マネーボイス メニュー

ブームは来ない?Facebookが「メタバース」に傾倒する理由と注目すべき2銘柄=栫井駿介

今、株式市場では猫も杓子も「メタバース」というくらい、このワードが盛り上がっています。Facebookがメタバースに注力するといって、社名まで「Meta」に変更したことがきっかけでした。果たして本当に流行るのでしょうか?(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

【関連】中国恒大危機に青ざめる日本企業トップ3は?習近平の「富裕層叩き」で大打撃=栫井駿介

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

「メタバース」って何?

Facebookが社名を「Meta」に変更して、メタバース事業に注力すると言っています。ヨーロッパでは、このメタバースに関する人材を1万人以上採用するという声も上がっています。

では、このメタバースって、そもそも何なのか。

メタバースを日本語にすると、”仮想空間”といったところでしょうか。Facebookのザッカーバーグ氏が話した内容によると、仕事などを1つの仮想空間の中で行い、実際に人々が同じ空間にいるような、テレワークでありながら皆が同じ空間で働いているような感じにするものということです。

これを仕事だけではなくて、さまざまなイベント等に使用していきたいとも言っています。

Facebookが社名を変えた理由

なぜ30億人以上のユーザーを抱えるFacebookが、社名を変えてまでこんなことを始めたのでしょうか。

積極的な理由としては、まずFacebookの「次」という考えがあります。

Facebookは、ユーザー数が今30億人以上いますが、実はFacebook以外の収益源を未だにほとんど見つけられていないのです。インスタグラムの買収はありましたが、いずれにせよ広告収入だけという状況には変わりないわけです。

いずれもをユーザー数がもう33億人ですから、地球上の半分の人間がFacebookに登録していることになります。これは中国が入っていない状況で、です。

当然、伸びしろには限界が出てきますから、その次の収益源を探らないといけないことがFacebookの大きな課題となっていて、その1つの軸として「メタバース」を取り上げたのではないかとは考えられます。

そして、すでに33億人も登録していますから、コミュニティ機能を発揮しようと思ったら、わざわざ新たなアカウントを登録してもらう必要はなく、自らが使っているFacebookアカウントで「メタバース」の空間に入れば、そこでできることはたくさんあるのではないか。というのが、Facebookの考え方ではないかと思います。

さらには時代の流れとして、テレワークもコロナ禍の中で急速に進んだので、メタバースをねじ込むチャンスではないかとも考えていると思います。

実際にこのメタバースを発表する前にも「Workplace」という、マイクロソフトで言うならばTeamsのような、どちらかと言うとビジネスの方に注力する動きを見せていました。

一方で、社名変更の理由として私がどちらかというと強いと考えるのは、消極的な理由の方です。

Next: 苦肉の策?社名変更にザッカーバーグの思惑が見え隠れ



苦肉の策?社名変更にザッカーバーグの思惑が見え隠れ

まず、Facebookが収益源とした広告ですけれども、コストはそれほどかからないうえに、どんどん広告収入が入ってくる状況でした。

実は世界のネット広告市場は、今やテレビを逆転するほど大きく伸びていて、その大部分はGoogleとFacebookに占められているのです。Google、Facebook、そしてその他大勢という感じです。その市場の拡大でものすごく儲かって、余剰資金が6兆円もあるということです。

今回このメタバースに1兆円を投資すると言いましたが、実はFacebookにとっては大した金額でもなかったりするわけです。

そして、特にアメリカなんかで上場していると、今後どうやって成長していくのかということを詰められますから、そのプレッシャーを受けてひねり出した1つの答えが、このMetaなのではないかと思われます。

さらに、Facebookは実はスキャンダルにまみれた会社でもあり、これから逃れさせようとする、会社よりザッカーバーグCEOの思惑が、見え隠れします。

業績伸びるも成長率が鈍化するFacebookの現状

Facebookの現状を見てみると、業績は見事に伸びています。しかし、成長率を見るとどんどん鈍化しているわけです。

これも当然と言えば当然で、Facebookのユーザー数は33億人で、中国抜きでこの数ですから、新たなユーザーは地球上にほぼおらず、伸びしろが無いという風にも言えます。

収益源はFacebook広告のみですから、これ以上、広告を上積みするというのは難しい。そう考えると、やはり新たにビジネスのセグメントを立ち上げて収益源の多角化を図りたいということが1つあると思います。

また、インスタグラムやワッツアップを買収したりもしましたが、結局はFacebookしかない”一発屋”と言われたりもしたので、他にもいろいろできることを示したいという、ザッカーバーグ氏のプライドの問題もあるのではないかと想像します。

スキャンダルの数々

現状を見ると、成長性は鈍化の傾向をたどっていて、今では様々なスキャンダルを抱えている会社でもあるわけです。

例えば、2016年のトランプ大統領が当選した時の大統領選挙に関して、ロシアとの絡みで個人情報が流出したりとか、あるいは有権者の判断を変えてしまうようなフェイクニュースを流していたという報道もありました。

その後、次々にスキャンダルが出てきて、これに耐えかねたのか、翌年にはある意味社運をかけて仮想通貨「リブラ」を発表しました。

しかし、当時ビットコインが流行っていて、世界の国々が仮想通貨によるマネーロンダリングなどを恐れているなか、影響力の大きいFacebookによるリブラの発表だったので、各国政府の反発を招いて潰されることとなりました。

結果として、リブラは「ディエム」と名前を変えましたが、未だに使える状態にはなっておらず、現実的には当初想定されていた世界中の通貨をすべてプールして加重平均で計算できるというものではなく、電子マネーのようなものになるのではないかという、大々的に立ち上げた割には尻すぼみになってしまっています。

これは事業にはほとんど影響はありませんでしたが、叩かれた反発として新しいサービスが出てくるというのは、ザッカーバーグ氏の特性なのではないかと思います。

2021年9月には、インスタグラムなどが青少年に悪影響を与えるのではないかという議論がFacebook内で出たにもかかわらず、利益を優先して何の対策も取らなかったという内部告発があり、アメリカの議会に呼ばれて証言させられることがありました。

今もまた叩かれている状況で、突然の社名変更とメタバースへの注力の発表ということは、時流に乗った新たなワードを用いて世間の目を逸らそうとしているのではないか、という想像ができます。

Next: メタバースブームはやって来ない?米国人の68%「興味がない」



メタバースブームはやって来るのか?

「メタバース」への投資で1兆円という金額は確かに大きいですが、世の中全体に与えるインパクトとしては、実はそれほど大きくはないわけです。

今メタバース関連で株価が上がっている企業が多いですが、少なくともFacebookの動きから直接メタバースが持ち上げられているかというと、まだまだ弱いというのが現実ではないかと思います。

一方で、Facebookがメタバースで仮にうまくいかなかったとしても、メタバースが世の中に広まることで、伸びる会社もあるのではないかと想像できます。

では、本当に流行るのかというところです。

メタバースというものはVRゴーグルを付けて仮想空間に実際にいるように感じられるものですが、視覚と聴覚を仮想空間に持っていかれて、現実の世界ではかなり危険な状態となります。

そして、かなり疲れます。

少しの時間ならまだいいですが、仕事のたびにVRゴーグルを付けるとなると、かなり辛いです。

テレワークならZoomやTeamsで事足りてますし、ホワイトボードを使った会議をやろうと思ったらVRよりも実際に会社に集まった方が早くて楽です。

アメリカの調査でも、68%の人がメタバースに「興味がない」と答えています。少なくとも現在の技術ではメタバースにメリットはないというのが現状です。

しかし、メタバースをそれで切り捨ててしまうものでもなく、実は「メタバース」という名前は付いていませんが、成功している分野があります。

メタバースを活かせるのはゲーム・エンタメの世界

それは「ゲーム」の世界です。

任天堂の『あつまれ どうぶつの森』は大ヒットしました。ゲームの中で友達とオンラインで繋がって会話したりしながら家や村を作っていくゲームです。

ゆくゆくはその感覚で、コミュニティを作ったり、仕事をしたりするようになる可能性は十分にあります。

ただ、それをVRゴーグルを付けてやる必要があるかというのは、別の話になります。

アメリカ発の「FORTNITE」も、オンラインで声などでコミュニケーションをとりながら進めていくゲームで、登録者が3.5億人もいる大ヒット作となりました。

つまり、現実のことをするために仮想世界に入る必要は無く、現実から逃れたいために仮想世界に入るという側面が大きく、メタバースは結局これらのゲームの延長になると考えるのが自然ではないかと思います。

進歩というものはある時突然訪れるものではなくて、前身があって少しずつ進歩していき、長期的なトレンドになっていくものです。

そしてそのトレンドに乗っていく企業を安いうちに買っておくことが、長期投資の基本になると思います。

Next: メタバース関連でチェックしておきたい2つの企業



「NVIDIA」と「AMD」に注目

そういった可能性のある企業の例として挙げられるのがNVIDIAとAMDです。

NVIDIA CORP<NVDA> 週足(SBI証券提供)

ADVANCED MICRO DEVICES INC<AMD> 週足(SBI証券提供)

これらはGPUといういわゆる画像処理半導体を作っている会社です。

元々ゲームが中心ですが、メタバースにおいても、動きを処理するにはインテルが作っているCPUよりもGPUがものすごく活躍します。AIの分野も同様の側面があります。

この辺りは「メタバース」という一過性のバズワードにつられただけではなく、ある程度実態に沿ったものなのではないかと思います。

とはいえ今このメタバースの影響を受けて株価が急上昇しているところがあるので、この瞬間を捉えて言えば眉唾物です。株式市場について言うと、今かなり「浮かれている」ような状況です。

こういったバズワードが急に株価を押し上げるようなことになる時は、危険なときが多いです。

しかし一方では、長期的に着実に積み上げていけそうな部分があるので、これらの企業がどれだけ需要を取れるかという動向は、長期的に見ていきたい分野でもあります。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


つばめ投資顧問は、本格的に長期投資に取り組みたいあなたに役立つ情報を発信しています。まずは無料メールマガジンにご登録ください。

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

【関連】ドン・キホーテ(PPIH)株は今が買い時?32期連続増収増益、成長カギ握る海外進出の勝算は=栫井駿介

【関連】ロボアドバイザーは手数料の無駄?それでも大多数の投資家に有益である理由=栫井駿介

【関連】「自宅は資産」は幻想。住宅ローンを抱えリストラと死の宣告を待つ者たちへ=鈴木傾城

image by:rafapress / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年11月18日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問

[無料 ほぼ 平日刊]
【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。