23年度3月期、ワタミは黒字決算となりましたが、飲食業が潤っているわけではありません。宅配事業が売上貢献しただけで、飲食業は赤字続きです。人件費・光熱費の上昇に追い打ちをかけるように不動産屋もテナントへの条件を厳しくしています。もしも“閉店”を迫られたら、飲食経営者はどの道を選ぶべきか?飲食業界の生の声をお伝えします。(『<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』井戸実)
※本記事は有料メルマガ『<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』2023年5月24日号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にご購読ください。
プロフィール:井戸実(いど みのる)
神奈川県川崎市出身、1978年1月19日生まれ。川崎市で一番偏差値の低い工業高校を卒業後、寿司職人の修業を経て、数社の会社を渡り歩いて26歳で目黒区祐天寺に居酒屋を開業。2006年7月に「ステーキハンバーグ&サラダバーけん」を開業し、同年9月に㈱エムグラントフードサービスを設立。現在は事業譲渡をして、株式会社TWENTY NINEで「肉流通センター」の焼肉店をチェーン展開する。
ワタミ黒字化は宅配事業のおかげ
ワタミの23年度3月期の決算が出ましたが、黒字化しました。
具体的には下記のようになります。
売上高779億円
経常利益38億円
当期純利益16億円
しかし、セグメント別でみてみると、興味深い事実が見えてきます。
国内外食部門 ▲17億円
海外外食部門 ▲6.1億円
環境事業部門 4,300万円
農業事業部門 ▲1.4億円
ワタミの宅食 57億円の黒字
居酒屋をはじめとする飲食事業は、全て赤字なんです。売上の面でも、ワタミの宅食部門で437億円となってており、全体売上の半分以上を宅食部門が稼ぎ出しています。事実上、ワタミ株式会社は、居酒屋や焼肉などの飲食事業の会社ではなく、宅配給食の会社が飲食店を副業でやっているという会社に成り代わっています。
ということは、飲食事業を売却して、ワタミの宅食だけやってれば超優良企業になるんです。
ワタミは介護事業を育てたことで、一時の経営危機を救いましたが、次はワタミの宅食事業が、同社の大黒柱になっています。
24年3月期に外食事業が黒字化までには至らなくとも、赤字額をゼロまでに戻せれば、宅食事業がけん引し、同社の業績はV字回復となります。
こんな材料が、他の飲食業でもあれば良いのですが、一方で居酒屋事業だけしかやっていない企業では、先行きは厳しいものがあります。100店簿を超す直営店などをもっている企業ですと、どうやったらコロナ前以上に持ち上げることができるか?僕なんかでは逆立ちしても考えが及びません。コストも軒並み上がっているので、放てる矢も限界があります。居酒屋各社の2024年は、ホントの正念場でありますね。
閉店”を経験しない飲食業者は絶対にいない
さて、話は変わりまして、先日Facebookでも書いたのですが、最近とても気になっている事案があり、こちらでも取り上げさせてもらおうと思います。
飲食店を開業したことのある経営者で“閉店”を経験したことがない人は絶対にいません。これは絶対です!多店化をしていたら“閉店”は必ず向き合わなければ事実なのです。
“閉店”を経験しない飲食経営があるとしたら、寛永2年とかからやってる3代目とか4代目の蕎麦屋とか鰻屋を、所有物件で家族経営をしているような、超超超レアなケースのみです。どれだけ繁盛する店を一から作ったとしても、他の店を作って絶対に失敗して、閉店をした経験がある経営者が全てです。
理想の閉店方法ランキング
これはもう仕方がないことなのです。成功確率を上げるために色んなデーターやロジックを取り込んでも、結局「開けてみないとわかんない」。飲食経営はmこれに尽きるんです。大事なのは失敗を前提とした店作りを行い、最悪の事態に遭遇してしまった際の理想的な撤退(閉店)です。どのような閉店の仕方が良いのか順位をまとめました。
【第1位】造作譲渡代を投資した分以上の金額で買ってもらって、そのまま閉店できる。(この時代、まずありません。)
【第2位】造作譲渡をわずかながらの金額で買ってもらい、そのまま閉店できる(いくらかでも売れた。そしてスケルトンを回避できれば嬉しい)。
【第3位】現況のまま引き継いでくれる後継がテナントについた(投資した分損したけど、スケルトンは回避ができた!)。
【第4位】後継テナントはつかないけれども、大家さんが良い人で、現況渡しで閉店できた(スケルトン回避できたぁ……ラッキー♪)。
ここまでがハッピーで、この後の事案が悲惨です。
【第5位】後継テナントが同条件で入居したいと手を挙げてくれてるのに、何が何でもスケルトンで戻せという大家に当たってしまった(その後継テナントは居抜きだから手を挙げてるだけで、スケルトンになるなら入居はしない。したがって泣く泣くスケルトン工事へ)。
【第6位】大家は次のテナントが入ってくれればそれで良いと思ってるのに、大家側の管理会社が手数料ほしさに、自分達の客付け以外は認めないと言って、継付けを一切認めない。結果、物販のテナントなんかを連れて来たために、仕方なくスケルトン工事へ。
【第7位】半年間、後継テナントを募ったが、結局、後継テナントがつかないので、そのままスケルトン戻しへ(そんな物件を借りてしまった自分達が、情けなくてしょうがない)。
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濡れ手に粟の最狂家主たち
自分の経験上、今までで一番恐ろしかったのが、居酒屋の居抜きで入居した物件で、賃貸借契約書には、退去の際に「原状回復」という文言があったのだけれども、「原状」がどの状態か契約書には示されておらず、家主の主張では「事務所仕様」が現状だと言われ、揉めに揉めた結果、居酒屋の内装を全部壊して、その後、事務所が入居できる内装を作らされたというのが最狂です。
東横線沿線あたりにそういう最狂家主がいるので気をつけましょう。
この20年の間で、特にココ数年、不動産業界の商慣行がなんか酷くテナント不利になって来てるんですよね。
20年前に仲介手数料にプラス企画料を払えとか、山っ気のあるブローカーみたいな奴って嫌わてたのに、今では、そこらの普通の仲介業者が当たり前に請求して来るんです。
たとえば渋谷のセンター街の入り口の角地の物件が出ます!!!
となったら、多くの企業が出店したいから、通常の賃料の一ヶ月分以上の手数料(企画料)をチラつかせて交渉するなんてことが起きても、それは仕方ありません。当時でいうと光通信の携帯販売店であるHITSHOPの店舗開発が、こうした悪い悪習を作り、全国の一等地のテナント物件の企画料が高騰しました。
でも、最近では、たとえば駒込の駅前徒歩2分。某牛丼チェーン居抜き。家賃坪4万円、敷金10か月、償却2ヶ月、礼金2ヶ月、企画料2ヶ月、そして一番腹立たしいのが、保証会社必須とか。もっというと定借3年とか。
もうどうなってんのーーー???????????
って話です。ちょっと大袈裟ですけど、
でも、ここまで酷くはないけれど、こんなクソ物件を借りちゃう奴が実際いるので、成立しちゃってるわけなんです。
ここらでこの流れを止めないと、ゴロツキ不動産屋ばかりが儲かって、実際のプレイヤーの我々が、ただ搾取されるだけになってしまいます。保証会社なんて頼りにならないのは、17年前にリプラスが吹っ飛んで経験しているじゃないですか。
それでもまた筍みたいにニョキニョキと、濡れ手に粟ビジネスを展開する保証会社が乱立して来てる訳ですが、いい加減に法規制が必要ですよね。
テナントも悪いんですよ。そんな悪条件の物件にホイホイと手を挙げるから、こんな目に遭ってし合うわけで。
まぁ保証会社必須なんていうのも、実際には東京の都心部だけで、郊外や地方に行けば、まだそんなアホな状況にはなってはいないのですが。
光熱費・労務コストは1.5倍以上。賃料が払えぬ現実
都心部のマンション価格は、まだまだ高騰しております。オフィス賃料も高騰しています。
しかし事業用(店舗)の賃料が高騰化したところで、テナントが付いて来れる理由がわかりません。光熱費や労務コストが20年前が100だとすると、感覚値で、現状160から170くらいのイメージです。1.5倍じゃ効かないよってほど、光熱費も人件費も上昇しております。
そんな状況で上がる賃料原資を、どこで賄えるのかという話です。
それと最近深刻なのが、定借を求める家主が増えて来たことです。今まで定期借家契約を求める物件と言えば、商業施設だったり、老朽化したビルや戸建ての物件などで、数年後に建替えなどを検討している大家だったのですが、最近では建替えの予定も何もない物件なのに、定期借家契約を求めて来ます。
周知の通り、定期借家契約は貸主が強く、契約年数が満了になれば、家主の意向のみで再契約が不可能となります。追い出しが簡単ということですね。
どんだけ良い物件だったとしても、定借だけは借りてはなりません。家主側の悪意で、いくらでも悪さをされてしまうからです。
知人の女性経営者が、渋谷で凄いいい店を数年前に開業しました。その物件を借りる経緯は、ビルオーナーが独立前のお店の常連で「独立するなら私のビルでどうですか?」と声を掛けてくれたからだったそうです。
そこまではいい話だったのですが、なぜか、普通賃貸借契約じゃなく、定期借家契約を結んだそうなのです。お店は無事に開業し繁盛店となり4年目を迎えたところで、そのビルオーナーが、ビルを売却したそうなのです。
そして新たなビルオーナーがビルの建て替えをしたいとのことで「定借の更新はできません」と通知を送って来たそうなのです。泣く泣く移転先の物件を探しているという話を聞きましたが、不幸な話です。無知が招いた不幸ではあるのですが、こうなる人を増やさないように声高に訴え、悪徳貸しビル事業者や、ゴロツキブローカーから身を守ってまいりましょう。
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『<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』(2023年5月24日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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2010年度外食企業売上高伸長率で日本一となった株式会社エムグラントフードサービスの創業者オーナーです。2011年9月で会社設立から丸5年を迎えます。たった5年で総店舗数260店舗以上。売上高で165億円の社を作った軌跡の一部をメルマガにてお伝えします!