノミクス検証報告」の中身

自民総裁選の真っ只中にあった9月21日、立憲民主党の江田憲司代表代行・落合貴之衆院議員らを中心に党内で設置された「アベノミクス検証委員会」による報告書『アベノミクスの検証と評価』が、枝野幸男代表に正式に手交されました。

「『お金持ち』をさらに大金持ちに、『強い者』をさらに強くしただけに終わった。期待された『トリクルダウン』は起きず、格差や貧困の問題の改善にはつながらなかった」(立憲民主党 アベノミクス検証委員会)とまとめられています。

トリクルダウンはなかった。

これは、今後の経済政策を考えるうえで、重要なキーワードになります。後で検証する「新自由主義」の根本を覆すものになってきます。

この報告書、作成における直近データ、及びその解説は、立憲民主党ホームページに詳しく記載されています。

アベノミクスと言えば「3本の矢」ですが、

1. 大胆な「金融緩和」
2. 機動的な「財政出動」
3. 民間需要を喚起する「成長戦略」

立憲民主党はそれぞれについて検証し、次のように指摘しています。

<第1の矢「金融政策」>

・円安誘導により株価は上昇したことは確かで、輸出産業中心に収益増となったが、物価目標2%は達成されなかった
・「異次元緩和」は、何度も行うものではない。効果は薄れ副作用が強くなる。地方銀行経営悪化、官製相場になる
・出口戦略が見通せない

<第2の矢「財政出動」>

・需要喚起どころか、2度の消費税増税で景気腰折れとなる

<第3の矢「成長戦略」>

・IR(カジノ)誘致、五輪開催(無観客)が成長戦略か

報告書ではもっとくわしく書かれていますが、立憲民主党が指摘していることにも、少し疑念を抱くところもあります。

そもそも消費税率の引き上げは、「民主党政権」時代の菅政権で打ち出したもので、野田政権では3党合意で消費税率の引き上げを約束したものです。

基本的に民主党は、財政改善のための消費税増税路線を取ってきています。

Next: アベノミクスで消費増税へ。そもそも消費税の目的は何だった?



消費税そのものを考える

ここで、少し脱線しますが、消費税そのものについて考えたいと思います。

次の衆議院選挙に向けて、野党は共闘の条件として消費税率を「5%」に引き下げることを共有しています。

もともとれいわ新選組は「消費税廃止」を訴えていましたが、立憲民主党が期間限定ではありますが消費税率「5%」に引き下げることで、れいわの山本代表は野党共闘のテーブルに付くことになりました。

根本を考えれば、消費税を導入した目的は「直間比率の見直し」でした。税収割合において、所得税などの「直接税」の方が、消費税のような「間接税」よりも比率が高く、税収が直接税に偏りすぎて安定しない(所得税収などは経済状況で増減しやすい)から見直そうというものです。

財務省ホームページ資料によれば、2018年度実績額では、直間比率(国税+地方税)は「64:36」となっています。

海外比較の表があり、次の通りになっています。

米国「76:24」
英国「57:43」
独国「55:45」
仏国「55:45」

日本は確かに、欧州諸国と比べれば、直接税に偏っていると言えます。しかし、米国と比較すれば、むしろ米国のほうが直接税に偏っているということになります。

では、どれくらいの数字にすれば、理想的な直間比率になるのでしょうか?

要は「税金を取りやすいところから取ろう」「毎年の税収を安定させよう」……この目的で作られたのが、消費税なのです。

それが、消費税は、広く国民が負担する安定した税収となるので、長く維持しなければならない社会保障などの財源にはちょうどよいという論理になっています。

ところが、消費税が社会保障制度維持に使われていないのではないかという指摘があります。

民主党野田政権時に、当時の民主党・自民党・公明党の「3党合意」で、消費税率を引き上げる代わりに、消費税を社会保障制度維持のために使う目的税化することを約束していたのですが、自民党が政権を取ったら、この約束は守られませんでした。

消費税の一般財源化、つまりプライマリーバランス(政府支出を国債発行なしで税収の範囲で賄う)改善のために使われているのでは?との指摘があります。

「消費税ありき」で進む財政政策

もともと逆進性、つまり低所得者ほど税負担感は重くなるのでは?と言われている税制度なだけに、社会保障維持のために消費税が使われないなら、消費税のあり方を見直すべきだという議論が起こってもおかしくありません。

しかし、もはや「社会保障制度維持のためには消費税は必要」ということが広く国民にも刷り込まれているものですから、たとえ今は消費税が一般財源化していても、消費税をなくす議論には結びつかないのでしょう。

事実、立憲民主党も、自民党新総裁となった岸田文雄元政調会長も、いずれは「増税やむ無し」という立場をとっています。

自民党岸田派は、宏池会の流れをくむ伝統あるな派閥ですが、昔から財務省とのつながりが強く、増税を主張してきた経緯があります。

増税か、経済成長か。経済成長を重視したら格差が広がる。でも、増税はいやだしなぁ……という声が大半です。

ここで、経済政策として取られられてきた「リフレ派」、つまり経済成長をすれば自然と税収は増えるとする今までの考え方が正しいのかどうかが問われてくるのです。

「新自由主義」と呼ばれる政策が正しかったのかということが、これからの日本における経済政策のあり方に関わってくるようです。

ちなみに、宏池会の流れにある岸田文雄氏は「脱・新自由主義」を掲げています。

Next: 海外投資家が歓迎したアベノミクス、「新自由主義」は正しかったのか?



リフレ派の功績

安倍政権誕生には、海外投資家は非常に歓迎ムードでした。

なにより、黒田東彦アジア開発銀行総裁が日銀総裁に就いてすぐに述べた「物価目標(インフレ目標)2%」の衝撃は大きかったですね。

今までの日本における金融政策で、将来の物価目標を設定したことがなかったわけで、海外では当たり前となっている政策も、ようやく日本も取り入れたという海外評価を受けて、日本株は大きく上昇しました。

そもそも、世界の資金の流れは大きく変わろうとしていたときでした。

リーマン・ショックによる金融不安から、世界同時株安が激しく起こり、世界マネーは、リスク資産から大きく引き上げられていました。

欧米各国とも、大規模な金融緩和政策を取り、禁じ手とも言われる量的金融緩和を行い、とにかく市中に資金を大量に供給することで、経済を支えようとしました。

米国は何度も大規模な量的緩和を行い、欧州では、EUが加盟国に資金を供給できる制度を作り、イタリアやギリシャを支える資金供給制度を確立させました。

これを受けて、マーケットが安心して、ちょうど世界マネーがリスク資産に戻ってくる流れが出来上がってきたところに、日本では安倍政権が誕生しました。

そこに黒田総裁の「物価目標2%設定発言」です。

言い方は悪いですが、すでにマーケットに資金が流れる状況にはなっていたところだったので、安倍総理でなくても日本株価は上昇する状況だったのです。

ただ、その流れを上手く利用したというところでは、アベノミクスはうまく追い風に乗って世間の評価を得たと言えます。

それは、安倍政権が「何もしていない」うちに円安になり日本株価は上昇したことに見て取れます。

その状況下での黒田総裁の「物価目標2%」メッセージは、まさに「お金がかからない経済対策」と言えそうです。

雰囲気だけで、景気は変わる。その典型となった出来事です。

その後、日銀は、実際に「大胆な金融政策」で、欧米とともに大規模な量的金融緩和を行っていきました。

富裕層や大企業が儲けても、お金は庶民に回ってこなかった

通常は「物価目標の設定」とセットで行わなければならないのが、「財政出動」です。

ここで財務省は、財政出動を行ったものの「大胆」ではなかったのですね。

物価が上がると、家計は苦しくなります。なにせそれまでリーマン・ショックでリストラの嵐でしたし、給料はずっと上がらないなかで物価だけが上がったのですから、国民生活は大変です。

それをカバーするために公共投資を行うなどして雇用を支え、国民の生活を支える財政出動を行わなければならなかったのです。

その状況で、消費税率を引き上げたのですね。

ただ、株式投資をしている人たちはウハウハで、企業は、株価が上がることで企業価値は上がりました。企業の内部留保金は膨らむ一方ですが、それが国民には降りてこなかったのです。

これが、「トリクルダウンはなかった…」ということです。

一方、株式投資をしている人の資産は膨らみ、格差の拡大が始まっていったのです。富裕層が儲かれば、やがてはシャンパンタワーのように、下に位置するグラスにもシャンパンが注がれるはずだったのですが、なぜか、上部のグラスでシャンパンの流れは止まってしまったのです。

思っていた以上に、頂上にあるシャンパングラスが大きいのでしょうかね。

シャンパンタワーは「滝状態」にはならなかったのです。トリクルダウンは起こらなかったのです。

Next: 景気「腰折れ」の原因となった消費増税



景気の足を引っ張った消費増税

「リフレ派」と呼ばれる人たちの考え方は、経済がよくなれば、企業業績がよくなって、その分、税収が増えるというものです。つまり、増税をしなくても、景気を引き上げることが財政再建にはよいとする立場です。

基本、安倍総理もその立場だったのですが、民主党との3党合意の縛りからか、財務省の突き上げが強かったのか、消費税率を引き上げました。

間違いなく消費税率の引き上げは、景気の足を引っ張ります。

2014年に消費税率を8%に引き上げたことが、アベノミクス効果を減退させたと竹中平蔵氏は指摘しています。その後の景気回復失速、インフレ率低下を招いたと思います。

2014年、消費税率は8%になりました。その年の11月、消費税率を8%から10%に引き上げる予定を延期しました。

延期は良いのですが、8%に消費税率を引き上げた景気減速を体験したことで、それを回避するために黒田日銀が増税予定の前日10月31日に「黒田バズーカ 第2弾」を発動しました。緊急声明で、量的質的金融緩和規模を拡大したのです。

ところが安倍総理は、その翌日の消費税率引き上げを延期。そして、そのことを国民に問うとして、年末には衆議院を解散をしました。黒田総裁が立て掛けたはしごは、無残にも蹴飛ばされました。

結果、めちゃくちゃ大きく拡大した金融緩和政策だけが残った感じです。

どんどん市中資金量は増大、日銀資産は拡大の一方です。

そして、安倍総理はもう1回、税率引き上げを延期。景気回復は見込めず、日銀はマイナス金利に突入…。

日銀はもう助け舟が出せない状態で、安倍総理は耐えかねて、2019年10月に消費税率を10%に引き上げました。日銀は何も援護できず、景気は失速です。

竹中氏が言う「消費税率引き上げが悪い」という話は理解できますが、その後の安倍総理が日銀との連携を無視して「黒田バズーカ 第2弾」をうまくいかせなかったことも、アベノミクス失敗の要因として指摘したいです。

どうせ消費税率を10%に上げなければいけないのなら、あのときに、「黒田バズーカ 第2弾」の翌日にすべきだったのではないでしょうか。

2014年の衆院解散は、自党勢力安定のための解散だったのでしょうか……。

Next: 小さな政府を目指す新自由主義はもう“オワコン”なのか?



新自由主義は“オワコン”か

景気を良くするために、また経済活動を活発にするために構造改革は必要だというのが、小泉内閣での「構造改革なくして景気回復なし」の大スローガンでした。

「官から民へ」です。政府が背負い込むものはなるべく軽くして、民間でできるものは民間に任せよう。そうしないと政府の財政が持たない…。

よく言われる、「小さな政府」理論です。

逆に、社会保障を膨らまして、なるべく政府の関与を増やすのが「大きな政府」理論です。北欧の福祉国家の形がそうですね。

いまコロナ禍で議論されているのが、「小さな政府」を目指すのではなく、国が国民生活を守るために財政出動を惜しまないというものです。

かつてイギリスは「ゆりかごから墓場まで」という福祉大国でしたが、財政が立ち行かなくなり、サッチャー政権時に「サッチャリズム」と呼ばれる、国営の水道、電気、ガス、通信、鉄道、航空などの事業を民営化し、民営化分の政府部門の経済を削減する政策に転換しました。

米国では、同じ頃に、レーガン大統領が、減税・財政支出削減・規制撤廃などを進めた「レーガノミクス」を打ち出しました。

スタグフレーションと呼ばれる、景気が悪いのに物価が上がるという、生活者にとってはかなり厳しい状況に、米国はありました。その中で出てきたのが、レーガノミクスやサッチャリズムと呼ばれる新自由主義でした。デフレからの脱却という、日本政府のスローガンと重なりますね。

徹底した規制緩和で経済を活性化さえ、民営化推進で政府のサイズを小さく軽くするものです。

中曽根内閣で始まった国鉄民営化・電電公社・日本専売公社の民営化。小泉内閣における郵政民営化・道路公団の民営化。

そして、市場は市場に任せる。民間企業の競争を阻害する規制は撤廃することで、競争を促進して経済を発展させる……という政策を日本も取りました。

日本が「新自由主義」と呼ばれるものに、舵を切ったのです。

新自由主義の副作用で格差拡大

その副作用として、競争激化による分断、格差が広がったと、野党は批判しています。

岸田元政調会長は、自民党総裁選挙で「脱・新自由主義」を掲げ、野党はこぞって今までの自民党が取ってきた「新自由主義」を批判してきました。

この、財政再建が必要とする議論の横から割って入ってきたのが、「MMT理論」なのですね。政府の政策は、税収入ではなく国債で行うとする理論です。

新自由主義はオワコンなのか。世界では、すでに「トリクルダウンはなかった」ことを認め始めています。右に寄りすぎた政権が、真ん中あたりに戻されてきています。

その世界の流れの中で、自民党新総裁が岸田氏に決まり、秋の総選挙があるのです。

日本はどこに向かおうとしているのでしょうか。それを決めるのは、私たち国民の1票です。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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