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なぜ暗号資産「Terra/LUNA」は紙クズに?安定するはずのステーブルコインでいま起きていること。攻撃から暴落までの一部始終と今後の課題=山本仁実

2022年5月、暗号資産「Terra(テラ)」と「LUNA(ルナ)」の暴落が引き金になり、ビットコインを巻き込んで市場全体に混乱をもたらした。米ドルに価値が連動するはずのステーブルコインがなぜ崩壊したのか?その原因と今後の課題について暗号資産取次所サクラエクスチェンジビットコイン代表の山本仁実氏が解説する。

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プロフィール:山本 仁実(やまもと ひとみ)
株式会社サクラエクスチェンジビットコイン(SEBC)代表取締役。フランス・スイスにて国連機関でのインターンに従事。2016年9月マサチューセッツ工科大学 Fintech Future Commerce修了。日本が暗号資産の世界最先端国になることを確信し、大学院在学中に起業。「Crypto for Happy」をテーマに暗号資産の仕組みを用いた社会貢献、人を幸せにするプロダクト開発を目指し活動中。毎日放送「よんチャンTV」、TBS「NEWS23」などメディア出演多数。

ステーブルコインとは

ステーブルコインとは、価格が安定したコインという意味だ。米ドルを中心とした主要な基軸通貨に対して価格を維持(ペグ)し、かつブロックチェーン上で発行・流通するという特性を活かした次世代の通貨である。

実社会のビジネスや金融市場との橋渡しとして、価格を安定させわかりやすくしたステーブルコインは必須の存在になっている。

そんなステーブルコインは、大きく3つに分類することができる。

<1. オフチェーン担保型>

ひとつめは、オフチェーン担保型と呼ばれている。オフチェーンというのは、ブロックチェーンの外という意味であるため、別の言い方をすれば「銀行等の従来から存在する金融機関に、従来から存在する金融資産の形で担保が保管されている」ものになる。その担保の中身はプロジェクトごとに異なるが、多くが米ドルであったり、金(ゴールド)や債権などの金融商品となっている。代表的なものは、アメリカの Tether 社が発行する Tether(USDT)だ。

担保の性質上、規制当局との距離が近く、3種類の中では信用が最も高い。しかしそれは同時に、金融商品として見た場合の魅力は、担保として保有される従来型の金融資産の魅力を超えることはない。また、規制当局との距離の近さや、金融機関での担保の保有という性質から、市場環境の変化に対する反応は遅くなる。

<2. オンチェーン担保型>

ふたつめは、オフチェーン担保型に対して真逆の性質の担保を持つもの、オンチェーン担保型だ。オンチェーンとはつまり、ブロックチェーンの上に担保資産があるということになる。要するに、担保そのものが仮想通貨によって成り立っているステーブルコインだ。

具体的には、ビットコインやイーサリアム等が担保として預け入れられ、その資産価値の範囲でステーブルコインが発行され、流通する。仮想通貨はボラティリティが高いため、担保として預け入れただけでは到底安心できない。この分類に該当するステーブルコインでは、プログラムが常に担保資産の価格変動に目を光らせ、安全な流通量を管理している。プログラムによる制御が発達した DeFi(分散金融)の主要な機能だ。MakerDAO が発行する DAI がこの分類に該当する。

<3. アルゴリズム型(無担保型)>

最後に、まさに次世代のステーブルコインだと期待されたのがアルゴリズム型だ。アルゴリズム型は、無担保型とも言われ、担保が存在しない。国家がその信用を元に通貨を発行するように、ブロックチェーン上で動くプログラムが通貨を発行する。ついにブロックチェーン上に中央銀行を生み出すプロジェクトが出てきたということだ。

実はこのアルゴリズム型、無担保型のステーブルコインは、これまでに何度も試みられて、そのたびに課題を浮き彫りにしてきた。そしてその都度改善された新しい試みが誕生している。

今回、アルゴリズム型ステーブルコインの注目銘柄であった Terra USD(UST)が、ペグ外れを起こし崩壊した。その影響は暗号資産市場全体へと波及し、大きな混乱を呼んでいる。

Next: なぜ崩壊?ステーブルコイン「Terra」で起きたこと



ステーブルコイン「Terra」とは

韓国発のアルゴリズム型ステーブルコインプロジェクト Terra は、独自のブロックチェーン Terra Blockchain を開発し、その上でいくつかの通貨にペグしたステーブルコインを発行している。米ドルに対応した Terra USD や韓国ウォンに対応した Terra KRW が主要なステーブルコインとして扱われた。

このプロジェクトでは、ステーブルコイン発行に関する重要な意思決定を行ったり、プロジェクトから出た収益を分配するために、Luna というトークンも発行している。Luna トークンの保有者は、プロジェクトの成功に伴う Luna 価格の上昇を期待して保有するという位置づけだ。

Luna には重要な用途がある。それが、Terra ステーブルコインの価格調整だ。Terra のステーブルコインは、プログラムにより供給量をコントロールすることで、価格を制御している。

Terra USD の需要が上がり1ドル以上の価値がつきそうな場合には、Luna を焼却し Terra USD を追加発行することで価格を下げる。逆の場合は、Luna が追加発行され、Terra USD の価格を押し上げる。その過程で得られる通貨発行益は、Luna 保有者に還元される仕組みが組み込まれた。

ここまでだけでも相当に挑戦的なプロジェクトであるが、Terra は DeFi ブームに乗っかり、さらなる挑戦を仕掛けた。

せっかく発行されたステーブルコインも、使われなければ経済圏は拡大しない。それでは Luna 保有者が儲からず、それはすなわち Luna 価格の上昇につながらず、よって Terra ステーブルコインの発行規模を拡大できない。

そこで、ステーブルコイン決済がモバイル決済にも使えるようになる決済プラットフォームを開発したり、米国株などの現実資産をトークン化した株式連動型トークンのような金融商品も開発した。極めつけは、Anchor というセービングプロトコルで、これは預け入れた Terra ステーブルコインに金利を付ける商品だ。年利20%を謳い、投資家を惹きつけた。

投資家からすれば、例えばこんなシナリオが考えられた。

1. Luna を保有する
2. Luna 価格が上昇して含み益が出る
3. Luna から Terra USD ステーブルコインに換金して Anchor に預け入れる
4. すると実質ドル建ての預金で年利20%の金利報酬が得られる

そして、みんなが欲しがり Luna の価格がさらに上昇する仕組みである。Luna 価格が上昇すれば、Terra USD の経済規模も同時に拡大することになり、またまた Luna 価格が上昇する。1に戻る。

これ以外にも Luna を増やす方法は複数存在するが、要するに短期間で様々な方法を使ってこのプロジェクトから利益を出す投資家が生まれた。そしてその膨れ上がった資産は、さらなく Terra ステーブルコイン発行の信用を創造し、経済規模を拡大していった。まさに、ひとつの国家が誕生するような光景が広まったわけだ。

そして当然に、短期間で Luna トークンの価値は急上昇した。正の連鎖が続き、ハイレバレッジのまま時価総額が拡大していったのだ。

確かに、Luna の価格上昇が前提であれば、非常によくできた設計と言える。しかし脆さを指摘する声も上がりはじめ、Terra の短期間での急成長は一瞬で崩壊することになった。

Next: きっかけは攻撃。Terra と Luna が崩壊した理由とその後



崩壊した Terra と Luna

きっかけは、攻撃だった。数千億円とも言われる規模で、Terra に攻撃が仕掛けられた。違法なハッキング行為ではなく、暗号資産金融市場での巧妙な攻撃が行われたのだ。その手法は、ブロックチェーン上に残された痕跡や、多くの有識者の情報分析の結果、まとめられている。それらを総合的に見て、要点を記す。

攻撃者は、取引所でレバレッジをかけて大量の Terra USD を売却した。当然それはペグ外れを誘発する。巧妙であったのは、そのタイミングだと言われている。事前に予測できた Terra USD の流動性が極端に下るタイミングを見計らっての売却だったのだ。攻撃者の意図通り、Terra USD はペグ外れを加速させることになった。

この時、Terra プロジェクト側は価格維持のために保有していたビットコインを大量売却し、Terra USD の買い支えを実行した。しかし、ビットコインの大量売却によって市場全体に混乱は波及し、Terra USD の価格下落は止められなくなる。さらに追い打ちをかけるように、パニックになった投資家たちが Anchor に預け入れられた Terra USD をどんどん引き出し、売却していった。

Terra USD が売られすぎると、価格維持のために Luna が発行される。それが、このアルゴリズム型ステーブルコインの仕組みであった。そのため、今度は Luna でインフレが起き、価格が下落していく。それに目をつけた人たちは、当然 Luna を売り続ける。よって、Luna 価格も暴落していく。

短期間で起こったこの混乱に対して、投資家保護を考えた取引所は Terra USD の取り扱いを制限する。さらに、Luna の上場廃止を決定していく。2兆円規模の時価総額があったステーブルコインは、この一瞬で消え去ったのだ。

結果的に Luna の価格は 99.9% 下落し、Terra USD はステーブルコインであるにもかかわらず、96% も下落した。一連の騒動で消失した価値は、日本円にして総額6兆円以上とも言われている。

ステーブルコインは終わったのか

ここまで悲惨な現状を述べてきた。それでもあえて、私の意見を付け加えたい。私は、ステーブルコインがこれで終わったとは到底思わない。ましてや、暗号資産が終わったなどとも、もちろん思わない。

これほどの金額が消失した事件は過去に例がなく、見過ごすことはできないのは事実である。しかし、冷静に問題を切り分けて考えるべきだ。崩壊したのは Terra / Luna であって、アルゴリズム型ステーブルコインが全滅したわけではなく、また、他の分類のステーブルコインが信用を失ったわけでもない。

ステーブルコインの有用性は引き続き存在し、決して無くなることは無いだろう。同じく、暗号資産経済圏の意義がなくなったわけではなく、これからのそのエコシステムはますます拡大していくものと期待している。

今回の事件を受けて、世界的に規制は強化されるだろう。特にステーブルコインのような、現実の金融市場とのつながりが強い部分については、優先的に何らかの制約が設けられるものと思われる。それは結果的に、ステーブルコインを媒介として拡大していった DeFi 市場全体に影響を与えることになる。つまり、暗号資産市場全体への影響は決して小さくは無いだろう。

規制当局との対話を継続する取引所の運営者のひとりとして、私自身がこの状況を深刻に受け止め、同様の事態を再び傍観することのないよう取り組みを強化していくことを改めて肝に銘じた。

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取材協力:㈱カロスエンターテイメント
image by:FellowNeko / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2022年6月10日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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