参院選の投票日が迫り、選挙戦も佳境に入っています。立候補した山本太郎れいわ新選組代表は今回、衆院議員を辞職しての「鞍替え出馬」ということで注目されました。そこにどんな戦略と志があるのか。辛口に分析します。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
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なぜ山本太郎氏は衆院議員を辞めて参院選に出馬した?
山本太郎れいわ新選組代表は、衆議院議員をわざわざ辞めてまでも参議院議員選挙に立候補した理由として、以下のように説明しています。
「参議院選挙が終わった後、政治的な空白期間、選挙の空白期間ができます。その間に行われるであろう政治の暴走を何としても食い止めなければならない――」
「与党の暴走を止めるため、そのためには『国会で発言権を持つ』ことが大事で、それは衆議院議員ではできないので参議院議員になる――」
ということのようです。もう少し発言を拾ってみましょう。
「予算委員会で立憲民主党から15分の時間をいただいた。それを発言当日につぶしてきたのが自民と公明だ。おかしいでしょ。言論の府でそんなことが行われるなんて。参院選後の3年間、衆院で戦おうと思ったが、衆院で暴走が始まっている状態で、私たちのような弱小政党がどうやって戦うのか。それなら参院でしっかり態勢を整えて、予算委でも本会議場でも発言権を持ち、これから始まる暴走を止めるため、私は(衆院議員の)バッジを外した」
「せっかくいただいた議席を放り出して何考えているんだって言う人がいますけど、全然基本が分かっていないです。山本太郎っていう票、書いてもらってないです。れいわ新選組というグループに対して票をいただき、私が先に上がらせていただいた。私が辞職しても議席を失わない」
この発言を見て、理屈が通っているのかどうかはわかりません。比例代表で衆議院議員になったとは言え、有権者の支持を得て衆議院議員になっていることに変わりはないのではないでしょうか。
これがもし参議院選挙の方式だったら、きっと「比例区選挙」の投票用紙に「山本太郎」と個人名を書いていたと思うのですね。れいわ新選組支持者の多くは、「れいわ新選組」に対してというよりも「山本太郎」個人への支持なり期待からの投票行動ではなかったのではないでしょうか。
それでも一議員が党勢拡大のために自ら捨て石となるという考えも通らないことはないでしょうが、党の代表がこのような行動に出ることの重みは、どう考えればよいのでしょう。
衆議院議員でいるほうが総理大臣になれる可能性が高かった
衆議院議員になるということは、内閣総理大臣になる可能性があるということです。
林芳正外務大臣は、参議院議員をやめて衆議院選挙選挙区から立候補し直したのも「内閣総理大臣になりたい」ためだと思うのですがね。
山本太郎氏が行った行動は、この“逆”パターンになります。
公明党は、党代表は参議院議員です。連立を組んではいますが政権を担う中心の党ではないので、その地位は望まないが、連立与党ではいたいという意志の現れなのかもしれませんね。
あくまでも物理的な話ですけど、これがまかり通れば、「選挙のたびに山本太郎氏は比例区から出馬して当選したあとに辞職すれば、新しいれいわ新選組議員を国会に送り込むことができます。
自分自身が「山本太郎」という名前で選挙で勝てる前提での話ですけどね。
ちなみに参議院議員が総理大臣にはなれないという規定はどこにも書いてはありません。
総理大臣には「衆議院解散権」という権力があります。総理大臣の一言で衆議院議員を無職にすることができるのです。
もし衆議院を「解散」をした側である総理大臣が参議院議員だったら、自らの議員としての地位は失うことはないということになります。
これは倫理的にも道理的にもやはり“フェア”ではないですね。解散権という強い権限を持つ総理大臣が、人の首は切られても自らは無傷でいられるというのは良くないですし、解散権乱用にも繋がりかねません。
Next: 与党の「黄金の3年間」と戦うために立ち上がった?その政策は…
与党の「黄金の3年間」と戦うために立ち上がった?
山本太郎代表が立候補する選挙区選びについては、以下が当初の見解でした。
- すでに擁立されているとこは除く
- 与党・野党もどきの議席をもぎ取る
- 選挙区差し替えは(今のところ)ない
「これから行われる危険性に対して、大きく警鐘を鳴らしブレーキになれるような勢力を拡大する必要がある。そういった思いで次の参議院選挙に立候補する必要があると判断しました」
山本太郎氏が東京選挙区から出馬することで、他の野党候補者が落選する可能性は大きくなります。結局は与党を利することにはならないのでしょうか。「黄金の3年間」と言われるものの危機感を野党勢力に持たせることになるのでしょうか…。
自勢力拡大が目的であるなら、ストレートにそのように発言をすればよいわけで、東京選挙区から出ることも、自らが当選しやすい場所だとはっきりと言えば良いことのように思えます。
れいわの公約は持続可能か?
政策においては、
・生活を守るためにお金を配る
・最低賃金を引き上げるために企業にお金を配る
・消費税を廃止して、増税で財源を求めないで国債をもっと発行する…
れいわ新選組の、衆議院選挙のときの公約でしたかね。
日銀が紙幣を刷って国債を大量に発行すれば国民にお金を配る事ができるのではないかという議論は、選挙公約を守るための財源確保として議論するのではなく、もっと丁寧に国民と会話すべき大きな重要な議題ではないでしょうかね…。
景気回復や賃金上昇が「一時的」ではなく「持続的」であることが重要だと思います。
選挙の前のポピュリズム政策に目を奪われるのではなく、「この国をどの方向に導きたいのか」という、大きな視点が必要になってきます。
最近の選挙では、目先のテクニックなり、細かい政策ばかりが論点となり、もっと大きな国の方向性やグランドのデザインなどの「国家間」が語られていないような気がします。
それは排外主義とか軍事力強化といった偏った話ではありません。国民の利益があって国家がある、国民の利益は、他国と平和的な関係を築いた上で成り立つものです。
国家感がもてはやされないのは、それだけ国民生活が大変で余裕が無いともいえるのかもしれません。
目先のポピュリズム政策に飛び付こうとしている状況は、やはり「危機的状況」と認識して、今何を解決しなければならないかという「本質」を、もっと冷静に見るべきなのですがね。
Next: 税金を国民に配ることが仕事か?国会議員に期待したいこと
国会議員に期待したいこと
国民生活に近い行政を論じるのは地方議員にふさわしく、国会議員は、地方を代表するのではなく、もっと大きな「日本国運営」を語るべきだと、国民生活を支える行政は地方議員の役目、国を代表する地位として他国と交渉する外交や日本の安全保障を担うのが国会議員だと、私は思います。
国民というよりも「住民」という表現がマッチすると思う地方行政では、住民により近い地方議員は庶民感覚や人柄などは必要なところもあると思いますが、国家を代表する国会議員が、必要以上な庶民感覚で国家運営することの是非は問われるように思います。
むしろ、敢えて国民にとっては厳しい判断も迫られることもあるように思えます。
それゆえ国会議員には、中立性とか公平性とか、いかに私利私欲を殺せるかという強いメンタルや、なにより使命感が強く求められるように思います。
国会議員が地方を代表するという立ち位置にも、個人的には疑問があります。
学校にはPTAという組織があります。広報委員、地区委員がいて、その統括に「役員」という組織があります。実際に児童や生徒に接するのは「広報委員」であり、地域見守り等の「地区委員」で、役員はあくまでもPTA役員回避の管理運営と学校を代表する組織に過ぎません。直接、児童や生徒のサポートをするわけではありません。他校との折衝、学校外部との折衝がPTA役員の仕事です。
直接国民と触れ合うのは地方議員で、国会議員は国民をサポートするための、企業の経済活動を支えるための、他国との交渉や自国の安全保障のために働くものなのです。
「税の管理・運営」が最も重い仕事
政治家が小さくなってきている…。
私利私欲なんて本当に政治家が小さくなった証拠です。政治家に“せこい”という感想を持たれるようでは、もうおしまいです。
国会議員の特権は「徴税権」です。税を取ることができるというのは絶大な権力です。その権力を与える政治家を選ぶのが「選挙」です。
選挙で選ばれた国会議員は、「税の管理・運営」が最も重い仕事であることを自覚する必要があります。
国民から「税金」という形で売上の一部をいただく権限を持っているわけで、かつ、その使い方を決めることができる権限を持っているのです。
税金を国民に配ることが仕事ではありません。ましてや私利私欲のために使うことが許されてよいはずがありません。
Next: その候補者は国民生活を「持続的に」豊かにするか?
その候補者は国民生活を「持続的に」豊かにするか?
さらに言えば、国会議員の具体的な仕事は「法律を作る」ことです。
だから、法律も読めない書けない人が政治家をすることに意味があるのかと思ってしまいます。そういう意味で、個人的にはタレント議員には否定的です。
国会議員は徴収した税金の運営・管理が重要な仕事です。
税金を国民に配ることだけが仕事ではありません。その税金を使って国民生活を「持続的に」支えることにあります。
経済支援は、国が直接手を下すのではなく、あくまでも経済活動をしやすくするためのお手伝いであって、実際に考え動くのは企業であり、企業の経済活動を邪魔してはいけないのです。
それが担える政治家を選びましょう。
国の方針は「国会議員による多数決」で決まっていく
若者が「誰を選んだら良いかわからない…。」と思っているようで、その答えとして「自分の考えに近い人」を選ぼうというアドバイスがありますが、果たしてこの考えはどうでしょうかね。
というのも、国会での議決は「多数決」によってなされます。
つまり政党にとって選挙とは、自党の主張や政策に“賛成”票を投じる頭数を揃えることだという見方もできます。
だとすると、この法案だけは絶対に通したくないというものがあれば、その法案に反対している人を選び、その法案に反対している人をどれだけ国会に送り込めるかが鍵になってきます。
具体的には「憲法改正」に賛成か反対かの態度をはっきりと示している人のどちらかを選ぶということです。態度が曖昧な政党の人は選ばないという判断も“アリ”ですね。その「イシュー」は、同性婚や選択的夫婦別姓などもわかりやすいですね。
自分にとって絶対に曲げられないという主張から決めて、それに同意してくれる議員を選ぶという考え方のほうが、「多数決」で決まる民主主義においては理にかなっている投票行動かと思います。
選挙だけは「ポジティブ・リスト」ではなく「ネガティブ・リスト」のほうが良いような気がしますね。
国会議員は頭数である……このようなことがまかり通らせないためにも、国会議員という「職」を求めるだけの人は排除すべきかと思います。
本物の国会議員を選ぶために
やりたいことがあると主張して立候補している人でも、勉強していない人はだめですね。国会議員になってから勉強します…と言ったタレント議員もいましたね。
参議院選挙は政権選択選挙ではないですが、6年という任期を与えることで、国家のあり方などの時間をかけて議論することが求められる場所でもあります。
政争も大事です。政権交代の機運は参議院選挙から生まれます。
それはそれとして、本物の国会議員を選ぶために、選挙テクニックが話題になるのではなく、国家感が語り合われる選挙戦であって欲しいですね…。
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※本記事は、らぽーる・マガジン 2022年6月27日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、ご興味をお持ちの方はこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2022年7月8日)
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