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ウォルマート決算発表で大暴落。地政学的リスクの高まりで常態化する世界のインフレ=高梨彰

インフレ、物価高に小売業者は苦しんでいます。世界は今がインフレのピークで、いずれ収束に向うとの意見が多く見られますが、果たしてそうでしょうか?現在のインフレの主要因は、地政学リスクによる物流コストの上昇とされております。しかし、地政学リスクは年々高まっており、2000年代が理想的な世界であっただけなのかもしれません。(『徒然なる古今東西』高梨彰)

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プロフィール:高梨彰(たかなし あきら)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。

米国最大手スーパー、ウォルマート暴落の理由

決算発表の中身を見聞きすると、「そりゃそうだ」と改めて世の中を知ることがあります先日、NY市場引け後に発表された、米国最大手スーパーのウォルマートの決算もその一つです。ちなみに、決算発表後の取引にてウォルマート株は10%近く下落しています。

ウォルマートは今後の収益予想に慎重な見方を示しました。理由はインフレ、物価高です。
食料品をはじめとする物価の上昇により、消費者の紐は固くなります。ウォルマートはアパレルへの影響が大きいとしています。

確かに、生活必需品の価格が上がれば、他のモノを買ったりレジャーなどにお金を使ったりするのは我慢となります。

こういう事って言われれば直ぐに分かるのですが、意識しないと流しがちです。「大手企業はコスト高を販売価格に転嫁すれば済むんじゃないの」なんて、したり顔で言われちゃうと「論破された」と早合点してしまうことも。

インフレは地政学リスクだけが要因なのか?

ところで今般のインフレ、主な要因としてコロナ禍によりモノの流れが滞ったことと、ロシア軍のウクライナ侵攻に代表される、地政学リスクの高まりが挙げられるかと思います。どちらも人やモノの流れを停滞させました。供給面での制約とも言われています。

対して、コロナ禍前、そしてロシア軍侵攻前、世界経済には国境が無いかの如く、物流が拡大していた印象があります。

スニーカーをみても、かつては中国製だったものが今日ではベトナム製ばかり。衣類にしても、中国製からバングラデシュなどへと生産地は移りつつありました。

どれも、低コスト・生産性向上(少ないコストで多くの付加価値を生むこと)を純粋に目指した動きです。

しかし、コロナ禍で中国はロックダウン。世界各地で輸送に支障が出ました。また、地政学リスクの高まりは、ロシアのパイプラインによる天然ガス供給への不安を高めます。
合わせて、中東でもイランをはじめ各国の緊張は続いています。

ついでに、米国内でも価値観の対立が顕著です。今年1月6日に起こった、米議会占拠事件一つ取ってみても、トランプ大統領の関与の有無を巡って、連日報道が過熱しています。

これらの出来事が、全てコロナ禍前に戻るかと問われて、戻ると確信することはできないはずです。むしろ2000年代前半が理想的だっただけとも。

Next: コスト高が収まらず、インフレは元に戻らない可能性も



インフレ率の低下にも限界がある

そう考えると、今後訪れるインフレ率の低下にも限度があるのではないかと。100ドル台に上がった原油価格の上昇は鈍化するでしょうが、それにしたって「前年比」でみれば、1年だけの反動でおしまいです。

むしろ、顕在化してきた対立軸によるコスト高の影響を重視する段階に入った「かも」という心配が強くなります。

これはそのままインフレ率の上昇圧力として作用します。しかも明らかにコストプッシュ型のインフレです。

物価上昇への備えも、思ったより長期的に強まる気がします。

まとめ

・ウォルマート、インフレ懸念の高まりにアパレル等の売上減を想定
・コロナ禍前のディスインフレ環境には戻らないと考えた方が良さそうとも
・(本文にはありませんが)日銀展望レポートにある消費者の姿、更に強まるはず

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image by:Lester Balajadia / Shutterstock.com

徒然なる古今東西』(2022年7月26日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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