「大阪万博」開催まであと2年を切った段階で、なんと海外パビリオンの建設申請がゼロだと言うのです。“ゼロ”ですよ。153の国と地域が参加を表明しています。このうち50ヶ国あまりがパビリオンを自らの費用で建設することになっているのですが、必要な建設許可を大阪市に申請した国はこれまでにないそうです。この状況で、万博開催は本当に大丈夫なのでしょうか…。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年7月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
「大阪万博」開催まで2年弱
大阪万博、EXPO2025……正式には「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」と言います。
開催日は、2025年4月13日(日)~10月13日(月)の184日間。
開催場所は、「大阪夢洲(ゆめしま)」という大阪湾上の埋立地です。
開催テーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。
これにサブテーマが3つ。
・Saving Lives(いのちを救う)
・Empowering Lives(いのちに力を与える)
・Connecting Lives(いのちをつなぐ)
開催まではあと2年弱。時間はあるような、ないような…。
万博といえば、その公式キャラクターの斬新な描写が話題になりましたよね。「ミャクミャク」と呼ばれるキャラクターがこれです。
東京五輪のときはエンブレム盗作疑惑で注目が集まりましたが、「ミャクミャク」は(盗作ではなく)その独特な風貌で何かと話題になりましたね。
海外パビリオン建設申請「ゼロ」
さて、開催まであと2年を切った段階で、なんと海外パビリオンの建設申請が「ゼロ」だと言うのです。
「ゼロ」ですよ。
153の国と地域が参加を表明しています。このうち50ヶ国あまりがパビリオンを自らの費用で建設することになっているのですが、必要な建設許可を大阪市に申請した国はこれまでにないそうです。
この状況で、万博開催は本当に大丈夫なのでしょうか…。
当初の計画では建設許可を申請してから建設を始めるまでの期間は4か月ほどと想定され、建物本体の工事は来年7月までに終える予定となっています。
パビリオンの設置には「タイプA」「タイプB」「タイプC」の3種類の方法が用意されています。
「タイプA」は、参加国が博覧会協会から敷地の提供を受け、建物の形状やデザインを自由に構成する方法です。それぞれの国や地域の個性が外観などに反映されるため、万博の「華」として注目されています。
「タイプB」は博覧会協会が建物を建築し、参加国がその建物を借り受けて単独で入居する方法で、「タイプC」は博覧会協会が準備する建物に複数の国がまとまって入居するものです。
直近行われたドバイ万博では、会期の終了後も使用する建物があったのですが、大阪・関西万博では終了後に撤去する仮設の建物を建てることになっています。
まあ離れ小島の埋立地ですから、建物の再利用というのは馴染まないのでしょうね。
パビリオンのメインとも呼べる「タイプA」の方法で建設する国は、ドイツ・スイス・中国など50ヶ国あまりだということです。
参加国が設計から建築までを自前で行う必要があります。
博覧会協会によりますと、初めに提出を求めている「基本設計書」をこれまでに協会に提出した国は、「タイプA」を建設する方針の50か国あまりのうち9か国で、さらに大阪市によりますと、その次の段階の「基本計画書」を市に提出した国はなく、建設申請する段階に進んだところもまだ1つもないそうです。
アメリカでは、大阪・関西万博参加に関して、米連邦議会は、米国パビリオンの支援費用2,500万ドルを含む2023年度包括歳出法案を承認し、バイデン大統領が署名して成立しました。
また、米国を代表する企業であり、飲料でもあるコカ・コーラが、米国パビリオンのメインサポーター企業を務めることになりました。まだその段階です。
ちなみにロシア参加に関しては、林外務大臣は、ウクライナへの軍事侵攻は、万博が掲げる理念と相いれないとして、現状では、想定していないという認識を示しました。実は、ロシアも、ウクライナに軍事侵攻を始める前の去年4月に参加を表明しています。
林外務大臣の「現状では想定していない」という表現は、未来に向けて状況が変われば「参加を認める場合がある」という意味合いがあるそうです。現時点でロシア参加を認めない理由となるのは、大阪・関西万博テーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」の理念に相容れないということになるそうです。
万博の実施主体、博覧会協会の石毛博行事務総長は13日「『タイプA』の国の中には構想を示しているところもあり、建設業者を探すなど支援ができればいい。一概には言えないが、年末までに着工すれば開幕に間に合うと考えている」と述べたとあります。
Next: 「建設申請ゼロ」で運営側が建築費を肩代わり?万博を開催する意義は…
「建設申請ゼロ」に対する博覧会協会側の提案
万博関係者によると、「建設申請ゼロ」の背景には以下の要因があるとしています。
・資材価格の高騰
・深刻な人手不足
・2年という工期の短さ
・ドバイ万博の1年延期(万博と万博の感覚が縮まった)
今の時点で「建設申請ゼロ」というのをことさら強調して危機感を煽ることはないのかもしれませんが、博覧会協会側が、「デザイン簡素化」「参加国のかわりに協会が建設会社への発注を行う」とか、パビリオンの質を多少落とすことを相手国に提案しているという話を聞くと、ちょっと心配にはなってはくるのですね。
それにしても、協会側のこの提案ってどうよ…。どうやら資材価格高騰に伴い、博覧会協会側が建設費を負担する(いわゆる肩代わりですね)という案もあるそうですよ。
それは国も了承しているかのような発表があったものの、どうやら国側としては「聞いてないよ」という態度だったということだそうです。
真相はどうなのかというよりも、海外パビリオンを日本側の負担で建てるって、それって万博の意味ありますかね。
そもそも今さら莫大なお金をかけて万博に参加する意義ってなんなのでしょう。
1970年当時の、日本の戦後復興の象徴として開かれた万博ならまだ意味があるかもしれませんが、コロナ・パンデミックもあり、大型箱物に経済発展を頼ることに、どれだけの意義があるのでしょうかね。
発展途上国で万博を行うのならともかく、今さら日本で行う意味は、繰り返しますが、本当にどこにあるのでしょう…?
東京で(かつての)五輪再び、大阪で(かつての)万博再び…。いったいなんの郷愁に浸っているのでしょう。
大手ゼネコン側の“嘆き節”も
大手ゼネコン側の“嘆き節”も聞こえてきます。以下、読売新聞の記事です。
※参考:海外パビリオン遅れ、大手ゼネコン「いくらお金もらっても出来ない」…万博協会は道筋示せず : 読売新聞(2023年7月14日配信)
記事には「石毛博行事務総長は年末までに着工すれば開幕には間に合うとの認識を示したものの、具体的な道筋は示せず、万博協会の対応の鈍さが浮き彫りになった」とあります。
さらに読み進めると「大手ゼネコンの幹部は『もはやいくらお金をもらっても出来ないことは出来ない』と話す」ということが書かれています。
安倍総理肝入りの「働き方改革」で、来年4月には、労働基準法の改正で建設業の時間外労働規制が強化される事情もあるようです。
Next: 労基無視で残業を強要?大阪市(運営責任者)がカナダに約束したこと
カナダ万博代表と実務者大阪市との意見交換の場で…
「海外パビリオン建設申請ゼロ」に関して、ここまでのことを整理すると…。
・工期がタイト
・資材価格高騰に人手不足
・労働基準法の改正で建設業の時間外労働規制が強化
この流れを理解したうえで、次の記事を読んでみます。
※参考:万博の海外パビリオン準備遅れ、カナダ政府代表が大阪市と意見交換:地域ニュース : 読売新聞(2023年7月15日配信)
この記事の内容は非常に驚くものです。大阪・関西万博に出展するカナダのローリー・ピーターズ政府代表と高橋徹副大阪市長との会話が載っています。カナダ万博代表と、実質的な日本側運営責任者である大阪市との会話です。
万博は、「都市」が運営の責任者となります。実務の責任者ですね。お金は国からもらったりはしますよ。だから万博の前に都市名が付けられます。「ドバイ万博」とか「上海万博」とか「パリ万博」といったぐあいで、今回は「大阪万博」なのです。
意見交換の内容は、資材高騰などで準備の遅れが懸念されている海外パビリオンについてです。
前述の記事をじっくりと読んで欲しいのですが、大まかに記事の内容はこうなっています。
ピーターズ・カナダ政府代表は、パビリオン建設について「予算が限られ、スケジュールもタイトだ」との認識を示したうえで、労働基準法の改正で来年度から建設業の残業時間に罰則付きの上限規制が設けられることについて、「万博の建設では(残業を)例外的に認めるなど、柔軟に対応してほしい」と求めたというのです。
これを受けて、実務責任者の高橋副大阪市長は、「国もしっかり把握している。すばらしいパビリオンが完成するよう可能な限り協力したい」と述べたというのです。
平たく言えば、カナダ側の「労基は無視して残業を強制してでも(パビリオン建設を)完成してくれ」という要求を、大阪市が了承したということですかね。
たしか大阪・関西万博の「サブテーマ」の1つは「Saving Lives(いのちを救う)」でしたよね。労基を無視して残業をし続けて期限内にパビリオンを造ることと、「いのちを救う」ことのバランスは、どう考えればよいのでしょうか。
ロシアが参加させないのも、大阪・関西万博テーマの理念に相容れないからでしたよね…。
『働き方改革』における労働基準法の見直しに関しては、こちらの厚生労働省のホームページをご覧になってください。ページをスクロールしていって、労働時間上限規制スタート時期が業種によって違うことをご確認ください。建設業は、施行日(2019年4月1日)から5年後に適用になると書かれています。それが2024年4月1日になるのです。今話題の、トラックの運転手さんの残業規制による「配送業2024年問題」も、この法律によるものです。
大阪万博の日本館、入札不成立で随意契約に…
大阪・関西万博に政府が出展する「日本館」について岡田直樹万博相は6月27日、建設工事の入札が不成立となり、任意に建設業者を選ぶ随意契約に切り替えると明らかにしました。当初の予定通り2025年2月末までの完成をめざすそうです。
※参考:大阪万博の日本館、入札不成立で随意契約に 万博相「見直しも」:朝日新聞デジタル(2023年6月27日配信)
随意契約は、一般競争入札に比べて競争が働きにくく、建設費が膨らむ可能性があります。
報道によれば…「日本館は鉄骨づくりの地上3階建てで、延べ面積約1万1350平方メートル。ホスト国である日本政府が出展する万博の中核的なパビリオンで、各国の首脳らをもてなす拠点にもなる。従来の計画では6月中旬にも工事を始め、開幕2カ月前の25年2月末までに完成させる予定となっていた」「岡田氏はこの日の閣議後会見で、着工が遅れることについて『工期の短縮で
予定通りの完成に導く』と、完成時期に変更はないと説明。建設費が膨らむ可能性には『(仕様の)見直しもありうべし。そのことによって契約額を抑えるのも可能だ』と述べ、契約後に必要に応じて設計などを見直す考えにも言及した」とあります。
この朝日新聞記事の具体例を見てみましょう。
脚本家の小山薫堂氏がプロデューサーを務めるテーマ館は、予定価格を当初の1.3倍の12.6億円に増やした2回目の入札でも、落札者がいなかったそうです。
3回目となる入札の公募を始め、予定価格は約12億6,000万円で、前回の入札とほぼ同額に据え置く一方、建物の高さを低くするなどし、建設費を圧縮したとのことです。
価格が跳ね上がることも含めて、別の論点が見える例があります。
メディアアーティストの落合陽一氏がプロデューサーを務めるテーマ館の建設工事について、再入札の結果、大和ハウス工業傘下の2社による共同企業体(JV)が、予定価格を2000円下回る約11億8000万円で落札したと発表した。
関西電力に経産省が3度目の改善命令…企業向け電力販売でカルテル
落合氏のテーマ館は、昨年10月に募集を締め切った1回目の入札が成立せず、設計を見直して建設費を抑えた上で、予定価格を1.8倍に引き上げて再入札していた。応募は大和ハウス傘下のフジタと大和リースのJVだけだった。
出典:万博「落合陽一」テーマ館建設、JVが落札…予定価格1・8倍に引き上げ、再入札で:地域ニュース : 読売新聞(2023年6月24日配信)
博覧会協会は、発注済みの会場基盤整備工事6件のうち5件で、建設資材などが急激に値上がりした場合に契約額を見直す「スライド条項」を適用したことを明らかにし、工事費は約9億円増の約90億円に膨らむ見通しを発表しています。
Next: 民間パビリオンには政治家に食い込む“お友だち企業”の名前も?
民間パビリオン
大阪・関西万博では、海外パビリオンの他に、国内民間パビリオンというのがあります。
※参考:民間パビリオン – 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
大阪・関西万博に出展する民間パビリオンは以下の13社です(五十音順)。
・飯田グループホールディングス株式会社
・一般社団法人大阪外食産業協会
・住友 EXPO2025 推進委員会
・特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン
・玉山デジタルテック株式会社
・電気事業連合会
・一般社団法人日本ガス協会
・日本電信電話株式会社
・株式会社バンダイナムコホールディングス
・株式会社パソナグループ
・パナソニック株式会社
・三菱大阪・関西万博総合委員会
・吉本興業ホールディングス株式会社
民間パビリオンの配置は、大阪・関西万博の会場の外縁を取り囲むような感じになるそうです。
今までの政治関連報道で、うがった見方をしてしまう企業もあります。
孤立した「夢洲」に強引に鉄道を通す計画があることとか、そもそも「なぜ夢洲なのか」というところについて、橋下徹氏が大阪府知事に当選したときの(当時は自民党推薦)、府庁移転問題にまで遡って考察したいと思います。
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年7月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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- らぽ~る・マガジン第588号「大阪万博 海外パビリオン建設申請「ゼロ」このままで本当に大丈夫…?」(7/17)
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』(2023年7月17日号)より
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