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ジョブ型雇用を恐れる中高年が見逃している日本型雇用の悪習。「社員は家族」が低賃金の温床に=原彰宏

コロナ禍でテレワークを強いられたことをきっかけに、日本人の働き方が大きく変わろうとしています。これまでは会社にいる時間で評価された「メンバーシップ型」から、量より質を重視する「ジョブ型」への変化です。日本では簡単には受け入れ難い「ジョブ型」労働ですが、企業への導入の流れはもう変えられないでしょう。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年2月21日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

勤務時間ではなく成果物を評価する「ジョブ型」労働

最近よく耳にするのが「ジョブ型」労働。

特にテレワークが進むなかで話題になったもので、会社拘束時間いわゆる「勤務時間」よりも「成果物」を評価する労働形態を言います。

成果物を評価するというのは、査定する側の能力も求められます。また従業員のコンセンサスも必要で、会社側の認識や従業員側の理解が得られない企業が、コロナ収束と同時に従業員の出勤を求めているようにも思えます。

もちろんテレワークに適していない業務もあります。ただテレワークという労働形態は、これからはどのような形であれ、広く普及してくるように思えます。

社会が、新しい労働のあり方を求められているように思えます。たとえば就職希望者側の条件にも「労働の多様性」を求めているようです。労働力確保の観点からも、テレワーク推進は考えるべきものになっていくでしょうね。

つまり、就職企業を選ぶための“差別化”の意味でも、働き方の多様性を考慮することは、労働力の確保上、重要な観点になってくると考えられます。

求められる業務内容の変化も、雇用のあり方を変えていきます。

人々の働き方が変わる

労働が「製造工程ラインの一部」であった形態から、クリエイティブな要素が求められる業務に変わってきています。

労働時間を提供すれば完結する業務から、付加価値が求められる業務へ…。

製造工程ラインの一部であった頃は、会社に行って労働力を提供した「時間」が評価されていました。「雇用者の“時間”売り」ですね。契約を超える労働時間の提供は「残業」という名目で、時間単価割増という形で、企業が従業員の時間を“買う”ことが「雇用」となっていました。

企業による労働者管理は「時間管理」だったのです。時間単価は役職で変わり、勤続年数によって上がっていきます。

テクノロジーが進歩し、ロボット技術も進化して、生産工程に人の手を必要としなくなりつつあるなかで、従業員の“時間”を求めることも少なくなる傾向にあります。

評価するものが「時間」ではなく、従業員が生み出す「成果物」になる。さらに「成果物」の質が問われるようになってくると思われます。

第四次産業革命と言われる、AIなどのテクノロジー改革が社会のあり方を変えてきて、それに合わせて「労働」形態、「雇用」のあり方も、変わらざるをえないものになってきました。

そのタイミングが、コロナによって早まったというのが正しい表現でしょうね。

コロナはきっかけに過ぎない……会社に出勤すること以外の「働く」という形があることを、またその方が効率的であることを顕在化させたのが「コロナ」だったのかもしれませんね。

Next: 仕事の質を向上させた人が評価される世界へ。成果がなければ…



仕事の質を変える人が評価される「ジョブ型」

「ジョブ型」は、いままでの従業員の時間管理のシステムから、成果物評価に変える働き方のことです。仕事の「量」ではなく「質」が問われるようになります。

成果物評価には透明性が求められ、客観性が要求されます。成果物を評価するうえで、年齢や性別は一切関係ありません。資格の有無や学歴も関係ありません(のはずです)。

アイデアを生み出す知識や経験は必要でしょうから、それが必ずしも年齢や学歴にリンクすることははないですが、「メンバーシップ型」と呼ばれる集団が大事な価値観から、「個人の能力・個性」が求められてくる働き方となるなかでは、知識や経験の重要性は増してくると思われます。

それゆえ、仕事の質を向上する努力をした人と、そうでない人の“違い”は明確になります。自ずと「ジョブ型」では、賃金格差は大きく広がることになるでしょう。

成果物査定により、人の感情による定性評価が排除できて、しかも査定結果も民主的であることが「理想」の形なのですが、果たして現実はどうなるのでしょうね。

経営者・労働者ともに意識を変えることが必要

「ジョブ型」は、人間関係を大事にしてきた日本企業の風土では、なかなか馴染めない評価制度になるでしょうから、一気に変わることには抵抗を覚える人も少なからずいることでしょう。

余談ですが「社員は家族」という企業風土は、一見すると社員に優しいイメージを持ちますが、裏を返せば「家族なんだから我慢しなさい」「家族なんだから会社に無償で尽くせ」という思いが込められているのです。

「社員は家族」ではなく「社員は会社との契約の上にある」ものです。だからこそ、成果物査定には、透明性と客観性が求められます。

評価は民主的でなければなりません。それゆえ「ジョブ型」導入には、査定する経営者側の意識を変えることが重要になってきます。

さらに、労働者側の意識も大きく変わらなければ、成立しないということにもなります。

労働者の中には「能力主義で淘汰される」とか「欧米式評価でドライに切り捨てられる」といった印象を持っているようです。

「成果物の評価」という表現が、プロセスよりも結果重視というイメージを、強く感じているのでしょう。

労働者側の自己肯定感、自信の有無も問われることでしょう。

Next: 変化は怖い?「メンバーシップ型」と「ジョブ型」の大きな違いとは



「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の違いとは

「ジョブ型」「メンバーシップ型」について、もう少し細かく見てみましょう。

今までの日本の労働のあり方を「メンバーシップ型」と表現しています。これは、新卒一括採用による総合的スキルを求められる労働形態と言われています。終身雇用を前提に総合職を採用し、配置転換しながら経験を積ませる日本型雇用の典型です。

職務を限定せずに企業のメンバーとして迎え入れ、職種や勤務地、時間外労働に関しては会社の命令次第という日本独特の正社員雇用スタイルといえます。

視点を変えれば、会社に行くことで給料がもらえる。会社にいる時間で給料の額が変わる……この「メンバーシップ型」を「時間売り」労働だと見ると、テレワークでは実際にどれだけの時間を会社業務に費やしているかが把握しづらいというのが、出社義務復活の前提となっているようです。

どこまで会社拘束時間とみなすのかが区別しづらいからテレワークはよくないとするのか、あるいは働き方の多様性からテレワークを認めることで、評価制度を変更しようとするのか。

考え方のアプローチが違うことで、結果は異なってきます。

ジョブ型労働に否定的な人の考え方

企業がグローバル化し、海外では「ジョブ型」が主流となっているとは言え、日本社会に馴染むまでには考慮しなければならないこともあるでしょう。

「ジョブ型」労働に否定的な立場の人には、先程も述べたように、「能力主義で淘汰される」とか「欧米式評価でドライに切り捨てられる」といった印象を持っているようだと指摘しました。

給料は生活給か。残業が減って手取り額が減ることにより、住宅ローン返済が厳しくなった家庭もあります。給料が生活給であることから、実力で給料の額が決められることに抵抗感を感じるのはわかります。

そもそも、なんのために仕事をしているのでしょう。「生活のため」「家族を養うため」……それは答えとしては「正解」でしょうが、そのために「能力給重視の給料システムに反対」というのはどうでしょう。

「生活のために能力を磨こう」という発想にはならないのでしょうか。

「メンバーシップ型」労働のひとつの側面でもありますが、「簡単にクビにはならない」という点がメリットに挙げられるところがあります。

一方で、会社都合でのジョブローテーションは受け入れなければなりませんし、ある意味で従業員としての「我慢」のうえに給料があるという考え方もできますね。

Next: 低賃金の原因に?メンバーシップ型を守ってきた労働組合の在り方



低賃金の元凶?メンバーシップ型を守ってきた労働組合

日本と海外で「労働組合」の在り方が違うという点も、日本が今まで「メンバーシップ型」労働が受け入れやすかったという見方があります。

海外では「業界ごと」に労働組合が存在するのに対し、日本では「会社ごと」に労働組合が存在します。

そういう意味では、会社ごとの労働組合は自社の従業員は守ってきたということで、そこには帰属意識を共有できる「メンバーシップ型」が受け入れられたのでしょう。

個人的見解ですが、労働組合の存在が、日本の雇用の流動性をなくし、従業員の地位保全と引き換えに賃金が上がらない状況を受け入れているように思えてならないのです。

いずれにしても、業務のあり方、グローバル人材の確保、給与を上げる観点からも「ジョブ型」労働は、今後も検討されていくことが予想されます。

スペシャリストを作るジョブ型

「ジョブ型」はスペシャリストを育てるには適していて、いままでの日本の会社に求められてきた「ジェネラリスト」は育ちにくいとも言われています。

でも、果たしてAIが進化し、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むなかで、どういうジェネラリストが求められるのかを考え直したほうが良いと思います。

それは従来型の「ジェネラリスト」ではないはずです。

アメリカではすでに、「ジョブ型」から「タスク型」労働の動きへと進んでいます。タスク・案件ごとにチームを作り、違う分野のスペシャリストを集めてプロジェクトを遂行していく働き方です。

日本でもプログラミングの世界ではすでに行われていて、「クラウドソーシング」により、ネット上で呼びかけてスペシャリストを集めることができます。

より専門性の高い分野の仕事がこれに該当するでしょう。企業においても、プロジェクトごとにチームを編成する例はいくらでもあります。

Next: 新卒一括採用、定年制、解雇規制……労働環境に大変革が訪れる



労働環境に大変革が訪れる

今まで当たり前と思われていた企業風土、雇用の世界が変わってくると思われます。

・新卒一括採用の是非
・定年制の問題
・解雇規制の緩和議論

新卒一括採用の議論では、大学の「秋入学」採用も絡んでくる問題です。

定年制は、すでにいろいろなところで話題になっていて、一部企業では早期定年制度の導入も検討されています。

また解雇規制の緩和議論に関しては、雇用者を守る観点で生まれた制度ではありますが、企業からすれば、業績が悪くても人件費を下げることができないので、給料を上げられない環境にあるという側面もあります。

労働者側も、国や企業に求めるだけでなく、自分たちにできることを考える必要があるでしょう。自分の技術や能力を向上することに背を向けないようにしていくことが、大事なように思えるのです。

第四次産業革命の雇用は、おおむね「ジョブ型」に移行していくことが予想されます。それがどうやら流れのようです。

流れに逆らうのではなく、諦めるのではなく、成果評価を恐れないで、前向きに捉えていきたいものです。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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