再生可能エネルギーや原子力に続く二酸化炭素(CO2)を排出しないエネルギー源として、いまアンモニアが脚光を浴びている。アンモニアで発電、ガラス製造を行う企業、ならびにアンモニアを生産する企業にスポットを当てておきたい。(『 田嶋智太郎の先読み・深読み!株式マーケット 田嶋智太郎の先読み・深読み!株式マーケット 』田嶋智太郎)
※本記事は有料メルマガ『田嶋智太郎の先読み・深読み!株式マーケット』2023年4月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券勤務を経て転身。転身後の一時期は大学教諭として「経営学概論」「生活情報論」を担当。過去30年余り、主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、地域金融機関改革、引いては個人の資産形成、資産運用まで幅広い範囲を分析研究。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等において、累計3,000回超の講師を務めてきた。これまでに数々のテレビ番組へのレギュラー出演を経て、現在はマーケット・経済専門チャンネル『日経CNBC』のレギュラー・コメンテーターを務める。主な著書に『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)などがある。
高まる!「アンモニア」の注目度
再生可能エネルギーや原子力に続く二酸化炭素(CO2)を排出しないエネルギー源として、いまアンモニアが脚光を浴びている。脱炭素の切り札とされる水素よりも保管や輸送が容易で、現実的な実用化を見込める「伏兵」として注目される。
アンモニアに先行して脱炭素の切り札とされたのは燃やすと水になる水素だった。だが、保管や輸送に使うタンクを高圧にするか、極低温の状態にする必要がある。インフラ整備が難しく発電分野への普及が遅れた。代わって注目されるのがアンモニア。数気圧か零下33度(水素は零下253度)で保管でき、通常(水素は専用)のガスタンクで扱える。
今後は発電量が天候に左右される再エネの普及が進む。現在は補助電源として石炭や天然ガスが担う出力調整の一部をアンモニアが代替する期待が高まる。
一方、伊藤忠商事とレゾナック・ホールディングス(旧昭和電工)は、化学繊維を使った使用済み衣料品を活用したアンモニア生産に乗り出す。天然ガスなどから生産する従来方式より二酸化炭素(CO2)排出量を約8割減らせるという。
以下では、アンモニアで発電、ガラス製造を行う企業、ならびにアンモニアを生産する企業にスポットを当てておきたい。
IHI<7013>
温暖化ガスをほとんど出さない世界初のアンモニアガスタービンの試験運転がIHIの横浜事業所(横浜市)で進む。同社によれば「技術は確立済み。クリーンとされる天然ガスと比べても温暖化ガスは100分の1以下」。実現のカギは同社が70年磨いた燃焼技術である。
発電所用に大型化も狙う。23年1月には米ゼネラル・エレクトリック(GE)と数十万キロワット級の開発で提携した。数基分で大型原発に匹敵する発電能力で、30年に発売を目指す。IHIはアンモニアだけを燃料に使った2000キロワットのタービンを自社開発していたが、小規模な工場向けにとどまっていた。今後は、IHIのアンモニア燃料のノウハウとタービン世界大手GEの技術が結合する。
同社の23年3月期は、売上高が前期比15.1%増の1兆3,500億円、営業利益は同4.3%増の850億円、純利益は同24.3%減の500億円を見込む。前期に計上した資産売却益が剥落したものの、営業利益は増加傾向を維持している。
株価は21年12月安値から22年6月高値までの上げに対する61.8%押しの水準で3月に下げ止まって反発。予想PERは10倍前後、予想配当利回りは2.7%程度と株価に割高感はない。
三菱重工業<7011>
三菱重工業も4万キロワット級のアンモニアガスタービンの開発を目指し、22年夏に中核部品の燃焼器の試験を始めた。25年にも実用化する計画だ。排熱を使い発電効率を高めるなどして、シンガポールの発電所への納入も検討する。
足元は、エナジーと物流・冷熱・ドライブシステムの受注と売り上げの伸びが目立つ。エナジーは、GTCC(ガスタービン・コンバインド・サイクル発電)が好調。また、航空エンジンのスペアパーツ販売や備品・消耗品が伸びる。一方、物流・冷熱・エンジンは、販売台数の増加と円安メリットに加えて製品価格値上げの効果が出ている。
同社の23年3月期は、売上高が前期比6.2%増の4兆1,000億円、営業利益は同24.8%増の2,000億円、純利益は同5.7%増の500億円と過去最高を更新する見込み。
株価は20年12月安値から22年6月高値までの上げに対する38.2%押しの水準で3月半ばに下げ止まって反発。足元では、52週移動平均線と一目均衡表の週足「雲」を上抜ける強気の展開となっている。
Next: 注目度を増す「アンモニア」を追い風に成長する日本企業とは?
AGC<5201>
同社は、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さないアンモニアを燃料に使ったガラス製造の実用化へ6月をめどに実証実験に取り組む。国の支援制度を見極めながら2026年以降に一部で実用化を検討する。横浜テクニカルセンター(横浜市)で実際の製造ラインを使ってアンモニアの燃焼試験をする。貯蔵タンクを敷地内に設置。産業ガス大手の大陽日酸(日本酸素ホールディングス)と燃焼バーナーを開発する。
足元は、主力のガラスが車用で数量復調や値上げ浸透により部門黒字化。また、建築用ガラスも堅調。電子は半導体向けEUV露光用が好伸し、ディスプレー材料も反発してきている。
前期に巨額の減損を計上した反動が大きく、今期は増益見通し。23年3月期は、売上高が前期比5.6%増の2兆1500億円、営業利益は同3.3%増の1,470億円、純利益は前期31億円の赤字から870億円の黒字に転換すると見られている。
株価は20年02月安値から21年11月高値までの上げに対する50%押しの水準まで調整した後に反発。足元は、一目均衡表の週足「雲」を上抜けるかどうかが当面の焦点。実績PBR=0.77倍、予想配当利回り=4.32%で割安感がある。
日揮ホールディングス<1963>
3月22日、再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニアを製造する実証事業を福島県浪江町で始めると発表した。太陽光で生み出す電力で水を電気分解してつくる水素を原料にする。10月ごろにプラント建設を始め、2024年度中の運転開始を目指す。
同社によると、グリーンアンモニアの製造拠点設置は国内で初めて。実証は26年度末まで続け、27年度以降により大規模な実証プラントの建設を計画する。アンモニア製造の低炭素化につなげる。
23年3月期は、完成済みのオーストラリアの大型液化天然ガス(LNG)プラント建設を巡る顧客との係争の和解で22年3月期に計上した特別損失の影響が無くなり黒字転換。カナダでのLNGプラント建設なども好調に推移する。売上高は前期比40.1%増の6,000億円、営業利益は同64.3%増と大幅に伸びる見通し。
株価は、足元で一目均衡表の週足「雲」を上抜けるかどうかが当面の焦点となる。
Next: まだあるアンモニアで成長が見込める日本企業。投資するなら?
<東洋エンジニアリング<6330>
昨年4月、東洋エンジニアリングは日揮ホールディングスと、燃料用アンモニアの製造工場を共同で建設する契約を結んだと発表した。お互いの技術やノウハウを持ち寄り、事業の競争力に磨きをかける。まずはアンモニアの主要市場となる日本企業からの着実な受注を目指す。
日揮HDは中東やオーストラリアといった工場の建設候補地で豊富な実績があり、東洋エンジはアンモニア製造設備の技術に強みを持つ。両社が組めば効率的にアンモニア関連施設の受注ができると判断した。
さらに、両社は先週30日、持続可能な航空燃料(SAF)を製造するプラントの基本設計やEPC(設計・調達・建設)で提携した。両社がもつ案件の情報を共有し、共同でEPC受注を狙う。SAFの新規投資が見込まれる中、提携により複数案件を受注できる体制を整える。
24年3月期は海外石油精製プラントや肥料プラントの新規案件が下期に本格寄与。既存の中規模案件も着実進行。営業増益が続くものと見通される。 ※2023年4月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。
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田嶋智太郎の先読み・深読み!株式マーケット
田嶋智太郎の先読み・深読み!株式マーケット
』(2023年4月7日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による