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仕掛けられた金融危機への時限爆弾。インフレファイター・パウエルが指揮する世界景気の最終幕=高梨彰

ジェローム・パウエルFRB議長のジャクソンホール会合での講演を一言でまとめると「満足するまで利上げ続けるもん」という内容でした。この発言で市場金利の上昇は確定的となり、年末以降に金融危機が発生する可能性も高まっています。(『徒然なる古今東西』高梨彰)

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プロフィール:高梨彰(たかなし あきら)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。

利上げ優先、景気二の次

ジェローム・パウエルFRB議長が、26日ジャクソンホール会合にて講演を行いました。

講演後の反応はNYダウ1,000ドル安、米国債は中期債中心の売りから株安を受けて買戻し(やや金利上昇)、そして米ドル高です。ドル円は137円台半ばまで円安・ドル高となりました。

パウエル議長は「家計や企業に痛みを伴ってもインフレ退治は行う」と述べています。利上げ優先、景気二の次です。これが上記の市場反応に繋がっています。

何より、パウエル議長は講演の冒頭で「話は短く、焦点を絞って、メッセージを直接伝える」と語ってから本論に入っています。ここでも「不退転の決意」が窺われます。
本論ではポール・ボルカー元FRB議長の積極的な利上げが前例として取り上げられています。

インフレファイターに変身したパウエル議長

ボルカー議長といえば、1970年代から80年代初頭に掛けて起きた高インフレに、10%超の利上げを行った人物です。今日、FFレートが10%になることは無いでしょうが、「パウエル議長はインフレファイター」と連想させるには十二分な例えです。

また、パウエル議長は足元の高インフレの原因を「強い需要と供給面での制約」と、需要と供給の両面を挙げています。

その上で、利上げは需要を抑える効果があって、それが低インフレへと繋がるとしています。

一貫して「利上げ続けるもん」

確かに米国の賃金は上がっていて、住宅価格も上昇を続けて来ました。製造業の受注も顕著な伸びを見せていましたし、「強い需要」の証拠は幾つも出て来ます。

これは日銀が金融緩和こそ続けるものの、利上げなんて当面無いことの理由にも使えそうです。何たって、日本の賃金上昇率は大企業など一部を除いて低迷したまま。サービス価格も停滞が続いています。この差は大きいです。

パウエル議長は最後に「仕事をやり遂げたと満足するまで続ける」と決意表明をして講演をまとめています。今回は一貫して「利上げ続けるもん」でした。

市場は引き続き「刹那的なリスク資産価格の押し目を拾って、盛り上がったら売って」の展開です。

Next: パウエル議長の「不退転の決意」が金融危機の引き金となる



放たれた金融危機の引き金

また、Fed(米連銀)は利上げと共に米国債やモーゲージ債(住宅ローンを証券化したもの)の保有残高を減らすプロセス、QT(Quantitative Tightening:量的引き締め)も実行中です。

このQTは、世の中のおカネをFedが吸収するという意味を持ちます。市中のおカネが減れば文字通りカネ回りは滞ります。

金融市場では、信用力に応じて求められる追加の金利、スプレッドの拡大という形で現れ
ます。金融機関同士の取引にてカネ回りの悪さを見越した上で求められる流動性スプレッドの拡大という事象も起こりがちです。

これら信用・流動性スプレッドの拡大は、理屈はともかく、市場金利上昇を意味します。しかも、おカネを借り難い、信用力の低いところほど、金利(スプレッド)上昇幅は大きくなります。

この影響は十中八九顕在化します。過去の例だと早ければ今年の年末に掛けて、遅くても向こう1~2年のうちに出るはずです。

これが得てして金融危機の引き金となりがちです。

パウエル議長の「不退転の決意」が、この引き金とならないか、今秋以降はこの辺りへの注目が高まりそうです。

まとめ

・パウエルFRB議長、インフレ退治の利上げに不退転の決意を表明
・ボルカー元FRB議長を例に挙げている点もインフレファイターを印象付ける
・今秋以降、信用・流動性スプレッドへの警戒が高まります

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Image by:Zwiebackesser/ Shutterstock.com

徒然なる古今東西』(2022年8月29日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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