自民党総裁選で圧倒的な差をつけて勝利した岸田文雄氏。安倍・麻生vs二階・菅の代理戦争で、安倍氏側が圧勝したという結果です。さっそく党内・閣僚人事を発表した岸田首相ですが、安倍・麻生色の強い「第5次安倍内閣化」が見られます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
自民党総裁選は「安倍・麻生陣営」の勝利
自民党総裁選挙は、予想外の岸田大勝となりました。
その裏では、「安倍・麻生陣営」vs「二階・菅陣営」の戦いとなっていて、安倍陣営が大勝したことになります。
安倍前総理は電話・SNSを駆使して高市支援に奔走したと言います。最終的には安倍陣営に敵対する「小石河」(小泉・石破・河野)軍団を排斥すればよかったわけで、岸田総裁でも十分にらみが効くと見ています。
「人の話をよく聞く」性格が災いした岸田人事
実際、決選投票では高市票が岸田候補に流れたわけで、岸田総裁は安倍・麻生陣営には相応の「論功行賞」を示す必要があります。それが早速、党三役人事に反映されました。
岸田氏は選挙中、自分のセールスポイントとして、「人の話をよく聞くことだ」と言っていました。問題は「誰の話をよく聞くのか」です。
今回の党3役人事では、麻生大臣とよく相談したと言います。そこには当然、安倍氏の意向も強く反映されます。岸田氏のこの「人の話をよく聞く」性格を最初に反映したのが、この人事といえます。
幹事長に麻生派で安倍氏にも近い甘利氏、総務会長に安倍氏が所属する細田派で福田元総理の長男で当選3回の福田達夫氏、政調会長に無派閥ながら安倍氏が推す高市氏の配置となりました。
さらに官房長官に、松野元文部科学大臣が就任しました。彼は安倍氏が所属する細田派の議員で、しかも安倍総理(当時)が「もり・かけ」で攻められているときに、文部科学大臣として、安倍総理を守った張本人です。
閣僚人事でも、事前に麻生財務大臣に退陣してもらうために、彼を党副総裁に就任させ、財務大臣を麻生氏の義理の弟、鈴木俊一氏にするとの条件闘争をしたと言います。実質的に、財務省は麻生大臣の院政が敷かれることになります。まさに実質第5次安倍内閣を思わせる陣容となりました。
このままでは岸田政権が政策を決める場は、永田町・国会議事堂ではなく、渋谷区富ヶ谷(安倍私邸)と松濤(麻生私邸)となり、官僚は渋谷通いを余儀なくされます。
Next: 安倍・麻生の色は抜けず。国民世論とかけ離れた自民党内世論
世論と乖離。議員票で選ばれた岸田首相
事前の世論調査では、次の総理にふさわしい人物として挙がったのは石破元幹事長、河野行革大臣、小泉環境大臣なとで、まさに「小石河」軍団がリードしていました。
そして総裁選挙でも、党員票はこの世論調査に近いと言われ、実際に1回目の投票で河野氏が45%近い支持を得ました。
ところが決選投票で圧倒的に重みをもつ議員票では、第1回の投票時点で河野候補は86票しか得られず、高市氏の114票の後塵を拝し、3位に落ちました。
そして決選投票では、この議員票がモノを言い、岸田氏が圧勝となりました。
ここに「世論」と「自民党内の世論」との乖離が際立って大きくなりました。これは過去の総裁選でも見られた、自民党特有の現象です。
自民党で支配力を保持する安倍陣営
この自民党内世論を形成しているのが、今では安倍・麻生陣営のAAコンビの絶大な影響力です。
安倍前総理の影響力は、高市氏支援だけにとどまらず、岸田氏の選挙公約も大きく修正させる力を発揮しています。
当初、「もり・かけ」などでの情報公開を進めると言っていたものを、すぐに引っ込めました。安倍陣営ににらまれた結果の修正と言われます。
河野候補も、石破元幹事長、小泉環境大臣の支援を得たことが、却って「反安倍」色を強め、AAラインによる「小石河」連合潰しを煽る羽目となりました。
河野候補自身、原発問題などで歯切れの悪い妥協策を出さざるを得ないなど、ある程度安倍陣営に配慮もしたのですが、結局、安倍・麻生陣営に潰されました。
それだけ国民世論と「自民党内世論」を形成する安倍・麻生陣営との乖離が大きいということになります。
Next: “岸田色”を出さない限り、衆議院選挙では国民の厳しい評価が下る
衆議院選挙に安倍色は不利
そして、岸田内閣の力が最初に問われる場となるのが、次の衆議院選挙です。これは総裁選挙と異なり、党内力学ではなく、国民世論がモノを言います。
その点、党内に世論の評価が高い石破氏や河野氏、小泉氏を抱え、河野氏を党の広報担当にあてましたが、岸田政権が彼らを冷遇し、人事面で安倍・麻生陣営を前面に出した政権であることを示してしまいました。
これは岸田政権に「新しい血」を期待した国民には失望を買う要因で、政治を私物化し、悪事をことごとく隠ぺいした安倍政権の影が、岸田政権の裏に映っています。
これは選挙にはマイナス要因になります。実際、このところの地方での補選や横浜市長選挙では与党が推す候補がことごとく敗北しています。
野党は国民に人気の河野政権にならなかったことに勇気づけられ、小沢一郎氏と共産党の志位委員長とが選挙のための連携を進めています。
「自民党を変える」「新しい自民党に生まれ変わる」と言った岸田氏の意向とは裏腹に、トリプルA色の濃い、実質安倍政権の様になってしまった岸田政権には、国民は厳しい評価を下す可能性が高くなりました。
このままでは、与党は60議席以上減らすとの分析も見られます。
岸田政権独自の経済対策を打てるか
こうした下馬評を覆すためには、早急に岸田政権による独自の経済政策を打ち出すことです。
高市政調会長の下でアベノミクスの延長策を打ち出すだけでは、得点にはなりません。当初の意向通り、「分配なくして成長なし」を打ち出せるかどうかが、1つのポイントになります。
消費者をないがしろにして企業本位の政策を9年も続けてきたツケが、日本経済の凋落をもたらしたことは明白です。
問題は、どうやって労働者の分配を高め、所得を増やすかです。
岸田氏が「令和の所得倍増」と言っても、この30年間、日本の所得は増えていないという異常な状況を打開するには、それなりの変革が必要です。
Next: 衆院選を乗り越えても来年の参議院選で沈む?「脱安倍」の政策が必須
「脱安倍」「国民目線」の政策が必須
新自由主義に否定的な経団連の十倉会長と連携し、企業が人件費への配分を高めるか、税制で中低所得者に所得を再分配する仕組みを作るしかありません。
これなら野党も協力できます。
こうした岸田色を出せないまま、第5次安倍内閣路線を続ければ、衆院選は乗り越えても来年の参議院選挙は持ちません。政権を維持するためにも、「脱安倍」「国民目線」の政策を打ち出す必要があります。
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『マンさんの経済あらかると』(2021年10月4日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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