マネーボイス メニュー

中国テニス選手“失踪”で見えた習近平の瀕死。カネで買えたIOCバッハ会長、買えなかった人権団体=江守哲

中国共産党の元高官から性被害を受けたと告発した女子プロテニス選手・彭帥さんの消息がわからない。都合が悪くなると、このようなことが起きる。何が起きているのかを想像することは可能だが、実際に何が起きたかを確認することは難しい。中国はIOCのバッハ会長まで使って問題の沈静化を図っているが、根の深さが際立つばかりだ。騒ぎになっていることからも、中国の弱体化が見て取れる。(『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』江守哲)

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2021年11月26日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリファンドマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

衰退へ向かう中国

中国の経済状況は、不動産市場の混乱で一時的に厳しい状況になっていたが、少し落ち着いてきたようである。習近平の失政で、経済がおかしくなったのだが、慌てて対処したことで、何とか総崩れは回避されている。

これまで締めていた資金供給を緩めただけなのだが、それでも今の中国経済にはかなり効果がある。バブル崩壊を嫌がり、資金供給を引き締めた結果、不動産がおかしくなっただけであり、それを緩めれば、すぐに戻る。

単純な構図にあるのが、中国経済だが、同じことを繰り返していれば、いずれおかしくなっていく。中国はすでに疲弊しており、厳しい情勢である。

将来性は大きく棄損し、いずれ後退していくだろう。

女子テニス選手が失踪。政治的な道具に利用されたか

そのような状況の中、国内ではおかしなことが起きているようである。最近のワイドショーでも取り上げられるようになったのが、女子プロテニス選手の話題である。

女子プロテニス選手の彭帥選手の動静がわからなくなったのである。その背景には、かなり政治的なものがあるようである。

彭選手は、元共産党最高指導部メンバーとの不倫や性的関係の強要を告発後、消息が途絶えたとされている。彭選手はSNSで、中国共産党の幹部だった張高麗元副首相から性行為を強要され、合意の上で不倫関係を持ったと告白していた。

これもすごいことだが、これがSNSで流れてしまったことは、中国政府からすれば予想外だったであろう。中国政府といえども、すべてを制御できているわけではない。

または、あえて情報を垂れ流し、国民に圧力を与えることもあろう。また、政治的な道具に使うこともできるだろう。

その意味では、今回は政治的な道具に利用されたと考えるのが懸命のように思われる。政敵を落とすには、この手の話を利用するのが手っ取り早い。

Next: 何でもアリの中国社会。「北京五輪」成功が目下の優先事項



「北京五輪」成功が目下の優先事項

さて、彭選手は、中国共産党の幹部だった張高麗前副首相から性的関係を強要されたとソーシャルメディアで告発した後、消息が分からなくなった。

都合が悪くなると、このようなことが起きる。何が起きているのかを想像することは可能だが、実際に何が起きたかを確認することは難しい。

彭選手は、結局約3週間にわたり姿がわからなくなった。有名なテニスプレイヤーだったこともあり、国際的にも懸念されていた。大坂なおみ選手も懸念を示したほどである。当然であろう。

しかし、彭選手は、北京で姿を見せたという。さらに驚いたのは、国際オリンピック委員会(IOC)が21日、バッハ会長とのテレビ電話で、「彭選手が自宅で安全に元気で生活している」などと話したと発表したことである。

どうやってIOCという外部組織が彭選手と連絡をとることができたのだろうか。さらに、なぜIOCという組織が、彭選手が元気であることをアピールすることになったのだろうか。

普通に考えれば、かなりおかしなことが起きていることが誰にでもわかるだろう。

しかし、これには政治的な背景があることも、おそらく容易に理解できるはずである。来年は冬季の北京五輪が開催される。何か大きな問題があっては、中国政府もIOCも困る。

このような問題が大きくなる前に、IOCも取り込んで国際問題にならないように裏で動き、バッハ会長にパフォーマンスをさせたのだろう。あまりに単純すぎて、笑ってしまうほどである。

IOCバッハ会長は中国の言いなりか

しかし、それもおそらく中国の思惑なのだろう。わかりやすいシナリオにしておけば、多くの人間が想像できる。そうすることによって、むしろ馬鹿にするほうに目を向けさせる意図があるのである。

そうすれば、国際問題が、中国政府の政治的な行動の浅はかさに向くことになる。しかし、ことの本質は、問題を起こした政治家の更迭であり、永久追放である。

無論、IOCのバッハ会長は中国の言いなりである。相当の資金をもらっているのだろう。そう考えるのが自然である。ピエロを演じれば、多額の「演技料」が入ってくる。これほどおいしい仕事はないだろう。

それにしても、バッハ氏という人間は、節操がない。日本でも勝手に街に出て、顰蹙を買っている。自分の興味のあることと、お金にしか関心がないのだろう。組織のトップとしては「最悪」である。

しかし、IOCとはそのような組織なのだろう。そうでないのであれば、そう思われないような態度を見せてほしいものである。もっとも、そうでないのだから、取り繕っても無駄なのであろう。いわゆる「開き直り」である。

結局のところ、IOCは中国に利用され、IOCは中国を利用して北京五輪開催の道筋を残したことになる。これでよいのだろう。それにしても、ひどい輩たちである。

この結果、中国共産党の権威失墜は避けられることになる。彭選手については、いまどのような状況にあるのかは、最後までわからず仕舞いである。実際の所在地も不明である。

Next: テニス選手「失踪」は迷宮入りか。しかし人権団体が黙っていない



テニス選手「失踪」は迷宮入りか

この問題が表ざたになってからは、さすがにこの件については一切報じられず、インターネット上で検索もできない状況にあるという。

この問題を突っ込まれて困るのは、中国政府である。外務省の趙氏は23日の会見で、外務省ホームページの会見録に関連質問が掲載されていないと指摘され、「すべての文字は収めていない」と釈明するなど、ごまかしに終始した。

そのうえで、海外で懸念表明などの反応が相次いでいることに対し、「一部の人たちに悪意のある宣伝をやめるよう望む。政治問題化してはならない」としている。

明らかに動揺しており、この問題の根の深さをうかがい知ることができる。

人権団体が黙っていない

しかし、黙っていないのが、人権団体である。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、IOCのバッハ会長が彭選手とテレビ電話で会話して無事をアピールしたことについて、「中国政府のプロパガンダを助長してはならない」と批判する声明を出した。

同様に、女子テニス協会(WTA)も「テレビ電話で懸念は解消できていない」と断じている。それはそうであろう。中国政府やそれに加担しているIOCのやっていることは、まさにプロバガンダだからである。

HRWは「性暴力という重大な告発をする選手を犠牲にし、中国政府の説明をうのみにするとは驚き」と、IOCの対応を疑問視している。

さらに「他の関係者が彼女と連絡を取れない中、テレビ電話がどのように準備されたかをIOCは説明していない」とし、IOCと中国との協力関係に不信感をあらわにした。

そして、「IOCは選手の権利と安全を侵害する、最たる存在である中国との関係を大切にしているようだ」とやり玉にあげ、中国政府が彭さんの問題でメディアやインターネットの検閲を継続している対応も非難している。

女子テニスツアーを統括するWTAは、この問題について、中国のトーナメント不参加の可能性に触れつつ、透明な調査と、彭さんの健康と安全の保証を求めた。

現在は、これまで以上に人権が尊重される時代である。そのような時代の中で、昔のドラマや映画の話のようなことが、いまだに起きているのが中国なのである。

Next: 北京五輪「ボイコット」の輪が拡大中。中国の弱体化は明らか



中国の弱体化は明らか

このような状況から、中国が北京五輪に向け準備を進める中、国際人権団体などからは中国の人権問題を理由に五輪のボイコットを呼び掛ける声が上がっている。この声は意外に大きくなっていく可能性がある。

政治とスポーツの問題は、以前から取り上げられてきた。五輪を目指して頑張ってきた選手の気持ちなど考える気など、中国政府には毛頭もないだろう。

それは、IOCも同じかもしれない。むしろ五輪を利用するにはどうすれば最大の効果が発揮されるかを見極めようとしている可能性さえある。

所詮、このような話は金(カネ)でしか片付かない。国際社会からつまはじきにならないようにするためには、いまのような微妙なバランスを試しながら、なんとか立ち位置を維持するしかないのである。

このように考えると、中国の力はやはり弱くなっているといえるだろう。

続きはご購読ください。初月無料です<残約3,200文字>

・中国最大の懸念は「台湾問題」
・米中関係に変化の兆し
・日本はどう動くべきか
※これらの項目は有料メルマガ購読者限定コンテンツです →いますぐ初月無料購読!

<初月無料購読ですぐ読める! 11月配信済みバックナンバー>

※2021年11月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

2021年11月配信分
  • 「米中関係に変化の兆しか」(11/26)
  • 「COP26の失敗と中国の暴発リスク」(11/12)

いますぐ初月無料購読!


本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2021年11月26日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。

2021年10月配信分
  • 「中国没落への道」(10/22)
  • 「岸田政権の本質を考える」(10/8)

2021年10月のバックナンバーを購入する

2021年9月配信分
  • 「中国包囲網が着々と構築中」(9/24)
  • 「タリバンは米中の板挟みに」(9/10)

2021年9月のバックナンバーを購入する

2021年8月配信分
  • 「アフガン問題は米中戦争の一部」(8/27)
  • 「東京五輪後の政治に注目」(8/13)

2021年8月のバックナンバーを購入する

2021年7月配信分
  • 「中国の焦りと東京五輪開催」(7/23)
  • 中国共産党100周年と習近平氏の焦り(7/9)

2021年7月のバックナンバーを購入する

2021年6月配信分
  • 「米国対中露の構図とインドの存在」(6/25)
  • 「中国の弱体化は深刻」(6/11)

2021年6月のバックナンバーを購入する

2021年5月配信分
  • 「米中戦争が日本・台湾も巻き込んで再燃へ」(5/28)
  • 「先進国の対中包囲網は機能せず」(5/14)

2021年5月のバックナンバーを購入する

2021年4月配信分
  • 「米国の威信が問われる情勢」(4/23)
  • 「米中対立に日本はどう対処するのか」(4/9)

2021年4月のバックナンバーを購入する

2021年3月配信分
  • 「バイデン政権の外交は最悪の船出」(3/26)
  • 「バイデン政権の外交政策を理解する」(3/12)

2021年3月のバックナンバーを購入する

2021年2月配信分
  • 「イランの揺さぶりは危険な兆候」(2/26)
  • 「バイデン政権には困難しかない」(2/12)

2021年2月のバックナンバーを購入する

2021年1月配信分
  • 「バイデン新政権誕生」も多難な船出(1/22)
  • 「トランプ劇場」の終末(1/8)

2021年1月のバックナンバーを購入する

2020年12月配信分
  • 「コロナに振り回された一年も終わる」(12/26)
  • 「バイデン政権は中国に屈する」(12/11)

2020年12月のバックナンバーを購入する

2020年11月配信分
  • 「バイデン政権も中国を止められない」(11/27)
  • 「バイデン氏の勝利確定までは紆余曲線」(11/13)

2020年11月のバックナンバーを購入する

2020年10月配信分
  • 「米大統領選挙はトランプ氏の勝利へ」(10/23)
  • 「トランプ大統領がコロナに感染」(10/9)

2020年10月のバックナンバーを購入する

2020年9月配信分
  • 「米中対立は真の戦争に発展か」(9/25)
  • 「中国の脅威」に怯える米国(9/11)

2020年9月のバックナンバーを購入する

2020年8月配信分
  • 「安倍首相が辞意」(8/28)
  • 「米中対立の末路は米国にとって悲惨な結果に」(8/14)

2020年8月のバックナンバーを購入する

2020年7月配信分
  • 「米英同盟はこのまま沈没するのか」(7/24)
  • 「トランプ大統領は末期症状」(7/10)

2020年7月のバックナンバーを購入する

2020年6月配信分
  • 「北朝鮮は学習しない」(6/26)
  • 「トランプとともに沈みゆく米国」(6/12)

2020年6月のバックナンバーを購入する

2020年5月配信分
  • 「ますます追い込まれる米国」(5/22)
  • 「200年ぶりの大変革が起きるのか」(5/8)

2020年5月のバックナンバーを購入する

2020年4月配信分
  • 「米国の怒りと新秩序への序章」(4/24)
  • 「新型コロナウイルスと米大統領選の行方」(4/10)

2020年4月のバックナンバーを購入する

2020年3月配信分
  • 「新型コロナウイルスはとんでもない大事件」(3/27)
  • 「新型コロナウイルスの影響は甚大」(3/13)

2020年3月のバックナンバーを購入する

【関連】日本「年収30年横ばい」の黒幕は内部留保。労働生産性に見合った賃金を払わぬ大企業の罪=勝又壽良

【関連】「日本円の現金保有は最悪の選択」ジム・ロジャーズ、レイ・ダリオら警告=花輪陽子

【関連】国が勧める「NISA」の真実。非課税にしてまで政府が手に入れたいもの=俣野成敏

image by:Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』(2021年11月26日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ

[月額880(税込) 毎月 第2金曜日・第4金曜日(年末年始を除く)]
このメールマガジンでは、国際情勢や国内外の政治情勢の「真の背景」を読み解きます。経済は政治で決まり、政治は国の組織が決めます。そして、すべてのことがシナリオに基づいて動いています。しかし、その舞台裏は意外とシンブルです。それらの「真の背景」を理解すれば、すべてが面白いように見えてきます。毎月第2・第4金曜日にお届けするこのメルマガでは、これまで世界各国の人間と仕事をしてきた経験と人脈から、マスコミが報じることができない独自の見解をお届けします。ビジネスマン、投資家、学生など、様々な立場のひとにとって有益な情報となるでしょう。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。