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今年最大の海外リスク「英国EU離脱」を考える~世界金融は大混乱も=山崎和邦

今年最大の海外リスクは英国のEU離脱問題だ。しかも、今のところ離脱はないという前提で市場は動いているから、6月下旬に離脱決定があれば世界金融市場は大騒動となろう。(山崎和邦)

本記事は有料メルマガ 山崎和邦 週報『投機の流儀』(罫線・資料付)*相場を読み解く【号外・山崎動画】も配信(2016年5月29日号)の一部抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に初月無料の定期購読をどうぞ。

現在の日米株式市場は英国EU離脱を織り込んでいない――

「最大の政治リスクは英国のEU離脱問題」仙台G7

仙台G7では、中国を含む世界経済の過度な悲観論は後退したとしたが、現在の最大の政治リスクは英国のEU離脱問題との認識で意見一致したという。

先々週号の本稿で「英国がEU離脱すれば→日本株は下がる」と述べたが、G7会議では「英国がEU離脱すれば→世界金融市場は大混乱に陥る」とされたわけだ。

筆者も、今年最大の海外リスクは英国のEU離脱問題だと思う。しかも、今のところ離脱はないという前提で市場は動いているから、6月下旬にもし離脱決定があれば世界金融市場は大騒動となろう。

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英国のEU離脱は大きな問題を引き起こす。大体、金融市場の神経機能というものはヒトの予想以上に何倍も大きいし、拡大伝播するものだ。

ましてや、ロンドン市・シティはNYウォール街に次ぐ世界の金融センターだ。筆者が野村證券で平社員の営業マンだった1966年秋頃、「ポンドショック」と呼ばれた英国発の暴落相場があった。グローバル化していなかった固定為替レートのこの時代でさえ、それを感じた。

数年前の「ギリシャショック」もしかり。あの時は本稿で「あんな小国のことは関係ない」と言い切り、翌週直ちに撤回したという経緯があった。これは野村総研のリチャード・クー氏のリポートを読んで、1966年のポンドショックを想起したからだった。

「一人勝ち」のドイツ

欧州は、統一されたドイツを、経済規模も人口も欧州ダントツということで脅威とみなした。そこでドイツをEUの形で巧みに組み込もうとした。

30数ヶ国が陸続きである欧州の政治秩序は、過去数百年間に50回以上の戦争や、国民の3割も死亡する悲惨な伝染病など暗い歴史を経て不戦の誓いに至った。悲惨な30年戦争の講和条約として生まれたウェストファリア条約の精神が基本になって醸成された経緯がある。それは「国家主権の尊重」を当然として「国家間の勢力均衡」を標榜した。

ところが統一ドイツの出現によって後者(国家間の勢力均衡)が危うくなった。今のEUのホンネはそこにある。そこでEU当局は、通貨を統一すればドイツの経済力を抑制できると考えた。

だがこれは誤りだった。輸出得意のドイツは本来ならドイツマルクの独歩高に苦労したはずだが、現実のドイツはユーロ弱体化を逆手にとり自国だけで儲けることに成功した。ドイツはジョージ・ソロスさえ手出しできなかった「強い通貨・ドイツマルク」を放棄してユーロを選択した。そのゲルマンの打算は見事に的中して、ユーロ圏の一員として輸出で大いに儲けた。

これを筆者は一昨年の本稿で「昔トヨタ、いまワーゲン」と揶揄したが、ドイツは政治的にも経済的にも、ユーロ圏の覇権国になってしまったのである。

Next: 世界金融経済の神経機能に大波乱を巻き起こす英国のEU離脱



世界金融経済の神経機能に大波乱を巻き起こす英国のEU離脱

ドイツ覇権を最も不快に思っている国はイギリス、フランスであろう。

かつて英国・サッチャーはフランスに「ゲルマン人に尾を振るプードル犬に貴国は成り下がったか」と悪態をついた。フランスは元来が“外交の国”だけあって上手く立ち回ろうとしているが、英国・スイスは最初からユーロ圏には加入しなかった。

そうして我関せずと超然としているうちに、政治・経済の権力はドイツに集中することになった。

かつて筆者は、発生史的に見てEUの精神はヤワなものではないと考え、本稿でも数年前に
そう書いたことがある。しかし今は、ドイツへの権力集中をなんとかせねばEU存続の基本精神が崩壊するところまできている。

英国はユーロ圏には入ってないが、ドイツへの権力集中化を快しとしないジョン・ブルの意地がある。

もっとも、英国自らEU離脱となれば、経済的には損をすることを英国民なら皆が知っている。 筆者の英国通の友人などは、プラグマティズムが大好きな英国の国柄はジョン・ブルの意地だけではやって行けないことを承知していて、国民投票はEU残留に決まるだろうと言うが果たして如何なものか。波乱含みである。

英・FTSE100指数の動き

英国がEU離脱となれば、「トランプ大統領の出現」以上に世界金融経済の神経機能に大波乱を巻き起こすであろう。なにしろ、ロンドン市・シティはNYウォール街に次ぐ世界の金融センターである。

かつて中国株暴落の折、筆者は本稿で「中国株は地方限定的で、世界金融の神経機能に大きな衝撃はない。上海株暴落は中国経済の先行き、実態経済への懸念を反映したものだ」と述べたが、それと引き換え英国のEU離脱は、世界の金融機能に対して直接的な衝撃を与えるであろう。

Next: 英国EU離脱問題の要約と現状分析



英国EU離脱問題の要約と現状分析

英国政府の試算によれば、英国がEU離脱すれば景気は後退し、経済規模は3.6%縮小するという。

今のところEU残留派がやや優勢だが、EU離脱派との差は小さい。若年層には残留支持が多い。世論調査によると残留47%、離脱40%となっている(英フィナンシャル・タイムズ調べ)。

ただし、この残留の是非を問う国民投票をめぐっての不透明感が経済活動を慎重にしている面がある。この動きが加速すれば英国の景気減速感が強まろう。

日本で「3K」と言われる景気敏感経費(広告・交際費・交通費)のうち、英国では広告宣伝費が大幅に落ち込んで4月は前年同月比マイナス13%だという(英民放大手)。

またEU離脱派が多数を占めれば不動産需要が落ち込むとして、英不動産最大手会社はこの半年内で1700億円の不動産を売却した。新規公開を見合わせる会社も出始めた。ロンドン証券取引所の総会も、ドイツ取引所との経営統合判断を6月国民投票後の7月にしたいという。

このような中で、少なくも現在の日米の株価は「英国のEU離脱はない」という動きをとっている。

市場は意外に何でも知っているという。しからば離脱はないのであろうか。あるいは離脱を織り込んでいないからこそ、万一離脱と決まれば金融市場の神経機能は激動するのであろうか。それは、市場の動きから窺い知る以外にない。

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