マネーボイス メニュー

JR東海・東日本の苦境はいつ終わる?赤字に下方修正、“人流”回復時期を読み解く3つのシナリオ=栫井駿介

JR東海とJR東日本の株は買いか?決算発表で両社ともに通期黒字予想から赤字に下方修正しています。コロナ後に業績は戻るのか、今後の成長性を考えます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

【関連】中国恒大危機に青ざめる日本企業トップ3は?習近平の「富裕層叩き」で大打撃=栫井駿介

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

下方修正、赤字転落。大丈夫?

JR東海が10月27日に、JR東日本が28日に決算発表を行いました。

まずJR東海ですが、上期、4月から9月の決算で、売上高が2019年3月比で60%減少しているというところです。

営業利益が340億円の赤字、純利益が444億円の赤字ということになっています。

さら通期2022年3月期の予想が、営業利益が元々黒字の1,060億円を予想していましたが、黒字のままでありますが370億円に、純利益は150億円の黒字の予想を赤字の300億円にしています。

JR東日本に関しても同じような状況で、売上高が2019年3月期対比で42%の減少、営業利益は赤字の1158億円、そして純利益も赤字の1,452億円となっています。

そして通期の予想としては、営業利益がで740億円の黒字の予想が1,150億円の赤字、純利益も360億円の黒字から1,600億円の赤字と、業績予想をいずれも下方修正、最終純利益に関しては赤字転換となっています。

予想より遅れたコロナからの立ち直り

なぜこのような悪い状況になっているのかというと、皆さんご承知の通りコロナ禍で人々の人流が抑えられてしまったというところにあると考えます。

東海の決算説明資料から分かりますが、元々この第2四半期は徐々に良くなってくるのではないかという見通しがあったのです。

けれども4月に東京で緊急事態宣言が発令され、それが各地に拡大、結局9月30日の上期が終わるまで緊急事態宣言が続いてしまいました。

元々JR東海に関しては、この第2四半期には2019年3月期待比で45%まで戻ると想定していました。

これが39%までしか戻らなかったということで、期初に立てた予想を下回ってしまったということです。

JR東日本に関しても、まだ決算説明資料は出ていないのですが、同じ状況という風に考えていただければいいのではないかと思います。

Next: 赤字を市場は織り込み済み。来期以降の見通しは?



赤字はすでに織り込み済み

ではこの決算と赤字予想を受けて、株価はどう反応しているのかを見ていきます。

東海旅客鉄道<9022> 15分足(SBI証券提供)

東日本旅客鉄道<9020> 15分足(SBI証券提供)

JR東海はその発表を受けて、寄り付きでは確かに16,500円を割るところまで下がりましたがその後戻して、なんと最終的には発表前に比べてプラスとなっています。

JR東日本も、発表後の株価というわけではありませんが、東海と同じような結果が想定されるので似たような動きをしています。

これを見て何が言えるのかというと、投資家は実はこの予想の下方修正というのをさしてネガティブに感じていない、すでに株価に織り込み済みだったのかと思います。

それもそのはずで、もう人が電車に乗って移動できていないというのが明らかでしたから、これくらいのことはすでにもう投資家は予想していたわけです。

よって市場は驚くことなく、こういったことがあっても株価が必ずしも下がらないという現象が起きました。

これは株式投資の用語では「織り込み済み」と言いますが、結局は決算によって株価が上がるか下がるかというのは、実際にその決算が良かったかどうかというよりは、すでに市場が織り込んでいるかどうかということが重要になってくるので、投資をする方は決算の数値そのものだけではなくて、それに対して投資家が先を織り込んだ結果、どのように考えているかというところまで見通すようにするとレベルが1つ上がるのではないでしょうか。

下期の見通しは?

先を織り込むとなると、問題は下期の見通しです。

目下、感染状況も相当落ち着いてきて、比較的明るい見通しが立てやすい環境なのではないかと思います。

そんな中で下期だけ切り取って見ると、JR東海に関しては今回の決算発表で2019年3月に対比で70%ぐらいまでは戻るだろうという見通しを立てています。

一方、東日本に関しては83%をまで戻るのではないかと言っています。

どちらかというと東日本の方が楽観的な見通しとなっています。

なぜかというと、1つの期待として挙げられるのは「GoToキャンペーン」の再開ということがあると思います。

現在はコロナも落ち着いていますから、おそらく「GoTo」が再開されるだろう、その恩恵を受けやすい企業としては、やはりJR東日本が挙げられるのではないかと思います。

ちなみにこのJR東日本とJR東海の特徴としては、JR東日本はかなり幅広いエリアを抱えていて、普通の通勤客と新幹線、ビジネスと旅行を大きいものとしています。

一方で、JR東海は収益の大部分が新幹線です。 しかも不動産や流通の方にも手を出していません。 ほぼ新幹線、特に東京大阪間のビジネス客の需要によって支えられています。従って、このビジネス需要というのが大きく影響してきます。

この「GoToキャンペーン」は東京・大阪間の移動というのもありますが、東京から各地に旅行に行くという面に関しては、やはりJR東日本が恩恵を受けやすいのではないかと考えられます。

もちろん東海にもプラスの影響があることも確かです。

そしてコロナ禍が収束したら、GoToに関わらず、帰省なども含めて増えてくるだろうと考えられます。

Next: コロナ後に人の移動は回復するのか?両社ともに懸念は「財務不安」



コロナ後に人の移動は回復するのか?

さらにはコロナ禍での財務的な厳しさを受けて、両社ともコスト削減を行っています。

このコスト削減と需要の回復が見られることで、来期以降の話ではありますが、利益幅が乗ってくるのではないかと期待される理由となっています。

一方で不安としては、コロナが再拡大してしまうと、今の状況がいつまでも続いてしまうということになってきます。

また、ビジネス客については、長期的な目線で見ても、例えば会議であったりお客様のところに行くというのに今までだったら新幹線を使って東京から大阪にも行かなければならなかったのが、今やリモートで終わらせてしまおうというケースが珍しくなくなってきました。

当然、企業としてもその方がコストがかかりませんから、ビジネス客が戻らないのではないか、特に東海はこれまでのような収益を上げ続けられるかというと難しいところがあるのではないかと思います。

そして、コロナ禍がまだ続いて赤字が膨らんでくるようであれば、東日本も東海もJR西日本のように財務基盤強化のために増資を行う懸念も高まってきます。

もっと長期的な見通しをお話しすると、コロナ禍が終わらないということはなく、いつかはこれまでのような状況に戻ることは確かだと思います。

一方で、先ほど言ったようにビジネス客に関しては出張が全部リモートに置き換わってしまうことも想像できますから、完全に戻るわけではないとしておかなければなりません。

しかし、コスト削減を行うとも言っています。

JR東日本に関しては、営業利益が4,000億円のところを1,000億円のコスト削減というインパクトの大きいことを言っていますし、不動産の新たなビジネスも行っています。

JR東海もコスト削減と不動産の活用と同じようなことを考えていて、さらに付け加えるならばリニア新幹線で新たな積み上げを図ってくると思います。

懸念は財務不安

両社の大きな懸念としてはやはり財務不安です。

先ほど増資懸念というところもありましたが、コロナ禍が続けば続くほど借金が増えるということになります。

借金が増えるということは支払利息が増えるということになりますから、利益の減少要因になってしまいますし、当然、配当なども減ることになり、身動きが取りにくい状況になってしまいます。

コロナ禍が続けば続くほど将来に禍根を残すこととなります。

もっと言うとJR東海に関してはコロナと関係なくリニアのために借金が増えていくことがほぼ確かなことで、これが先行きを怪しくしています。

さらに、リニアに関しては作ったらその分だけ収入があるわけではなく、新幹線も残したままなので、乗客が分散するだけなのではないかという懸念もあります。

株式投資というと損益計算書ばかり注目されがちですが、特にJRのような設備投資型の産業では財務状況を見ることも重要ですので、忘れないでいただきたいと思います。

Next: JR各社は買いなのか?アフターコロナのシナリオで変わる投資行動



シナリオを考えるべし

株価ですが、過去2年の株価を見ると、やはり増資のあったJR西日本が他の2社に比べて下落幅が大きくなっています。

JR各社、コロナ前と比べていずれも30%マイナスという状況になっています。

コロナが終わって戻るのか、コロナ前ほど利益を生めなくなってしまうのか、逆にコロナを起爆剤に新たなビジネスでむしろ利益を伸ばすのか。

どのシナリオに賭けるかで、今後の投資行動が変わってきます。

これらの会社に投資を考える際は、この3つのシナリオを想定して株を買ってみると良いのではないかと思います。

もちろんコロナ前以上の利益を出せると考えた時にのみ買うということをおすすめします。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


つばめ投資顧問は、本格的に長期投資に取り組みたいあなたに役立つ情報を発信しています。まずは無料メールマガジンにご登録ください。

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

【関連】ドン・キホーテ(PPIH)株は今が買い時?32期連続増収増益、成長カギ握る海外進出の勝算は=栫井駿介

【関連】ロボアドバイザーは手数料の無駄?それでも大多数の投資家に有益である理由=栫井駿介

【関連】「自宅は資産」は幻想。住宅ローンを抱えリストラと死の宣告を待つ者たちへ=鈴木傾城

image by:amnat11 / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年10月30日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問

[無料 ほぼ 平日刊]
【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。