財務省はついに“円買い”介入しました。しかし、今の金融政策が続く限り、円安傾向に変わりはないでしょう。この緊迫した状況で、先週行われた黒田日銀総裁へのメディアの質問には呆れかえりました。昨日、今日の出来事ばかりを尋ね、しまいには事実関係の誤りを黒田総裁につっこまれる始末。国内大手メディアが日本経済停滞の一因となっているのを実感しました。(『徒然なる古今東西』高梨彰)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
24年ぶりの円買い介入
24年振りの「円買い」介入です。米財務省にも事前に知らせていたとか。1ドル145円台まで円安・ドル高が進んだ段階で、日本の財務省(MOF:モフ、Ministry of Finance, Japan)は円買い介入に入りました。
円安が止まるかと問われれば、止まらないと考えるのが自然です。後述しますが、円買い介入直前の日銀総裁会見では、金融緩和継続を強調していました。他の主要国が利上げに踏み切る中で、金融政策の違いは為替レートにも素直に反映されます。
また、当局の市場介入に関して、G7は一貫した声明を出しています。「極端な値動きや無秩序な動き(excess volatility and disorderly movements)」は悪い影響を与えるとのこと。2011年3月、東日本大震災直後の声明にも、この文言が入っていました。
「荒い値動きを止めるのは良いけど、水準を変える介入はダメ」との解釈です。今回にしても、勢い任せの円売り仕掛けは許さない、その程度がMOFの限界です。
具体的には、ドル円が再び145円台を試す場面が来れば、「また介入か」と戻り売りが意識されます。相場変動の速度も鈍ります。
円買い介入の限界で円売り再開
しかし、何度か試して介入が入らないとなれば、円売りの仕掛けが再開されます。こんな場面を何度か経て、「MOFの限界」が意識されるようになります。
そして結局は「円安を止めるには、日銀の金融政策を変えなきゃダメでしょ」へと収斂。または、アメリカの利上げが景気後退とインフレ率低下を呼び、Fedの金融政策が利上げから利下げへと転換するのをひたすら待つだけ。どちらかです。
その日銀、先週の日銀金融政策決定会合で金融政策を据え置きました。
そこまでは良いのですが、酷いのが会合後の黒田総裁会見です。
毎回、記者と総裁との会話が噛み合わず、観る度に不快な思いをしています。そのため観ないこともしばしば。
しかし今回は介入の可能性が高まる場面です。仕方なくネット中継を観ます。
願わくは「黒田総裁が就任してから10年近く経つ中で、サービス価格が低迷したまま。こ
のまま緩和を続けても、財価格ばかり上がるのでは」など、金融緩和の効果と時間との関係に突っ込んでもらいたいところでした。
でも、相変わらずの昨日、今日の出来事に関する質疑に終始。しかも民放キー局の記者は事実確認すら黒田総裁に全否定され、干上がる始末。
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メディアの質問レベルが低すぎて、黒田日銀総裁が上から目線になる
何と申しますか、討論(ディベート)の訓練を記者の方々はするべきだと。主張を裏付ける事実の確認一つしないで挑んでも、百戦錬磨の黒田総裁に正に「上から目線」であしらわれるだけです。
日銀総裁会見に限定すれば、私が好きな「モヤモヤさまぁ~ず2」ゆかりの方にも問題があるかと。
毎回、会見の早い時間に質問の機会を与えられています。質問内容も一見すると総裁に鋭く突っ込んでいるようです。しかし、実際には差し支えない返答がし易い内容ばかり。
あの瞬間がいつも日銀総裁会見の緊張感を低下させています。
終わり際の街頭デモのような質問に至っては、「黒田総裁も大変ね」と同情を呼ぶだけ。
結局、本当に日銀の金融政策が正しい方に進んでいるのか、誤りがあるとすれば何処なのか、などの確認が無いまま終わります。
国内大手メディアが日本経済停滞の一因になっています。
今週は27日に安倍元首相の国葬が行われます。今朝の新聞をみると、安倍さんを支持する雑誌(2誌)の広告はご本人を称える見出し。
同時に2誌共に「アベガー」を揶揄する内容もあるとのこと。
「アベガー」はネットで安倍さんを根拠の有無に関係なく全て叩く人々のことを指すかと思います。何でも叩くので、日銀総裁会見じゃありませんが、ここでも議論は噛み合いません。
しかし、件の雑誌広告には国葬反対派を指して「バカ」の文字。これじゃ右・左両方の極論ばかり騒音として響くのみです。
確かにネットでは大炎上するくらいの方がアフィリエイト(広告などの手数料)収入が得られて理に適うのかもしれないですけど。
そうこうしている間にも「時間」は経過します。金融・財政政策の停滞や垂れ流し傾向を今後も覚悟せざるを得ないみたいです。
市場も一緒。何らかの外圧を得るまで、今のまんまです。
まとめ
・円買い介入、G7等では「過度な変動」を抑えることだけは許されています
・何度か介入の姿勢を試して、再び円売り仕掛けでしょうか
・国内大手新聞・キー局の皆さん、日銀会見に臨む前にディベートの訓練をして下さい
『徒然なる古今東西』(2022年9月26日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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