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トヨタは電気自動車を売っても儲からない。株価上昇が期待できる関連銘柄の大本命とは?=栫井駿介

トヨタが2030年のEVの販売台数目標を、200万台から350万台に引き上げました。それによってEV関連銘柄の株価が上がっています。しかし、単に盛り上がっているからという理由で飛びついたら痛い目を見るかもしれません。このEV化の波が企業や業界にどのような影響を与えるのかを理解する必要があります。今回は、トヨタがEV化目標を引き上げた理由と、それによってトヨタは儲かるのか、そして自動車サプライヤーの中での本命はどこなのかについて解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

EVは儲からない!?

トヨタはこれまで、2030年EV販売台数目標を200万台としていて、これは年間販売台数の20%に過ぎず、他の自動車会社と比べて脱炭素に非協力的だと言われていました

しかしこれは誤解で、電気自動車は製造過程で多くのCO2を排出するため必ずしもクリーンではなく、水素やハイブリッドといった、EVとは別の路線を選んでいただけでした。

現実的なコストや航続距離の面から、ハイブリッドが現実的なのではないかと考えていたのです。

とはいえ、上場企業としては世間の声を無視するわけにもいかないので、今回の目標引き上げとなりました。

年間350万台とまだまだ控えめな数字ですが、EVのラインナップも発表していて、トヨタとしてはかなり意欲的な目標だと見えます。

これは私の個人的な考えですが、EVは儲からないのではないかと思います。

利益を上げるためには、価格を上げるか販売数を増やす、このどちらかになります。

EVの製造には高いコストがかかるものの、エンジン車よりも高くなってしまったらそもそも売れなくなってしまうので、現状では補助金に頼っています。

価格を上げられないとなると販売数を増やす必要がありますが、世界の自動車販売が今後大きく増えるとは考えにくいです。

また、EVはエンジン車よりもかなり簡単にできてしまうので、新規企業の参入が容易です。

つまり、競争が激しいのです。

まさに今、テスラに風穴を開けられている状況です。

EVを増やすことで必ずしも儲かるというわけではないのです。

トヨタがEV化目標を引き上げたのは、企業の成長のためではなく、他社に後れをとるまいというものが大きいのではないかと思います。

また、EVはエンジン車に比べて部品の数が7割も少ないため、EVに集中させると今までエンジン車の部品を作っていた会社が厳しくなってしまいます。

その会社や雇用を守るためにも、EV一本に舵を切れないでいるという側面もあると思います。

Next: 盛り上がるEV関連銘柄のうち、成長が期待できる大本命は?



EV関連銘柄、本命は?

EV化で必要なくなる部品がある一方で、EV化しても無くならない、むしろ重要度が増す部品もあります。

そういったものを作る企業がこれからは伸びてくると考えています。

その中でも私が本命としているのがデンソーです。

社名の由来が『日本電子装置』ということからも分かるように、自動車の電機関連部品を作っている会社で、EV化の流れにも取り残されないと思われます。

車のエアコン、車を走らせる仕組みである「パワートレイン」、自動運転にも必要となるセンサーを作る「セーフティ&コックピット」、この3つの分野があり、いずれもEVにも必要不可欠なものです。

これらを作る会社として、売り上げの半分はトヨタグループということになりますが、世界第2位となっています。

ライバルとしてはドイツの「BOSCH」「Continental」、カナダの「MAGNA」などがありますが、それらを十分に伍していける力を持っています。

EVになかなか舵を切らないトヨタグループにありながら、デンソーはEVに積極的に投資を行っています。

それがこの図からよくわかります。

2035年には「内燃系」つまりガソリン車の売り上げが半分になると想定しています。

一方で『CASE』(Connected、Automated、Share、Electric)つまり電気自動車の割合をどんどん増やしていこうという目標を掲げています。

内燃系の成長性の無い分野は切っていき、EVの分野に集中していこうという動きを見せています。

実際にその力も持っています。

エアコンやセンサーなどはEVになっても必要になりますし、高い技術を持っていればより多くの車、よりプレミアムな車に搭載されることになります。

研究開発もかなり積極的に行っていて、その過程でデンソーウエーブという子会社が「QRコード」を開発しました。

それほど発想力や研究開発力は強いものを持っています。

さらに、SiC特許総合力ランキングでは5位に入っています。

SiCとは半導体のことで、当然上位には半導体の会社が入るはずなのですが、その5位にデンソーが入っています。

確かに電気部品に半導体は必要不可欠ではあるものの、専門ではない半導体の研究開発にも余念がないことが見て取れます。

Next: EVで儲かるのは部品会社。デンソーは買いか?



デンソーは買える?

さて、デンソーの業績はどうでしょうか。

デンソー<6902> 業績(SBI証券提供)

利益に関しては上がったり下がったりしていますが、売上高のトレンドとしては右肩上がりとなっています。

自動車市場が伸びているということはありませんから、やはりデンソーの力が増してきているということです。

トヨタグループへの売上比率を見てみると、2013年には64.4%あったものが、2018年には57.3%まで下がっています。

すなわち外販を増やしているということです。

デンソーに対する需要と、デンソーの売りたいという意欲がマッチした結果が業績として現れています。

トヨタがEVを増やすことも追い風になるでしょう。

高い技術力を持っていて、成長性の高い分野にシフトしているという動きが見えていますから、投資対象として安心感もあります。

日本の数少ない優良企業であると考えています。

デンソーの株価ですが、右肩上がりを続けて、今では上場来最高値を更新しています。

デンソー<6902> 週足(SBI証券提供)

今期最高益を見込んでいてそれでPER20.8倍と、平均より少し高いくらいとなっています。

ここからさらに利益の上乗せを期待できるとなると、決して割高な数字ではないのではないかと思います。

目先でどう動くかは分かりませんが、少なくとも長期で見た時には、EV化の波に乗っているし、財務状況も健全で、成長意欲もあるということで、注目すべき銘柄です。

まとめ

・EVは儲からない。本命は部品
・デンソーはトヨタを差し置きEV投資を積極化
・株価は上場来高値も、割高感はない

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:josefkubes / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年12月19日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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