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クリスマスシーズンも米国大荒れ相場は続くのか?FOMCパウエル発言で混迷を増した米利上げの終焉=高梨彰

米国時間11月1-2日開催された米FOMCで「実体経済と利上げに(タイム)ラグがある」との記述が加わり」利上げの様子見がありえると、相場に安心感をもたらしました。しかし、その後のFRB議長パウエル「利上げを止めることはない」と記者会見で発言。その期待は見事に裏切られました。FEDの利上げがいつ止まるか予想は困難となりました。(『徒然なる古今東西』高梨彰)

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プロフィール:高梨彰(たかなし あきら)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。

FOMC声明文に追加された「(タイム)ラグ」

相場にぬか喜びは付き物。11月FOMC後の動きも正にぬか喜びでした。

11月1-2日開催の米FOMC(連邦公開市場委員会:Federal Open Market Committee)にて、FRBは政策金利FFレートの誘導目標を75bp(ベーシスポイント、1bp=0.01%)引き上げ、3.75%-4.00%にしました。

FOMC声明文には、追加利上げの可能性を示唆する一方、金融政策(今は利上げ)と実体経済への影響には時間差(lags:「タイムラグ」の「ラグ」です)があるとの記述が前回から追加されました。

この記述が「ラグがあるという事は、利上げの効果を見定めるべく、(利上げをせず)様子見へと段階が移行する」との連想を生みます。FOMC声明文公表後、気迷いを伴いつつ株高・米ドル安が進みます。

パウエルFRB議長の様子見否定で相場は一転下落へ

そして声明文公表から30分後、ジェローム・パウエルFRB議長の記者会見が始まります。

パウエル議長は利上げ幅縮小の可能性を認めつつ、「12月(FOMC)かも、もっと後かも」といった調子で時期への明言は避けます。「利上げ停止→様子見」期待に黄信号です。

加えて、「ラグ」が「様子見」の連想へと導くことを認めた上で「利上げを止める(pausing・pause)ことは無い」と明確に否定。「利上げ停止→様子見」期待に赤信号が灯りました。

結局、株価は再び下落。FOMCから1日経った3日の市場でも米株価は続落となっています。米国債も償還年限毎の利回り、「イールドカーブ」の形状が日中も頻繁に変化しつつ、1日経ったら米国債安・米金利上昇。米10年債利回りは4.15%となっています。

今後のFed(米連銀)の利上げについて、12月の利上げ幅が50bpなのか25bpなのか、はたまた再び75bpなのか。目先の変化が先ず気になります。

FOMC声明文と会見を合わせて考えれば、本命◎50bp・対抗〇25bp、穴▲75bpです。年末FFレート誘導目標上限は4.50%となる可能性が今のところ最も高いと言えます。

クリスマスシーズンも相場は大荒れ?Fedは何処まで利上げをするのか

Next: パウエル発言を分析すると5.25%まで利上げは続く



Fedは何処まで利上げをするのか

そして、今後もっと重要なのが、「Fedは何処まで利上げをするのか」です。

声明文で話が終わっていれば「利上げ停止→様子見」が幅を利かせます。もしかしたら12月4.50%で打ち止め。過去の例を参考にすれば、「保険」としての利上げを最後に行って、年明け25bpの追加の利上げを行い、4.75%で打ち止め。この辺が基本線です。

しかし、パウエル議長は「様子見」を明確に否定しました。同時に「何処まで」の参考として「実質」金利について、具体的な言及をしています。

言ったのは単純で「実質金利をプラス(positive)にしたい」です。

経済の世界で「実質(real)」は、「名目(nominal)」から「インフレ率」を引いた値です。

例えば、「名目」米10年債金利は現在4.15%。「名目」FFレート誘導目標上限値は4.00%です。

Fedはインフレ率の参照としてPCE(個人消費支出)から算出した値を基準として使います。パウエル議長の会見でも出て来ましたが、コア(エネルギーと食料を除いた)PCEの伸び率は直近5.1%。

この5.1%を「インフレ率」として用いると、「実質」FFレートは4.00%-5.1%。-1.1%です。

このマイナスをプラスへと変えるまで、Fedは利上げをしたいとパウエル議長は述べています。

そのまま受け止めれば、FFレート誘導目標上限は最低でも5.1%より高い値。Fedは25bp刻みでこれまで金利を変化させたので、5.25%まで引き上げる必要があります。

12月50bp利上げしたとしても、2023年も計75bpの利上げが求められます。

今年のインフレ率上昇が急なので、来年は「前年同月比」の値が放っておいても少し下がる、そんなことを考慮しても5.00%が妥当な水準です。

12月13-14日開催の次回FOMCでは、3か月毎に見直される経済見通し(SEP:Summary of Economic Projections)が公表されます。

9月時点の「2023年のFFレート(中心)見通し」は4.4%-4.9%でした。上限で言えば4.5%5.0%。パウエル議長の今週の発言は9月時点の上限を基準とした内容ということが分かります。

12月見通しにて、この値がどれだけ上方修正されるのか。修正幅予想は「◎25bp・〇50bp・▲75bp・△(大穴)0bp」です。

もし「穴」が出ると年末相場も荒れたままのクリスマスがやって来ます。

本日夜間の雇用統計が重要に

日本時間の4日21時30分、米東部夏時間8時30分に毎度の雇用統計が公表されます。下馬評は雇用者数20万人増(前月比)。少しくらい弱めの値が出た方が市場には優しい環境です。

でも、ブレが多い値なので、今回も出たとこ勝負。せめて夏時間最後、日本からは「早い時間の雇用統計」であることを有り難く思いつつ、相場と対峙します。

まとめ

・11月FOMC、75bp利上げと共に将来の利上げ幅縮小を示唆
・パウエル議長「政策と効果のラグと聞くと様子見を連想させがちだが違う」と
・実質金利プラスを素直に表現すると、利上げの終着点は最低でも5.25%

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image by:Federal reserve at Wikimedia Commons [Public Domain], via Wikimedia Commons

徒然なる古今東西』(2022年11月4日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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