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ネット中傷は「侮辱罪」厳罰化で止まるか?批判と侮辱の線引きは警察次第、政治家への悪口も犯罪となる危険性=原彰宏

ネット上での誹謗中傷を抑止するため、侮辱罪の厳罰化を盛り込んだ刑法改正案が決議されました。木村花さんの事件をきっかけとした改正ですが、政府の運用次第では、政治家への批判にも侮辱罪を適用できます。そのため、表現の自由が奪われるという懸念も出てきています。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年3月21日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

ネット誹謗中傷を抑止する「侮辱罪」厳罰化

政府は閣議で、社会問題となっているインターネット上の誹謗中傷を抑止するための「侮辱罪」厳罰化や、懲役刑と禁錮刑を一本化した「拘禁刑」の創設を盛り込んだ刑法など関連法の改正案を決定しました。

政権与党である公明党のホームページに、今回の改正案についての説明があります。

侮辱罪は公然と人を侮辱した行為に適用され、現行の法定刑は「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」となっている。これを改正案では「1年以下の懲役もしくは禁錮、30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」とする。<中略>

一方、誹謗中傷と正当な批判を区別する難しさもある。改正案の審議では、「表現の自由」も含め丁寧な議論が求められる。<中略>

改正案では、刑事責任が問えなくなる公訴時効も1年から3年に延びる。SNSでの中傷は匿名投稿のため発信者の特定に時間がかかり、時効で被害者が泣き寝入りするケースも多い。被害者救済の面でも改正案の意義は大きい。

出典:【主張】ネット中傷 侮辱罪の厳罰化で根絶めざせ – 公明党(2022年3月11日配信)

木村花さんへの誹謗中傷、罰金はわずか9,000円だった

法改正の機運が高まったのは、2020年5月、ネットで中傷を受けたプロレスラー木村花さん(当時22歳)が自ら命を絶った事件があり、これを契機に厳罰化の動きが進んだと報じています。

警視庁は、木村さんへの誹謗中傷をおこなったとして、30代の男性を「侮辱罪」の容疑で書類送検しました。

ところが、男性はたった9,000円の科料で放免となったことから、より厳しい刑罰を求める声が上がったとされています。

ネット誹謗中傷も立派な「犯罪」

もともと侮辱罪の法定刑はきわめて軽い「拘留・科料」で、軽犯罪法と同じで、いわば「準犯罪」といった位置づけでした。

それが、1年以下の懲役刑と罰金刑が改正案で追加されたことにより、痴漢や遺失物横領と同じ「犯罪」に位置づけられるようになりました。

暴行は懲役2年までなのでそれよりは軽いですが、それでも「侮辱罪」は正式に犯罪の仲間入りをしたということになるのです。

Next: 批判と中傷の違いはどこに?「表現の自由」との兼ね合いも議論に



線引きが困難な批判と中傷

単なる悪口と侮辱をどう区別するのか。その明確な基準を設けることは、非常に難しい状況にあります。

ただ、明確な「犯罪」となった以上、これまでよりもこの基準は、たとえ明確に示さないとしても大きな問題になります。

取り締まる側の恣意的な判断による摘発…。悪口を言うと犯罪になるかもしれない。という考えによる「萎縮効果」が気になるところです。

「侮辱」が本格的な犯罪になると、萎縮効果が強く働きます。本来は適法で、刑法が介入するべきではない言論まで、萎縮してしまうことになりかねません。

政治家への批判も侮辱罪になるのか?

「表現の自由」は、どこまで守られるようになるのでしょうか。

政治家の批判ができなくなる……「侮辱罪」の運用次第では、政治家への批判も、政権批判も取り締まることができるようになるのでは?といった意見も散見されます。

過去にはライブ配信に出演する被害者に対し「ブタ」と発言したり、ネット掲示板に実名とあわせ「アホ丸出し」と書き込みしたことで摘発されているようです。

法律は運用次第。法整備は重要ですが、法は運用する側のモラルも問われます。

国民の行動を縛る法であればあるほど、強制力と同時に、その方を扱う側の倫理が強く求められることを、国民は理解しなければならないと思います。

法の使い方に問題はないのか。その行為までは規制できないのが、現状ですからね。

民事訴訟法の改正も閣議決定

今回は「民事訴訟法のIT化」を含めた民事訴訟改正案という別案件も、閣議決定されました。

法務大臣の諮問機関である法制審議会が、法改正に向けた4つの要綱を決定し、古川法務大臣に答申したものです。

このうち民法の改正に向けた要綱では、離婚から300日以内に生まれた子どもは前の夫の子と推定すると規定されている「嫡出推定」の制度をめぐり、再婚している場合は、離婚から300日以内に生まれた子どもでも、今の夫の子と推定するとしています。

親が教育や監護を目的に子どもを懲戒することができる「懲戒権」について、規定を削除することも盛り込まれました。

民事訴訟法の改正に向けた要綱では、民事裁判での手続きのIT化を進めるため、オンラインで訴状を提出できるようにするほか、口頭弁論でウェブ会議の活用を認めるなどとしています。

法務省は、民事裁判での手続きのIT化に加え、個人を特定する情報を明らかにせずに手続きを進められる制度の創設などに向けて、今の国会に民事訴訟法の改正案を提出し、成立を目指す方針です。

これらは、法制審議会を1年半ほど、23回も継続して開いて、慎重に議論して、ようやく案ができました。また、法制審議会の前に検討会と研究会を2回開催しています。

Next: 審議はわずか2回。慎重な議論がなされなかった侮辱罪



慎重な議論がなされなかった侮辱罪

基本法を変えるというのは、それくらい大変なことです。

慎重な手続きが必要な中で、前述の「侮辱罪」の法制審議会は、去年の9月と10月の2回しかやっていないと、「FLASH」Web記事は指摘しています。
※参考:SNSに「ブタ」と書いたら懲役刑…侮辱罪の厳罰化で「政治家の悪口も言えない」 – Smart FLASH(2022年3月10日配信)

記事にはネット上の誹謗中傷に詳しい吉峯耕平弁護士の主張が取り上げられていて、「悪口は基本的に罰しないことが重要」という主張が載せられています。

たとえば「安倍は独裁者だ!」みたいなことを言う人はいっぱいいます。牢屋に入れられることを心配しないで、悪口を自由に言えることは、我々の社会の重要な価値です。

悪口は規制できないというのはよくわかりますし、「悪口の基準」が明確に示せないことにより、法の運用側の恣意的判断が働く要素があることは否めないでしょう。

記事でも書かれているように、憲法の「表現の自由」を制限する非常に重要な問題なのに、審議された時間があまりにも短いという指摘は非常にうなずけます。

今までもこの手の法案、国民のプライベートにまで調査が及ぶであろう権利を認めるものや、秘密保護強化、共謀罪などの法案審議は、あっという間に決められたという印象がありますね。

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三原じゅん子議員のTwitter発言の問題点

ここまでの流れを踏まえて、下記の自民党三原じゅん子議員のTwitterでの表現を見てください。

2020年5月26日午前9時5分投稿の三原じゅん子参議院議員のツイートです。映画評論家町山智浩氏のツイートを受けての発言です。

この三原氏の「しかし、」以降の表現が、リベラル派のネットメディアに批判されているようです。

前述の「FLASH」記事内の吉峰弁護士が例としてあげた「安倍は独裁者だ!」発言は、三原氏の論で言えば「アウト」ということになりますね。

たしか三原じゅん子参議院議員は、自民党政務調査会デジタル社会推進特別委員会の「インターネット上の誹謗中傷・人権侵害等の対策プロジェクト・チーム」の座長でしたよね。

規制内容が曖昧で、権力側、捜査当局の判断によるところが大きいとされる法律であることは間違いないようです。

Next: 「侮辱罪」厳罰化が招く日本のロシア化



「侮辱罪」厳罰化が招く日本のロシア化

プーチン大統領への非難を圧殺する今のロシアに、日本もなるということでしょうか…。日本がいまのロシアになることだけは、どうしても避けたいです。

現在、ウクライナとロシアが戦争しているさなかに、前回の警察法改正とともに閣議決定された法案に対して、マスコミは一切取り上げていないのが現状です。

三原じゅん子議員のツイートが話題になったことで、広く知られるようになった侮辱罪厳罰化の問題。たしかにネット上の無法状態を取り締まるうえでは必要なものだと理解はします。

しかし、私たちの「言論の自由」は守られるのか、政治批判ができなくなるでは?という問題も含まれていることを強く認識しなければならなりませんね。

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