インフレは収まったという世間の空気すら出ていますが、CPIインデックスの数字をみれば明らかなように、ちっとも収まってはいません。それよりもさらに悪化の可能性の方が高いでしょう。インフレというのは本質的には物価が上がることではなく、通貨の発行のし過ぎによって貨幣価値が下がり、相対的に物価が上昇するもの。物価をコントロールしようと思っても無駄なことです。(『 角野實のファンダメンタルズのススメ 角野實のファンダメンタルズのススメ 』)
※本記事は有料メルマガ『角野實のファンダメンタルズのススメ』2022年11月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:角野實(かどの みのる)
大学卒業後、金融機関に10年ほど勤務。独立して投資家の道へ。現在は企業経営者として活動、FX関連の執筆を多数行っている。
インフレの本当の原因は、物価の上昇ではなく「貨幣価値の下落」
フリードマンという経済学の巨匠がいます。今風のことばでいえば「レジェンド」だと私は考えていますが、「晩節をチリの独裁政権ピノチェトに協力して汚した」というのが世間の評価だと思います。貨幣現象に関しての彼の功績は。いま読んでも色褪せないものだと私は思います。
彼の主張は、「インフレはすべて政府・中央銀行の政策の間違い」で起こる、という言葉に端的に表れています。
インフレというのは本質的には物価が上がることではなく、インフレの本当の原因は、通貨の発行のし過ぎによって貨幣価値が下がり、相対的に物価が上昇するものなのです。
つまり、「物価の上昇というのは、必ず貨幣価値の下落によって起こるものだ」とフリードマンは主張しているのです。
実際、今回のコロナ禍によって各国政府は大規模な通貨供給を実施して、お金は世にあふれかえっています。フリードマンによれば、この増発した紙幣がインフレの原因であり、物価をコントロールしようと思っても、それはコントロールできないと言っています。
物価はコントロールできるものじゃない
今、アメリカは物価をコントロールしようと必死ですが、CPIやPPIが下がったことによってうまくいってるじゃないか、と思うかもしれません。私から言わせれば、ちっともうまくいっていません。
証拠のデータは以下の通りです。
物価の上昇率は緩みましたが、10月の物価は再び騰勢を増している、これが現実です。
このグラフを見て、インフレが鎮静化をしているとは「誰も言わない」と私は思うのですが、いかがでしょうか?
Next: 2年前のマスク価格を見れば明らか。インフレ抑制政策が無駄な理由
物価をコントロールしても無駄な理由
2年前、日本ではマスクパニックが起こりました。マスクの値段が50枚で5,000円、1枚100円という異常事態です。
このマスク(国民生活に必要なもの)の値段が高騰しても結局、国内はデフレのままでした。
なぜ、このようなことが起こるのかといえば、日本人の所得が伸びないからです。たとえば月100万円の収入があっても、一般家庭はその100万円の中でやりくりをするだけだからです。
マスクの出費が増えたら、他を削るだけで、総額の出費は100万円で変わらない状態なのです。
いま電気代やガソリンなどが高騰していますが、どんなに多く消費する家庭でも月に5万円も行けばよい方だと思います。その増えた分を、他の消費を削ればいいだけの話。つまり、エネルギー価格が増えたら他の消費を減らすので、全体的な物価は上昇しないということです。
通常、円安になれば日本経済の売り上げは上がるのですが、今回の円安では売り上げがちっとも増えないので、経団連などの経済団体は政府に「この円安は日本経済にとっては有害」と提言をしたのです。
要は問題が家計にあるのではなく、政府・日銀にあるのです。
日本がコロナ・ショックを受けて金融緩和や財政緩和を行うのは当然の処置です。しかし、その結果、企業の資金調達が安いコストで可能になり、結果として値下げが可能になります。これが今回のエネルギー高騰での節約の原資となるのです。
企業は円安になれば売り上げが増えることを期待して増産しますが、結果は思ったよりも売れない……ということだったのです。売れないのであれば、生産は細るということです。
その結果、不景気を理由に賃金を下げる「悪のスパイラル」に陥っているのが現状になると思います。
これ、財政緩和や金融緩和をやめれば解消しますよね、ということです。
インフレの原因は物価にはない
アメリカは反対に、企業の生産活動が活発です。消費者は利上げによってとくに富裕層・株式投資などができる層などは資産を保有しているだけで金利収入が入るので、インフレ7%に対して給料アップ5%で実質の所得減であっても、金利や配当収入がカバーすることになります。
よって、不景気でも売り上げが上昇するのであろう、と思います。その金利が4%なのですから実質の所得は増えているわけです。
ただ、貧困層はますます貧しくなるという欠陥も忘れてはなりません。ですから、貧困層は財政支援によって解決し、FRBは緩和を続けたいというのが意図になります。
インフレというのは通貨供給量が多すぎるのが原因ですから、インフレを納めるためには発行しているマネーを中央銀行が回収すれば収まるのです。
その場合、現金の価値が高まり、リスク資産である株や住宅、エネルギー、商品市況は大暴落します。株が安いと騒いでいる人たちはこのことを想定しているのでしょうが、FRBは金融緩和を止めたくないのです。だから、高いのです。
しかし、金融緩和を止めるのはやぶさかではないでしょうが、財政緩和を停止すれば、たぶん、政権支持率はダダ下がりになりますので、できないでしょう。だから、各国は財政支援拡大に走るのです。
要は金融緩和を止めても、財政緩和は今後数年は続けるほかない、というような状態です。
これでは世の中のマネー流通が減るわけがありません。そのマネーが儲かるところに資金が集中している状態です。
今は、そのマネーが金・白金などの貴金属に集まっているだけの話。これが高値を出しきると、今度はレアアースに行き、振り出しのエネルギーにまた行くだけの話です。そして、食料→貴金属→レアアース→エネルギーという連鎖になります。この連鎖は、株価が高いというコンセンサスができ上がると一気に株式市場に資金が流れ込むでしょう。
インフレの原因は物価にはないのです。
政府・中央銀行のお金の発行のし過ぎにあることがわかっていれば、中央銀行のやることは決まっています。緩和を縮小・停止すればいいのですが、やる気ないでしょ(笑)、日銀を筆頭に。
Next: ここから米国株は上がる?下がる?FRBの動きを見れば明らか
FRBはインフレを止めたいと言うけども……
フリードマンの理論というのは、経済学者であれば誰でも知っている理論になります。この評価は一定の評価を受け、今でも実際にフリードマン信者は経済学者の間では多いです。
経済学者でもあるイエレンやパウエルがこれを知らないわけがなく、インフレを本気で抑えたいのであれば、いつも私が言う「FRBのアセット(総資産)を減らせばいい」のです。
上記は、FRBのアセット1年分です。ようやく11月17日(※筆者注:上記グラフは最新のものではありません)時点で、前年比マイナス0.6までFRBのアセットは減りました。11月10日では、0.2のプラスでした。
上記はFRBのアセットに株価(黒点線)を重ねたものです。ここからわかることは、FRBのアセットを増やしても株価は上昇せず、仕方なく、私から言わせれば「しぶしぶ」減らしているのがよくわかります。
金利も見ましょう。
アセットを減らしてもインフレが収まらないので、今度は金利に舵をきったら、インフレの抑制効果があるので金利を慌てて上げていることがよくわかります。
金利を0.75アップを3回やって、ようやくインフレの上昇率が抑えられただけの話で、インフレが低下しているわけではないのは、最初に掲載をしたインフレ指数をみれば明らかなことです。
パウエル以下のFRBは物価上昇が先月より低下することを望んでいるはずであり、今の状態はまだ先月よりも物価が上昇しているというのが現実、というのを忘れてはいけないのです。
10月の物価が9月よりも上がった以上、アセットを減らすよりも金利を上げた方が良いとわかった以上、12月の政策金利はみなさん0.5アップと言っていますが、どう考えても12月も0.75ですよね。
しかし、金利を上昇させてもアメリカの労働者の富裕層は、インフレ7%に対して賃金5%で、さらに金利が上昇しますので、生活資金に余裕が出ます。その購買力は増加しますので、企業の売り上げは増える、ということになります。
その結果、株価は下がりますか?ということです。
なぜパウエルは「来年1月で利上げ幅を減少させる」と言うのか?
非常に簡単です。以下を見ればわかります。
市場金利10年物は1月以降に値上がりをしているからです。マーケットというのは、去年と比較したものを見るのですから。1月以降、インフレが抑制されるのはだいたいわかっているのです。
しかし、パウエルの目的は、
毎月上がっている物価を下げることです。
物価上昇率を抑えることではありません。
最初に見せたグラフを前月比でマイナスにすることが目的であって、インフレ上昇率が鈍化させることが目的ではありません。
結局、金利を異常な利上げをしても、その目的を達することができなかったので、これが1月までに下がらなければ、今度は、アセットの異常縮小と金利の異常利上げを一緒にやってくるでしょう。
Next: インフレはまったく収まっていない。株価と為替はここからどう動く?
FRBの荒業でマーケットが無茶苦茶になる可能性も
しかし、利上げすると富裕層の可処分所得はさらに上昇し、売り上げは増えることになりますので、株価上昇の余地が残るという理屈です。
さらに2月まで雇用は悪いのが例年ですから、ドル安になりますので、ドルの上値が抑えられます。ドル安・金利高の株価高になる可能性があります。詳細は、そうなってみなくてはわかりません。
しかし、これでもインフレの可能性が消せないとなると、一気に10パーセントの金利を上昇させたり、緩和マネーを一気に10%減らすという荒業をやってくる可能性があります。
そうなるとマーケットは無茶苦茶です。これを避けるために今、FRBの連中は努力をしているだけの話です。今の発言を見ていると、これを回避できるとは思っていないのがありありとわかります。
為替はあまり触れませんが、ドル安なのはおわかりでしょう。雇用が悪いのですから。ツイッターはすでにレイオフを始め、アマゾンは今週からレイオフ。これで木曜日の失業保険が良くなるわけがないですよね。特にアマゾンは感謝祭前にレイオフを始めるのです。1年で一番、売り上げが上がる前にレイオフを始めるのです。どれだけ売り上げが上がっていないのか想像できると思います。今の売り上げ増は、ドル高によるものだろうと、思っています。
11月24日(木)の失業保険が今週は注目になると思います。
インフレはこう考えると世間の雰囲気は収まったという空気ですが、CPIインデックスの数字をみれば明らかなように、ちっとも収まってはいません。それよりもさらに悪化の可能性の方が高いのです。私はこう考えています。
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- インフレが終わるわけがない理由(11/19)
- インフレはなぜ続くのか?(11/18)
- NATO攻撃の妄想劇場(11/17)
- 今の状況はコロナショック前と同じ(11/16)
- PPIと鉄板銘柄について(11/15)
- どういう点に注意をしてマーケットにのぞめばいいのか?(11/14)
- 週末特別号 今のマーケットはきちんとロジカルに理解するべきだと思います(11/12)
- 今後の展開(11/11)
- マーケットは事実でしか動かない(11/10)
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『
角野實のファンダメンタルズのススメ
角野實のファンダメンタルズのススメ
』(2022年11月20日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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