今年最大の海外リスクは英国のEU離脱問題だ。しかも、今のところ離脱はないという前提で市場は動いているから、6月下旬に離脱決定があれば世界金融市場は大騒動となろう。(山崎和邦)
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現在の日米株式市場は英国EU離脱を織り込んでいない――
「最大の政治リスクは英国のEU離脱問題」仙台G7
仙台G7では、中国を含む世界経済の過度な悲観論は後退したとしたが、現在の最大の政治リスクは英国のEU離脱問題との認識で意見一致したという。
先々週号の本稿で「英国がEU離脱すれば→日本株は下がる」と述べたが、G7会議では「英国がEU離脱すれば→世界金融市場は大混乱に陥る」とされたわけだ。
筆者も、今年最大の海外リスクは英国のEU離脱問題だと思う。しかも、今のところ離脱はないという前提で市場は動いているから、6月下旬にもし離脱決定があれば世界金融市場は大騒動となろう。
英国のEU離脱は大きな問題を引き起こす。大体、金融市場の神経機能というものはヒトの予想以上に何倍も大きいし、拡大伝播するものだ。
ましてや、ロンドン市・シティはNYウォール街に次ぐ世界の金融センターだ。筆者が野村證券で平社員の営業マンだった1966年秋頃、「ポンドショック」と呼ばれた英国発の暴落相場があった。グローバル化していなかった固定為替レートのこの時代でさえ、それを感じた。
数年前の「ギリシャショック」もしかり。あの時は本稿で「あんな小国のことは関係ない」と言い切り、翌週直ちに撤回したという経緯があった。これは野村総研のリチャード・クー氏のリポートを読んで、1966年のポンドショックを想起したからだった。
「一人勝ち」のドイツ
欧州は、統一されたドイツを、経済規模も人口も欧州ダントツということで脅威とみなした。そこでドイツをEUの形で巧みに組み込もうとした。
30数ヶ国が陸続きである欧州の政治秩序は、過去数百年間に50回以上の戦争や、国民の3割も死亡する悲惨な伝染病など暗い歴史を経て不戦の誓いに至った。悲惨な30年戦争の講和条約として生まれたウェストファリア条約の精神が基本になって醸成された経緯がある。それは「国家主権の尊重」を当然として「国家間の勢力均衡」を標榜した。
ところが統一ドイツの出現によって後者(国家間の勢力均衡)が危うくなった。今のEUのホンネはそこにある。そこでEU当局は、通貨を統一すればドイツの経済力を抑制できると考えた。
だがこれは誤りだった。輸出得意のドイツは本来ならドイツマルクの独歩高に苦労したはずだが、現実のドイツはユーロ弱体化を逆手にとり自国だけで儲けることに成功した。ドイツはジョージ・ソロスさえ手出しできなかった「強い通貨・ドイツマルク」を放棄してユーロを選択した。そのゲルマンの打算は見事に的中して、ユーロ圏の一員として輸出で大いに儲けた。
これを筆者は一昨年の本稿で「昔トヨタ、いまワーゲン」と揶揄したが、ドイツは政治的にも経済的にも、ユーロ圏の覇権国になってしまったのである。