ソニーとホンダの合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ(SHM)」が電気自動車の新ブランド『AFEELA』のプロトタイプを発表した。この発表を見て、感じていた懸念が実際に起こってしまったことを確信した。このままの路線で行けば、SHMのEV事業は惨敗で終わるだろう。(『 元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」 元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」 』澤田聖陽)
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プロフィール:澤田聖陽(さわだ きよはる)
政治経済アナリスト。国際証券(現:三菱UFJモルガン・スタンレー証券)、松井証券を経て、ジャフコ、極東証券にて投資業務、投資銀行業務に従事。2013年にSAMURAI証券(旧AIP証券)の代表に就任。投資型クラウドファンディング事業を立ち上げ拡大させる。現在は、澤田コンサルティング事務所の代表として、コンサルティング事業を展開中。YouTubeチャンネルにて時事ニュース解説と株価見通しを発信している。
ソニー&ホンダのEV新会社が始動
ソニーとホンダの合弁会社であるソニー・ホンダモビリティ(SHM)は、1月4日に米国ラスベガスで開催された「CES2023」で、EVの新ブランド『AFEELA』のプロトタイプ(試作車)を発表した。
SHMは2022年10月の設立(合弁会社設立の発表は3月)であり、ソニーとホンダが50%ずつ出資して設立された会社である。
筆者は2022年3月の合弁会社の発表以前に、下記の通りソニーとホンダが組んでEV新会社を設立するだろうということを予見していた。
合弁会社発表後も大きな期待を持って継続ウォッチしてきたが、今回『AFEELA』のプロトタイプ発表を見て、正直がっかりさせられた。
今の路線で行けば惨敗は必至
実は以前からSHMの事業に期待はしていたものの、間違った路線に行く可能性があることを懸念はしていた。
今回の『AFEELA』の発表を見て、感じていた懸念が実際に起こってしまったことを確信した。
このままの路線で行けば、SHMのEV事業は惨敗で終わるだろう。
一言で言えば、「消費者が自動車に何を求めるか」をまったく整理できていないと感じた。
コンテンツは自動車を選ぶ差別化要素にならない
『AFEELA』の発表会を見て疑問に感じたのは、SHMがEVを「コンテンツを提供するデバイス」と定義しているという点である。
実際にソニー出身の川西社長は、AFEELAで音楽を聴いたり、映画を観たり、ゲームをしたりということを前提としているような発言をしている。
筆者も自動車で、音楽を聴いたり、運転手以外が映画を観たりゲームをしたりということ自体を否定するつもりはない。
川西社長が話しているように、自動運転に技術が普及すれば、運転手さえもそのようなコンテンツを自動車での移動中に楽しむことはあり得るだろう。
しかし、自動車自体がコンテンツを提供できるデバイスとして進化する必要があるかというと個人的には否だと思うし、少なくとも自動車を選ぶ消費者に対する決定的な差別化要素にはならないだろう。
また今回のAFELLAの「メディアバー」という機能が発表されているのだが、これはフロント部分にLEDでロゴや天気など各種情報を表示できる機能である。
正直な感想として、何でこのような無意味で消費者が求めないものがプロトタイプの発表に残ってしまったのかと思った。
そして、このままの路線で行くとソニーとホンダのEVでの試みは惨敗するだろうなと確信に変わったのである。
Next: なぜ日本メーカーは勘違いを連発?消費者が自動車に求めるのは何か
消費者が自動車に求めるのは安全性と利便性
そもそもコンテンツであれば、スマートフォンやタブレットでも自動車に乗って楽しめるし、それを自動車のモニターに繋いで同乗者と一緒に楽しむのも技術的には容易であり、他社でも簡単に作れる機能である。
なぜ今さらモビリティ(自動車)自体をコンテンツ提供のデバイス化するというような発想が出てくるのか。
ソニーは、かつてウォークマンで世界を席巻したのに、スマートフォン分野でAppleなどに後れを取ったため、モビリティ分野で挽回しようという想いがそうさせたのではないだろうか?
想いを持つことは必要ではあるし、事業を進めるにあたって大切になることは否定しないが、想いが先行して消費者のニーズと乖離してしまうという事例を多く見てきた。
今回の『AFEELA』は消費者のニーズとかなり乖離しているのではないだろうか。
消費者が本質的に自動車に対して求めるのは、コンテンツを提供してくれるデバイスではなく、「自動車としての利便性と安全性」である。
本来その部分を今回の『AFEELA』の発表で消費者に訴えかけるべきであったと思うのだが、その部分の訴求はほとんど感じなかった。
なぜ日本メーカーは消費者向け事業が不得意になったのか?
SHMはソニーとホンダの折半出資ではあるが、今のところソニーが事業を主導しているように見える。
今回の『AFEELA』の発表は、消費者向け事業(BtoC事業)が不得意になった日本の家電メーカーを象徴している。
1990年代ぐらいまでは、日本の家電メーカーはBtoC事業で世界を席巻していたわけだが、2000年以降は負けが続いている(ゲーム機など一部では健闘してはいるが)。
特にスマホ分野では、消費者向け事業では惨敗したと言っていいだろう。
AppleはiPhoneで世界を席巻したが、ソニーは2010年代前半ぐらいまではXperiaブランドでスマホ分野でも奮闘していたが、現状では世界シェアは1%にも満たないと言われており、30%弱のシェアを有するAppleやSamsungとは大きな差がついてしまっている。
逆にソニーはスマホ用カメラ半導体(CMOS)の生産などで大きなシェアを持っており、事業者向け事業(BtoB事業)では大きな利益を出しているのではあるが。
事業の住み分けであり、あえてBtoC事業で勝負をかけなくても良いという意見もあるだろうが、ソニーをはじめとする日本の家電メーカーの多くは過去の成功体感が忘れられず、今回のSHMでのEV事業参入も「かつての栄光をもう一度」という想いがあるのだと思う。
Next: ソニーはまたも敗戦へ向かう?ホンダと組むメリットを活かして欲しい
ソニーはまたも敗戦へ向かうのか?
自動車事業はマーケットサイズが大きいし、ソニーがEV市場に対して次の大きなマーケットとして挑戦すること自体には賛成だ。
しかも自動車製造で大きな実績があるホンダと組んだことは、他の自動車製造ノウハウや実績がない会社に比べれば、大きなアドバンテージがあるはずである。
しかし今回の発表を見ると、スマホで負けた過ちを再度繰り返しているように思う。
マーケティングの弱さと、そのマーケティングを経営にスピード感を持って反映させられないという日本企業の弱点が露呈しているではないだろうか。
今回の『AFEELA』については、マーケティングを完全に間違えており、消費者のニーズをまったく掴めていないなと感じた(厳しいことを言うと、自分たちが先進的であると考えていることに酔っていると感じた)。
SHMは2025年の量産を目指しているということなので、まだ軌道修正の可能性はあるし、ぜひ早めに気が付いて欲しい。 ※2023年1月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。
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投資に勝つにはまず第一に情報分析。「投資に勝つ」という視点から日常のニュースをどのように読むべきか。元証券会社社長で、現在も投資の現場の最前線にいる筆者の視点で解説します。