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なぜラーメン屋は「1000円の壁」を越えられないのか。コスト増の3重苦で倒産続出も、庶民の金銭感覚が変わらないワケ=原彰宏

ラーメン1杯に1,000円以上……これを「高い」と感じますか?それとも「安い」と思いますか?飲食店を取り巻く環境は、「物価高騰による原材料費値上げ」と、「人手不足による労働力確保困難」、それに伴う「人件費の高騰」という事象に囲まれています。あなたがもし「飲食店経営コンサルタント」だったとしたら、利益確保のためにラーメン1杯1,000円以上の値付けをアドバイスしますか?この“ラーメン1,000円の壁”論争は、いろいろな問題を問いかけています。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年10月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

ラーメン1杯にいくらまで出せる?

ラーメン1杯の値段が1,000円以上……これを「高い」と感じますか?それとも「安い」と思いますか?

一般の人の感覚だと、ラーメンの適正価格はいくらと感じているのでしょうか。ボリュームゾーンがそうだとすると、1杯700円~800円というところでしょうかね。

飲食店を取り巻く環境は、「物価高騰による原材料費値上げ」と、「人手不足による労働力確保困難」、それに伴う「人件費の高騰」という事象に囲まれています。

そんな中で、あなたがもし「飲食店経営コンサルタント」だったとしたら、利益確保のためにラーメン1杯1,000円以上の値付けを、アドバイスしますか?

この“ラーメン1,000円の壁”論争は、いろいろな問題を問いかけています。

「1,000円」という値付けには、立場によって見える風景が異なってくるようです。

まず消費者からの観点です。

そもそもラーメンという商品の立ち位置が微妙で、高級食ではない庶民の食べ物という感覚ではありますが、いわゆる「B級グルメ」かと言われれば、意見が分かれそうです。

平成から令和にかけてラーメンの進化はめざましく変わりました。最近では「超高級ラーメン」なる和牛ステーキがのったラーメンとか、フカヒレラーメンなど1杯5,000円から10,000円もするものが登場してきました。

ここ20年間は毎年のように新しいラーメンが誕生し、食材や製法にこだわるお店が増えてきました。

そして「庶民フード」の代表であるラーメンが、あの「ミシュランガイド」に、2014年から「ラーメン部門」が新設されるようになったのです。

もはやラーメンは大衆食でも、ましてやB級グルメでもなくなろうとしているのです。

ラーメン業界にも「二極化」が進んでいると言えそうです。

“たかが”ラーメンという消費者感覚

それでもおおむねラーメンが「庶民の食べ物」であるとするなら、ラーメン1杯の価格は、庶民の財布から出せる範囲になるのでしょうね。

長引くデフレが続き、30年も賃金が上がっていない“貧しい国”日本では、年々、人々の財布の紐は固くなるばかりで、それこそ外食に払えるお金の額は少なくなってきています。

都会のサラリーマンの昼食事情は、もはやワンコイン(500円)戦争に突入しています。

その感覚で、果たしてラーメン1杯円とか1,500円は、庶民に受け入れられるでしょうか。

ここが、 当メルマガ 当メルマガ の今回のテーマである「ラーメン“1,000円の壁”」になるのです。

この表現が意味していることは、原材料費や人件費高騰にもかかわらず、その分を価格に転嫁できずに倒産してしまうラーメン店が増えてきているということにほかなりません。

ラーメン店同士の消耗戦が年々熾烈化していて、ここまで述べた原材料費や人件費などのコストアップが加わり、大型チェーン店の価格競争に巻き込まれ、さらには「1,000円の壁」といった消費者心理も背景に低価格・薄利経営での体力勝負が続いたことで、あの「六角家本店」(神奈川)など老舗店までも経営破綻しました。

消費者の中の“たかがラーメン”という思いが根強くあることが「1,000円の壁」を作っているのだと思われます。

Next: ラーメン店「大倒産時代」に突入。お客さんの心理はどう変わった?



ラーメン店「大倒産時代」に突入

日本全国にラーメン店は3万軒以上も存在します。中華料理屋やファミレスなども含めるとおよそ20万軒になると言われています。半数以上が全国チェーン店になります。

こんなに膨れ上がったのも、ラーメン業態では「参入障壁が低い」という特徴もあります。

ラーメン店の倒産が大幅に増加した……帝国データバンクの調査結果がそう語っています。

チェーン店のラーメンは、1杯300円~400円台という価格を提示しています。薄利多売の商売とはいえ、これに立ち向かう個人店は、1日どれだけの集客を見込めばよいのでしょうか。

もっとも、倒産要因として「コロナの影響」というのもあります。「三密防止」「不要不急の外出禁止」の影響は、飲食店などの外食産業や観光産業に、大打撃を与えました。

その大打撃は、単なる表現では語れないほど生易しいものではありませんでした。

いったん離れた客足は戻っては来ない……行動制限が解除されたからといって、何もかもが元通りになるというものではありません。

当然、お店側の二極化という問題もありますが、ここで店の実力が試されると言われれば、その通りではあります。

ただ、営業自粛の間の給付金で家賃や人件費を賄っていたお店は、給付が途絶えた瞬間に立ち行かなくなり、行動規制解除を待たずに倒産してしまったお店はたくさんあります。

コロナ対策の外食産業や観光業への対策は、果たして正解だったのか、そもそもパンデミック初動のコロナ対策がきちんとできていれば、もっと短期間で、社会をもとの状態に戻せたのではなかったのかという疑問は残り続けます。

“キャッチーな言葉”だと自負しているであろう「三密」「不要不急」という言葉が、完全に、世の中の商売、商行為を殺してしまったのも事実です。

この流れの先に物価高があり、人手不足があり、世の中の賃上げの大合唱があるのです。

そりゃあ、お店側も“たまったもんじゃない”でしょうね。

消費者の行動変容に期待

一方で、かつてのリーマン・ショック後の消費マインドとは、いまは少し変わってきています。

・良いものにはお金を払う
・モノができる“プロセス”にお金を払う(コト消費、物語消費)

ラーメン1杯の「物語」に価値を見出しているようでもあります。

お椀の中のスープが奏でるハーモニーとか、こだわった食材に価値を求めているところがあり、ラーメンにかける店主の思いに「10,000円以上」の価値を見出す風潮も垣間見られます。

ようは、消費者側が、完全に「二極化」しているのですね。今どきの言葉を使えば「分断」「格差」になるのでしょうか。

「ラーメン1,000円の壁」は今の日本の象徴かも

プロサッカー選手の本田圭佑さんが、自身のX(旧Twitter)で以下を発言して話題になりました。

イギリスから一時帰国している人が、日本のラーメン屋さんのメニューを見て「よくこの値段で従業員に給料払えるね」と感心していました。

イギリスでは、スーパーなどで買う野菜は、値が上がったとは言えアップを抑えますが、加工されたもの、つまり人の手がかかった料理は、かなり高い値段をつけているそうです。

そうなのです。提供された料理には、人の手がかかっているのです。それまで培った料理の腕がかかっているのです。

貧すれば鈍す……なんか今の日本には、この言葉がまん延しているような気がして仕方がありませんね。

Next: 高い?安い?ラーメンに適正価格など存在しない



ラーメンに適正価格など存在しない

商売をあまりご存知ない人でも、ラーメンの売り上げから材料費のみならず、家賃や人件費、水道光熱費、消耗品費など様々な経費を出さなければならないことは理解できると思います。

そのうえで「残ったもの」が利益となります。まあ、2割も残れば優秀なほうでしょう。

当然、ラーメン1杯の価格を抑えれば、それがたとえ店主のこだわりであろうが、「薄利多売」のビジネスモデルになるのは必至です。

安いものはそれなりに、高いものは満足度を上げる。これが商売の鉄則であろうし、消費者側もこれを理解してほしいところでしょう。

良いものを安く……デフレ時代の代表的なキャッチフレーズですね。身を切ってまで安価で提供するのは、もはや商売ではありません。

和食の一分野であった「寿司」が、その戦略により高級感をイメージさせた成功例もあります。

かつて「ラーメンブーム」というのがありました。1996年あたりからでしたかね。繰り返しますが、『ミシュランガイド』にも2014年からラーメン部門が新設され、その動きに拍車がかかるようになってきました。

「ラーメン1,000円の壁」問題は、何もラーメンにかぎらず、日本における「商売」そのものあり方が問われているような気がします。それは消費者側にも、みんなで日本経済を支えようとする中での役割を認識させるものだとも思います。

言えることは、何事においても「二極化」は加速するであろうということです。あなたは「二極化」のどちら側に位置したいですか…。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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